めざめてソラウ   作:デミ作者

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もしかして:あけおめ

いやあ……終章、良かったですねえ。
ただアレを読んだ結果、ソラウちゃんinFGOの構想を練り直すことが決まりました。おのれおのれおのれ。

それはともかく、本編は一気に時間が飛びます。
ぐだぐだ引き伸ばしても本能寺、それより僕ははやくソラウちゃんにジャックとかエリちゃんとかエレナとかを夢幻召喚させたいんだよォン(えっち)


ソラウちゃんと運命

 ――『Fate/zero』。

 全ての原作であるStayNightの十年前の出来事である、第四次聖杯戦争を描いた前日譚。主要登場人物がほぼ全員死亡し、救いも殆ど存在しないと言った、これでもかと言わんばかりにキャラに優しくない作品だ。

 アニメ化もされたその作品において、先日発生した『大海魔戦』はちょうど聖杯戦争の折り返し地点にあった。キャスターの脱落から一気に戦争、人死にの速度が上がって行くという意味でも、また、アニメ的な意味では一期と二期の境目であるという意味でも。これがどういう意味かと言うと、聖杯戦争における『イベント』はまだまだ山盛りだ、と言うことだ。

 ケイネスもまた原作ではこの時期に死ぬことになる――つまり俺の死亡フラグもまた此処にある。それをどうにか乗り越えることは前提として、ケイネスを生かすのならば下手を打って原作より酷い結末にならないよう立ち回らなければならない。気を抜いている暇など無いはず。

 そう、そのはず、だったのだが――

 

「……ランサー。覚悟は出来たな」

「無論です主よ。このディルムッド・オディナ、如何なる処罰であろうとも――」

「――『主とその妻が素晴らしいところを伝えたかった』で余計なことを口にするんじゃあないこの忠犬めがッ!!」

「ごふッ!」

 

 ケイネスの水銀パンチ。急所(顔面)に当たった。効果はばつぐんだ。

 ――とまあ、山盛りのイベントも人死にもすっ飛ばして、我々はなんだかアットホームに過ごしていたりする。

 と言うのにも理由がある。あの日大海魔戦から帰宅したケイネスがいの一番に始めようとしたことは、駄サーヴァントぶりを存分に見せつけた忠犬ディル公への制裁ではなく引越しであった。さもありなん、最も目を付けられてはいけないような相手――つまり衛宮切嗣――に剣の宝具が増えた理由(最大級の爆弾)を知られてしまったのだから。

 別に俺としても、拠点を移すことに異論は無かった。無かったのだが、ケイネスが持ってきたいくつかの候補地の資料を目にして意見を百八十度反転させた。何故なら、それら資料に書かれた新拠点は、どれもこれも全て『廃倉庫』『廃工場』と言ったものだったからだ。

 原作において、ケイネス陣営の終焉の地はどこぞの廃倉庫だった筈だ。そんなところに拠点を構えるなど、殺して下さいと言っているようなもの。断じて認められる訳がない。

 故に、俺は必死で説得した。現在の拠点の利便さを説き、今敷設している魔術的防御の優秀さを褒めそやし、それを新たな拠点に敷設し直す際の労力と隙を訴え、新拠点に風呂が無いのは嫌だと駄々をこね、それでも渋るものだから戦争が終われば一緒に風呂にでもプールにでも遊園地にでも行ってやると懇願(誘惑)し、結局最後のそれが決め手となってケイネスの籠絡に成功した。まあ、戦術的に間違っているのなら遠慮なく指摘するようにと命令されていたディルムッドが黙っていたことから問題も無いだろうが。

 ともかく、これで死亡フラグの一つは回避した。しかし、そうなると次は衛宮切嗣の襲撃に備えなければならない。故に俺はこの数日を必死で過ごしたのだ。

 無防備になる数日の間、ケイネスとディルムッドに護衛を頼みながら魔法陣を敷き、祭壇を用意し、儀式の準備を整え、自らの魔術の効果を最大限に増す陣を完成させる。それを利用し、俺は一つの置換魔術を使用した。その魔術とは大規模な空間置換――即ち、プリヤに於いてエインズワースが自らの居城に行っていた()()、城を丸ごと覆い隠す魔術。

 流石に俺――ソラウ一人の魔術回路と魔力、そして適性ではエインズワース程の卓越した置換魔術を使用する事は出来ないし、城ほどの構造物を置換することも不可能だ。しかし、この間借りしている家一つ程度ならば条件さえ整えれば不可能ではない。今回はケイネスにも協力を仰ぎ、魔力炉の残骸から彼が造り出した触媒を経由することで発動を補助し、発動後は近場(市民会館)の霊脈から魔力を頂戴することで半永久的に発動し続けられるようにしてある。この辺りは流石ケイネスと言ったところだろうか、逆立ちしようと俺には真似出来そうにもない。

 ともかく、未遠川での一戦の後から数日は、このように慌ただしく過ぎていた。無駄口を叩いている暇はなく、俺も不眠不休で術式の敷設を行っていた。ケイネスとディルムッドのやりとりも、それらが一段絡着いた今だから行われたのだろう。

 ちなみにだが、大海魔戦直後にやって来た舞弥さんは完全に置換でやり過ごした。お隣の家に忍び込んで、置換で一時的に姿を置き換えることによって。急だったものだから、その家の大人はともかく一人の子供に見つかってしまったが。私は魔法使いなのだ、と何処ぞ(エミヤ)誰か(キリツグ)を真似て、二人だけの秘密という言葉をちらつかせて純真な子供を丸め込むことで事無きを得たが。

 ……正直なところ、舞弥さんとなら正面から戦ったとしても勝ち目はあっただろう。特に、この胸に忍ばせてあるクラスカード(ヘラクレス)を使えば。だが、俺はそれをしなかった。それは単にここで切るには惜しい切り札だという理由でもあり、おそらく英霊の自我と繋がりうるカードで夢幻召喚など試せないという理由でもある。

 しかし、やはり一番大きな理由は――この英霊相手に、ただ力だけを借り受けるなんて不誠実な真似をしたくない、なんてわがままだろう。

 いや、この英霊だけではない。俺は、クラスカードにし得る英霊達を知っている。キャラクターとしてではあるが、その願いや祈り、苦悩、絶望、力を得るために積み上げた研鑽、その全てを。

 だから俺は、クラスカードを使いたくない。まったく、生き延びる為なら何でもやると決意した筈だったのに。アインツベルン城でケイネスを庇ってからこっち、どうにもその決意が感情に流されて仕方がない。仕方がないが、もうどうにもならないだろう。だって――やっぱり俺は、大好きな彼ら彼女らをただ『使う』だけなんてしたくないのだから。

 頭を振り、意識を転換させる。どうやらケイネスの説教も佳境に入ったようだ。

 

「全くお前は、どうしてそうも微妙に残念なのだ! そもそもお前は生前からして妙なところで調子に乗る、敵を侮る、その結果として大猪に殺されたのだろう! 反省をせんか、反省を!」

「仰ること、正に……! 肝に銘じまする、主よ! ですがその、この『セイザ』という体勢は主の国のものでは無かった筈では? そしてこう、足が」

「そんな事はどうでも良い! 足がどうした足が! それが反省する態度か――」

「あの、ちょっとケイネス?」

「――む、ソラウか。今回はお疲れ様、迂闊なことをしたこいつには私が話をつけておくから安心してくれたまえ。で、どうしたのかね?」

「その、話を遮ってごめんなさい。けれど、ちょっと疲れちゃったから先に睡眠を摂らせて貰おうと思って……」

 

 欠伸と同時に伸びをし胸を強調させ、涙で目を潤ませて上目遣いのコンボ。この胸に懸けて勝利は約束されている。

 

「ああ、済まないねソラウ。気が回らなかったようだ。私には構わず、先に休んでくれ。……ああ、それとも先にバスタイムかい?」

「うーん……そうね、シャワーだけ浴びることにするわ。それから寝ます。ありがとうケイネス、それじゃ」

 

 挨拶をし、部屋を出て、シャワーを浴び、部屋に戻る。この身体となってから妙に長風呂をしてしまうようになっていたが、流石に今日はそんな気分ではなかった。それは、考えるべき事柄が一つ存在するから。

 個室、ベッドに倒れ込めば胸元に掛けたアミュレットがちゃりんと音を立てる。俺が置換と降霊で直々に作製した、()()()()()を封じ込めた特注の礼装。ある『たった一つの用途』以外には何の意味もないそれは、俺とケイネスだけが持っているものだ。尤も、彼にはただ単にお揃いの()()()としか説明してはいないが。

 そのアミュレットを手の中で弄びながら溜息をつく。今日は大海魔襲撃から数日後。そう、『数日経って』いるのだ。つまり、それがどういう事かと言うと――

 

「……『遠見(view_map)』、『置換』」

 

 ――原作での『イベント』が、恐らく進行しているという事だ。

 それを確かめるために、俺は今街に仕掛けている使い魔の一つの視界を手持ちの水晶玉に投影している。

 本来ならば、大海魔戦直後に発生するイベントは二つ。一つは俺――ソラウがアインツベルン陣営に拉致されるもの、もう一つはケイネスによる監督役殺害。しかし、このどちらもが今回は発生していない。前者は俺が身を隠したからであり、後者は言わずもがな『この』ケイネスがそんな事をする人物では無いからだ。

 それによって引き起こされるものは、後続のイベントの消失と遅延。ケイネス陣営が無惨に全滅するイベントは潰れ、おそらく言峰綺礼がその愉悦に目覚める切っ掛けが多少遅れるだろう。

 だが、多少だ。遅れはしても、言峰綺礼の覚醒自体は無くなりはしないだろう。だから俺はこうして使い魔を飛ばしている。目的は――遠坂時臣の生死確認。

 遠坂時臣に――あるいはこの戦争で死ぬ定めにある彼ら、彼女らに対して、俺がどうあるべきかは決めている。彼らを助けたくないと言えば嘘になる。しかし、助けられるかどうかはまた別問題なのだ。

 それは別に、原作を遵守する為だとかそういった理由ではない。勿論その気持ちは今でも持っているが、それはケイネスを生存させると踏み切った際にある意味吹っ切れた。

 ならば何が問題なのか。単純だ、遠坂時臣や言峰璃正、間桐雁夜やアイリスフィール、そして衛宮切嗣――彼ら彼女らを救うには、実力も立場も足りない。それだけだ。

 まず、俺がいくら原作知識を持っていようと、それを信じて貰えるかどうかは別問題だ。何せ俺は俺――ソラウに恋慕しているケイネスにすら顛末を隠している。これはそれだけ荒唐無稽で、俺の知るはずのない情報だからだ。

 また、次に問題となるのは彼らへの接触の仕方だ。彼らは誰もみな敵陣営、会話を交わすことすら難しい。第四次聖杯戦争は二週間前後で決着がついた筈だが、その二週間の間に全ての陣営と穏便に接触するなど不可能に等しいだろう。

 ならば、残るは力づく――即ち拉致するなり何なりでどこぞに縛り付けて死んだことにし、生かしたまま第五次を発生させるしか無いのだが、これは言わずもがなだろう。これを選んだ場合に俺が個人として相手取らなくてはならないサーヴァントがアルトリア、ランスロット、そしてギルガメッシュ。円卓二人は勿論だが、何よりギルガメッシュが鬼門だ。アレはまずい。

 客観的に見て、俺の所業はギルガメッシュの好むものと対極に位置するだろう。このソラウの、『女』という要素を利用した立ち回り。本人ですらない贋作。ザビーズやぐだーず、ウェイバーのように信念や意思を通している訳でもなく願いはただ『生きたい』というもの。こんな体たらくならば、ギルガメッシュの前に出た時点で良くて即死。運が悪ければ、陵辱ののち緩慢な死だろう。

 つまるところ、俺がソラウである限り彼らを生かすことは極めて難しいということだ。彼らを生かすのならば――そう。例えば、俺がソラウでなく禅城葵の身体でこの世界に堕ちていれば遠坂時臣を生かせただろうし、アイリスフィールになっていたならば衛宮切嗣を生かせただろう。あるいは、間桐桜になっていれば、間桐雁夜を生かせたかも知れない。

 始まった時点で八方塞がり。にも関わらずこうして使い魔を飛ばしているのは、遠坂時臣の生死の確認――即ち俺の実力不足が招いたことの結末を見なければならないという責任からであり、そして万が一彼がまだ生存していた場合はどうにか生かそうと足掻く為だ。

 

「……暗い、わね」

 

 使い魔の視点から、遠坂邸を俯瞰する。その屋敷に、灯りはない。人工的なものだけでなく、魔術的な灯りさえも。

 使い魔を降下させるも、結界の類に感知される様子はない。そのまま屋根へ着地し、窓から室内を覗き込む。

 果たしてそこに存在したものは、品の良い調度品が設えられた部屋の床一面に広がる血痕だけだった。

 

「……っ、次は、教会に」

 

 使い魔を離脱させつつ、教会へ向かわせていたものと視点を切り替える。今度は降下するまでもない。教会入り口から出てきたものはだらりと力無く担がれる遠坂葵と心の壊れた間桐雁夜、そして口元を愉悦に歪める言峰綺礼と、黄金の英雄――

 

『――雑種が』

 

 彼を視界に入れた瞬間、その紅い瞳が使い魔越しに俺を捉えた――そんな錯覚をした。蛇のようなあの瞳に睨まれた瞬間に、心臓が縮み上がり全身が強張る。背筋に無数の氷柱が捻じ込まれたようだ。

 これは確信だ。根拠など無いが、今の一瞬に満たない視線の交錯だけで彼は俺の全てを見抜いただろう。俺が何処の誰であるかではない。俺がどんな存在であるかを、だ。

 ならば、取るべき行動は決まっている。相手はあの英雄王だ。平伏し、この使い魔を直ちに自壊させ、その怒り(気紛れ)が此方へ向かないことを祈るしかない。

 あれは嵐だ。歯向かうことが烏滸がましい。生きたいのならば、やり過ごすしかない。逆らうなんて以ての外だ。

 あれは運命だ。ヒトにとって避けようのない裁定そのものだ。運命(Fate)に逆らうことの何と愚かなこと。

 さあ、さあ、さあ――頭を、頭を垂れろ。

 意識が働かない。何も考えられない。身体が、心が、そして意思までもが、全身に染み付いた生存への本能に突き動かされる。

 即ち、

 

「…………ッッ!!」

 

 ――睨み返す。

 英雄王への畏怖に充てられ、全身の自由を喪失し、詳らかにされた俺の魂は、睨み返すことを選択した。

 何のことはない。だって――俺は俺として生まれた瞬間に、運命に逆らうことを決めていたのだから。

 ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリは、どう足掻こうと第四次聖杯戦争にて死亡する。それが運命。それを覆すために、俺は生きてきた。

 たとえ死ぬ定めにあろうとも、俺の生き方は俺が決める。だから英雄王、俺はただ生きるために、生き抜くために、俺――ソラウとして生きよう。

 使い魔を自壊させることなく、ゆっくりと踵を返させる。

 その使い魔が破壊されることは、終ぞ無かった。




さーて本日のめざソラは?

ソラウちゃん、英雄王にあてられて唐突に覚醒(未遂)するの巻。
なお英雄王がソラウちゃんのことをザビーズやぐだーずめいて「見直したぜ雑種ゥ」となる展開はありません。ギルはそんなにチョロくないもん!

舞弥さんから逃げてテンパってるソラウちゃん「私ってば魔法使いなのだ」
隣の家の赤銅色の髪のショタ「マジで!」

あ、ちなみに雁おじはこの後綺礼に心臓グサーで殺されます。
このままだと消滅サーヴァントの数が足りなくて切嗣誘き寄せられないからね、仕方ないね。

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