1
ついに俺は中等部成績優秀者の証である青い制服に身を包み、デュエルアカデミア高等部の地へと足を踏み入れた。
これから三年間、この島で暮らし、いろんな人と出会い、成長していくことだろう。
まずは入学式という形式的な儀式を済ませ、俺たち新入生はそれぞれの寮へと向かう。
女子寮はオベリスクブルーのみなため、必然的に明日香や藤原、委員長は俺たちと一緒に歓迎会に参加した。
あ、そうそう。翔君は実技はすごかったけど、残念ながら筆記でひっかかりオシリスレッドという成績的に一番下の寮に配属することになってしまった。
だけど翔君なら心配要らないだろう。
この学校は頑張れば上の寮へと上がることができる。
中等部を卒業し、なおかつ成績優秀者のみが一年生からオベリスクブルーに直接配属されるが、それ以外の生徒は優秀な成績を収め、学校から認められればオシリスレッドの生徒だって青い制服を着ることだって夢じゃないんだ。
翔君は間違いなく上に上がれる実力がある。
勉強の方は――俺はともかく明日香とか委員長とか万丈目なら教えられるだろうし。
「デュエルアカデミア中等部を卒業し、優秀な成績を収めた選ばれし新入生ショクーン。今日はアナタたちを歓迎する日なノーネ。先輩たちと親睦を深めてくだサーイ!」
オベリスクブルーの責任者であるクロノス先生のありがたい言葉を聞き、歓迎パーティはスタートした。
俺たち一年生は中等部からの顔なじみがそのままなので、新しい交流がないのがちょっと寂しい。だから後で他の寮にも遊びに行こうと思った。だって、翔君もいるオシリスレッドにはアイツがいるからな。
E・HEROを使う遊城十代が……!
「創、万丈目。ようこそ、オベリスクブルーへ」
その声がした瞬間、周りがざわめく。
だってその声の主は、デュエルアカデミア最強の座に居座っている人だから。
「亮さん、ついにここへ来ましたよ」
「あぁ、俺もこの日を待ちわびていた。万丈目も、いつかお手合わせをしてみたいものだな」
「はい。いつか、丸藤先輩と全力でデュエルをしてみたいです。もちろん、あなたに勝つつもりで挑みます」
「その言葉が聞けてよかったよ万丈目。さぁ、今日は歓迎会だ。二人とも思う存分に楽しんでくれ」
そう言って亮さんは去っていった。
ほかの生徒にも声をかけていっているみたいだ。
さて、一通り先輩たちに一言挨拶を済ませたら……。
「ふぅ。万丈目、ちょっと提案があるんだけど」
「なんだ?」
「一通り挨拶も済ませたし、違う寮の歓迎会に顔を出さないか?」
「なるほど。確かにここじゃ、新しい顔は先輩くらいしかいないからな」
「そうそう。だから、いいかな?」
「構わないが……ラーイエローの寮の場所は分かるのか?」
来たばかりの場所でよく分からないから心配になるのは分かる。
だが、その疑問は見当違いだぜ万丈目。
「いいや、俺の目的地はラーイエローじゃない」
「ラーイエローじゃないということはまさか」
「そう、そのまさかさ。俺の目的地はオシリスレッド。落ちこぼれ候補生が入る寮だ」
だが、そこにいるのは“落ちこぼれ”だけじゃない。
翔君や遊城十代といった実力者も存在するダークホースが眠る場所なんだぜ?
待ってろよ遊城十代! 俺は、お前と、闘いたい!!
2
オシリスレッドの寮は、明らかな低予算漂うアパートだった。
きっとこの扱いも、お情けで入れさせてやっている。これが嫌なら己が力で這い上がって地位を掴み取れ、というオーナーである伝説のデュエリスト兼、海馬コーポレーション社長の海馬瀬人の意思が見えてくる。
俺と万丈目がオシリスレッド寮の歓迎会に顔を出すと、敵意むき出しな視線が襲い掛かってきた。成績優秀のエリート様が何の用だよ、という憎しみにも似た眼光が俺たちを突き刺す。
だが、そんなんでダメージを受ける俺たちではない。
それにここには、そんな顔を一切しない人もいるのだから。
「あ、創くんに万丈目くん! なんでオシリスレッドの歓迎会に?」
俺と万丈目を見るなり翔君が駆け寄ってきた。
「いやぁ、翔君に会いにね。それに、気になる人もいるし」
「気になる人?」
翔君は首を傾げ、何か思い出したかのように後ろを向いた。
その視線の先にはエビフライを食べている茶髪の男。その名は遊城十代。
「アイツが、お前が言っていた?」
「あぁ万丈目。俺と同じ、E・HEROを使うデュエリスト。入学試験でクロノス先生を倒したヤツだ」
俺たち三人の視線に気が付いたのか、遊城十代は口いっぱいに詰め込んでいたエビフライを飲み込み、こっちに駆け寄ってきた。
「翔、この二人は誰だ?」
「ボクの友達の東條創くんと万丈目準くんだよ」
「見ての通り、オベリスクブルー1年の東條創だ。よろしくな、E・HERO使いの遊城十代君」
「あれ? 俺のこと知ってんのか?」
「もちろん。入学試験のデュエル、見せてもらったよ。最高にカッコいいフィニッシュだったな」
「へぇ、あの時試験会場にいたのか。でも何でだ? 1年生でオベリスクブルーってことは中等部から試験免除で入学したってことだろ?」
「あの日は翔君の試験の応援にね」
「なるほど。あ、翔から聞いてるぜ。東條もE・HEROを使うだとか。しかも、中等部一年生のときに卒業模範デュエルの相手に選ばれるほどの実力者みたいだな」
あら、翔君から既に俺がどんなデュエリストなのか聞かされてたか。
一年生のときに卒業模範デュエルの相手に選ばれて亮さんとデュエルをした。まぁ、三年生のときは一般教養の成績が平凡すぎて、卒業模範デュエルの場に立ったのは万丈目一人だったけどな……。
まぁそれはさておき、これなら話は早い。俺がここに来た目的を話しやすい状況だ。
「自慢じゃないが、その通りだ。じゃあ、俺がここに来たワケは……分かってるよな?」
「あぁもちろんだぜ。俺も翔から東條の話を聞いてやりたいと思ってたんだ」
「遊城もやる気満々みたいだな。大徳寺先生、親睦を深めるために遊城十代とデュエルをしたいのですが、よろしいでしょうか?」
オシリスレッドの責任者である大徳寺先生に確認を取った。
「もちろん良いにゃ~。今日は親睦を深める日。デュエリストはデュエルをしてこそお互いを理解し合えると思うのだにゃ」
独特の口調で話す大徳寺先生だが、見た感じだと一番楽しそうにしているのは先生だった。まぁ、先生なら遊城十代と俺が同じE・HERO使いで、なおかつそれなりの実力者だってことは知ってるのだろう。
だからこそ、このデュエルを先生は許可した。
おそらく、オシリスレッドの生徒でもオベリスクブルーの生徒と対等に渡り合えるところを他の生徒にも見せたいのだろうな。
正直、彼を目の前にして勝てるかどうかが分からない。
苦戦しそうな雰囲気がぷんぷんしてる。
でも負ける気は毛頭ない。こちとら中等部を成績優秀者として卒業して青い制服を着させてもらってんだよ。たとえ相手が強敵だとしても、赤い制服の生徒に負けるだなんてことはあってはならない。
「よっしゃ! じゃあさっそくやろうぜ。もうワクワクが止まらねぇんだ」
「そうか。それじゃ、全力で相手をしよう」
そして俺たちはレッド寮前の広場に立つ。
これから始まるのは英雄同士のぶつかり合いだ。クールぶっていても、正直俺も興奮している。こんな面白そうなデュエルを一秒でも早くやりたいとウズウズしているんだ。
何だろう、この気持ちは……。
今までに感じたことのない気持ちの昂ぶり方だ。
「全力で行くぜ! 俺とお前、どっちかが消し飛ぶまで!!」
「あぁ。それくらいの熱いゲームにしよう」
『デュエル!!』
東條創:LP4000
遊城十代:LP4000
先攻は俺からだ。初手に《フュージョン・ゲート》があるが、同じHERO使いの遊城に間違いなくその効果を有効利用される。
ならここは……新HEROのお披露目だ。
「俺のターン。いくぞ、
《V・HERO ヴァイオン》
効果モンスター
星4/闇属性/戦士族/攻1000/守1200
「V・HERO!? お前、E・HERO使いじゃなかったのかよ!?」
「いいや、間違いなく俺はE・HERO使いだ。だが、このヴァイオンの効果は使えるんでね。E・HEROの良いサポートをしてくれる」
ここ最近出てきたニューヒーローの《V・HERO ヴァイオン》は、E・HEROと組み合わせて使えば最大限の力を発揮できる。
特に今からするコンボはおそらく有名になるだろう。新しいカードだからまだ情報は出回ってないけど、あまりにも相性が良すぎる。
「ヴァイオンが召喚に成功したとき、デッキからHEROを墓地に送ることができる。この効果で墓地に送るのはもちろんE・HERO シャドー・ミスト」
「そうか! シャドー・ミストの効果で――」
「さすがに分かるよな。シャドー・ミストは墓地に送られたとき、デッキからHEROモンスターを1枚手札に加えることが出来る。この効果で手札に加えるのはE・HERO オーシャン」
だがこれだけでは終わらない。
「そしてヴァイオンのもう一つの効果を発動。墓地にあるHERO――シャドー・ミストを除外することで、デッキから融合の魔法カードを手札に加える」
「マジかよ。さっき東條は水属性のオーシャンを手札に加えた……ってことは」
「そう……場のヴァイオンと手札のオーシャンを融合のカードを使い、新たなモンスターを生み出す。現れろ極寒のHERO! E・HERO アブソルートZero!!」
《E・HERO アブソルートZero》
融合・効果モンスター
星8/水属性/戦士族/攻2500/守2000
「HERO」と名のついたモンスター+水属性モンスター
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードの攻撃力は、フィールド上に表側表示で存在する「E・HERO アブソルートZero」以外の水属性モンスターの数×500ポイントアップする。
このカードがフィールド上から離れた時、相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。
まずはアブソルートZeroを立てて様子を見る。
場から離れれば《サンダー・ボルト》と同様の効果が炸裂するコイツがいれば、遊城も迂闊に融合召喚できまい。先攻の特権を最大限に生かさせてもらうぜ。
「よりにもよってアブソルートZeroを出されたかぁ……。相手にしたらこんなに面倒臭いんだな」
やはり遊城もHERO使いだけあって《E・HERO アブソルートZero》を使っているようだ。
味方なら心強いけど、相手にしたらこれほど手ごわい相手はいないってか?
その通りだよ。俺が後攻だったら、この状況は俺が体験していたかもしれないんだ。
だが問題ない。確かにアブソルートZeroは強力な効果を持つモンスターだが、その対応策はいくらでもある。
同じHERO使いの遊城なら、間違いなく的確な処理をしてくるはずだ。
「カードを1枚セットして、ターンエンド」
さて、お手並み拝見だ遊城十代!!
「俺のターン、ドロー! 翔から聞いてた東條の戦術はフュージョン・ゲートを使った連続融合召喚らしいな」
「……あぁ」
「だけど、今回は同じHERO使いのミラーマッチ。迂闊にフュージョン・ゲートを張れば俺にその効果を使われて不利な状況になりかねない。そう思ってるだろ?」
「間違いないな。おそらく、ちょっとでもHEROデッキの何たるかを分かっていれば真っ先に気づくだろう状況だ」
「へへっ、ごめんな東條。その選択は間違いだぜ? 俺のHEROは融合のマジックカードを必要としないからな」
「なに!?」
《融合》の魔法カードを必要とせずに融合召喚が行えるカテゴリーに
そんなの聞いたことがない。
いったいどんなHEROが出てきやがるんだ!?
「まずは厄介なアブソルートZeroには退場してもらうぜ。ソウルテイカー! 相手フィールド上のモンスター1体を破壊し、その後相手のライフを1000回復させる。消えうせろ、アブソルートZero!!」
東條創:LP4000→5000
わざわざ相手ライフを回復させる除去カードを採用しているのか。
対象を取らない《地砕き》や《地割れ》ではなく、対象を取る《ソウルテイカー》を採用するその意味はおそらく……ライフポイントに関係する効果を持つカードを遊城は採用しているということ。
とりあえず、これでアブソルートZeroは消えてしまった。
遊城の場にモンスターはいないから効果は不発のようなものだ。
邪魔なモンスターがいなくなった今、遊城の進行が始まる……!!
「いくぜ東條!! マジックカード、ヒーローアライブ。ライフを半分支払い――」
遊城十代:LP4000→2000
「デッキからレベル4以下のE・HEROを特殊召喚する。出て来い、E・HERO プリズマー。そしてプリズマーの効果を発動。俺はE・HERO エアー・ネオスを公開し、そこに記されているE・HERO ネオスを墓地に送ることで、プリズマーはその名を得る。リフレクト・チェンジ!!」
《E・HERO ネオス》だって……?
そのモンスター、どこかで聞いたことがある。けど、どこでだ?
初めて聞く名のモンスターのはずなのに、なぜか俺は知っている。いや、知っていたと言うのが正しいか。そんな感覚が俺を襲う。
ひどく気持ち悪い。
だが、今はデュエル中なんだ。絶対に最後までやり遂げてみせる。
「これでプリズマーはE・HERO ネオスの名を持った。そして手札のこのモンスターを召喚するぜ。出て来い、
うぅ……なんでだ? はじめて見るモンスターなのに俺は知っているんだ?
頭がズキズキと痛む。けど、耐えられない程じゃない。
「ネオス扱いのプリズマーと、エア・ハミングバードでコンタクト融合!!」
なんだそりゃ!? と、観戦してた生徒たちは驚きの声を上げていた。
だが、なぜか俺は別に驚きの感情が湧き上がらなかった。
自分の感情が分からない。
ダメだ! 今はデュエルに集中するんだッ!!
「空を舞え! E・HERO エアー・ネオス!!」
《E・HERO エアー・ネオス》
融合・効果モンスター
星7/風属性/戦士族/攻2500/守2000
「E・HERO ネオス」+「N・エア・ハミングバード」
自分フィールド上に存在する上記のカードをデッキに戻した場合のみ、融合デッキから特殊召喚が可能(「融合」魔法カードは必要としない)。
自分のライフポイントが相手のライフポイントよりも少ない場合、その数値だけこのカードの攻撃力がアップする。
エンドフェイズ時にこのカードは融合デッキに戻る。
「俺のライフポイントが相手より少ない場合、エアー・ネオスの攻撃力はその差だけアップする。俺のライフは2000で東條のライフは5000! つまりエアー・ネオスの攻撃力は――」
《E・HERO エアー・ネオス》攻撃力2500→5500
「攻撃力5500だと!?」
そうか。遊城はエアー・ネオスの攻撃力アップのために俺のライフを回復し、自分のライフを大きく削ったんだ。
俺の場にはモンスターがいない。
つまりこの直接攻撃を受ければ……俺の負けだ。
「そしてエアー・ネオスにインスタント・ネオスペースを装備。これでエアーネオスはエンドフェイズ時にデッキに戻らなくなった」
《E・HERO エアー・ネオス》の足元だけに虹色の輝く空間が出来あがる。
あれがネオスが戦う舞台――その縮小版ってわけか。
「バトルだ! エアー・ネオスの攻撃。スカイリップ・ウィング!!」
「甘いぞ。リバースカードオープン。ガード・ブロックだ。戦闘ダメージを0にし、カードを1枚ドローする」
「やっぱり、そう簡単には終わらないか。カードを2枚伏せて、ターン終了」
東條創 LP5000 手札5枚
場 なし
魔法・罠 なし
セット なし
遊城十代 LP2000 手札0枚
場 《E・HERO エアー・ネオス》
魔法・罠 《インスタント・ネオスペース》
セット 2枚
お久しぶりです。
気が向いたので執筆を再開しました。
このVS十代戦は書き終えているので、明日また更新したいと思います。
ではまた次回にお会いしましょう。