東條創 LP1600 手札5枚
場 M・HERO カミカゼ
魔法・罠 なし
セット 和睦の使者
藤原雪乃 LP3700 手札2枚
場 なし
魔法・罠 なし
セット なし
「私のターンね。ドロー」
なんだその意味深な笑みは。
「スタンバイフェイズに黄泉ガエルの効果で墓地から守備表示で特殊召喚。そしてメインフェイズ、強欲な壺を発動して2枚ドローするわ」
これで藤原の手札は4枚。そしてその勝ち誇った顔を見る限り、引いたのはおそらくヤバイカードに違いない。ゲームの決着をつけんばかりのパワーカードだ。
「悪いわねボウヤ。今日の私の引きはとても良いわよ。勝利の女神はどうやら私に微笑んだようね」
「いったい、何を引きやがったんだ!?」
「慌てないの。せっかちな男は嫌われるわよ? 悪く思わないでね。帝王の烈旋を発動するわ」
《帝王の烈旋》
速攻魔法
「帝王の烈旋」は1ターンに1枚しか発動できず、
このカードを発動するターン、
自分はエクストラデッキからモンスターを特殊召喚できない。
(1):このターン、アドバンス召喚のために自分のモンスターをリリースする場合に1度だけ、自分フィールドのモンスター1体の代わりに相手フィールドのモンスター1体をリリースできる。
「それはマズイ! その発動にチェーンして和睦の使者を発動だッ!!」
《和睦の使者》
通常罠
このターン、相手モンスターから受ける全ての戦闘ダメージは0になり、自分のモンスターは戦闘では破壊されない。
やべぇよ……《和睦の使者》がフリーチェーンじゃなかったら負けてた。
藤原は引きが良いと言ったけど、この俺も引きに関しちゃ負けていない。寸のところで窮地を脱するカードを引き続けているんだからな。
「あら、このターンで決着が付けられなくなってしまったわね。帝王の烈旋の効果により、私はエクストラデッキからモンスターを出せなくなる代わりに、相手のモンスターを1体生贄召喚のために使用することが出来る」
ここで《和睦の使者》を使っていなかったら、カミカゼを生贄に《人造人間‐サイコ・ショッカー》の召喚を許し、何の抵抗も出来ないまま直接攻撃で負けていた。
本当に危ない。
そして、カミカゼが俺の場から消え、代わりに現れるのは。
「私は自分の場の黄泉ガエルと、ボウヤの場のカミカゼを生贄に……守護天使ジャンヌを召喚。和睦の使者の効果で、このターンはダメージを与えられないからこれでターンを終了するわね」
《守護天使ジャンヌ》
効果モンスター
星7/光属性/天使族/攻2800/守2000
このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、破壊したモンスターの元々の攻撃力分だけ、自分のライフポイントを回復する。
【推理ゲート】のデッキなんだから当然とは言え、こうも簡単に融合HEROが処理されちまうと辛いものがある。
とにかく、藤原の場に伏せカードがない今がチャンス。
次のドローで勝敗が決まってしまうレベルだ。
さぁて、運命のドローといこうじゃないか。
「俺のターン、ドロー!!」
《天使の施し》だ! まだ勝利の女神は俺を見放していない。
このドローで俺の運命が決まる。
大丈夫だ。3枚もドローもすりゃあ、この状況を覆すカードが引けるはず。
俺は額に気持ち悪い脂汗をかきながら、《天使の施し》のカードをデュエルディスクに差し込む。
「マジックカード、天使の施し。3枚ドローして2枚捨てるぜ」
「ここで天使の施しとは、ボウヤの引きも強いわね」
「お褒めの言葉ありがとよ。さぁ、いくぞ。ドロー!」
引いたカードは……ついに来た!
このターンでケリは、付くのか?
何を捨てれば良い? どういう順序でプレイすれば良い?
俺は頭の中で必死に考えた。この選択肢を間違えるわけにはいかない。
藤原の手札にアレがある可能性も考え、それが出たとしても勝てる道筋があるはずだ。
まず、俺の手札の中で間違いなく不必要なのは《E・HERO ワイルドマン》だ。このカードを使ってもリーサルにはならない。そして、もう一枚は……サーチしたものの、使うタイミングがなくなってしまった《E・HERO プリズマー》で大丈夫なはず。
見えた。見えたぞ、勝利への道筋が。
「いくぜ、藤原! 召喚僧サモンプリーストを召喚。自身の効果により守備表示になる。そして効果を発動する。手札の魔法カードを1枚捨てることで、デッキからレベル4のモンスターを特殊召喚。俺は増援のカードを捨ててE・HERO オーシャンを特殊召喚。だけど、このオーシャンは攻撃できない」
「なんでわざわざ攻撃できないモンスターを――」
「焦るなよ。気が早い女性は引かれるるぜ?」
「言ってくれるじゃない……!」
やっべ、怒らせちまった。
仕返しのつもりで言ったけど、こえぇなオイ……。
き、気にせず次の手だ!
「そして死者蘇生でエアーマンを蘇生! サーチ効果を使い、スパークマンを手札へ加え、そしてフィールド魔法、フュージョン・ゲート!」
「来たわね。ボウヤの切り札」
「あぁ、ようやく手札に来てくれたぜ。さて、いくぞ藤原! 俺は手札のバブルマンと、スパークマンを融合し、E・HERO アブソルートZeroを召喚!!」
《E・HERO アブソルートZero》
融合・効果モンスター
星8/水属性/戦士族/攻2500/守2000
「HERO」と名のついたモンスター+水属性モンスター
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードの攻撃力は、フィールド上に表側表示で存在する「E・HERO アブソルートZero」以外の水属性モンスターの数×500ポイントアップする。
このカードがフィールド上から離れた時、相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。
「それでも攻撃力2500だから攻撃力2800の守護天使ジャンヌに――」
「いや、アブソルートZeroの攻撃力は3000だぜ、藤原」
「…………ッ!!」
「気づいたようだな。サモンプリーストの効果でわざわざオーシャンを召喚した理由が」
「アブソルートZeroの攻撃力は場の水属性1体につき500上がるのよね。すっかり忘れていたわ」
一つ目のサンダー・ボルトの効果がインパクト強すぎて攻撃力上昇の効果は隠れがち。
だが、今はこの効果が勝敗を決める。
「そうだ。これで守護天使ジャンヌの攻撃力を上回った。いくぞ、バトル!
藤原雪乃:LP3700→3500
《守護天使ジャンヌ》が氷漬けになり、粉々に砕け散る。
これで藤原の場が空いた。エアーマンの攻撃が通る!
「そしてエアーマンでダイレクトアタック! ウィンドブラスト!」
藤原雪乃LP:3500→1700
エアーマンの翼のプロペラから発生した竜巻が藤原を襲う!
そして、これで最後だ。
「この瞬間――このダメージを受けた瞬間に、手札のモンスター効果が発動する!!」
「ッ!?」
手札誘発モンスターか……! いったい何が出てくる!?
「冥府の使者ゴーズを手札から守備表示で特殊召喚し、エアーマンによる1800ダメージの数値と同じ攻守を持ったカイエントークンを、こちらも守備表示で特殊召喚するわ」
《冥府の使者ゴーズ》
効果モンスター
星7/闇属性/悪魔族/攻2700/守2500
自分フィールド上にカードが存在しない場合、
相手がコントロールするカードによってダメージを受けた時、このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
この方法で特殊召喚に成功した時、受けたダメージの種類により以下の効果を発動する。
●戦闘ダメージの場合、自分フィールド上に「冥府の使者カイエントークン」
(天使族・光・星7・攻/守?)を1体特殊召喚する。
このトークンの攻撃力・守備力は、この時受けた戦闘ダメージと同じ数値になる。
●カードの効果によるダメージの場合、受けたダメージと同じダメージを相手ライフに与える。
《冥府の使者カイエン》
星7/光属性/天使族/攻1800/守1800
「このターンで勝負を決めるつもりだったのでしょうけど、甘いわねボウヤ。これで次のターンに繋げられる。私の手札は1枚。ご存知の通り前のターンで手札に戻ったサイコ・ショッカーのみ。でも、それでも――ライフポイントが残っている限り諦めないわ」
「ああ、そうだ。その通りだぜ藤原。だが、しかし、今回ばかりは次のお前のターンは回ってこないぜ!」
「なんですって!?」
見せてやるぜ、ゲートHEROの真髄――怒涛の連続召喚を!
さぁ、見て驚け。変身を手にした俺のヒーローたちは、様々な姿へと変貌する!
「だけどボウヤのモンスターは全て攻撃を終えたじゃないの。いったいどうやって――」
ふはは、予想通りの言葉を吐くなぁ。
「藤原、バトルフェイズ中でも速攻魔法なら手札から発動できるんだぜ?」
「まさか」
「そう。俺はマスク・チェンジ・セカンドを発動。手札1枚をコストに、モンスター1体をM・HEROに変身させる!」
《マスク・チェンジ・セカンド》
速攻魔法
「マスク・チェンジ・セカンド」は1ターンに1枚しか発動できない。
(1):手札を1枚捨て、自分フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを墓地へ送り、そのモンスターよりレベルが高く同じ属性の「M・HERO」モンスター1体を、「マスク・チェンジ」による特殊召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。
「HERO以外のモンスターをM・HEROにできるっていうの!?」
「その通り! 俺は闇属性であるサモンプリーストを変身させる。いくぞ、変身召喚! M・HERO 闇鬼!!」
《M・HERO 闇鬼》
融合・効果モンスター
星8/闇属性/戦士族/攻2800/守1200
このカードは「マスク・チェンジ」の効果でのみ特殊召喚できる。
「M・HERO 闇鬼」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードは直接攻撃できる。
その直接攻撃で相手に与える戦闘ダメージは半分になる。
(2):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊し墓地へ送った時に発動できる。
デッキから「チェンジ」速攻魔法カード1枚を手札に加える。
「闇鬼で冥府の使者ゴーズを攻撃!」
角を生やした仮面を持つ黒いスーツの闇鬼による攻撃でゴーズが破壊される。
そして、ゴーズが墓地に送られたその瞬間。
「ゴーズが戦闘で破壊され、墓地へと送られた! これによりデッキからマスク・チェンジを手札に加えられる」
「…………」
藤原の奴は黙り込んでいた。
敗北のビジョンが見えてしまったんだろう。
だって、藤原にはもう対抗するための札がないのだから。
「藤原、面白かったぜこのデュエル。何が出てくるか分からないワクワク感と、緊張感のあるドキドキ感がたまらなかった。今回は俺の勝ちだけど、いつでもリベンジは受けて立つからな!」
「そうね。とんでもなく悔しいわ。次に戦うときがあれば絶対に負けないわよ。さぁ、来なさいボウヤ!」
「マスク・チェンジの効果により、アブソルートZeroを変身させる。変身召喚! M・HERO アシッド!」
アブソルートZeroがフィールドから離れたことにより効果が発動。
藤原の場に残っている《冥府の使者カイエン》が破壊され、藤原を守るモンスターが一切なくなった。
伏せカードもなく、手札も《人造人間‐サイコ・ショッカー》のみ。
これで終わりだ。
「アシッドの攻撃!
藤原はアシッドのガンから放たれた雨の様な攻撃を浴びた。これで2600のダメージ……俺の、勝ちだ。
藤原雪乃:LP1700→0
「私、の、ま……け……」
残念ながら俺の勝利により藤原が限定肉まんの購入権利を得ることができなくなった。
だけどこれは真剣勝負なんだ。慈悲など与えられない。誰もが己が勝利のために戦っているんだからな。
「ありがとう藤原。最高のデュエルだったぜ」
「えぇ、本当に最高のデュエルだったわ」
最後に握手を交わす。
……若干涙目になっているのはどうしてなのかな?
やっぱり限定肉まん買えないのはつらいのか。
本当に好きなんだな、肉まん。
何かをこらえるようにその場を去る藤原の後姿を、俺はただ見るだけしかできなかった。
「…………」
藤原に勝利したことで限定肉まんを手に入れることが出来た。
しかし、一個だけ。
これでは足りない。最低でも二個は必要なんだ。
だったら、どうすればいい?
答えは簡単だ。ただそれは、とんでもなく目立つ行為であり、一年生としてはあまりにもリスキーな行い。
だけど……やるしかないじゃない。男なんだからさ。
藤原のあんな泣きそうな顔見せられたら、俺の中の正義感という名の傲慢が暴走せざるを得ない。
「先輩、ちょっといいですか?」
◆
「やあやあ明日香」
限定肉まんをかけたデュエル大会の翌日。
俺は紙袋を手に、食堂にいる明日香のもとへと訪れる。
「あら、東條君じゃない。どうしたの?」
そこには明日香のほかに委員長こと原麗華もいた。
うん、今日も眼鏡が良くお似合いです。
そのキビキビした感じ、嫌いじゃないわ。
「なによ創?」
「これな~んだ?」
もしかしてと、明日香は紙袋を受け取った。
「こ、これって月に一度だけ販売される限定肉まん!?」
「東條君、昨日の大会勝ち抜いたの!?」
「まぁね。さてさて、その限定肉まんだけども、明日香にプレゼントだ」
「ちょっと、それは東條君が頑張って手に入れたものなんだからそんな簡単に――」
さすがは委員長の原麗華。
そんなにガチガチに考えているからモテないんだぞ。
委員長めっちゃ可愛いのに、その性格のせいで一歩引いちゃうんだよね。
「もう、委員長は相変わらずお堅いんだから。俺があげるってんだからそれでいいじゃないのさ。それに、まだあるしね」
スッ……と、俺は後ろに隠してあったもう一つの紙袋を前に出す。
この中は普通の肉まんではない。
一学年につき三つしか販売されない激ウマ限定肉まんだ。
つまり、俺は先輩に限定肉まんの購入権利をかけてデュエルしたってわけさ。
同学年は俺の実力が知れ渡っているし、万丈目に勝ったり負けたりしている奴だってことも知れ渡っているからまず相手にされない。
だから先輩に話をもちかけた。下級生だからと、先輩は相手にしてくれた。
そして購入権利を奪い取ったってわけ。
マジで悪目立ちしすぎだぞ、俺……。
「え、まだあるって……」
「とにかく! 明日香、偶然お前が食べたそうにしているところを見ちゃって。だから頑張って勝ち取ってきた。さ、召し上がれ」
「う、うん。ありがと、創」
おうふ。顔を赤らめながら言うこの絵……すごく様になります。
こんな明日香を見ることが出来ただけでも大会で勝ち抜いた価値があるってもんだ。
「どういたしまして。ちゃんと味わって食えよ~」
「もちろん!」
明日香の笑顔がまぶしすぎるぞ。
眼福眼福!
さぁて、次だ次。
「じゃ、俺は会う人がいるからこれで」
「ちょっと東條君! いったいどうやって二個も――」
「あーあーあー、キコエナイ~」
「東條君!!」
委員長を無視して俺は藤原を探す。
色んな人に聞いてまわって、ようやくその姿を確認することが出来た。
ったく、もう昼休み半分切っちまってるぞ。もっと分かりやすいところにいなさいよ。
「なーんでこんな校舎裏で昼飯食ってんだよ藤原」
「あらボウヤ。どうしたのこんなところまで来て。もしかして、肉まんを自慢しに来たのかしら?」
「いーや、俺はそんな良い性格してないよ」
「だったらなんで?」
「ほら、半分やるよ」
「え?」
俺は紙袋から肉まんを取り出し、半分に割った。
中からあふれ出てくる肉汁がヤバイ。初めてこの限定肉まんを食べることになるが、割っただけで分かる。コイツはとんでもなく美味い。
「好きなんだろ? 肉まん」
「えぇ、大好きよ」
「だったら一緒に食べようぜ。そうだなぁ……最高に楽しいデュエルをさせてくれた、っていう名目でどうだ?」
「……そうね。私はボウヤに楽しい時間を与えたんだから、そのお礼を受け取るのは当然よね」
俺の意図を汲み取ってくれてありがとうな藤原。
委員長と違って話が分かる奴で助かった。
「そうだぞ~。さて、さっそく食べよう。この熱々の肉汁を冷ましちまったらもったいないからな」
「そうね。じゃあ――」
『いただきます』
そして、俺と藤原は一斉に肉まんにかぶりついた。
それはもう、この世のものとは思えないくらいに美味であった。
モチモチの皮と、ジューシーな豚肉。
これが300円で買えるとかヤバくね!? だから限定九個なんだろうけど、正直これのためならなけなしの小遣いはたいて中学生には少々お高い300円の肉まんを買うために毎月大会出るまである。
『うん、美味しい!』
綺麗にハモったその言葉のおかげで、その場は楽しい笑いに包まれた。
ということでTFキャラ登場編終了。
デュエルの相手はTFキャラの中でも随一の人気がある藤原雪乃でした。
最後にチラッと原麗華も出ましたよっと。
そして中等部編は次の話で終了。
あまりダラダラと中等部編やってるといつまでたっても十代出せないしね。
何かと粗のあるつくりをしてますけども、今後とも応援の程よろしくお願いします。
次回『卒業模範決闘編』
あれ、あまり明日香ヒロインしてないような……。