3
もう! 創ったら歓迎会抜け出してレッド寮に行っちゃうだなんて。
翔君に会いに行くなら私に声をかけてくれてもいいじゃない!
新しく出来た友達に創を紹介しようと思ったらいないし、周りの人に聞けばオシリスレッドの寮に向かったって言うし。
「明日香様、本当にレッド寮に行くのですか~?」
おっとりとした口調でそう聞いてきたのは新しい友達の浜口ももえ。
「そうよももえ。二人に創を紹介しようって思ったのに。ったくもう!」
「明日香様、落ち着いてくださいよ~」
もう一人の新しい友達の枕田ジュンコが私をなだめてくる。
そ、そうね。ちょっと熱くなってたわ。落ち着かないと!
「ごめん、二人とも。あと、明日香様って呼び方……どうにかしてくれる?」
歓迎会で知り合って、話していく内になぜか尊敬されてしまったようで『明日香様』って呼ばれるようになってしまった。別にももえもジュンコも悪気がないのは分かるのだけれど、創の前でそんな呼ばれ方をされたら鼻で笑われるに違いない。
「別にいいじゃないですか~」
「そうですわ。私は明日香様を尊敬してますから」
「そう……もういいわ」
もうこの二人には何を言っても変わらないだろう。
こうなったら創に鼻で笑われてもいいわ。仕方がない。
「あ、レッド寮が見えてきましたよ明日香様」
ジュンコがそういうと、赤い屋根のアパートが見えてきた。
お世辞にもキレイと言えないその寮の外に、人の集まりが出来ていた。
そのほとんどが赤い制服。そしてその中にぽつりと目立つ青い制服が一人。
「あら、万丈目君も一緒だったのね」
私はそう呟いて駆け寄った。
その後に着いてくるももえとジュンコ。
「万丈目君!」
「天上院君か」
「って……創ってば早速デュエルしてるのね」
「あぁ。だが、今のところは東條が押されているな」
私はソリッドビジョンによって映し出されたフィールドの状況を見た。
攻撃5500の大型モンスターと伏せカードが2枚の布陣を作り出しているのはオシリスレッドの生徒。
対して創はフィールドを空にしてしまっていた。
「なによ、明日香様の幼馴染っていうから強い人だと思ったらオシリスレッドの生徒に負けかけてるじゃない」
ジュンコがそんな言葉を吐くと、万丈目君はフッ、と鼻で笑った。
「ここからだぞ、東條のデュエルは。今は準備段階に過ぎない」
そうだ。創のデュエルは最低限の戦線を維持しながら、ここぞというタイミングで高い瞬間火力を出して勝負を決める。
デュエル序盤から中盤にかけては押されているように見えるのは必然だった。
「確かに、あのオシリスレッドの人の手札は0ですけど、東條様の手札は5枚。一方的に押されているわけではないみたいですわね~」
ももえはこのデュエルの状況を正しく把握してきたようだ。
ジュンコも、ももえにそう言われて、そっか、と納得していた。
「俺のターン。ドロー……俺はモンスターをセット。リバースカードを2枚セットして、ターン終了だ」
とは言うものの、やはり攻撃力5500の大型モンスターを処理する方法はないらしい。
いえ……創がモンスターをセットした?
もしかしてあのセットモンスターは――。
「そのターン終了時にリバースカードオープン! 活路への希望。俺のライフが相手より1000以上少ない場合にライフを1000払って発動できる」
遊城十代:LP2000→1000
「ライフの差が2000あるごとにカードを1枚ドローする。つまり、4000の差があるから2枚ドローだ。そして、ライフの差が広がったことにより、エアー・ネオスの攻撃力がアップ!」
《E・HERO エアー・ネオス》攻撃力5500→6500
オシリスレッドの生徒がここに来て手札を補充した!?
これには創も若干顔を引きつらせていた。
手札が0だったから多少は安心できた状況だったけど、《活路への希望》があったせいで次のドローフェイズで3枚になってしまう。これでは対策カードが引かれる可能性がグッと上がった。
本当に大丈夫かしら?
大勢に見られているこのデュエル。優等生の象徴であるオベリスクブルー生がオシリスレッド生に負けることがあれば、きっと創は嘲笑の的になってしまう。
この大事な入学一日目で恥を晒すことだけはしないでよね!
4
「俺のターン! ドローだ」
これで俺の手札は3枚。引いたカードは《聖なるバリア-ミラーフォース-》か。残念ながら勝負を決めるようなカードじゃなかったけど、それでも東條を追い詰めるには十分な引きだぜ。
東條の場はセットモンスター1体と、リバースカードが2枚。
あれは苦し紛れのモンスターセットとブラフか。それとも逆転の一手なのか。
どちらにしても、《E・HERO エアー・ネオス》は《インスタント・ネオスペース》の効果で場を離れても《E・HERO ネオス》が戻ってくる。
そして手札には《クレーンクレーン》があるからもう一度コンタクト融合が狙える。
なら、ここは臆せず攻めるべきだ。
「いくぜ東條。エアー・ネオスでセットモンスターを攻撃。スカイリップ・ウィング!!」
風の刃がセットされたモンスターへと向かい、カードが表になる。
そこから現れたモンスターは……。
『クェェェ!! クェッ!!』
「ペンギン・ソルジャー!?」
「そうだ。ペンギン・ソルジャーはリバース効果を持つ。それによりフィールドのモンスターを2体まで手札に戻せるのさ。エクストラデッキに戻ってもらうぞ、エアー・ネオス!」
まじかよ。《ペンギン・ソルジャー》使う奴なんて始めて遭遇したぜ。
完全に意表を突かれたし、何より良いカードを見つけて採用したな、って思う。
《E・HERO アブソルートZero》は『HERO』と水属性のカードを素材として召喚する。そしてその水属性の素材をどうするかがネックなんだ。
守るためのカードとしては《ペンギン・ソルジャー》はバツグンの相性だと俺は思うぜ。
そう考えると、《スノーマンイーター》とかも良いかもしれない。
「やるな、東條。でも、エアー・ネオスが場を離れたことでインスタント・ネオスペースの効果が発動。E・HERO ネオスを墓地から特殊召喚するぜ」
《E・HERO ネオス》
通常モンスター
星7/光属性/戦士族/攻2500/守2000
ネオスペースからやってきた新たなるE・HERO。
ネオスペーシアンとコンタクト融合する事で、未知なる力を発揮する!
「だが、俺もモンスターを呼ばせてもらう。トラップ発動、ヒーロー・シグナル。そのシグナルに呼ばれ、参上するHEROはこれだ。E・HERO エアーマン! 守備表示。サーチ効果を使い、E・HERO ボルテックを手札に加える」
やっぱり、そう簡単に直接攻撃はさせてはくれないか。
「ならネオスでエアーマンに攻撃。ラス・オブ・ネオス!!」
これで東條のフィールドにモンスターはいなくなった。
だが、リバースカードがまだ1枚残っている。あれは一体何のカードなんだ?
「これで終わりか、遊城?」
「いいや、ここは守りを固めさせてもらうぜ。リバースカードを2枚セットして終わりだ。さぁ、東條のターンだぜ」
「待った! そのエンドフェイズ時にトラップを発動」
「このタイミングで!?」
「そうだ。俺が発動するのは戦線復帰のカード」
《戦線復帰》
通常罠
(1):自分の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。
「墓地のモンスターを守備表示で復活させる。再び現れろ、エアーマン!」
くっ……どうする?
伏せている《奈落の落とし穴》を発動させるか? 効果は無効にできないけど、モンスターを減らすことが出来る。
いや、東條のデッキは《フュージョン・ゲート》からの展開を得意とする。
ここは温存しておいた方が絶対に良いはずだ。
「エアーマンの効果で、デッキより今度はスパークマンを手札に加えるぜ」
これで東條の手札は……再び5枚になった。
手札には少なくとも2体の、光属性のHEROモンスターがいる。
俺のライフポイントは僅か1000だ。エアー・ネオスの攻撃力を上げるために大量にライフコストを支払ってきたツケがここに来てやってきた感じか。
そもそも、エアー・ネオスを使うときは一撃必殺であるべきなんだ。
それなのにこのターンまで凌がれている時点で、ヤバイのは俺ってわけか。
東條創 LP5000 手札5枚
場 《E・HERO エアーマン(守備表示)》
魔法・罠 なし
セット なし
遊城十代 LP1000 手札1枚
場 《E・HERO ネオス》
魔法・罠 《インスタント・ネオスペース》
セット 3枚
「そして俺のターン……。遊城、いや、十代と呼ばせてくれ」
「じゃあ俺も、創と呼ばせてもらうぜ」
「あぁいいぜ。そして十代、このデュエルだが、ここはオベリスクブルーの誇りのために勝たせてもらう」
創はドローカードをまだ見ていない。
ってことは、もうすでに勝つための手札が揃っているっていうのか!?
「じゃあ見せてくれよ。オベリスクブルーの力を!」
「もちろんだ。ドロー!!」
創はドローカードを見ることなく、そのまま手札に加えて他のカードを掴み取る。
そのカードは――。
「今回の切り札は……これだ。召喚! 電光-雪花-」
《電光-雪花-》
効果モンスター
星4/光属性/雷族/攻1700/守1000
このカードは特殊召喚できない。
(1):このカードがモンスターゾーンに存在し、自分フィールドにセットされた魔法・罠カードが存在しない場合、お互いに魔法・罠カードをセットできず、フィールドにセットされた魔法・罠カードは発動できない。
「俺の場にセットされた魔法と罠がないとき、雪花の効果が発動する」
《電光-雪花-》が持っている青白く輝く刀から放たれた雷が、俺の伏せカードを襲った。バチバチと音を立てる俺の三枚の伏せカード……これはいったいなんだ?
「雪花のモンスター効果。それはお互いに魔法と罠のセットを封じ、さらにセットされている魔法と罠の使用も封じるのさ」
ぐっ……!?
それじゃ、俺が伏せている《奈落の落とし穴》は《電光-雪花-》の召喚に対して発動できないってことかよ。
「さぁ十代、雪花の召喚を無効にするカードはあるか?」
「…………ないぜ」
「そうか。じゃあ、いくぜ十代。フュージョン・ゲートを発動!!」
来た。創を象徴するフィールド魔法!!
「手札のスパークマンと場のエアーマンを、ゲートの効果で除外融合。燦然と輝け! E・HERO The_シャイニング!!」
《E・HERO The_シャイニング》
融合・効果モンスター
星8/光属性/戦士族/攻2600/守2100
「E・HERO」と名のついたモンスター+光属性モンスター
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードの攻撃力は、ゲームから除外されている自分の「E・HERO」と名のついたモンスターの数×300ポイントアップする。
このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、ゲームから除外されている自分の「E・HERO」と名のついたモンスターを2体まで選択し、手札に加える事ができる。
「The_シャイニングは除外されている“E・HERO”1体につき攻撃力300ポイントアップ。俺が除外しているE・HEROはシャドー・ミスト、エアーマン、スパークマンの3体。よって900ポイントアップだ」
《E・HERO The_シャイニング》攻撃力2600→3500
これが中等部で最強のHERO使いと言われていた東條創の実力……!
創の手札はまだ3枚残っている――つまり、まだ余力を残してるってわけかよ。
このデュエルアカデミアには創のような強い奴が沢山いる。そう思うとワクワクしてきたぜ。
創、次は絶対に勝ぁつ!! 勝ってやるぜ!!
「今回は俺の勝ちだ! The_シャイニングの攻撃。オプティカル・ストーム!!」
「迎え撃て、ネオス!!」
ネオスの攻撃力2500に対し、The_シャイニングの攻撃力は3500だ。
その差はちょうど1000ポイント。
俺の……負けだな。
遊城十代:LP1000→0
5
ふぅ……なんとか勝てた。
それにしても《E・HERO ネオス》と『ネオスペーシアン』、そしてコンタクト融合か。俺はそれを知っていた。でもなんでだ?
間違いなく、俺はネオス関連のモンスターを見たのは初めてだったはずなのに。
「くぅぅ……負けちまったぁ!! すげーつぇぇな創!!」
「これでも青い制服を着る身なんだ。惨めな姿を晒すわけにはいかないだろう?」
「それもそうだな。さすがはオベリスクブルーだ。なぁ、東條、オベリスクブルーには東條みたいに強い奴が沢山いるのか?」
「そりゃあもう。俺でも勝てそうにない奴がいるぞ。例えば、万丈目とかな」
「へぇ、万丈目も強いんだな。いつかデュエルしようぜ?」
「いつかな」
もう、相変わらず万丈目は初めての人には口数少ないんだからもう。
クールなのか人見知りなのか分からんな。
「それにしても十代。そのネオスとネオスペーシアンって……」
「珍しいだろ? 子供の頃、海馬コーポレーションであるキャンペーンをやっていたのを覚えているか?」
「確かそれって――」
子供たちからカードのイメージを募って、採用されたデザインはカード化してタイムカプセルに詰めて宇宙に飛ばした。宇宙の意思の波動を受けて、新たなデュエルカードを生み出す壮大なプロジェクトだったはずだ。
あまりにも良く分からないキャンペーンだったから開いた口が塞がらなかったような。
とにかく凄そうとしか思えないそのプロジェクトは、確かに記憶には残っている。
「ネオスは俺が子供の頃デザインしたカードなんだ」
「マジか!?」
「あぁ! でさ、デュエルアカデミアの試験に合格して、海馬コーポレーションからこのカードたちを貰ったんだ」
それは凄いな。
でもなんで十代だけに渡されたんだ? カードデザインしたのは十代だけじゃないはずだ。でもタイムカプセルに詰められたカードたちをすべて十代が受け取るその理由は?
「でも、なんで俺なのかな?」
「さぁ? それは俺も疑問に思ってたんだ」
「ま、いいさ。この新しい仲間たちとともに俺はデュエルキングを目指す!」
「おう! 頑張れ十代。いずれ響紅葉さんを倒して最強のHERO使いを名乗る日を俺は待ってるぜ」
「任せろ。その第一歩としてまずは創に勝ってやるぜ」
「やれるもんならやってみな!」
そして俺と十代は笑いあう。
入学して最初の日に、さっそく気が合いそうな友達が出来て何よりだ。
「創!」
「あれ、明日香じゃん。どしたの?」
思わぬ人が現れたな。
「どしたの、じゃないわよ! ジュンコとももえに創のこと紹介しようと思ったのにブルー寮抜け出してレッド寮に行っているんだもの!」
「あー、すまんすまん。翔君に会いに行きたかったし、なにより十代と早くお手合わせをしたかったからさ」
「まったくもう、デュエルバカなんだから……。でね、今日新しく友達になった枕田ジュンコと浜口ももえよ」
「やるわねアンタ。流石はアカデミアで最強のHERO使いって言われてるだけある」
「よろしくな枕田。あと、最強とか安易に言わないでくれ。俺はまだまだなんだから」
「そんなことはないと思いますが……。浜口ももえと言います。よろしくお願いしますね、東條さん」
「浜口もよろしく。あ、こっちは万丈目準だ。俺の親友兼ライバルってとこかな」
すると万丈目はそっぽを向きながら、自分の名前をボソッと言って黙り込んだ。
やっぱ、これクールな性格ってよりは人見知りに近いんじゃ……。俺や明日香とは普通に話してるし、こんなに口数減るとは思わなかった。
「アンタたち二人は有名よ。中等部で二人に敵う者はいないって言われてたんでしょ?」
「中等部ではな。でもここではそうじゃないかもしれない」
「明日香様も、こんな人たちと友達なんて凄いですわね~」
「ん?」
あれ、明日香の奴顔を真っ赤にしてる。
てか『明日香様』ってなに? 同級生の友達にそんな風に呼ばれてるとかウケるんですけど。
女王様気取りかなんかですかぁ?
「ふ……」
「や、やっぱり鼻で笑われた……。だから明日香様はやめてって言ったじゃないジュンコ! ももえ!!」
困ったような顔をしながら言葉が出てこない枕田と浜口。
あ~、コレはおそらく勝手にそう呼ばれているだけなんだろうな。
でもこれは面白いことになるぞ~。
「おいおい、どうしてそんなに怒っててんだよ明日香様?」
「う、うぅ……やめてよぉ。分かっててやってるでしょ?」
あ、ヤベッ。目がウルウルして涙目に……これ以上イジメたら本気で泣きかねないゾ。
「あ、あぁ~悪かったよ明日香。鼻で笑ってさ。とにかく、ブルー寮に戻るか」
俺が悪かったとはいえ、これから明日香の機嫌を戻すのは骨が折れるな。
いつも気に食わないことがあったら怒るイメージだったけど、こんな風に泣かれるとは思わなかった。女の涙って、こんな破壊力あるとは思わなんだ。
「じゃあ翔君、十代。これから三年間よろしくな!」
「うん!」
「おう!」
あぁ、楽しい。
ここデュエルアカデミアでこれから何が起こるのか、それを想像するだけでドキドキしてくる。
さぁ、明日はどんな出会いが待っているのか。
……明日を迎える前に明日香の機嫌を直さねば!!
次回は三沢編!