めざめてソラウ   作:デミ作者

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なんだかソラウちゃんが気の向くままに魔導の探求をする小説になりつつある気が。
そしてソラウちゃんはまだロリっ子です。
今回も独自解釈モリモリなのでご注意を。

あ、それとUA沢山来ててびっくりです。
ご意見ご感想、評価も含めてありがとうございます。
全て目を通させて頂いております。
皆様の期待に応えられれば幸い。では、どうぞ。


目覚めてソラウ現在十二歳

 皐月の風が頬を撫でる。窓から吹き込んだそれはカーテンを揺らし、狭い狭い工房の埃っぽい空気を新鮮なものに入れ()える。その過程に『置換』の魔術式のヒントを見出しながら、

 

「……ダーメだ。どうにも上手く行かないな」

 

 俺――ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリは、もう七年の付き合いとなった身体に張り付いたドレスの胸元を広げ、椅子に背を預けながら息を吐いた。息を吐きながら、魔術回路のスイッチを落とす。そのまま両脚を高く伸ばせば、机の上に組みながら下ろす。ドレスの裾が捲れるのもそのままに、丁度いい位置にあったガラクタの上に白く透き通る肌の脚を乗せながら、背もたれへと深く倒れこむ。

 背を椅子は俺の記憶にある物と同一ながら、俺の背中を受け止め切れずに小さく軋む。そこに別段可笑しなことはなく、ましてや何らかの魔術的要因もなく――ただ即ち、俺、十二歳。だいたいこの位の歳を境に幼女は幼女を卒業し、少女になる。魔法少女適齢期と言い換えてもいい。最も、俺の側には傍迷惑な愉快型魔術礼装など存在しないが。

 

「魔法少女、ねえ。見た目は少女で中身は大人の男ってのは、魔法少女に分類出来るんだろうか。いや、あのステッキなら嬉々として仲間に引き入れそうだが」

 

 どうでも良い事を呟くのは気分『転換』の一手法。歳を経て転換の魔術に親しむに従って、この程度は意識せずとも一工程以下(ワンフレーズ)で結果を求められるようになった。この三年ほど、ほぼ毎日転換と置換、そして降霊術に触れてきた故に当然とも言えるだろうが、それでもこれは確かな進歩だろう。が、勿論それ以外にも魔術の研鑽は積んできた。

 というか、研鑽を怠る即デッドエンド(道場送り)なのだから油断は出来ない。まあ、最近はただ単純に魔術の研鑽が面白くなってきた、というのもあるが。げに素晴らしきはこのソラウボディだ。

 そのソラウボディに美しいドレスが装備されているのは、今日邸宅に客人が来るからである。どの家の誰が来るかまでは知らされていないのだが、こんな礼服を着せるくらいなのだからそれなりの家の者が来るのだろう。

 だが、だからと言って今日一日は訓練お休み……なんてことにはならない。客人が来るその時間まで、俺はこの数年でそれなりにモノになった魔術の訓練をしているのだ。

 この三年で取り組んだことは、俺の基幹となり得る三魔術系統――即ち、降霊、転換、置換の三種の習熟度の深化。

 転換の魔術はその万能性を潰さないように広く浅く、そして自身に合致する分野に関しては深く探求を重ねた。深く重ねた分野は――勿論宝石系・鉱石系と、俺の独自魔術となる『置換』に接続する分野。それと新しく、ソフィアリ家の司る降霊魔術の補助となる分野だ。具体的に挙げるならば降霊を行った際の魔力の運用や操作、降霊物の制御など。今となっては、この転換魔術が俺の全てを支えていると言っても過言ではないだろう。

 さて、その降霊に関しては父の薫陶を賜りつつ、ソフィアリ家としての伝統かつ秘伝を――兄には及ばない程度にだが――学び、習熟した。かの接続強化型魔術礼装(ブロンズリンク・マニピュレーター)等の超高度降霊礼装には及ばないものの、其れなりの補助礼装や、転換と併用することで高度な命令(プログラム)を実行できる高位の使い魔の作成ができる俺のレベルは、総じて高い所に存在すると言えよう。最も、上には上が居るので相対的に見ればまだ中位程度だろうが。

 また、降霊術の研鑽の一端として独自に英霊召喚を試みたりもした。厳密に言えば『降霊術と英霊召喚のプロセスを通じた英霊の座へのアクセス』なのだが――当然と言うべきか何というべきか、此処まで行った十数回において、全て失敗を喫した。

 初めの数回こそ魔術式・魔術理論の不備であったが、それ以降の失敗はもっと根本的な原因によるもの。即ち、英霊の座にアクセスしようとしてもその座標が掴めなかったのだ。

 現世の魔法陣から出発し、定められた式と理論で座までのルートを開通させる。理論から出発し、過程を辿る……その最中で、結果に繋がる過程へと辿り着けない。過程Aと過程Bの間が繋がらない。俗に例えれば『道に迷った』という表現が近しいだろうか。目的地に向かって出発したはいいが、途中で道が複雑になって辿り着けずにすごすご泣き戻る。概ねこんな感じのことを繰り返した。エインズワースの『屑カード』……『どこにも繋がっていない』というアレもこのように出来たのかも知れない、と、その時は漠然と思ったものだ。

 

「エインズワース、エインズワースねえ……そういや結局、そんな名前の家は確認出来なかったよな。存在するのはエインズワースでなくアインツベルン。やっぱり此処は『原作』だ」

 

 呟きながら回想を続ける。回想、というのは一見無駄に見える行為だが、これも魔術の研鑽の一つだったりする。回想する、即ち過去から現在までの『過程を辿る』行為は応用すれば魔術行使の際の思考の滑りを滑らかにする。あらゆる精神活動はそのまま魔術訓練になり得る、と言うのが俺の学んだことの一つでもあるくらいだ。

 まあ、それはともかく。エインズワースと来れば次に導かれるのは置換魔術、なのだが……これに関しての進展はあまり存在しない。

 と言うのも、置換魔術の使い手が殆ど存在しない以上資料が少なく、現在構築している式の改良が捗らなかったためだ。一応は無駄を削ぎ落とし必要な過程を付け加え効率化は図ったが、置換魔術という分野において独力での進歩は難しいと言える。まあ、その分軽度の非物質置換の習得と、そのうち簡単なものならばほぼ無詠唱で行えるようにはしてやったのだが。

 それよりも、重要なのは『転換』と『置換』を複合させた独自の魔術――未だに名前は無い――である。俺としてもコレが自身の生命線になり得ると漠然と理解していた為に、この三年で最も力を入れてきた。その甲斐はあって、かなり踏み込んだ領域にまで達しただろう。

 まず言及すべきは上位置換――銅を金に換えたりする置換。これに掛かる時間と消費する魔力、そして必要な集中力は大幅に軽減された。しかし、肝心の置換そのものに関しては完全成功の例は今だに無い。原因もはっきりしている、読込(read)した物質情報(material)上書き(install)する際に、明らかに器以上の情報を押し込み過ぎているからだ。例えるならば、ゴム風船に容量以上の空気を送り込む、あるいは降霊術に失敗して二つの魂と肉体を暴走させる、はたまた上級AIのアバターに虚数域のメモリを積みまくる――だろうか。どれにせよ、容量オーバーでヒビ割れ破裂するのは目に見えている。

 つまり、魔術式自体に問題はないが、そこから求める結果を導く為には更に一手別のアプローチが必要になるのだ。そして、それ故に俺はこの上位置換をここで一旦ストップさせている。

 何故なら、今の俺にはどうしようもないからだ。手広く魔術を習得出来る肉体を持ち、その上降霊、転換、置換には秀でている。しかし、それだけ。出来ないことも普通に存在し、無茶を通せばどうにかなる訳でもない。一先ず棚上げ、というのは必要なプロセスなのだ。

 ならば棚上げしてから今日まで何をして来たかと言えば――

 

「よっ……と。流石に脚と背中が攣りそうだな。筋肉は解れたけど」

 

 声を出し、脚の下敷きにしていたガラクタ……透き通る水晶で出来た水晶玉を爪先で転がし、爪先から脚の上を滑らせて胸の前まで持ってくる。

 そう、このガラクタ――否、ガラクタに成る以前の『魔術礼装』の研究をしていたのだ。

 研究、と言っても開発や発展を目的としたものではない。置換と転換の併用魔術、その内の一工程である『コピー』を使用した、礼装に施されている術式の複製と習得、そして改竄。要するに、礼装によって齎される効果を盗みとってやろう、というものだ。

 その栄えある実験第一号として選ばれたのが、この水晶玉――『遠見の水晶玉』である。

 この水晶玉の効果は字の如く『遠見』。離れた場所の出来事を水晶内に投影し映し出す――のだが、俺はこの礼装と魔術式を徹底的に解体し、呪文の一言に至るまで言及し尽くした。何故なら、この遠見の魔術が置換転換の複合魔術と相性が良かったからである。この魔術式というのは、此処ではない何処か、指定した人、モノ、あるいは場所の現在を読み取り『複製』し、それを水晶玉の内に『貼り付け』て映し出すことで結果を成すもの。そして、そのコピーとペーストの二工程によって編まれているのならば俺の独壇場という訳である。

 実際には複製の前に座標指定や空間保持、貼り付けの後に映像化やリアルタイムでの同期等の様々な魔術式を重ねることで礼装として完成させていたようだが、俺はそれら全てを学んだ上で――省略した、否、省略出来てしまった。『起こっている事実』の全てを『複製(コピー)』し、そのまま『貼り付け(ペースト)』る、という荒技によって。ただ一つ、リアルタイムでの同期を図る式についてはそのまま採用したものの、それ以外は軒並み纏めて簡略化した。その結果が――

 

「……『遠見(view_map)』」

 

 この、()()()での魔術行使である。

 そう、魔力を通すだけで効果を発揮する……一工程で済むはずの礼装のメリットを殺す結果。しかし、俺は全く後悔していない。何故なら――

 

「……あら、丁度お客様がいらっしゃったみたいね。まあ、先ずはお父様がお相手をなさるのでしょうし、私は最後の顔合わせに間に合う位に行けば良いでしょう」

 

 ――何故なら、その魔術を発動しているのは水晶玉でなく窓だから。何の変哲もない窓で、俺は遠見を実現させているのだ。

 これが理由。俺は礼装とそれを構成する魔術を分解し尽くし、その根幹たる魔術を根こそぎ自分のものとした。『一工程で、それなりの魔力を消費する、水晶玉が無くては発動できない魔術』から、『一小節で、魔力消費が殆ど無く、何処でも発動できる魔術』へ。払ったデメリットに対し得たメリットは遥かに大きい――ついでに様々な魔術理論に触れられたとあれば、完全に俺の勝ちだろう。

 これに味を占めた俺は、その後も様々な礼装の解体に手を付けた。今の所は遠見の水晶玉ほどにモノに出来たものは無いが、幾つかは時間の問題という所にまで来ている。

 無論、月の聖杯戦争でも無ければそうそう簡単に礼装など手に入らないもの。手に入らないもの、なのではあるが――そこはソフィアリ家の財の力と言うべきか。父に可愛くおねだりをすれば没落した魔術師の家系の礼装を買い取り与えてくれるあたり、名家の力の大きさを思い知らされる。まあ、当の売り出した魔術師も、礼装をばらばらに解体された挙句自身の施した術式と理論をそのまま盗まれるとは思ってもいないだろうが。

 

 そこは俺が生き残るため、勘弁して欲しい。

 

「……それにしても来客、ね。ちょっと気になるわね、聞き耳を立てに行きましょうか」

 

 そして、情報収集も生き残ること為には必要なのだ、うん。

 そう自分に結論付け(言い聞かせ)て、椅子から立ち上がる。大きく伸びを――しても、胸は別に盛り上がらなかった。というか、俺――ソラウは歳の割には発育が遅い。最終的にはzero勢の中でも一番の巨乳になるのは確定しているのだが、それはそれで元男としては複雑だったりする。

 そして、zeroと言えばその顛末をどうするか。それについてもずっと頭を悩ませてはいるが……

 

「こればっかりはまだ結論が出ないわね。ま、今考えることじゃないかしら。部屋を出ましょう……っと、その前に。『浮遊(add_float)』」

 

 足蹴にし、胸に抱いていた、元・遠見の水晶玉……今となってはただの水晶玉に魔術を施す。求められる結果は『浮遊』。文字通り、物質を自由自在に空中で動かす魔術。

 無論、掛け値なしの大魔術――という訳では無かったりする。実はこれ、遠見の水晶玉から盗んだ座標指定の魔術式と、非物理置換……重力の置換を組み合わせているだけだ。一応、使っている魔術は置換なので他の魔術師も出来ないことはない……だろうが、秀でている俺でなければ『優秀な魔術師』レベルでやっと、それでも一つの動作に十小節以上(オーバーテンカウント)は掛かるだろう。つまり、実質俺専用という事だ。だが、俺に取っても平易な魔術ではないことは確かであり、この水晶玉……解体し尽くした後に俺の血と魔力と魔術とを注ぎ、その上で所有の刻印を施したこれにしか使えないが。

 言うなれば、俺の初めての自作礼装だろうか。全てを終えた後に淡い青から綺麗な菫色へと変わった水晶玉を見て、柄にも無く高揚したのを今でも思い出せる。今の所はこうして浮かせ動かして俺に追随させるのと、遠見の魔術のスクリーン程度にしか使えないが。それでも狐巫女神(キャスター)っぽい気分にはなれるので万事オーケー。精神の休養も必要なのだ。

 

「戸締り完了。まあ、水晶を浮かせる()()()ならお客様に実力を見せる魔術として不足は無いでしょう。もしかしたら、お父様にお褒めの言葉を戴けるかも知れないし、ね」

 

 廊下を歩く。そう言えばこの七年、この廊下ばかり通っている。思い返してもソフィアリ邸から外へ出た事が無いくらいだ。権力闘争の渦中に在って危険とは言うが、外に出た事が無いことに気付かない位には俺も現状に……約束された死の未来を持つソラウとなったことに動転していたのかも知れない。

 考え事をしつつ廊下を抜けると、そこはもう父の応接室の目と鼻の先。扉から離れた所でも時たま声が聞こえるくらい、会話は白熱しているようだ。これならば聞こえ易い、とドアの前へ忍び寄り、

 

『ソラウ。そこに居るんだろう』

「――ひゃあっ!? ……失礼いたしました。それで、お父様?」

『私は少し喉が渇いたのだが、紅茶が切れてしまってな。我が客人と私の分、厨房から茶菓子と一緒に持ってきてくれたまえ』

「はい、お待ち下さい、お父様」

 

 微かに頬を染め、すごすごと引き下がる。

 多分、廊下に感知の結界でも張っていたのだろう。気付かないとは正に未熟。一抹の悔しさを覚えつつ、廊下を抜けて厨房へ。メイドへ話を通し、ワゴンと茶と菓子のセットを受け取る。ウィンクとスマイルをつけてやれば、オマケにドライフルーツを一つゲットした。メイドの指から直接食んでやれば彼女は頬を染めて卒倒しそうになっていたが、まあそれは彼女へのご褒美。

 問題は、俺が客人と顔合わせ出来るのかどうかなのだが――

 

「まあ、私の名前を出して、その上で態々お使いに出すのだからその気はあるのでしょうけど。それにしても、お茶とお菓子を運ばせるなんて――私は給仕(メイド)ではないと言うのに。ほら、ドレスだってこんなに綺麗なのに……もう」

 

 ぶつぶつと漏らしながらお茶菓子のワゴンを押す俺の衣装は、肩を曝け出した深紅のドレス。もっと言えば、かの礼装『恋知らぬ令嬢』のソラウの纏っている『アレ』を子供用にダウンサイジングしたもの。元が元だからか、あるいは元ネタが元ネタだからか、ぴったりよく似合う。戯れにこれを着せてくれたメイドにしなだれ掛かってみれば、一撃でノックダウンさせた程だ。

 

「まあ、大した距離でも無いし構わないか。さて、今度は急に声を掛けられても驚かないように――」

『だからな、今の私達のことを考えてくれ。確かに君は良い友人だが、流石にこの額は承諾しかねる』

『君の家が権力闘争の渦中にある事は知っている。だからこそ、私に協力してくれと言っているのだ。時計塔のロード同士の同盟となれば、多少の余裕も生まれるだろう』

 

 ロード、とそう聞こえた。成る程、他のロード相手ならば俺を着飾らせたのも分かる。恐らく、兄ブラムは既に顔合わせを済ませているのだろう……そうして気を抜いていた俺の耳に飛び込んできたのは、超特大の爆弾だった。

 

『そうは言うがな。()()()()()()()()()()に、完成の目処も立たぬ物に金は使えぬのだよ――この巨大装置の設計図を見ても、そう言わざるを得ない。分かるだろう、()()()()()()

『ぐ、ぬ……っ』

 

 ――時計塔のロード、マリスビリー・アニムスフィア。その名は、そしてその名の示す意味は余りにも大きく重い。同時に、それらを活用出来るように、脳内で考えが纏まってゆく。それら全てが纏まり切った所で、俺は淑やかな女の仮面を被り、

 

「お茶をお持ちしました、お父様」

 

 静々と、応接室の扉をノックした。




パパニムスフィア登場。
型月成分が欲しくなってCCCを再プレイしてましたがやっぱり良いですね。
それにしても、エクストラ系列はグランドオーダーと重なるところが多いような。考察が捗ります。

今回もまた、ご意見ご感想、注意点など御座いましたらよろしくお願い致します。

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