中等部編を締めくくる話なので、三話に収まらないくらい長くなるかも。
俺がこの世界に飛ばされて、色々なことがあった。
今じゃ、この世界の記憶と完璧にシンクロして、もはや俺自身の記憶と言っても過言ではないレベルとなった。もう、元々この世界の住人なんじゃないかと思うほどにワケが分からなくなっている。
正直恐ろしく感じることもある。俺が元々居た世界なんてあったのかどうかすら定かではないのだから。それほどまでに、この世界に順応し過ぎたのかもしれない。
デュエルモンスターズの勉強を行う中学校に行って、授業を受けて、勉強で分からないところは明日香や委員長の原に聞いて、昼休みには万丈目とデュエルしてデッキの調整を行ったり、月イチの限定肉まんをかけて藤原とデュエルして、放課後になれば明日香と一緒に帰宅する。
そんな毎日を何の違和感も感じないまま過ごしていった。
そして、そういった時間は無限にあるわけではなく、必ず終わりは存在する。
現在は
春が過ぎ去り、段々暑くなりつつあるこの季節は――お別れの季節。
最上級生は卒業し、新たな舞台に立つ。
デュエルアカデミア高等部の孤島へと、夏休みが終わった9月に入学することになる。
そう――明日香の兄の吹雪さんと、翔君の兄の亮さんが、卒業するのだ。
「今年の成績最優秀の生徒は……二名いる。一人目、天上院吹雪」
「はい」
「二人目、丸藤亮」
「はい」
「今呼ばれた二名は登壇しなさい」
全校集会が行われている中、今年の最も優秀な成績を収めた生徒が紹介される。
当然のように、見知った二人の生徒の名が呼ばれた。
亮さんと吹雪さんは登壇して、校長先生の前に立つ。
「君たち二人は、三年生の生徒の中で最も優秀な成績を収めた。まずは祝福の言葉を贈ろう。良く頑張りました、おめでとう」
『ありがとうございます』
亮さんと吹雪さんが、ほぼ同時に言う。
「そして、毎年恒例行事となっている卒業模範デュエルを君たちに行ってもらうことになる。よろしいかね?」
「問題ありません」
亮さんが返事を返し、
「僕も、問題ありません」
吹雪さんも続けて返事を返した。
「では、卒業模範デュエルの相手を、発表してくれ」
そう……卒業式直前に、一大イベントが待っている。
それが卒業模範デュエル。
卒業生が、在校生に向けて、デュエルを通してメッセージを送る行事。
そして、そのデュエルの相手をすることはこの上ない栄誉であり、毎年のようにこの場で、本人によって発表される。
「では僕から。僕、天上院吹雪の相手は……明日香。妹の天上院明日香にお願いするよ」
一斉に明日香へと目線が集まった。
でもこれは、なんとなく予測出来ていたことだ。
問題は――亮さんの相手。
「次は俺ですね。俺、丸藤亮の相手は……
…………え?
今、亮さんは何て言ったんだ?
東條、創に、お願いしたいと、言ったのか?
視線が俺に集まる。
「今呼ばれた二名の生徒は、登壇しなさい」
先生の指示が聞こえてくるが、俺はすぐ行動に移せなかった。
「ほら創、立って。ステージの上まで行くわよ」
「あ、あぁ、すまん」
明日香の声でようやく我に返った俺は、明日香と二人で体育館のステージ上に立つ。
目の前には尊敬すべき、そして、超えるべき存在の亮さんが微笑みながら立っている。
「明日香、兄として妹がどれだけ成長したのか見せてもらうからね」
「えぇ、全力で戦うわよ兄さん」
明日香と吹雪さんは互いに握手をして、挨拶を済ませた。
そして。
「急なことで驚いているようだな創」
「は、はい。まさか俺が指名されるなんて思っていませんでしたから」
「ふ……確かに前までの創だったら指名してなかっただろうな。さしずめ……万丈目準あたりを指定していただろう」
「俺を、選んだ、その理由は?」
「簡単なことだ。冬休みが終えてから創は目まぐるしい成長を遂げた。そして、あの万丈目準に引けを取らない実力を身につけたんだ。この大きな変化を、俺が見逃すわけがないだろう?」
そうか、そりゃそうだよな。
何だかんだで、冬休みが明けてから亮さんとは一度も手合わせをしてない。
このタイミングを使わない手は無いよな、亮さん。
「そうですね。なら見せてあげますよ、俺の成長した姿を」
「あぁ、期待しているぞ」
俺と亮さんは握手を交わした。
全校生徒から拍手があがる。中にはおめでとー、だとか、がんばれよー、という言葉が飛んできた。
この卒業模範決闘はおそらく一年で最も注目される行事であることは間違いない。
だから恥ずかしい結果を残すわけにはいかないんだ。
指名された以上、今以上にデッキの調整を行って完璧な出来にしなくちゃならない。
ちょっとばかし相手になってもらうぞ、万丈目、藤原、委員長!
◆
「The シャイニング2体でダイレクトアタック! ダブルオプティカルストーム!!」
シャイニングから放たれた強い光に襲われた委員長のライフポイントはは、当然0を刻んだ。
「東條君、これ以上は無理よ。私には敵わないわ」
委員長に卒業模範決闘に向けてデッキの調整に付き合ってもらっているのだが、正直手ごたえが無かった。そもそも、ロックバーン使いの委員長を相手にしても亮さんのサイバーデッキとはデッキタイプが違いすぎて、この戦いに意味があるのか微妙なんだよなぁ。
でも、いま都合が付くのが委員長くらいしかいないわけで。
「委員長、違うデッキは使える?」
「まぁ、人並みには、使えるとは思うけど」
「サイバーデッキじゃないけど、似たようなデッキなら俺の手持ちで作れるからそっち使ってくれない?」
「良いけど、使い方はある程度レクチャーしてよね」
「オーケー」
俺の手持ちで作れるのは【マシンガジェ】だ。
マシンナーズ・フォートレスを中心とした構築済みデッキを三つ買えばある程度のデッキは組み上げることが出来る。あとは収録されていない汎用カードを突っ込めば形にはなるってわけだ。
序盤の中心となるカードはガジェットモンスターたち。
イエロー、グリーン、レッドの各種ガジェットは、召喚するたびにそれぞれをサーチし、手札を減らさず場にモンスターを増やすことが出来る。
そして主力となるモンスターの《マシンナーズ・フォートレス》は戦闘で破壊されて墓地に送られると、カードを1枚破壊できる。さらに効果モンスターの効果対象になれば手札を1枚捨てれるハンデス効果付き。
出すだけで強いモンスター筆頭だ。
それをサポートするのは豊富な除去魔法と除去罠。
手札を減らさずにモンスターを展開できる【マシンガジェ】だが、出てくる下級モンスターであるガジェットモンスターの攻撃力が低いのが難点。だからこそ、強力な除去魔法と除去罠によってサポートするわけだ。
まぁ、正直亮さんのサイバーデッキとは似ても似つかないが、同じ機械族だし、面倒臭さで言えば【マシンガジェ】の方が上なはず。モンスターの単体火力はサイバーデッキに負けていないんだ。パワボンでエンド出されない限りは何とでもなる。
除去カードの海を上手く攻略できるようになれば、勝率は少しでもあがるはずだ。
「なるほど、ガジェットモンスターを展開して、罠で守りつつフォートレスでトドメを刺す感じで良いわけね。分かった、やってみる」
「おう、頼むぜ委員長。今はお前だけが頼りだからな」
「あまり期待してもらっても困るわ。ま、在校生代表の東條君の頼みだから、全力で応えてあげるわよ」
「サンキュー委員長。行くぜ、デュエルだ!」
◆
本当に、私が兄さんと、卒業模範デュエルの場で戦うことになるとは思わなかった。
でも、私自身のことは正直どうでもいい。問題は私の幼馴染の創。
冬休みが始まって、創は変わった。デッキ構築がとんでもなく上手くなってるし、あの万丈目君と同等の強さを持っているとまで言われている。まるで別人になったかのようにデュエルのセンスが突然よくなった。
創がそうなったキッカケは私には分からないが、確かに言えるのは、兄さんと亮さんに認められるデュエリストになったということ。
あの創が作り上げた新しいHEROデッキ――ゲートHEROはとても強く、そして面白かった。それなりの対応力と融合HEROによる大火力。そして《フュージョン・ゲート》を利用した連続融合召喚は見ていて楽しい。
次から次へと新しいHEROが現れ、最近になって入れたようである《マスク・チェンジ》によって更なる変化をもたらす。
日々進化し続ける創のデッキ。
私も……私だけのオリジナリティのあるデッキを作りたい。
創が融合なら――私は儀式を使う。
「
最近発売されたパックを剥くと出てきたカード。
使いにくいとされていた儀式モンスターだけど、どうやら今回のパックによってテコ入れされたようで、とても使いやすくなるカードが多く収録されていた。
まだまだ新しいカテゴリだから、使う人は少ないはず。
なら、いち早く私はこの機械天使を使いこなしてみせるわ。
「絶対に、創には負けないわ。私の敵は兄さんだけではなく、創だってそうなんだから」
私はそう呟き、自分に喝を入れる。
まずはカードの把握から。使い慣れたカードなら良いけど、始めてみるカードでデッキを組もうとするときはテキストを読み込み、それに相性の良いカードを探し出すことから始まる。
《機械天使の儀式》
儀式魔法
「サイバー・エンジェル」儀式モンスターの降臨に必要。
(1):レベルの合計が儀式召喚するモンスターのレベル以上になるように、自分の手札・フィールドのモンスターをリリースし、手札から「サイバー・エンジェル」儀式モンスター1体を儀式召喚する。
(2):自分フィールドの光属性モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、代わりに墓地のこのカードを除外できる。
ただの儀式魔法ではなく、使った後も儀式モンスターを破壊から守る効果を持っている。
どうやら、サイバー・エンジェルを守るカードであるらしいけど……光属性のモンスターとなっているのが重要なのかもしれない。
光属性の儀式モンスターで、なおかつこのカードで守る価値があるモンスターといえば……あ、あのモンスターと相性がいいかもしれないわ。
思い立ったらすぐ行動。
私はカードを保管しているケースを取り出し、目的のカードを探した。
「あ、これね……。うん、これはサイバー・エンジェルとの相性もいいし、機械天使の儀式で守る価値は十二分にある」
と、なれば。
サイバー・エンジェルを中心とし、このカードも加えたデッキを作り上げるしかない。
出たばかりのカードを実戦レベルのデッキに仕上げるのはとんでもなく大変だ。
ネットとかを見ても考察している人はまだ居ない。だから参考にできるものは現状なにもない。だから、本当に一からのスタートってことね。
間に合うかしら……いや、間に合わせるのよ!
ふふ、兄さんと創が驚く顔が目に浮かぶわ。
「とりあえず、相性の良さそうなカードを出すところから始めるかしらね」
これは明日から寝不足になっちゃうわね。
授業に支障がでないように気をつけなくちゃ。
明日香さん、9期のカードを使う。
アニメが放送し、OCG化されることなく、長い時を経てサイバー・エンジェルがついに登場。しかもアニメ版よりサーチ効果を強化されての登場。
連続で儀式召喚できるようなテーマに。
やっぱり明日香さんは初期の戦士ビート(?)よりはサイバー・エンジェル使った方がらしいよね。