めざめてソラウ 作:デミ作者
拙作が皆さんの期待に応えられているかいつも戦々恐々としながら書いていますが、いつも励まされております。
と言うわけで本編ではどうぞ。
この辺りから設定に自己解釈やあやふやな点が増えてきますので、おかしな所があれば是非ご指摘下さいませ。
時計塔の地下――正確には大英博物館の地下だが、そこには魔術協会としての時計塔に参加している魔術師たちの工房が存在する。無論ながら、階を降りるごとに凶悪さ、強烈さが増すその工房らの中には、これまた無論ながら
時計塔を訪れたばかりの数週間、住処が決まるまでの数週間はそこで寝泊まりしたものだ。お陰で、まだまだ一般人メンタルの俺にも少々の度胸と呼べるものが備わった。
ショッキングなものは沢山あった。血の匂いがするのは日常茶飯事、そこかしこから伝わってくる、洗脳や暗示、人間を害する結界の数々、そしてそれより直接的な『命を狙う』魔術の痕跡たち。これらを常に喉元に突きつけられているのがソフィアリ家の現状かと思うと、俺は安易に此処には立ち入らないようにしようと固く心に決めたのだった。
そう、決めたはず。なのに今、俺はその時計塔地下の工房群のうちの一つを訪れている。その理由は――
「
「術式適合率以外に問題は?」
「見られません。その他全ての項目が最適に調整されています」
「ならば構わない、施術を開始しろ」
「――はい」
――魔術による
もっとも、この施術は俺と相手の互いの合意の元で行われたものであり、不本意に拉致されたりで強引に行われたものではない。というか、今の俺――今のソラウ・ヌァザレ・ソフィアリに対してそんな真似をしようものならば骨も残らないだろう。
現在、俺を取り巻く状況はわりと込み入っている。俺の存在――降霊科学部の娘ながら天体科にも所属している――が降霊科と天体科の橋渡しとなっているのは変わりないが、なんと最近ではそこに鉱石科までが加わったのだ。
勿論、それは偶然でも何でもない。
ともあれ、天体科との一件のせいでまたしても権力闘争に巻き込まれる形となった俺であるが、実際のところ不自由はしていない。それどころか、鉱石科の魔術を学べることに関しては感謝したい程だ。
鉱石科の魔術といえば馴染み深いのが『魔力を宝石に込める魔術』、そして『宝石に込めた魔術を使用する魔術』。鉱石魔術、あるいは宝石魔術を使用するにあたってこれらは基本中の基本であり、だからこそ難易度が高く、だからこそよく研究されて来た――現代に至るまでずっと。そうして磨き抜かれた魔術式は、今まで俺が使用していた物など児戯に等しいレベルと言っていいだろう。それ故に、その魔術式を盗み、改竄し、置き換え、自分のものとした際に俺の魔術がどこまで拡張されるだろう。それを楽しみに、日々精進を続けていると言うわけだ。
その成果の一つが、今の状況で非常に役に立っている魔術だったりする。
「作業進度およそ四十パーセント――凄いですね、彼女。身体の造りを変える作業だから痛みが発生するにも関わらず、涼しい顔で眠ってる」
「眠っている訳ではないだろう。低負荷起動状態の魔術回路から見るに、自身への暗示が相当深いようだ」
暗示の魔術。
型月厨ならば誰でもが知っていると言っても過言ではない、最もポピュラーな魔術の一つ。今回の施術に当たって、俺はこれを恒常的に使用している――と、彼らには説明してある。
実際に使用している魔術は『支配』系統の魔術。そう、『Fate/strange fake』にてバズディロットの使用したアレである。
勿論、そのバズディロットと同じ程に支配の魔術を扱える訳ではない。だが、彼と同じように『自己を支配する』際にだけはその足元に届くのだ。無論、置換と転換を併用し、自己の深くに魔術を押し込むことによって。
だがまあ、今日のこの施術を受けるに当たって使用する魔術は『支配』でなくとも良かった。彼らに説明した通りに暗示でも良かったし、むしろこんな手間をかける必要のない分暗示の方がコスト的にも良い。
ならば、何故『支配』を使用したか。その理由もまた、バズディロットと同じなのだ――そう、
俺が第四次聖杯戦争に参加するに当たって、『この世全ての悪』と接触する可能性は極めて低い。ゼロと言っても良いだろう。だが、可能性が無いわけではない。何がどう転んで、溢れ出した泥の前に投げ出されるか分からない。そして、そうなった際に何も出来ずに飲み込まれてゲームオーバーだなんて認められやしないだろう。そんな無様を回避する為に、俺はこの魔術を研鑽しているのだ。
その効果は上々。こうして今までのことを振り返っている最中にも俺の構造を造り変えるための施術が行われているだろうが、その痛みを感じることは全くない。施術において付与される術式を自分なりに造り変えて身体に馴染ませながらなお、痛みはないのだ。この魔術もまた、俺の習得できたものだと考えていいだろう。
勿論、バズディロットが泥の呪いを防ぐことが出来た理由が『支配』の魔術だけが理由でないことも知っている。故に、これだけでは足りないことも理解している。理解しているが、やりようがないのも事実だ。その事実に関しての回答も一応は用意できているが……まだまだ試行錯誤の段階と言わざるを得ないだろう。
故に、自己に対する『支配』の魔術の効果を試すことが出来る今回の施術は渡りに船だったのだ。それだけを理由として、この実験的側面の強い施術を受けた訳ではないが。
「術式適合率、およそ四十パーセント。……すごい、素質的には間違いなく施術が失敗するレベルなのに」
「彼女の才能は群を抜いている。それは私が一番良く分かっているさ。恐らく、いくつかの分野でならばあのエルメロイの俊英にも匹敵するだろう」
「それを実感しましたよ、ロード。こんな逸材が、仮とはいえまさか我々
外から聞こえる言葉を聞き流しつつ、『支配』によって痛みを抑えた身体と魔術回路を操作する。目的は、身体に刻み付けられつつある施術をソラウの身体に適合させること。
やることは変わらない。刻まれる術式が暴走する前に置換魔術で無理やり解析し、それを組み替え、転換魔術で身体と魂に組み込んで行く。
魔術を行う際にはイメージが大切だ。俺が抱くそのイメージは、『Fate/EXTRA』の『魂の改竄』。自分のステータスを弄る幻を『支配』で強固に維持しつつ、得た
「――百パーセント、ね。どう? ロード、そして講師の先生方」
「いやはや、完璧だともミス・ソフィアリ。やはり君は、私に見せてくれたように天才のようだ」
「あら、お世辞でもロードのようなおじさまから頂けるならこれ程嬉しいことは無いわね。講師の先生は、私に何もないの?」
四十八の美少女奥義の一つ、ソラウ流し目を使いながら空気を和ませる。ちなみに流し目を向けた先生――二十代半ばで生真面目そうな男だ――は顔を真っ赤にしている。さては虜になったな。
「はは、ミス・ソフィアリ。我が天体科の魔術師を引き抜かんでくれるかな」
「あら、失礼。――それで、ロード。あなたが私に
そう、依頼。今回の改造施術は、俺が天体科学部長マリスビリー・アニムスフィアから直々に依頼されたものなのだ。その内容は、この施術の効果・術式・身体への負担や影響等、施術に関わる一切を評価し改善点を洗い出すこと。似非カルデアスの一件とその後の時計塔での評価で俺のことをいたく気に入ったマリスビリー氏が、是非にと頼み込んで来たものだ。
そして――本来ならば、そこに『ソラウが施術を受けること』は含まれていなかった。つまり、自分の身に改造術式を施すようにと自ら頼んだことになるのだ。
彼らの視点から見れば、危険も多く効果も未知数な施術。なぜ、それに自ら志願したのか。それは――
「……細かいことはまた後で評価しますが、総括として。私……ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリの名の下に、評価は『効果は確かに得られる』ものの『人体への影響が大きすぎる為に未だ実用には程遠い』となります――この、『英霊適合術式』は」
――それは、この術式が『デミ・サーヴァントを作成するための技術』の雛形であったからだ。
デミ・サーヴァント。英霊と人間の融合体であり、かの『Fate/Grand Order』の主要人物の一人であるマシュ・キリエライトが成る存在。人でありながらサーヴァントと渡り合えるようになる、埒外の術式。それを行うと告げられたからこそ、俺はこの身を差し出したのだ。
というか、そもそも俺がマリスビリー氏……と言うよりアニムスフィアと接触を望んでいたのは、強力なコネとこの技術だけが目当てだったと言っても過言ではない。
無論、第四次聖杯戦争に生き残るために。
「……そう、か。程遠いか」
「率直に言わせて頂くならば、程遠いと言うよりも最早『不可能』と言った方が宜しいかも知れません、ロード」
「……それは、何故かね」
マリスビリー氏がじろりと此方を睨めつける。その眼光の鋭さは流石だと言えるが、此方とてそれに臆する訳にはいかない。
「理由は幾つか存在します。まず一つは、この術式自体が未だ不完全である為です。人体を無理やり改造すると言うのに、理論が固まっていないのならば失敗は必然。術式を見るに降霊術系統の魔術のようですが、このままでは施術中に被験体が破裂することもざらにあるかと」
「……だが、君はこうして生きて立っているではないか」
「それは、私が施される術式に対してリアルタイムで改竄を加えていたからです。正確には、術式と自らの身体の両方に対してですが。双方に干渉し、改竄し、調整しつつ馴染ませました。少なくとも降霊術に秀でた血を持ち、更にこの改善を行える魔術師でなければ死は免れないでしょうし、そんな魔術師はそうそう存在しません」
「では、君が施術中にそれらの処置を施すことで強引に結果を出すことは出来ないのかね?」
「不可能でしょう。私の魔術が少々特異だと言うことは、ロードご自身が理解されておられるでしょう。その魔術を、最大限に効果を発揮出来る己の内で使用して耐えられたのです。他者に作用するとなれば効果は保証できませんので、やはり不可能です」
マリスビリー氏は腕を組み、顰め面をして唸っている。天体科の彼にとってこの施術は専門では無いだろうが、それでも彼も優秀な魔術師の一人だ。俺の言ったことが正しいことだと言うのは理解できるだろう。
「二つ目に進んで宜しいでしょうか、ロード」
「構わない、続けてくれ」
了承を得て、口を開く。此処からは、原作――FGOで触れられていたことをそのまま垂れ流すだけだ。気が楽と言えば変だが、気負わなくて良いのは確かに楽だ。
「二つ目と三つ目は相関関係にあります。二つ目は、この術式だけでは施術の意味が無いこと。三つ目は、この術式に意味を持たせようとした際に喚び出される英霊との折衝についてですが――」
「――いや、もういい。理解したよミス・ソフィアリ。この術式は、言わば『巨大な霊的存在を受容できる身体』に造り変えるもの。それ単体では意味が無い。そして肝心の英霊降ろしを行ったとしても、彼らに備わった人格が問題となるという訳だな」
「流石の御慧眼です、ロード」
「言われなければ分からなかったことだよ、ミス・ソフィアリ。しかし、どうやら君は初めからこの結果を予想していた様ではないかね?」
「はい、仰る通りですよロード」
再びマリスビリー氏から向けられる眼光。それに対し、俺は平然と返答する。懐疑の視線が強まったようだが、それを意に関せずに微笑みを浮かべた。ソラウスマイル――相手は警戒心を解かれる!
「私が着目したのは、この術式で得られる結果――『巨大な霊的存在を受容できる身体』と成る事です。私もソフィアリ家の端くれ、降霊術を使用するに当たっては何かと便利ですから。術式を見た段階で、副作用をどうにか出来る目処は立っておりましたし――受容できる規模が大きくなれば、その分あの『天体模型』の完成にも近づくでしょうから」
「なるほどな、初めから向いていた方向が別だったと言うわけか。君を利用するつもりが、利用されていたと言うわけだな」
「うふふ、ロード。女の子はみんな我儘ですのよ? それに、そんな笑った顔で怖い事を言われてもどう反応して良いやら困りますわ」
うふふ、あははと互いに笑い合う。マリスビリー氏は少し残念そうだが、その理由には踏み込まない。対して、俺の方は目的が達成出来て嬉しげだ。
――――まあ、全部嘘っぱちだがな!
マリスビリー氏に語った内容は嘘も嘘、大嘘である。俺の目的を達したついでにそうなった、というだけに過ぎない。
ならば、俺が目的としていたのは何か――勿論、『デミ・サーヴァントと成ることが出来る下地を造る』ことだ。
ところで、ここで置換魔術――俺の置換魔術と、原典であるエインズワースの置換魔術について振り返ってみる。
俺の置換魔術は、基本的にエインズワースのそれの劣化互換だ。 空間の置換も死者の魂の置換も不可能なもの。
それは、置換魔術の奥義――クラスカードに置き換えてみても同じだろう。エインズワースが上、俺が下。座の英霊の情報を読み取りつつも不要な部分を削り夢幻召喚しているエインズワースに比べ、俺の置換魔術はコピーアンドペースト。コピー元……英霊の情報の方が大きければ、それを人間に貼り付けることは出来ない。
つくづく、エインズワースの夢幻召喚は『完璧』だと思い知らされる。
「……うふふっ」
――だが、もしもその大きすぎる英霊の情報を全て身に宿すことが出来ればどうか。その際に得られる力は、精々黒化英霊と渡り合える程度の『夢幻召喚』よりも遥かに勝るはずだ。
「おや、どうかしたかねミス・ソフィアリ。随分楽しそうだが」
「失礼いたしました、ロード。これでまた魔術の研鑽が積めると思うと、胸が高鳴って仕方が無いのです」
そう、俺が目指したものは『クラスカードを用いたデミ・サーヴァント化』。完璧を越えた『完全』な英霊化を、異なる作品同士の技術を合算して成し遂げる。
宝具やスキル、身体能力も完璧以上の完全に。それだけでなく、デミ・サーヴァント化によって戦闘経験も習得する。クラスカードによる英霊化と、デミ・サーヴァント化による英霊との融合。二つの異なる『英霊降ろし』の良いとこ取り。英霊の人格以外、全てをコピーして貼り付ける俺だけの夢幻召喚――俺の置換の欠点を逆手に取った文字通りの起死回生、死の運命に立ち向かうための切り札として、これを完成させる。
勿論、まだまだ課題が多いことは承知の上だ。英霊の座の座標も分からず、施された術式もプロトタイプ故に穴が多い。その他にも、細かな課題が山盛りだ。
だが、その全てを越えなければならない。それ程までに、俺――ソラウという魔術師に課された死の運命は絶対的だ。
故に、俺は研鑽を続ける。
生き残るために。
「胸が高鳴って、か。そう言えばミス・ソフィアリ、君も随分成長したね、胸とか」
「もう、嫌ですわロード……いえ、おじさま。まだ子供とはいえ、私は淑女。不躾ではなくて?」
「ああ、すまないミス・ソフィアリ。君の成長が嬉しくてね。おお、そう言えば誕生日のプレゼントは君の父上に預けておいたよ」
そんなこんなで、わりとプライベートでマリスビリー氏と仲良くなって来ている、最近成長期で胸も膨らみ出した、元男としてはなんだか複雑だけれどよく考えたらソラウはzeroのキャラでも一番ナイスバディになるじゃんと気付きだした――そんな俺ことソラウ・ヌァザレ・ソフィアリ、今日は十四歳の誕生日であった。
つまり酒呑ちゃんコスの美女ソラウちゃんが見れるってことだよ!!!!(机バァン)
はい、どんどんとアレな方向に突っ走ってますソラウちゃんです。でも、デミサバとクラスカードの融合って燃えません?
と言うわけで、誤字脱字や設定考察の間違い、その他ご意見がございましたらどうぞ教えてくださいませ。今回も読了ありがとうございました!