ようやく三沢編を書き上げました。
デュエルシーンは短いですが、今回は東條創のデッキを見ていくのがメインなのでどうかご容赦を。
1
入学式の日から一週間ほど経ち、ある程度仲の良いグループが出来てきた今日この頃。
デュエルアカデミアのデュエルモンスターズの授業は退屈の極みだった。
なぜなら、あまりにも基本的なことをやっているからだ。まぁ、入学して間もないから、基本的なところからやるのは仕方がないにしても、デュエルモンスターズをやっていたら当たり前に知っているのもやるのはどうなんだろうか。てか、ここでつまずく人はいるのだろうか?
で、今日の授業で『速攻魔法』についての話題に入った。
ある意味、俺の専売特許に近い授業内容なったぞ。
すると、赤い教員服を着た響先生はこちらを向き、にやりと不適な笑みを浮かべながら言った。
「では東條君、速攻魔法の基本的なことを説明してもらえるかしら」
一年生のデュエルモンスターズの座学はオシリスレッド副担任の響みどり先生が担当している。
響先生は、憧れのHERO使いのプロデュエリスト、響紅葉の姉という話だ。
てか、わざわざ俺に速攻魔法の説明を求めるとか、分かってて指名したよなコレ。
「はい。速攻魔法はスペルスピード2を持つ魔法カードです。基本的に自分の好きなタイミングで発動でき、また自分の場に伏せていれば相手のターンでも発動可能というメリットがあります」
「その通りね。では東條君、速攻魔法の特性を利用した使用例を何個かあげてくれる?」
「はい。例えば、相手が伏せた魔法や罠カードをエンドフェイズ時に、伏せておいた《サイクロン》を使用し破壊すれば、相手に発動タイミングを与えずに破壊することが出来る有名なテクニックがあります」
「俗に言う“エンドサイク”というテクニックね。他にはあるかしら?」
エンドサイクなんかより俺が得意とする戦術があるから、それを言った方がいいよな。
「そうですね。速攻魔法は好きなタイミングで発動できると先ほど言いましたが、それはバトルフェイズ中も含まれます。したがって、バトルを終了した融合モンスターに対し《融合解除》という速攻魔法を使えば、融合素材モンスターをバトルフェイズ中に場に出すことが出来るので、戦闘に参加させることができます」
《融合解除》というカードは相手の融合モンスターに使って除去に使用することも出来るが、むしろ自分のモンスターに使って相手ライフを削り切る方面で使った方が強いんだよな。
それは俺のデッキの《マスク・チェンジ》の使い方に通ずる所がある。
「ありがとう東條君。じゃあ逆に、速攻魔法の注意点は何かしら? それを……そうね、遊城十代くん? 答えてくれる?」
響先生、コレ絶対HERO使いだから当ててるよね。
俺たちのことを試しているみたいだ。
「注意点……えっとぉ、そうだなぁ。速攻魔法をセットしたターンは、発動させることができなくなることか?」
「そうね。通常魔法や永続魔法、装備魔法といったカードはセットしたターンでも発動できるのに対して、唯一速攻魔法はセットしてしまうとそのターンに発動できなくなってしまうの」
そうなんだよな。
エクシーズモンスターが登場して《E・HERO バブルマン》の価値が上がった今日この頃、特殊召喚しようとして手札の魔法と罠を全伏せする場面もあるけど、そのターンに伏せた《マスク・チェンジ》が撃てなくなるのが痛いんだよ。
一長一短の戦術だけど、速攻魔法は俺のメインウェポンだから外すわけにもいかない。
「では、最初に東條くんが言ったスペルスピード2という言葉だけど、このスペルスピードについて……三沢大地くん、説明できるかしら?」
「はい」
席を立つ黄色い制服を纏うキリッとした顔立ちのいかにもマジメそうな生徒。
今年の一般入試においてトップの成績を収めた秀才でもある。
その三沢大地という男は、涼しい顔で質問に答えた。
「スペルスピードは1から3まで存在し、カードの発動にチェーンする場合、対応するカード以上のスピードがなければチェーン発動できません」
「その通り。スペルスピード1は速攻魔法以外の魔法カードや、効果モンスターの起動効果と誘発効果がそれに該当するわ。では、スペルスピード2の説明をしてみて」
「はい。速攻魔法、通常罠、永続罠、誘発即時効果を持つ効果モンスターがスペルスピード2のカードで、スペルスピードが1と2のカードに対してチェーン発動が可能です」
「さすがは三沢くん。ちなみにスペルスピード3はカウンター罠がそれになるのだけど、そこはまた別の機会に説明しましょう。では、ここまで答えてくれた速攻魔法についてまとめると――」
響先生が『速攻魔法』について解説していく中、俺は一人の生徒からの視線を感じ取る。
それはさっきスペルスピードについて答えたラーイエローの三沢大地のものだった。
いや、野郎からそんな目で見つめられても嫌なんですけど。
と、とにかくテストの点数のためにも授業内容はちゃんと聞きますか。
2
東條創。
中等部の一年生時に卒業模範決闘の舞台に立ち、あのカイザーこと丸藤亮と戦った男。
使用デッキは『ゲートHERO』。《フュージョン・ゲート》と《マスク・チェンジ》を使った連続融合召喚で瞬間的な火力を出して勝負をつけるスタイルで、数々の挑戦者を葬ってきたという。
その圧倒的な勝率の裏には妥協を許さないデッキ構築力と、自身のデッキの理解度の高さにあると、この俺……三沢大地は思う。
だから俺は知りたい。
東條はどういう考えのもと、デッキのカードを選び、戦術を構築しているのかを。
だから授業が全て終わった放課後、俺は東條を訪ねる。
「東條君、ちょっといいかな?」
「三沢大地……何のようだ?」
「いや、なんて言うかな。東條君に勉強を教えて欲しくてね」
「はぁ? 勉強なら俺より三沢の方がいいじゃん」
「俺が教えて欲しいのはデュエルモンスターズのことだよ。東條のデッキ構築論を教えて欲しいんだ」
「デッキ構築論……なるほどね。いいよ。俺がどうやってデッキを組んでいるのか、教えてあげる。ただし、三沢からのアドバイスも欲しいかな。俺が一方的に教えるのはフェアじゃないからさ」
「それはそうだな。じゃあ、楽しい勉強会にしよう」
意外とあっさり東條君は自分のデッキの内容を教えてくれた。
メインデッキ41枚とエクストラデッキ15枚。その全てを……だ。
それを見ると、結構興味深いことが見えてくる。
「日々微調整を繰り返してるから、決まった構築ではないけど、今はこんな感じ」
■モンスター(15枚)
V・HERO ヴァイオン
E・HERO エアーマン
E・HERO オーシャン
E・HERO シャドー・ミスト
E・HERO スパークマン
E・HERO バブルマン
E・HERO ブレイズマン
E・HERO ボルテック
コマンド・ナイト
サンダー・ドラゴン×3
召喚僧サモンプリースト
電光-雪花-
ペンギン・ソルジャー
■魔法(19枚)
E-エマージェンシーコール×3
強欲な壺
死者蘇生
増援
ツインツイスター
天使の施し
ハーピィの羽根帚
フュージョン・ゲート×2
HEROの遺産
マスク・チェンジ×3
ミラクル・フュージョン×3
融合
■罠(7枚)
ガード・ブロック
強制脱出装置×2
聖なるバリア -ミラーフォース-
戦線復帰×2
和睦の使者
■エクストラデッキ(15枚)
E・HERO アブソルートZero×2
E・HERO Great TORNADO
E・HERO The シャイニング×3
E・HERO ノヴァマスター
M・HERO アシッド
M・HERO 闇鬼
M・HERO カミカゼ
M・HERO 光牙
M・HERO ダーク・ロウ
M・HERO ブラスト
深淵に潜む者
鳥銃士カステル
「これが俺が使ってる今のゲートHEROだ。まずは……デッキコンセプトから説明するか?」
「あぁ、お願いするよ。できれば1から10まで教えて欲しい」
「貪欲だな三沢は。まぁ、いいや。ゲートHEROはフュージョン・ゲートとマスク・チェンジ、そしてミラクル・フュージョンを使った融合召喚で戦っていくデッキだ。デッキ名の“ゲート”はフュージョン・ゲートから取ってるけど、それがメインウェポンってワケではないんだ」
「確かに、今まで何度か東條君のデュエルを見てきたけど、フュージョン・ゲートを使わずとも勝利を収めた試合が多々ある」
「そうなんだよ。デッキ名から勘違いされ易いけど、実際のところゲートは融合召喚のための一つの手段でしかない。むしろゲートは手札で被るのは避けたい事故札でもある」
「なるほど。手札、場、墓地にHEROモンスターと対応した属性モンスターを素材のために大量に必要とするゲートHEROは、破壊されない限り二枚目が機能しなくなるフュージョン・ゲートを無駄に抱えている余裕がないんだな」
「その通り。手札でダブったゲートがモンスターだったら……なんて思った事は少なくはない。だから2枚の採用に抑えているんだ」
最悪、手札でかぶってしまった《フュージョン・ゲート》は《召喚僧サモンプリースト》のコストにすれば役割を与えられるってわけか。
しかし驚いたな。
てっきり《フュージョン・ゲート》は3枚入っていると思っていたし、HEROカテゴリ以外のモンスターも結構採用しているんだな。
「東條君、モンスターの採用理由を聞いてもいいかな?」
「分かった。まずヴァイオンとブレイズマンだけど、これは特定のモンスターを墓地に送るのと融合の魔法カードをサーチできるから使ってる。墓地に送ることで真価を発揮するシャドー・ミストはもちろん、ミラクル・フュージョンの存在からバブルマンかオーシャンのどちらかを墓地に送りたい」
ここ最近の東條がやる序盤の流れか。
ヴァイオンからシャドー・ミストを墓地へと送り、水属性のHEROをサーチ。そしてヴァイオンのもう一つの効果でシャドー・ミストを除外し、《融合》を手札に持ってきてアブソルートZeroに繋げる。
先攻1ターン目の行動としては実に強力だ。
アブソルートZeroを除去できるカードがあればいいが、なければ下手にモンスターを展開できなくなる。
「しかしブレイズマンはどうしてだ? ヴァイオンとは違ってこっちは融合のサーチかHEROを墓地に送るかのどちらかして1ターンの間に出来ないぞ」
「確かに序盤の動きだけを考えればヴァイオンの方が強いけど、属性変化はマスク・チェンジに大きく影響するからね。外すわけにはいかない」
特定の相手に大きく刺さることで有名な《M・HERO ダーク・ロウ》は、 場に出すだけで強い拘束力がある。
墓地利用を得意とするデッキと、サーチを利用することで強い動きを可能にするデッキ。
最近のデュエルモンスターズはこの二点を内蔵したデッキが多く、そして強い。
その抑止力となる《M・HERO ダーク・ロウ》を出しやすくするためにも必要なモンスターというわけか。
「なるほどね。あとデッキを見た感じだと、ボルテックが面白い動きをしそうなんだが」
「お、いいところに目を着けたな三沢。除外ギミックを利用したこのデッキにおいて、ボルテックは大いに貢献してくれるんだ」
「具体的には?」
「一番強力なのはやっぱりエアーマンやシャドー・ミストの特殊召喚かな?」
「……そうか! ボルテックの効果による特殊召喚はダメージステップ中。だから召喚反応系の罠を発動することが出来ないのか」
「その通り。だからエアーマンならば確実なバック除去が、シャドー・ミストならマスク・チェンジのサーチが可能になる」
《E・HERO ボルテック》を甘く見ていたら痛い目にあうかもな。
油断してうっかり攻撃を通してしまったら負けが確定していた、だなんて目も当てられない。
「うーん。じゃあ、HERO以外のモンスターについて聞きたい」
「おっけい。まずはサンダー・ドラゴン3枚。これは単純にデッキ圧縮と手札に光属性を増やす役割だ。これは、原の提案があって入れたんだが……これまた強くてな」
「東條のフィニッシャーであるThe_シャイニングを並べるためのカードという訳か」
「おう。中等部一年のときの卒業模範デュエルはこのカードがあったからこそ、原の提案があったからこそ、The_シャイニングを三体並べることができた」
「The_シャイニングが三体……。しかも墓地に送られれば除外したHEROを回収し、また別の融合に繋げられる。それが三体か」
やはり恐ろしい瞬間火力だな。また火力の継続力もある。
唯一の弱点はその状況に持っていくための準備が少々面倒臭いところか。
速攻で勝負を着けるのが一番有効な対策かもしれないが、防御力もそれなりにある。
「コマンド・ナイトはなぜ?」
「あぁ、それは最近入れてみたんだ。炎属性でノヴァマスターの素材になりつつ、融合できない状況でも戦線維持できるようになったんだよ。そもそもの火力アップにつながるしね」
《コマンド・ナイト》
効果モンスター
星4/炎属性/戦士族/攻1200/守1900
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、自分フィールド上に表側表示で存在する戦士族モンスターの攻撃力は400ポイントアップする。
また、自分フィールド上に他のモンスターが存在する場合、相手は表側表示で存在するこのカードを攻撃対象に選択する事はできない。
400ポイントという数値は決して小さなものではない。
HERO単体では攻撃力が低いが、これを使えば下級モンスターでも高い数値にすることが可能だ。準備が整うまでの戦線維持にはもってこいというわけか。
「なるほどね。で、ずっと気になっていたんだが……」
「あぁ、こいつか?」
そう言って東條が手に取ったのは《ペンギン・ソルジャー》のカード。
デッキの中でも異彩を放つそのモンスターは、とても古いモンスターだ。
「こいつは、そうだな。フェイバリットカードってやつかな。こいつのおかげで色んなピンチをひっくり返してきたんだ」
東條は《ペンギン・ソルジャー》のカードを手に取り、とても温かい目で見つめていた。
本当に好きなカードなのだろう。なおかつ、それを最大限の力を発揮することができる構築にしているところも強かだ。
その理由としては。
「リバースモンスター。バウンス効果を持ち、水属性……確かに相性はいいな。最近じゃ、エクシーズやシンクロが出てきてエクストラデッキからモンスターを出すことが多くなった。バウンスは元々強力だったが、ここ最近さらに実質的な強化を受けたようなものか」
「そうなんだよ。エクストラのモンスターをバウンスすれば実質的な除去になる。そして仕事を終えたペンギン・ソルジャーは――」
「アブソルートZeroの素材になってくれる、というわけか」
「そうそう! しかもペンソルがリバースされたときの対戦相手の顔もこれまた面白いんだよ」
「それはそうだろうな。初見殺しもいいところだ」
HEROデッキでそんなカードが出てくるとは夢にも思わないだろう。
こうやってデッキ全体を見て、相性の良さを知って、なるほどと理解できれば《ペンギン・ソルジャー》が出てくるのはなんら不思議ではないが、知らなければ驚きを隠せないだろう。
「あと、このデッキを語るには外せないことがある」
「それはなんだ?」
「フリーチェーンの罠さ」
次回は『フリーチェーン理論』とVS三沢のデュエルをお送りします。