HERO使いが行くGX世界   作:加藤あきら

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【10月11日 追記】デュエル構成に不備があったので内容を修正しました。


第24話『ヒーローは駆けつけてくれる』

「フリーチェーン……確かに東條のデッキにはフリーチェーンの罠が多く採用されているな。強制脱出装置に和睦の使者、そして戦線復帰」

 

「フリーチェーンのカードは普通に発動するだけじゃアドバンテージを失うだけのカードだ。だけど、使用する状況によっては逆にアドバンテージを得ることが出来るカードになる」

 

「強制脱出装置だな。エクストラデッキから出てきたモンスターを対象にすれば、アドバンテージを得られる。またサイクロンなどのカードにチェーンすれば、これもアドバンテージを得ることになる」

 

「それだけじゃない。アドバンテージにはいろんな種類がある」

 

「そうだな。基本的なのは1枚のカードで複数のカードと交換するカード・アドバンテージだが……そのほかで言えばテンポ・アドバンテージか」

 

「そう。デュエルモンスターズの通常の召喚権は基本的に1ターンに一度。実質的にそれを奪うことが出来るのはテンポ・アドバンテージを得ているとも言える」

 

「となれば、和睦の使者はタイム・アドバンテージを稼ぐカードでもあるのか」

 

「その通り。バトルフェイズを奪うとも言える和睦の使者はカード・アドバンテージを失っているものの、そのターンを凌ぐことで失ったアドバンテージを取り返すことに繋げることが出来る。これがタイム・アドバンテージ」

 

 深い。フリーチェーンカードは奥が深い、そう思った。

 アドバンテージを稼ぐのは勝利に近づく一つの要素となるが、目に見えて分かり易いカード・アドバンテージだけでは勝てない。

 テンポ、ライフ、タイム、その他にも情報のアドバンテージなど、それを全て勝ち取ってこそ、初めて勝利が見えてくる。

 それを理解してゲームをしているか否かで、そのデュエリストの強さが変わってくるだろう。

 

 そして東條は、そんな様々なアドバンテージをしっかりと考えてデュエルをしている。

 だから驚異的な勝率を得ているんだ。さすがはオベリスク・ブルーの生徒の中でも随一の強さを持っているだけはある。

 知識、経験、構築力、その全てのレベルが非常に高い。

 

「デッキの解説が終わったところで戦術だな」

 

「あぁ。とはいっても、今までの授業は基本的な戦術はある程度知っている」

 

「だろうな。ゲートHEROは最終的に融合HERO並べてワンショット決めるか、マスク・チェンジで連続変身決めてワンショットするかだからな。ワンパターンっちゃワンパターンだ」

 

「だけど、そこまでに至る道筋が重要だ。そうだろう?」

 

「うん。ライフポイント4000点を削るためのルートが色々あるが……正直ゲームごとの引きによって全然違うから、コレ! っていう解説が出来ない」

 

「それはなんとなくだが分かる。単純そうで複雑。でも逆もまた然りって感じか」

 

「まあね。代表的なフィニッシュはアブソルートZero出して、それを素材にしてThe_シャイニングを出す。その際、除外されているE・HEROが5体以上で攻撃力が4000を超えるからワンショット成立だ。バックがあるなら、M・HERO アシッドを挟んで相手フィールドを一掃するのもあり」

 

 うーん、俺ならこのデッキ内容を見てどんなルートを思いつくだろう?

 サモンプリーストからシャドー・ミストを特殊召喚。マスク・チェンジをサーチしておいて、シャドー・ミストと水のHEROをゲートで融合し、アブソルートZeroを出す。それにマスク・チェンジを打ってアシッドを出し、相手フィールドを一掃する。

 この時点で最大火力は2600だから、残り1400で4000点になる。

 これだと止まってしまうな。

 

 じゃあ、あのカードがあれば……。

 

「東條、色々考えてみたんだが、ヒーローアライブは使わないのか?」

 

 

《ヒーローアライブ》

通常魔法

(1):自分フィールドに表側表示モンスターが存在しない場合、LPを半分払って発動できる。

デッキからレベル4以下の「E・HERO」モンスター1体を特殊召喚する。

 

 

「ワンショットに特化させるならアリだとは思うけど……」

 

「いや、採用した方が良いと俺は思う。長所に特化させた方が、結果的に勝利に繋がる事は多いと思うからな」

 

「…………」

 

 東條は黙り込んで考えている様子。

 デッキを見るに、守りのカードが少し多いように感じた。

 ゲートHEROは攻撃的なデッキなんだから、下手に時間稼ぎをしてキーカードを集めるよりも、ライフを犠牲にしてでも速攻を心がけた方が良いはずだ。

 

「アライブを使うなら……あのエクシーズモンスターを採用してもいいかもしれない」

 

「それはなんだ?」

 

 東條はカバンから小さめのストレージを取り出した。おそらく、ゲートHEROと相性の良いカードが集められているのだろう。

 

「これだよこれ!」

 

「ダイガスタ・エメラル……なるほど!」

 

 

《ダイガスタ・エメラル》

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/風属性/岩石族/攻1800/守 800

レベル4モンスター×2

1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、以下の効果から1つを選択して発動できる。

●自分の墓地のモンスター3体を選択して発動できる。

選択したモンスター3体をデッキに加えてシャッフルする。

その後、デッキからカードを1枚ドローする。

●効果モンスター以外の自分の墓地のモンスター1体を選択して特殊召喚する。

 

 

「へへっ! 良いアイディアを貰ったぜ三沢。ありがとうな」

 

「じゃあ、早速試してみるか」

 

「いいのか? じゃあ――」

 

 俺たちは机の上を片付け、お互いのデッキを出す。

 東條は何を抜くかを悩み、そして決断して《ヒーローアライブ》と《ダイガスタ・エメラル》のカードを入れた。

 

「よし。じゃあよろしく」

 

「あぁ、よろしく」

 

 俺と東條はサイコロを転がし、先攻後攻を決めた。

 東條が出した目は4に対し、俺が出した目は6だった。

 もしかすると、後攻ワンキルが成立するかもしれないという期待を込めて、先攻を取る。

 

決闘(デュエル)!!』

 

 その掛け声でゲームはスタートした。

 

 

三沢大地:LP4000

東條創:LP4000

 

「俺のターンからだな。ドロー」

 

 さて、結構良い手札が揃っているぞ。

 デッキ調整のデュエルだし、手は抜かずに行こう。

 

「俺は怒気土器を召喚」

 

 

《怒気土器》

 効果モンスター

星2/地属性/岩石族/攻 500/守 500

「怒気土器」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):手札の岩石族モンスター1体を捨てて発動できる。

そのモンスターと元々の属性・レベルが同じ岩石族モンスター1体を、デッキから表側攻撃表示または裏側守備表示で特殊召喚する。

 

 

「怒気土器の効果で手札の岩石の番兵を捨てる。岩石の番兵のレベルは3! つまり地属性でレベル3のモンスターをデッキから特殊召喚できる。俺が召喚するのは電磁石の戦士(エレクトロマグネット・ウォリアー)αだ」

 

「マグネット・ウォリアーデッキか」

 

「それをメインに置いた岩石族デッキといった方が正しいかもな。さて、アルファの効果を発動。特殊召喚に成功したことでデッキからレベル8の電磁石の戦士をサーチする。手札に加えるのは電磁石の戦士マグネット・ベルセリオン」

 

「……岩石の番兵の効果は確か」

 

「そう。俺の場に岩石族モンスターのみが存在する場合、墓地から特殊召喚ができる。そして、ここにレベル3の岩石族モンスターが揃った」

 

「エクシーズ……しかも岩石族縛り。マズイな」

 

「レベル3の電磁石の戦士αと岩石の番兵をオーバーレイ。二体の岩石族モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚。ゴルゴニック・ガーディアン」

 

 

《ゴルゴニック・ガーディアン》

エクシーズ・効果モンスター

ランク3/闇属性/岩石族/攻1600/守1200

岩石族レベル3モンスター×2

1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動できる。

ターン終了時まで、選択したモンスターの攻撃力を0にし、その効果を無効にする。

この効果は相手ターンでも発動できる。

また、1ターンに1度、フィールド上の攻撃力が0のモンスター1体を選択して発動できる。

選択したモンスターを破壊する。

 

 

「リバースを2枚セットして、ターン終了」

 

 さて、バックに《次元幽閉》と《聖なるバリア‐ミラーフォース‐》が2枚に相手ターンでも効果を発動できる《ゴルゴニック・ガーディアン》を相手にワンショットを決められるのか?

 この状況からワンショットを決めるにはバック2枚を割り、2体のモンスターを退かす必要がある。《ゴルゴニック・ガーディアン》の効果で攻撃力を0にし、効果を無効にするからな。

 

「よし、俺のターン」

 

 東條が引いたカードと手札を見て、じっくりと考え始めた。

 おそらくワンショットができるルートを考えているのだろう。

 数秒の思考のあと、東條はニヤリと口角を上げて言った。

 

「どうやら三沢の提案が、さっそく役に立つみたいだぜ」

 

「マジか」

 

「おう、マジだ。今引いたカードはヒーローアライブ。三沢が進めてくれた魔法カードを早速発動だ」

 

 

東條創:LP4000→2000

 

 

「ライフ半分をコストに、デッキからレベル4以下のE・HEROをデッキから特殊召喚。呼び出すのはE・HEROエアーマン。召喚時、HEROサーチの効果を使用したい」

 

 まだ通常召喚権が残っている。

 《ゴルゴニック・ガーディアン》の効果はどこで使うべきか……それは守りの札であるバックのカードを破壊する《M・HERO アシッド》が召喚されたとき。

 なら、ここはまだ然るべきタイミングではない。

 

「俺はゴルゴニック・ガーディアンの効果を使用しない」

 

「おっけい。じゃあ、エアーマンの効果でオーシャンを手札に。そしてブレイズマンを通常召喚」

 

 《E・HEROブレイズマン》ということは、属性を変えて《マスク・チェンジ》に繋げる気なのか。それとも、《フュージョン・ゲート》で融合につなげる気なのか。

 

「ブレイズマンの効果を発動する」

 

 いや、ここもまだ《ゴルゴニック・ガーディアン》の使いどころじゃない。

 やはり使うなら《M・HERO アシッド》の召喚に合わせてバックの除去を無効にするんだ。

 

「何もしないなら効果の処理を続けるぞ? デッキからE・HEROバブルマンを墓地へ送り、その攻守の数値と属性を得る。つまり、ブレイズマンは水属性になった。そしてフュージョン・ゲートを発動し、手札のスパークマンと水属性となったブレイズマンでE・HEROアブソルートZeroを融合召喚」

 

 この展開からして、東條の手札には《マスク・チェンジ》のカードがあるに違いない。

 だが、このまま《M・HERO アシッド》を出しても《ゴルゴニック・ガーディアン》の効果でバックを破壊できず、攻撃力0のモンスターと化す。

 どうする気なんだ?

 東條の手札はこの時点で残り3枚。

 

「もう一度ゲートの効果を使うぞ」

 

「え?」

 

 思わず短く言葉が出てしまった。

 そうだった。さっきデッキをエクストラデッキまで全部見せてもらったじゃないか。

 東條のデッキには《E・HERO アブソルートZero》が――2枚ある。

 

「場のアブソルートZeroと手札のオーシャンで融合し、もう一体のE・HERO アブソルートZeroを召喚する。そして、場を離れたアブソルートZeroの効果が発動し、相手フィールドのモンスターを全て破壊する」

 

 なんていうゴリ押し戦術なんだ……。

 だが、《ゴルゴニック・ガーディアン》を退かしながら場に水属性のHEROを残す手段としては一番なんだろう。

 

「これで邪魔なゴルゴニック・ガーディアンはいなくなった」

 

「随分と力押しな戦術だな」

 

「手札からしてコレが一番なんだよ。無理矢理にでも場を空けてワンショット決めるのがゲートHEROなんだからな」

 

「まぁ、そうだな」

 

 思わず笑ってしまった。

 その攻撃的な部分はもしかすると東條の性格を現しているのかもしれない。

 

「そしてマスク・チェンジを発動。アブソルートZeroをM・HEROアシッドに変身させる。そして召喚に成功したことにより相手フィールド上の魔法と罠を全て破壊する」

 

 これが《E・HEROアブソルートZero》と《M・HEROアシッド》によるフィールド一掃の凶悪コンボ。

 《ゴルゴニック・ガーディアン》のせいでちょっと遠回りさせたが、それでもこれを成立させるのは流石と言いたい。

 

「これでアシッドの攻撃力2600とエアーマンの攻撃力1800の合計は4400だから、手札誘発がなければ俺の勝ちだが……」

 

「あぁ、ないよ。東條の勝ちだ。まさか、この布陣でワンキルされるとはな」

 

「召喚反応系がなくて助かったよ。神の宣告とか無効にされるのが伏せられてたら流石に途中でプラン変更してたよ」

 

 そういえば、残りの手札1枚は何なんだ?

 チラリと、机の上に置いた東條の残り手札を見ると、それは何と《ミラクル・フュージョン》のカードだった。まさか、まだ余力を残した上でのワンキルだったとは……。

 

「今回は出番がなかったが、ダイガスタ・エメラルはどんな動きをするんだ?」

 

「ダイガスタ・エメラルから墓地のスパークマンを蘇生するんだ。このまま手札のHEROとスパークマンをゲートを使ってThe_シャイニングを出せば、3200と1800でワンショット成立。またマスク・チェンジでも1800と1600とスパークマン素材に光牙出してさらに2500追加で5900点出るからこれもワンショット成立」

 

 それを聞いて組み方が複数あるパズルのように感じた。

 そして、その正解パターンをすぐに導き出せるのはデッキの理解力が高いレベルに至っているからだろう。

 

「流石だな東條は。じゃあ、そんな東條に俺からお願いだ。俺のデッキも見てくれるか?」

 

「もちろん。さぁ、早速デッキを見せてくれよ!」

 

 東條創。

 自分のデッキを理解し、使いこなし、そして愛している。

 そんな彼なら俺のデッキを全部見せてもいいだろう。彼なら俺のデッキを理解し、良いアドバイスをくれるはずだ。

 

「どうだ?」

 

「そうだなぁ、ガイア・プレートを採用するのも面白いんじゃないか?」

 

「おぉ! 確かに」

 

 デッキをパッと見ただけで、すぐに的確なアドバイスができる。

 一年生で最強の一角と謳われているのはこの知識量があるからなのだろう。この親近感は、おそらく彼が俺と同じタイプのデュエリストだからだ。知識を身につけ、論理的に考えて勝利を掴み取るそのスタイルはまさに俺と同じ。

 悔しいのは、そのレベルが俺より上だということ。

 

 東條創……いつかお前を超えるぞ、この三沢大地が!!


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