4
「いくよ、儀式魔法――レッドアイズ・トランスマイグレーション!!」
《レッドアイズ・トランスマイグレーション》
儀式魔法
「ロード・オブ・ザ・レッド」の降臨に必要。
(1):自分の手札・フィールドからレベルの合計が8以上になるようにモンスターをリリース、またはリリースの代わりに自分の墓地の「レッドアイズ」モンスターを除外し、手札から「ロード・オブ・ザ・レッド」を儀式召喚する。
「ボクは墓地のレッドアイズ・ダークネスドラゴンを除外することで、ロード・オブ・ザ・レッドを儀式召喚する! うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
兄さんが、灼熱に包まれる。
いったい何が起こっているっていうの!? なぜ兄さんが炎に包まれているの!?
その答えは、次の瞬間理解できた。
「兄さん……その姿はいったい?」
「ロード・オブ・ザ・レッドは、この身に宿るモンスター。それゆえ、ボク自身に装備されるのさ」
《ロード・オブ・ザ・レッド》
儀式・効果モンスター
星8/炎属性/ドラゴン族/攻2400/守2100
「レッドアイズ・トランスマイグレーション」により降臨。
(1):1ターンに1度、自分または相手が「ロード・オブ・ザ・レッド」以外の魔法・罠・モンスターの効果を発動した時、フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを破壊する。
(2):1ターンに1度、自分または相手が「ロード・オブ・ザ・レッド」以外の魔法・罠・モンスターの効果を発動した時、フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。
そのカードを破壊する。
レッドアイズ・ブラックドラゴンを彷彿させる黒い翼を持つその鎧は、兄さんのその身に装備されるような形でフィールドに姿を現した。
まさか、こんなモンスターが存在しているだなんて……。
「そして、ボクは……思い出のブランコを発動する」
「ッ!! そのカードは……」
「そう、ボクと明日香の思い出のカードさ。墓地より通常モンスターのレッドアイズ・ブラックドラゴンを攻撃表示で特殊召喚!」
あの《思い出のブランコ》は、小さい頃に兄さんと一緒にデュエルし、中々攻略できなかったカード。唐突に出てくるレッドアイズに何回もやられていた。
でも、私はあのカードが大好きだ。
私と兄さんの思い出が詰まったカードだから。
「そして、ロード・オブ・ザ・レッドの効果を発動! 思い出のブランコが発動されたことにより、このロード・オブ・ザ・レッドに魔力が蓄えられた。これにより、相手モンスターを1体破壊できる。いくぞ、荼吉尼を破壊する!!」
兄さん自身が動き出し、荼吉尼に向かって殴りかかってきた。
その身は炎に包まれ、灼熱の拳をぶつけてくる。
だけど、これでは終わらせない。
「私は墓地の機械天使の儀式を除外して荼吉尼の破壊を免れるわ」
「大丈夫さ。このターンでケリをつける」
「なんですって!?」
「行くよ、明日香。バトルフェイズ。まずはパンデミック・ドラゴンで荼吉尼を攻撃!」
このままバトルフェイズ?
兄さんのが展開したモンスターの攻撃力じゃ、私のライフポイントは削りきれないはず。
「私は三枚目の機械天使の儀式をゲームから取り除き、破壊を免れるわ」
「それでも、ダメージは受けてもらうよ」
「くっ……」
天上院明日香:LP3200→2200
「そして、ロード・オブ・ザ・レッドで荼吉尼に攻撃だ! うおおおおおおおお!!」
兄さんによる拳が荼吉尼へと襲い掛かる!
だけど無駄よ!!
「今度は祝祷の聖歌を除外し効果発動! 儀式モンスターの破壊を免れる!」
「だが今回もダメージは受けてもらうよ」
「ま、まだよ……!!」
天上院明日香:LP2200→1300
「残念だけど、ボクの……勝ちだ」
「え?」
「レッドアイズ・ブラックドラゴンの攻撃! ダーク・メガ・フレアァッ!!」
明らかに攻撃力が足りない。
レッドアイズの攻撃力は2400で、荼吉尼の攻撃力は1500だから、その差900ポイントがライフから引かれる。これでは私のライフポイントが400残る。
「このダメージステップ時に――墓地からトラップを発動する」
「墓地からトラップですって!?」
「スキル・サクセサー……あの手札断殺の効果で墓地に送ったもう一枚のカードだよ。この効果により、スキル・サクセサーを除外。レッドアイズ・ブラックドラゴンの攻撃力を800ポイントアップする」
《
あのとき……手札断殺の効果を有効に使っていたのは私だけじゃなく、兄さんもだったのね。相手のカードの効果すらも、自分の力として扱うだなんて……敵わないわ。
やっぱり、兄さんは強い。
まだまだ私では到底追いつくことの出来ない存在。
だけどこの戦いで学んだことは多い。
一番の課題はリスク管理。
あの《手札断殺》の一手によって勝敗を分けてしまったのだから。
「おつかれ明日香。良いデュエルだったよ」
「えぇ、ありがとう……兄さん!」
そして、レッドアイズ・ブラックドラゴンの炎に、私の身が焼かれた。
天上院明日香:LP1300→0
5
明日香が負けたか……あの連続儀式召喚には驚かされた。
韋駄天で強化された強力な儀式モンスターが1ターンで二体も並び、そして破壊から守ってくれる儀式魔法を4枚も墓地に送っていた。
あの布陣を作られたら、攻略不可能な場合がほとんどだろう。
だけど吹雪さんは明日香のライフポイントを削り切り、見事勝利した。
これが学園最強の力なのか。
「どうした東條、震えているぞ」
「え?」
万丈目に指摘されて初めて気が付いた。
俺の脚がガクガクと震えていたのだ。これは武者震いなのか、それとも恐怖から来るものなのか分からない。でも、あのデュエルを見せられてしまったら、亮さんの本気とぶつかり合うのは正直怖い。
でも、楽しみでもあるんだ。
「亮さんとかち合うのが、怖くもあり楽しみでもあるんだよ。どうしよう、震えが止まらない」
「そうか。でも、恐怖からくる震えだけじゃなくて安心したぞ。あのデュエルを見せられたんだ。きっと、俺が東條の立場だったら同じく震えているだろうな」
「万丈目が?」
「おいおい、俺だって恐怖を感じることくらいあるさ。人間だからな」
そうだよな……これが普通なんだよな。
落ち着け、俺。すぐに俺の出番がやってくるんだぞ!
すると、またコンコンと控え室のドアがノックされた。
「は、入っていいですよ~」
自分でも分かるくらい声が震えていた。
おいおい、緊張しすぎじゃないか?
「あらら、緊張してるわね東條君」
「委員長……」
「私もいるわよボウヤ」
「藤原も来てくれたのか」
「天上院さんのデュエルがあまりにも凄まじかったから、ひどく緊張してると思って様子を見に来たのよ。そしたら……案の定だったわね」
うっ……面目ないなぁ。
「せっかく私がデッキ調整の相手をしてあげたんだから下手なデュエルをしたら許しませんからね!」
「わ、分かってるよ。全力を尽くして戦うから」
「それにしては声が震えっぱなしよ、ボウヤ?」
ぐぬぬ……また俺をボウヤ扱いしやがって。いつになったら俺のことを東條と呼んでくれるのだろうか?
ま、まぁ、こんな状態じゃボウヤ扱いされても文句言えないけどね。
「だから、そんなボウヤに私から差し入れよ。あの限定肉まんじゃないけど、これも十分美味しいんだから、食べて」
ホカホカの肉まんが、紙袋に入っていた。
緊張でおなかが痛いけど……おなかに何か入れれば改善されるかもしれない。
そう思って俺は肉まんにかぶりつくことにした。
「い、いただきます……!」
う、美味い……なんだこれは。
さすがは肉まん好きの藤原やで……美味しい肉まんを知っておる。
「おいしい?」
「あぁ、めっちゃ美味いぞ! ありがとうな藤原」
「そう。それはよかった。声の震えも止まったみたいだし」
「え? あ……」
美味いもん食って、気分が晴れたからだろうか。
やっぱ腹ごしらえって大事なんだな。腹は減っては戦は出来ぬ、って本当だったんだな。今日の卒業模範デュエルに緊張しすぎて朝食もマトモに食えてなかったからな。
「さぁ、出番よ東條君! 私に東條君の全力デュエルを見せてね!」
「任せろ委員長! お前との練習は無駄じゃなかったことを証明しに行ってくるからさ」
「そ、そう……。とにかく、頑張ってよね!」
「ふふ……そうよボウヤ、とにかく頑張るしかないんだから」
委員長と藤原から激励の言葉を授かった。
そして、俺は万丈目を見た。
「東條、頑張って来い。そして……勝って来い」
「あぁ、分かったよ。じゃ、行ってくる」
そして俺は自分のデッキとデュエルディスクを持って控え室を後にした。
コツコツを足音が響き渡る廊下を一人で歩く。
もう、恐れるものは何もない。友達からあれだけの言葉を貰ったんだ。
あとは全力を出すのみ。
どちらが勝ち、どちらが負けるのか、それは神のみぞ知る。
「亮さん、今から俺は、あなたと全力で戦います」
俺はそう小さく呟き、デュエル場の扉を開けた。
あのカオス回と名高いヴァロンVS城之内で登場した《ロード・オブ・ザ・
レッド》を吹雪さんに使わせることになるとは……。
明日香に儀式を使わせたから吹雪さんにも儀式を使わせたかった。
それだけなんだよ。
さて、今年の投稿はこれでおしまい。
次の東條創VS丸藤亮はデュエル構成すら練ってないからちょっと時間をいただきますがご容赦ください。
では、良いお年を!