めざめてソラウ   作:デミ作者

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降霊科の魔術って何やるんだよ……(調べても何も出てこなかった顔)
あ、あと原作に登場しない、喋るモブキャラが出ますので注意。出番はこれっきりです(多分)

7/21追記 :モブキャラ一名の発言を改訂致しました。ご意見ありがとうございました!


目覚めてソラウ現在九歳

 ふぅ、と息を吐く。

 全身から力を抜き、椅子に深く腰掛ける。両脇の手摺に軽く肘をかけ、両手に握った二つの宝石に意識を集中させる――無駄な思考はここまで。必要な思考だけを、理性で回転させる。

 

 集中する。

 両の手の中にある宝石の、片方は空で片方は充実。内包する魔力の差だ。左手が空で右手が充実。左手が赤で右手が青。

 

「――魔術回路(application)起動(access)

 

 励起する。

 この身に宿ったスイッチを切り替える。イメージは、高所から飛び降りるもの。崖の端から奈落へと飛び込むと同時に、表出した魔術回路に魔力が回り出す。

 そして、埋没する――魔術的論理を展開し、過程を決定し、必要な式を導き出し、予め決定された結果を確定する。求められる知識と過程は、全てソラウの――俺の優秀な頭脳に刻み込まれている。

 

「……ふう、この程度ならもう大丈夫ね」

 

 故に、その成功は必然だった。

 両手に握られた宝石のうち、魔力が満ち充ちているのは――赤いもの。対して青い宝石には、かつての魔力の残滓すら残っていない。

 

「見事だ、ソラウ。先程見せてもらった『降霊』の他に、『転換』まで熟すとは。研鑽は積んでいるようだね」

「勿論ですわ、お父様」

「だが、まだまだ甘いな。構築した理論は完璧だが、その過程を辿る際に無駄が多い。効率が悪いということだ。その証拠に――ほら、赤の宝石に充てられた魔力が、元々青の宝石に溜まっていたものより減少しているだろう」

 

 言われ、意識を宝石に向ける――までもなく、理解できた。重みが違う。転換の魔術自体には成功したが、移し替えには失敗したというところだろうか。まあ、()()()()()から考えればこのロスは仕方ないだろう。

 だが、言い訳をする気はない。

 

「はい、仰る通りです。精進いたします、お父様」

「うむ。だが、お前のその年齢を勘案すればこれ以上無いと言ったところだろう。降霊魔術そのものに関してはブラムにこそ劣るが、お前の魔術全体はよく研鑽されている。私はブラムの訓練に戻るが、これからも自己の向上に励むように」

「はい。お父様のお言葉を胸に刻みます」

「ではな、ソラウ。次回の訓練は()()()()だ、それまで達者でな」

 

 そう言って、父は部屋を後にした。残されたものは、他の『同様の用途』を持った部屋より幾分か小さく、物も少ない、がらんとした部屋と、そこに置かれた椅子と魔術用品と、そして疲れて汗を掻いている俺のみ。いつも通りの訓練後の光景が、そこには存在した。

 俺が父に魔術の手解きを受けられるのは、基本的に二ヶ月に一回だ。残りは全てブラム――兄に充てられている。しかし、それでも『当時のブラム』と同じ程度、あるいは幾つかの分野に於いてはそれを上回る成果を出し続けているのは、偏にこのソラウの身体の優秀さと、俺の努力によるものだろう。特に後者に関しては、『努力すればするだけ成果が出る』という例を知っているだけに一層身が入るというものだ。

 

 その例の一つはエミヤシロウ――言わずと知れた原作主人公。非才二流の身でありながら、ただ只管に鍛え続けた先に格上の英霊と渡り合えるようになった化け物。

 また例の一つは佐々木小次郎――あるいは燕を斬った無名の侍。彼にとっては大したことが無かっただろうが、此方もただ只管に燕を斬ることのみを追い続けて、その結果に魔法の域に達する技を手にした化け物。

 

「そんな奴らがいる、現れるってのに……特にエミヤなんか才能が無いってのに。こうやって才能ある身体を与えられた俺が怠けてちゃ、何処にも面目立たないもんな」

 

 あるいは、そうやって努力を重ねるのもソラウの身体を奪った故か。自問しても答えは出ないことは理解している為、そこで思考を打ち切った。こうして思考のスイッチを簡単に切り替えることが出来るようになったのも、魔術の鍛錬による恩恵だろう。

 ともかく、努力を怠ることはできないし、しない。慢心が即、死に繋がるのはソラウの宿命と言っていい。故に、疲れた身体が脳へ向かって休みたいというコールを送っていることを無視しつつ――

 

「さあ、次は自主訓練ね。お父様とお兄様が家の工房は使うし、ここは私の研鑽する魔術には狭すぎるから――お庭の端を借りようかしら」

 

 ――少しだけ表出させていた俺の口調すら切り替えて。完璧に構築されたソラウの皮を被って、俺は可憐な少女らしく襟元をぱたぱたとさせながら蒸し暑い工房を後にした。

 やることは山積みで時間はなく、すべき事を成しても生き残れるかどうか定かでは無い。それでも全てに蓋をして、知らない筈のことには知らないふりをして、今日も一日魔性の美少女を演じる。

 

「それにしても……暑いわね。こんな服脱いじゃいたいわ」

 

 ともかく――ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリ。改め、俺。

 ソラウにして一回目、俺にして二回目の、九歳の夏であった。

 

 ソフィアリ邸は広い。それはもう西洋の豪邸として恥じない広さを誇っており、冬木の遠坂邸はおろかかの衛宮邸よりも広いだろう。その豪邸の廊下を歩く。大きさ・長さは一般的なものなのだろう――あくまで豪邸としてはだ――が、そこは俺、前世は六畳一間の安アパートに住んでいた経験から、こうして少女の身体となった今では余計に長く感じる。まだ幼女であった時分に、歩いても歩いても廊下の端が見えてこなかった時は遭難したかと思った程だ。

 

「これ、ソラウお嬢様。人目が無いからとあまり無防備にしていてはいけません」

「あら、爺や。失礼したわ、あなたの言う通りね」

 

 曲がり角を曲がった時、唐突に声を掛けられた。背後でドアの開いた音がした、おそらくそこから出てきたのだろう――声の主は、この数年で聞き慣れたものだ。

 

「結構。して、お嬢様はこんな所で何をされていらっしゃいます。確か本日のスケジュールですと、十三時までの旦那様との訓練が終わった後は十八時の淑女教育まで休憩となっていた筈ですが」

 

 声を掛けてきたのは老齢の男。年老いてはいるが身長は百八十を優に超え、白髪頭と同じ色の口髭を蓄えている。

 その男は、このソフィアリ邸の執事長。初めてその存在を知った時には驚いたものだが、良く良く考えれば『原作』のエーデルフェルトにも執事はいたし、アインツベルンにはメイドも沢山いる。だから恐らく、彼は存在こそしたものの語られなかった存在の一人なのだろう。最も、見上げる彼はエーデルフェルトやアインツベルンの従僕ほど強い訳ではないだろうが。

 

「休憩だからこそ、よ。私には休んでいる暇もない事はあなたも知っているでしょう? 魔術の訓練よ。そして、あなたはいつも丁度いいところに居るわね。今日はお庭の端で魔術を使うから、その所を他の従僕に伝えておいて頂戴」

「旦那様には了解を得ておられて?」

「お父様が私の訓練は私に一任していることは知っているでしょう。許可は無いけれど駄目とは言われないわよ」

「そうですか、それは申し訳ありませんでした」

 

 言って一歩下がり、恭しく頭を下げる執事長。その光景に、ふむ、と内心で頭を捻った。

 彼はこの家で働いて長く、俺が庭で訓練をする際に許可を取らない事など既に良く知っているはずだ。その証拠に、こうして許可を取ったかなどと聞かれたことは最初の数回を除いて存在しなかった。なのに今日、改めてそれを聞く。その行為の意味を、魔術の訓練で良く回るようになった頭で考え、結論を出した。

 

「成る程、そういう事。じゃあ――ねえ、そこに跪きなさい」

「……はい、お嬢様」

「流石、躊躇わないのね。良くできた従者よ、あなたは――」

 

 語りかけながら、膝を折った男の頭へ手を伸ばす。その高さは丁度、小柄な少女である俺の胸の位置。そんな白髪頭へ俺はゆっくりと手を伸ばし……その頭を胸の中に抱き込んだ。

 

「ねえ、聞くけれど。あなた、私に態々あんな質問をしたのは、私がお父様と会話できているか確かめる為よね?」

「……」

「ああ、いいのよ答えなくても。あなたは気が回る男だもの、二ヶ月に一度の今日くらいはお父様と訓練以外の言葉を交わせたか気になったのでしょう?」

「仰る通りでございます、お嬢様」

「ほら、当たった。でも残念、そんな時間は無かったわ。それはちょっと寂しかったけれど――でも、あなたが気を使ってくれたから平気になったわ。だから、これはご褒美よ」

「お、お嬢様――」

 

 ――スーパー美少女ソラウ四十八の秘儀の一つ、籠絡っ!

 ――どうだ、男ならこんな美少女になでなでされれば堪らんだろう!

 

 内心で技名を叫び、頭を抱き込んだままゆっくりと撫でてやる。正直に言って男の頭を抱くのなんて遠慮したい事案なのだが、いずれ美女として成長するソラウとして生きてゆく以上我慢せねばなるまい。そして俺が目指すべきソラウ像、それは原作のような女帝然としたものではなく――いや、女帝然としながらもあらゆる相手を惹きつけてやまないスーパー貴婦人。ならば、今のうちからこの世界の男のツボを把握し、そこを突く手練手管を磨かねばならんのだ。

 故に、これも訓練の一環。ほら、その甲斐あってこの堅物の執事長もメロメロに――

 

「――お嬢様、誰彼構わず魅了しようとするのは止めなさい」

「あ、あらっ?」

 

 ならなかった。

 彼は頭を胸の中から抜くと、すっくと立ち上がる。

 

「まったく、油断するとすぐに人を支配しようとなさる。その行為に、どれだけのメイドと執事が籠絡されたことか。旦那様がぼやいておりましたぞ、『ソラウはこの家の使用人をみな乗っ取るつもりか』とな」

「あ、あはは……。その、ゴメンね? 気に障ったなら謝るわ」

「怒ってなどおりませんよ。形はどうあれ、仕えているお方から賞賛を頂いたのです。喜びこそすれ、怒るなどとは」

「……むう、まだまだ魅力が足りないのかしらね。精進するわ」

「お戯れを、お嬢様」

 

 ぴしゃりと言い放つ執事長。そんな彼から一歩下がり、俺は歩き出しながら口を開く。決して形勢が悪くなったから逃亡する訳では無い。ただ、そろそろ訓練に向かわないといけないだけだ。

 俺の使う――使おうとしている魔術の訓練には時間がかかる、正確にはその理論の構築に多大な時間を要する。故に、さっさと切り上げるのだ。

 

「じゃあ、そういう訳で。淑女教育の先生がいらっしゃる一時間前には訓練を切り上げてシャワーを浴びる積もりだから、それくらいの時間に用意をしておいて。迎えは誰か女性のメイドに着替えを持たせて遣わせて頂戴」

「かしこまりました、お嬢様」

 

 それっきり、執事長へと背を向けて歩き始める。長い廊下を抜けて、目指す先は邸に備えられた広く優雅な庭園の隅。

 ソラウとして生まれ変わり、その能力を把握してから練りに練った魔術。そのレベルを上へ上へと押し上げるため、俺はただ歩き続けるのだった。




魔性の美少女ソラウちゃん。
魔術に関しては調べはしましたが知識があやふやなもので、間違っている点やおかしい点等あれば是非教えてください。あと降霊科で何やるとか。その都度訂正致します。

さあ、次回はソラウちゃんの魔術についてお披露目。転換ともう一つ、何を使うからわっかるっかなー。

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