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時間が経つのも早いもので、卒業模範デュエル当日。
デュエル場の観客席には全生徒が収まり、かつ全教員もそこに収まっている。
誰もが注目する今日の二試合は、一年間で何よりも一番のイベントだろう。
俺と亮さんのデュエルは二試合目で、一試合目は天上院吹雪VS天上院明日香。
兄妹対決となるこの試合――いったいどんなゲームになるのだろうか。
そんな期待を、一人寂しく控え室のモニタを見ながら抱いていた。
吹雪さんは
対する明日香はサイバー・ブレーダーを利用した戦士族デッキだったな。
デッキパワーとしては吹雪さんの方が高いけど、サイバー・ブレーダーの効果を上手く利用すれば勝機はある。
下級生だからって遠慮はいらねぇ。
勝っちまえ明日香!!
『ついにこのときが来たね明日香』
『ええ、兄さん。私は、このデュエルに勝つ気で来たわ。だから――全力で行かせてもらうわよ!』
『言うじゃないか明日香。兄として鼻が高いよ。だけど、勝つ気でいるのはボクも同じ。上級生として、無様な姿を晒すわけにはいかないよ』
『そうね。この卒業模範デュエルの場に立っている以上、無様な姿を見せるわけには行かない』
『その通り。さて、そろそろ始めようか。お互いのデッキをカットアンドシャッフル!』
スピーカーから聞こえてくる二人の声は、とても力の入ったものだった。
吹雪さんと明日香が、デッキを交換して念入りにシャッフルしている。
頼むから、事故とかでやる側も、見てる側も嫌な試合にだけはならないでおくれよ。
変な偏りがないようにしっかりとやってくれよな。
『そろそろいいかな。とにかく、悔いのないデュエルを』
『えぇ。よろしくお願いします、兄さん』
『あぁ、よろしく』
デッキをデュエルディスクにセットし、準備が完了。
お互いに向き合ったところで、実技担当最高責任者の先生が直々にデュエル開始の宣言をすることになっている。
『準備が終わったようだね。では始めよう。デュエル開始ィィィ!!』
『『デュエル!!』』
天上院吹雪:LP4000
天上院明日香:LP4000
会場が一斉に湧いた。
これが卒業模範デュエルの熱なんだ。
なんという熱さなんだろう。この中心に、俺も立つことになるのか……。
『ボクのターンからだね。さっそく行かせてもらうよ! 天使の施しで3枚ドローして、2枚捨てる。ボクはこの2枚を墓地へと捨てる』
そのカードは、《
やはり吹雪さんは1ターン目からレッドアイズを展開してきた。
安定の滑り出して、テンポを掴んだか!?
『カードを1枚セットして、エンドフェイズ時、ワイバーンの効果で自身を除外し、レッドアイズ・ブラックドラゴンを特殊召喚!!』
『出てきたわね。兄さんのエースモンスター、レッドアイズ……!』
『この卒業模範デュエルは何よりも特別な場なんだ。だから、ボクはエースモンスターのレッドアイズを持ってして、明日香を倒すよ』
『なら、私も……私のエースモンスターで兄さんを倒してみせる! 私のターン!!』
レッドアイズ・ブラックドラゴンと、伏せカードが1枚あるこの状況。
明日香はいったいどんな動きをする気だ?
『サイバー・プチ・エンジェルを攻撃表示で召喚』
え……? サイバー・エンジェルの、カードだと!?
明日香のやつ、新しいデッキを組んできやがった……!!
《サイバー・プチ・エンジェル》
効果モンスター
星2/光属性/天使族/攻 300/守 200
「サイバー・プチ・エンジェル」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。
デッキから「サイバー・エンジェル」モンスター1体または「機械天使の儀式」1枚を手札に加える。
『サイバー・プチ・エンジェル……最近出てきた儀式テーマのカードだね。明日香、今日のために新しいデッキを?』
『えぇ、その通りよ兄さん。兄さんを倒すために、私は、今日まで何度も、何度も、何度も、デッキを組んでは崩してきた。そして、ようやく納得のいく構築にたどり着いたの。このサイバー・エンジェルデッキで、勝ってみせるわ』
どうりで、毎日眠そうにしてたわけだよ。
今日の卒業模範デュエルまでの短い時間の中で新しいカテゴリテーマをマトモに戦えるレベルまで育て上げるのは、相当煮詰めないと出来ないだろう。
そのとき、コンコン、と控え室のドアが叩かれた。
「入っていいですよ~」
「こっちで見ていいか、東條?」
「万丈目か。いいよ、一人ぼっちで寂しかったくらいだしね」
「それはよかった。あの騒がしい空間にあまりいたくなかったんでな」
「あはは……」
明日香は、デッキから《機械天使の儀式》を手札に加えていた。
来るのか? 儀式召喚が。
『私は、機械天使の儀式を発動。手札のサイバー・エンジェル‐
《サイバー・エンジェル‐
儀式・効果モンスター
星6/光属性/天使族/攻1600/守2000
「機械天使の儀式」により降臨。
(1):このカードが儀式召喚に成功した場合に発動できる。
自分のデッキ・墓地から儀式魔法カード1枚を選んで手札に加える。
(2):このカードがリリースされた場合に発動できる。
自分フィールドの全ての儀式モンスターの攻撃力・守備力は1000アップする。
「さっそく来たか……」
「なに、万丈目は明日香がサイバー・エンジェルを使うのを知っていたような反応だね」
「あぁ。なんせ、デッキの調整のための対戦相手は俺がやったからな」
「マジか! あ、そうか。万丈目も吹雪さんと同じドラゴン使いだもんね」
「そういうことだ。さて、天上院君はどう動く?」
サイバー・エンジェルは生贄に捧げられたときに効果を発揮する能力を持っている。
たとえば、韋駄天の召喚のために生贄に捧げられた弁天は、生贄に捧げられると天使族で光属性のモンスターをサーチできる。
サイバー・エンジェルは光属性でなおかつ天使族だから、後続となるカードを持ってこれるけど……この場面だと――。
『召喚された韋駄天と、生贄に捧げた弁天の効果を発動するわ。韋駄天の効果で儀式魔法、機械天使の儀式を。弁天の効果で天使族・光属性のマンジュ・ゴッドを手札に加える』
なるほど……そう動くか明日香。
これなら次に繋げられる。
でも、レッドアイズをどう処理する気なんだ?
『いくわよ、サイバー・エンジェル‐韋駄天‐でレッドアイズ・ブラックドラゴンを攻撃!』
『……特に発動するカードはないよ』
『ならばダメージステップ時に、手札のオネストの効果を発動! このカードを墓地に送ることによって、戦闘を行う相手モンスターの攻撃力の数値分、韋駄天の攻撃力アップさせるわ!』
なるほど、オネストを握っていたか。これで韋駄天の攻撃力は4000ポイント!
1600のダメージが吹雪さんを襲った。
これで先手を明日香が取ったことになる。
天上院吹雪:LP4000→2400
『参ったね。まさかライフを先に削られてしまうなんて』
『ゲームはまだまだ始まったばかりよ兄さん。サイバー・エンジェルの力はこんなもんじゃないわ』
『あぁ、そうだね。レッドアイズの力も、こんなもんじゃないよ。手札の
『そんな!』
《
効果モンスター
星4/闇属性/ドラゴン族/攻1700/守1600
(1):自分フィールドのレベル7以下の「レッドアイズ」モンスターが相手モンスターの攻撃または相手の効果で破壊され自分の墓地へ送られた場合に発動できる。
このカードを手札から守備表示で特殊召喚し、可能な限りその破壊されたモンスターを破壊された時と同じ表示形式で特殊召喚する。
(2):このカードをリリースして発動できる。
このターン、自分は通常召喚に加えて1度だけ、自分メインフェイズに「レッドアイズ」モンスター1体を召喚できる。
そうだ。レッドアイズデッキはこれが凶悪なんだ。
倒しても、倒しても、倒しても、何度倒しても蘇り、更なる力を手に入れる。
まさに可能性の竜。
『さぁ、どうする明日香?』
『私はリバースカードをセットしてターン終了』
天上院吹雪 LP2400 手札4枚
場 《
魔法・罠 なし
セット 1枚
天上院明日香LP4000 手札3枚
場 《サイバー・プチ・エンジェル》《サイバー・エンジェル‐韋駄天‐》
魔法・罠 なし
セット 1枚
一応守りの札を伏せたみたいだけど、韋駄天自体は攻撃力1600の少々低攻撃力のモンスター。
次につなげるためにこっちを出したんだろうけど、結果はコレ。
結果論だからなんとも言えないが、弁天の方を出して攻撃力2800を出した方が良かったんじゃないかな?
いや、《マンジュ・ゴッド》はサイバー・エンジェルデッキにとって潤滑剤的存在。
そいつを手札に加えた方がいいのかもしれない。
「万丈目、今の流れをどう思う?」
「天上院君のプレイングのことか?」
「そう」
「あれで間違ってはいないと俺は思う。なぜなら、あのサイバー・エンジェルデッキは、お前のデッキのように連続儀式召喚ができる。サーチカードを手札に加えれたのは今後の動きに大きく影響するだろうな」
「連続儀式召喚……そんなことが」
儀式召喚といえば、融合召喚以上に手札消費が激しくて使いにくいと言われていた。
どんどん展開していく光景をイメージできないのは仕方がないのかもしれない。
ただ、あのサーチ効果は確かに儀式モンスターの弱点を補っていると言っても良い。
手札次第では1ターンに何度も儀式召喚が可能なのか。
『ボクのターン。……なら、手札の
鋼鉄の竜がレッドアイズ・ブラックドラゴンと合体し、黒く輝く鋼の竜へと進化した。レッドアイズには、こういう可能性も存在しているのか。
『ブラックメタルドラゴンを装備したレッドアイズは、攻撃力が600アップする』
《
『バトル。レッドアイズで、サイバー・エンジェル‐韋駄天‐に攻撃! ダーク・メガ・フレア!!』
『そうはさせない! ミラーフォースよ!』
ダメだ明日香!
それは賢い選択肢とは言えない。
『レッドアイズ・ブラックドラゴンは破壊され、同時に装備されていたメタルブラックドラゴンも墓地に送られる。しかし、その瞬間に効果が発動する。デッキからレッドアイズカードの……
『あ……』
明日香も気づいてしまったようだ。
自分はミラーフォースという強力なカードを使用した結果、相手に強力なカードを与えてしまったという事実を。
自分は強力なカードを失い、相手に強力なカードを与える……ディスアドバンテージもいいところだ。
『そして、リバースカードオープン!
《
永続罠
「真紅眼の鎧旋」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分フィールドに「レッドアイズ」モンスターが存在する場合、自分の墓地の通常モンスター1体を対象としてこの効果を発動できる。
そのモンスターを特殊召喚する。
(2):このカードが相手の効果で破壊され墓地へ送られた場合、自分の墓地の「レッドアイズ」モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを特殊召喚する。
上手い!
吹雪さんはしっかりとリカバリーする状況を作っていた。
この状況……明らかに明日香が失ったものは大きい。
『リターン・オブ・レッドアイズは、自分の場にレッドアイズのモンスターがいる場合、墓地の通常モンスターを蘇生できる。レッドアイズ・ブラックドラゴンは通常モンスター。つまり、この効果で蘇生できる! 再び蘇れ、レッドアイズ・ブラックドラゴン!!』
再び現れた紅き竜。
その不屈の闘志によって、何度倒れようと立ち上がって勝ちを掴み取る。
それが可能性の竜。それがレッドアイズ!
『レッドアイズ・ブラックドラゴンで、サイバー・エンジェル‐韋駄天‐をもう一度攻撃。ダーク・メガ・フレア!』
韋駄天が火球によって焼かれる。
これで明日香のライフポイントは4000から3200に減った。
何度倒そうと立ち上がるレッドアイズを相手に、明日香は……まったく辛そうな顔をしてはいなかった。むしろ、ここから逆転してやろうとする闘志が垣間見えた。
ここからが本番だ。
そう言いたげな表情を見て、俺は胸を躍らせる。
「明日香、お前のデュエルを見せてくれ……!」
俺はそう呟き、隣に座っている万丈目は黙ったままモニタを見つめていた。
『メインフェイス2に移行し、レッドアイズ・ブラックドラゴンを生贄に捧げ、
ついに現れた吹雪さんの切り札の一つ。
その効果により、墓地にあるドラゴン族モンスター1体につき攻撃力が300ポイントアップする。
吹雪さんの墓地には《
『そしてリバースを1枚セットしてターン終了だ。さて明日香、この状況をひっくり返してみなよ。明日香なら、出来るはずだ』
『当然よ。この状況を打破できないような、
『じゃあ見せてくれ明日香』
『えぇ、私のターン!!』
やっちゃれ明日香!
お前のプレイングを見せてくれ。もうワクワクしてしょうがないんだ。
吹雪さんを……倒しちまえよな!!