HERO使いが行くGX世界   作:加藤あきら

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お久しぶりです。


第25話『赤いスカーフ』

  1

 

 私はずっと大事にしているスカーフを見つめ、ちょっと昔のことを思い返していた。

 たしかあれは小学六年生のとき。転校してきた光雄君にデュエルを挑まれて、いつかはボクが勝つんだから、っていう理不尽な理由で取られてしまった。だけど、そのことを創に話したらすぐに取り返してきてくれたんだっけ。

 

 創ったら、どんなゲームを挑んで奪い返したのかしら?

 

 あのときの光雄君は勝つまで勝負を挑んで、みんなから大事なものを奪っていったのに。

 気が付けば、私の物のみならず、みんなの物まで帰ってきてたけど……今思えば本当に創は何をしたのかしら?

 

 今になってちょっと気になり始めたわね……。

 と思ったら誰かからの着信。えーっと、あら、創じゃない。

 

「もしもし、どうしたの創?」

 

『あぁ、ちょっと聞きたいことがあってな』

 

「奇遇ね。私も創に聞きたい事があったのよ」

 

『あ? 何だよ?』

 

「ほら、小学校の頃、私のスカーフを光雄君から返してくれたことあったじゃない。ふとさっき思い出して、どうやって返してくれたのかなぁ、って思って」

 

『ああ、そのことか。たしかアレは――』

 

 

 

  2

 

 

 光雄の野郎は小学校六年生のときに転校してきた。彼はゲームが大好きで、とても気が合うとそう思ったんだ。だが、それは違った。

 アイツは自分の大切なものを賭けて、クラスの奴から大事なものを奪っていった。

 別に光雄は勝ち続けるほどゲームが強かったわけじゃない。賭けるものを沢山用意して、数撃ちゃ当たるをそのまま体現していた。

 

 そしてその標的は、明日香に向かった。

 

 だが、ゲームの選択を間違えた。光雄は明日香が得意としているデュエルモンスターズで挑んでしまった。運よりも実力の方が勝敗への影響が如実に出るゲームじゃあ、何発撃っても当たる事はほとんどない。

 事実、明日香は何回挑まれても返り討ちにした。

 

 だが……光雄の野郎は“いつかは僕が勝つ”という訳の分からない理由で明日香の大事なスカーフを奪いやがったんだ。

 

 明日香は泣いていた。お母さんに買ってもらったお気に入りの赤いスカーフが無理矢理取られたんだ。明日香は取られまいと勝ち続けたのに、それをアイツは踏みにじった。

 あのとき、俺はキレていたと思う。明日香は赤いスカーフを本当に大事にしてたのを知っている。誕生日に買ってもらったのと、買ってもらった当時から何度も自慢されたから。

 

「光雄、ゲームをしないか」

 

 放課後、俺は空き教室に光雄を呼び出しゲームを挑んだ。

 

「いいよ。でもボクと勝負するときはアンティルールだ。東條君は何を賭けるのかな?」

 

 俺は知っていた。見るからに光雄は明日香に好意を寄せていたから。

 だから俺は絶対に釣られる餌を用意した。

 

「その前に、ここで一つルールを決めないか?」

 

「ルール?」

 

「そう。なに、簡単だよ。ゲームは俺が用意して物で行う。勝負は一度きりだ」

 

「いいだろう。で、東條君は何を提示してくれるのかな?」

 

 おそらく深くは考えていなかったんだろう。

 俺はポーカーフェイスを装い、心の中でニヤリと笑った。

 

「俺が大事な物は……これだよ。明日香(・・・)からプレゼントしてもらったペンダントだ」

 

 明らかに光雄の表情が変化した。なんとも分かりやすい奴だ。

 完全に引っかかりやがった。

 

「いいね。じゃあ、早速やろうじゃないか。ゲームはなんだい?」

 

「この勝負、受けるということでいいんだな?」

 

「当然さ」

 

 ここで初めて、俺は口元を歪めたと思う。

 まだ光雄ははめられたことに気づいていない。そのことが面白くて、我慢できなくなってしまった。

 明日香からのプレゼントが手に入ると思って興奮しているのだろう。

 だが、冷静さを欠かせば勝てるものも勝てなくなる。

 

「あと、俺が欲しいものをまだ要求していないんだが」

 

「そうだったね。で、東條君は何が欲しいんだい?」

 

「その、赤いスカーフだ」

 

 ここになってようやく、光雄は表情を強張らせた。

 

「こ、これ?」

 

「あぁ、それがいい。気に入った。俺はそれが欲しい」

 

「あ、えっと――」

 

「まさか逃げないよな? もうお前は勝負を受けたんだ。逃げれば負けと一緒だぞ?」

 

「い、いいぞ。じゃあこのスカーフと君のペンダントを賭けて勝負だ」

 

 その声は震えていた。

 あきらかに動揺している。これはもう光雄の勝利はない。

 

「じゃあ、ゲームの説明だ。使うのはこの二つの十面ダイス。白いのが一の位で、赤いのが十の位としてダイスを振って小さい数字を出した方が勝ち。もちろん、対戦相手の妨害はなし。それだけだ。簡単だろ?」

 

「つまり、二つのダイスを振って00に近い数字を出した方が勝ちなんだね?」

 

「その通りだ。ルールはコレだけ(・・・・・・・・)だが、問題ないか?」

 

「いいよ。じゃあ、ボクから振るよ!」

 

 力強く俺の手の平から二つのダイスを奪い取り、机の上に落とした。

 カツン、カツン、カツンとダイスと机がぶつかる音がなった後、コロコロと転がったダイスが出した目は……赤が1で、白が0だった。

 つまり光雄が出した目は10で、中々に強い目といえるだろう。

 不安に駆られ、歪んでいた光雄はダイスの目を見た瞬間に勝ち誇った余裕のある表情に変わった。

 

「やった! これはもうボクの勝ちで決まったようなものだね」

 

「まぁ落ち着けよ。俺が10以下の数字を出せばいいだけだろうが」

 

「そうだけど、まぁ難しいだろうね」

 

「それはどうかな?」

 

 そして俺は机に転がったダイスを掴み、それぞれを指の間に挟んだ。

 次の瞬間、すっとんきょうな声を上げた。

 

「なんだよそれ。サイコロを回転させてる?」

 

「別にサイコロを回転させちゃダメとかそんなルールは設けていないからな」

 

「…………」

 

 そして、そのときがやってくる。

 最初に回転が弱まり目を出したのは赤い十の位のダイス。

 光雄は食い入るようにそれを見ていた。

 

「ふ、ふはは! ボクの勝ちだ!」

 

 光雄は大きな声でそう言った。

 なぜなら赤いダイスが出した目は8だったからだ。

 つまり、この時点では80以上の数字が確定したわけだ。

 

「そいつはどうかな?」

 

「何言ってるんだ? 東條君の目は――」

 

 次の瞬間だった。

 ゴッという音が聞こえたかと思えば白いダイスが赤いダイスを弾いていた。

 そして赤いダイスの目が変わる。出した数字は――0!!

 

「そして白いダイスは……0だ。スーパークリティカル。俺の勝ちだよ光雄」

 

 俺の出した目は00のスーパークリティカル。

 これ以上のない一番強い目だ。

 

「い、インチキだ!!」

 

「何がだ? 俺が出したルールはダイスを降って出た目で勝負することと、対戦相手の妨害を禁止しただけだ。ダイスを回転させることも、机に振動を与えることも禁止していないぞ?」

 

「そ、それは……」

 

 俺がやったのは二度当て(ダブルヒット)というダイスロールのイカサマテクニック。

 だが、今回はそれを禁止していない。やろうと思えば、光雄も同じ事ができた。

 

 十面ダイスは五角錐を上下にあわせた形をしていて、それぞれ奇数と偶数が分かれている。つまり、偶数面を上にして回転させれば0が出る確率は十分の一から五分の一となる。

 そして十の位のダイスの回転を弱めに、一の位のダイスに強い回転を加え、先に十の位のダイスの目が出るようにする。そして気に入らない目だった場合は振動を加えて白いダイスの軌道を変えてやれば、何度かはぶつけてダイスの目を変えることができる。

 

「じゃあ、約束だ。そのスカーフを貰うぞ」

 

「ぐっ……」

 

「なんだよ。約束したよな? これはアンティルールで勝負は一度きりだって」

 

「わ、わかったよ持って行け!!」

 

 赤いスカーフを手にした俺はそのまま教室を去る。

 今にしてみれば俺らしくないやり方だったかな、と思う。明日香を泣かしやがったと完全にキレてたからな。

 それから光雄は何かと俺に勝負をしかけてきた。よっぽど負けず嫌いだったんだろうけど、詰めが甘いのはいつまで経っても変わらなかった。

 勝てるゲームを何度も落とし、光雄が奪ったクラスメイトの宝物を一つずつ奪い返していった。

 それから光雄はまた転校しちまって。俺に勝つことはなかったんだよな。

 

 

  3

 

 

『創は昔からそうだったわよね。怒ると逆に冷静になるの』

 

「まあな。親からも珍しい奴だなって言われたよ」

 

『ふふふ……。で、創の聞きたい事って?』

 

「まぁ、その、なんだ……いや、これは直接話すべきだな。すまん。明日、放課後に改めて話すよ」

 

『分かったわ。それじゃ、また明日』

 

「おう。お休み明日香」

 

『うん、おやすみ!』

 

 夏が過ぎ去り、爽やかな風が心地よく身体を撫でるようになった今日この頃。

 それは唐突にやってきた。

 三幻魔、七精門の鍵、セブンスターズ。

 その三つのキーワードと共に責任という重圧が俺に重くのしかかる。

 

 今日の放課後、俺は校長室に呼び出された。

 そこにいたのは俺の他に遊城十代、万丈目準、三沢大地、そして丸藤亮さんと天上院吹雪さん。あと、校長先生の他に響みどり先生がいた。

 そこで話されたのは突拍子もないことだった。

 

 この学園には『三幻魔』という危険なカードが封印されており、その封印をしている七つの鍵があるという。

 そしてその七つの鍵――七精門の鍵をかけてデュエルをしろ、という挑戦状がデュエルアカデミアに送られてきた。

 にわかには信じられないが、その七精門の鍵はデュエルモンスターズによる勝敗で所有者が決まると言う。力ずくで奪った鍵は機能せず、ただの鉄くずでしかなくなる。

 そんな不思議な力が働いているのだと、鮫島校長は言った。

 

 このデュエルアカデミアに挑戦状を送ってきた奴の名はセブンスターズ。

 

 分かっているのはその名のみ。

 しかしわざわざ挑戦状という形でメッセージを送ってくるということは、『三幻魔』の力を知っていると言うこと。その封印を解かれれば、強力な力が手に入り、デュエルモンスターズは終焉を迎えるとか何とか。

 

 すぐには信じられないが、鮫島校長はまじめな顔をしていたため、俺は納得するしかなかった。

 そして危険な戦いになると言うことも言っていた。

 俺を含め七人が校長室に呼ばれ、その話をされて理由は、この学園で随一の実力者だと判断されたため。

 実技担当最高責任者であるクロノス先生を難なく倒せる実力を持ち、デュエルモンスターズの座学でもトップを争う成績者という。

 実際俺を含めた六人の生徒は、自惚れではないがこのデュエルアカデミアの先生を圧倒できる実力を持っている。

 

 しかし腑に落ちない。

 その条件ならば、明日香も呼ばれるのではないか。

 そう思った俺は全員が解散になったあと、直接鮫島校長先生に確認を取った。

 するとこう言ってきた。

 

「確かに彼女は実力者だ。さきほど私が言った選考の条件に当てはまっている。だが、君や吹雪君からすれば守ってあげる対象だろう? もし仮にここに天上院明日香君も呼んでいたら反対していたはずだ」

 

 図星だった。

 そして安堵した瞬間でもある。

 疑問に思った反面、ここに呼ばれてなくて安心していた。

 そう、これでいいのだ。

 俺は明日香を守るために、セブンスターズと戦う。『三幻魔』とかいう危険なカードがあるならば、悪用しようとしている奴らに渡してなるものか。

 絶対に俺は、お前を守ってやるからな。




明日香ヒロインものとして避けて通れない光雄くんの話。
そしてセブンスターズ編の導入のお話でした。

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