めざめてソラウ   作:デミ作者

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更新は出来ない!エクステラも買えない!
ふざけるな!ふざけるな!馬鹿野郎!!


ソラウちゃん達と大海魔

 ――ふと、目を覚ます。

 薄ぼんやりと拓けた視界に映るものは、近代的な電灯と天井。明々とした光を返してくるそれは、明らかに電気仕掛けで動いているものだ。その電灯や天井を見る限り、どうやら俺の居る所は電気の通った屋内であり、俺の状態は今まで眠っていたのだと言うことが分かった。

 理解に次いで、身体を動かす――少し引き攣ったような感覚が走る以外は、概ね問題はない。天井へ向けていた視線を少し下へずらせば掛けられた毛布越しに、横たわって尚存在感を主張する豊かな双丘が目に入った。いやまあ、これもある意味では問題はない。

 

「ん……っ」

 

 身体に力を込めると、木の軋む音がする。どうやら俺が眠っていたのはベッドの上だったようだ。ちらりと視線を動かせば、床には淡く光る魔法陣。刻まれている魔術式から鑑みるに、どうやら治癒の魔術を施すものらしい。未だぼんやりとして上手く働かない頭では思い出せないが、俺は怪我でもしていたのだろうか。

 ともかく、まずは起きねば。誰が居るとも分からない、脳内で瞬時に淑女の仮面を被り『ソラウ』を演じる。演じながら、ゆっくりと身体を起こした。

 瞬間、身体から毛布が滑り落ちる。柔らかい布が肌を撫でる感触。それを疑問に思う間も無く、明らかに上質だと理解できるそれは腰まで落ちる。

 取り払われた布から露わになったのは――肌色。それも、服の裾から見えるちょっとしたものではない。一面の肌色が視界に広がる。

 ――つまり、俺……ソラウボディは全裸であった。

 

「へ……?」

 

 なんでさ。いや、なんでさ。

 急速に覚醒し出す思考を巡らせ、何があったかを思い返す。そうだ、今起きた眠りに落ちる前は、確かケイネスを切嗣から庇った形で傷を負っていた筈だ。あれは屋外での出来事だ、断じてその時俺が全裸だった訳ではない。ならば――

 

「ソラウっ! 目が覚め……た……」

 

 思考を纏め切る前に、ばたん、と大きな音を立てて人影が部屋に飛び込んでくる。見覚えのある金髪に碧眼、怜悧な顔。そう、みんな大好きケイネス先生だ。そのケイネスは、言いかけた言葉を急速に萎めてゆく。それと比例するように、顔が赤く染まってゆく。

 ――状況を整理しよう。部屋の中には俺とケイネス。俺はベッドに腰掛けた状態で、ケイネスはそんな俺を凝視し、口をばくぱくと開け閉めしている。いつもの青い上着は着ていないようだから、おそらく休息を取っていたのだろう。

 そして何より特筆すべきは、俺が全裸であり――俺の身体は胸の大きな、美少女と美女のいいとこ取りをした美しい女であるということだ。

 状況の整理は完了した。ソラウの仮面も被っている。ならば、この状況で取るべきアクションは決まっている。

 

 ――魔術回路、起動。

 ――『置換』発動、羞恥の感情を淑女の性格に適合。心臓の鼓動を早め、血流を操作し、顔に血を集め、頰を真っ赤に染める。

 ――『転換』発動、全身の魔力を操作し、右手の人差し指にありったけの魔力を集中、収束させる。

 ――淑女としてのアクション、参照完了。全身を縮こませ、脚は内股にし、腰までずり落ちた毛布を左手で胸元まで抱え込み身体を隠す。同時に目の前の男へ向けて魔力を収束させた人差し指を向け、息を大きく吸い込み、

 

「な、ソラ――」

「きゃぁぁぁあぁああぁぁああぁあっ!!??」

 

 ガンド、発射。

 指差すことで発動する北欧の呪いを起源にした、しかしただの呪いではなく物理的威力すら保有する『フィンの一撃』と呼称されるそれ。魔術師ソラウとして生まれ何度か使用してきたそれらよりも遥かに高性能、高威力となった漆黒の一撃が、俺の意思によって引き金を引かれ指先から飛び出し――

 

「――ウうっ!?」

 

 ケイネスの顎へ命中し、その身体を吹き飛ばした。

 

「……あ」

「どうしたのですか主よっ!」

 

 轟音を立てて壁にめり込み崩れ落ちるケイネスに、どたどたと階段を駆け上がってくるディルムッド。お前霊体化してなかったのかよ、というツッコミはさて置き、崩折れたケイネスと毛布で身体を隠した様子の俺を見てディルムッドはきちんと何かを察したようだ。視線を伏せ、俺――ソラウの身体が視界に入らないようにしつつドアをゆっくりと閉める。

 その様子を見送ってから、俺は漸く毛布を手放した。はらりと床に落ちるそれを見遣りつつ、ゆっくりと立ち上がる。ちらりと見た床の魔法陣からは、やはり光が失われている。この魔法陣を張ったのは、ケイネスで間違いなかったようだ。ごめんよケイネス、でも今のはキャラ的に必要なんだ。

 

 ……ま、俺的には別に男に裸見られても平気なんだけどな。

 

 万が一にでも扉の向こうのディルムッドに聞こえてはいけない、心の中で呟きつつドレッサーと、併設された鏡の前へ。元の身体に比べればバランスの可笑しなこの身体にももう馴染んだものだ、などと妙な感慨を抱きつつ、取り出した下着を慣れた手つきで身につけてゆく。

 気を失う直前まで着ていた原作通りの服の代わりは勿論用意してあるが、それだけだと言うのも存外味気ないものだ。よって、ワンポイントアレンジを加える。その為に消費したある服は、元々のソラウの服とは全くの別デザインだ――と言っても、別段馴染みのないものではなかったりする。

 

「……ふむ。これも中々悪くは無いわね」

 

 組み合わせた礼装服は、端的に言ってGrandOrderの『魔術協会制服』……の、上着部分。それをソラウのイメージカラーである菫色を基調として染め直したものだ。ちなみに、何故髪と同じ赤にしなかったかと言うと『赤い上着』というフレーズを危険視した為。何か妙なフラグが立ちそうな予感がした為だったりする。

 ともかく、その上着を羽織って鏡の前でくるりと一回転。どこも可笑しい所が無いことを確認すれば、部屋の中に二人を呼び込んだ。

 

「……その、だな。さ、さっきは済まなかった、ソラウ。淑女の部屋に入る際の気遣いが足りなかったというか、その」

「確かに少しデリカシーに欠けていたわね、ケイネス。……けれど、気を失った私の介抱をしてくれたのはあなたでしょう? それに、私もガンドを撃ち込んじゃったし。だから、この話はこれまで。ね?」

「……う、うむ」

 

 久し振りの美少女四十八奥義の『ソラウスマイル』と『ソラウ首傾げ』、ついでに『ソラウ人差し指をぴんと突き出して相手の口を抑える』を組み合わせることでケイネスを封殺。そのままの流れで気絶していた頃の事を聞き出した。

 その話によると、きちんと原作通りに『王の宴』イベントは発生したようだ――訂正、発生こそしたが、少しばかり原作通りではなかったようだ。何故なら、そこにケイネスとディルムッドがお邪魔していたようなのだから。なんでも、イスカンダルとウェイバーちゃんが強引にそれぞれを誘ったらしい。まあ、この世界での関係ならばさもありなんと言ったところか。

 ともかく、王の軍勢は原作通りに恙無く展開され、アサシンは脱落。ディルムッドはメンタルをやられたセイバーのことが気になっているようで、次会う機会があれば励ましたいとのこと。

 あ、そうそう。やはり切嗣はケイネスの殺害を企んでいたようだ。ようだ、と言うのはそれが未遂に終わったことを指す。なんでも、警戒を続けるディルムッドを見たイスカンダルが「無粋なことをするのならば先ずはその輩から蹂躙する」と宣言したようだ。流石の切嗣も二騎、下手をすれば三騎のサーヴァントに狙われることは避けたかったと言うことだろう。というか、そんなもの誰だってそうだ。

 ともかく、運命はきちんと始まり(ゼロ)に向かって進行しているようだ。この調子なら、切嗣陣営による急な暗殺にさえ気を付けておけば心配は無いだろう――多分。

 ならば今後についてだが……その前に一つ聞いておかねばならないことがある。その内容とは、

 

「……そうだ、ケイネス。あなたを庇った後、私はどれくらい眠っていたのかしら?」

「どのくらい、か。そうだな、君は――」

 

 ――瞬間、背筋に途轍もない怖気が走った。

 先の動揺も抜け始めたケイネスもまた同様に、穏やかに緩めていた表情をきつく変化させる。ディルムッドに至っては窓から外を覗き、槍を顕現させ警戒している。

 勿論、俺はこれが何かを知っている。アニメ版Fate/zeroにおいて第一期のラストを飾った、青髭ジルとの決戦。つまり、大海魔イベントだ。

 全てを知っている以上、別段驚くことはない。しかし、遠くに出現したであろう大海魔から流れてくる魔力は醜悪かつ異形、そして強大なもの。ならば、怯えるふりをしなければなるまい。自らの身体を抱き、身を縮ませる。腕の中で胸がやわらかく変形する感覚がわりと心地よい。

 

「……これは」

「ね、ねえケイネス。これって、多分かなり不味いものよ」

「ああ、分かっているともソラウ。落ち着いて、心配しなくて良い。――ディルムッド」

「はっ、主よ」

「この醜悪な魔力の元を探しに行くぞ。お前は私と共に来い。――ソラウ、君はここで待っていてくれるかな」

 

 怯えたふりをする俺を宥めつつ、ディルムッドを従え、ケイネスが立つ。彼は机の上に置いてあった俺謹製の魔除けアミュレットを首から掛けると、椅子に掛けてあった青い外套に袖を通す。通しながら、彼は俺に『待っているように』と言った。

 俺としては願ったり叶ったりだ。まだ身体が治りきっていない今、外にも出たくない。おまけに大海魔戦には切嗣まで出張ってくるのだ、気を抜いたら一撃で狙撃など洒落にならない。此処は引っ込み、影から使い魔を操って切嗣からケイネスを守る方が良いだろう。

 とは言っても、何も言わずにそのまま引き下がっては駄目だ。キャラ的に。なので、俺はあえて声を張り上げる。

 

「……嫌よ。ケイネス、あなたあの城で戦った時も死に掛けていたでしょう!? そんなところを見せられて、私だけまた待機だなんて――っ」

 

 掴みかかるモーションを維持しつつ、足が縺れたふりをする。狙い澄ましたかのようにケイネスに倒れ込み、狙い澄ました通りに支えられる。同時に胸を思い切り押し付けてやれば、(バス)ターブレイブチェインの完成だ。

 

「……ソラウ。君はまだ病み上がりで万全ではない。傷も表面こそ塞がったが、まだ引き攣るように痛む筈だ。そんな状態の君を、戦場になど連れて行ける筈がない」

「……なら、あの衛宮切嗣にだけは注意すると約束して。あの彼の事だから、罠や狙撃を仕掛けてくる可能性が高いわ」

「分かっているとも。だから、君は安心して待っていてくれたまえ」

「……分かったわ。けど、使い魔だけは飛ばさせて貰うわよ」

 

 頷き、踵を返し部屋を後にするケイネスと、その背に追従するディルムッド。二人が部屋から完全に退出し、宿としているこの家からも離れた頃合いを見計らって、俺は背中からベッドに飛び込んだ。眼下でたわわに揺れる胸の隙間から水晶玉や白紙のクラスカードを引っ張り出しつつ、俺は安堵の溜息を吐いた。

 

「いやー、どうなることかと思ったけど原作通りに進んでるようで何より。大海魔戦じゃ特に原作崩壊に繋がるイベントなんか無い筈だし、ちょっとの間は安心できるかな」

 

 ベッドの上で大きく伸びをし、うつ伏せに体勢を変える。ふにょんと押し潰される胸をクッションにしつつ、魔術回路を起動させた。『置換』の魔術式の一部を使用し、監視の魔術の類があるかどうかを解析。問題ない事を把握した上で、更に部屋内部を透視出来ないように結界を張る。諸々の準備が済めば、そこで漸くクラスカードの作製に取り掛かれるのだ。

 

「……ん、完成っと。慣れたこともあるけど、理論がしっかりしてればこれだけ楽に作製出来るのか……まあ、触媒は必須だけどさ」

 

 ディルムッドをサンプルとした理論はやはり完璧だ。これで魔術式に不備が無ければ、英霊の人格部分だけを排したクラスカードが完成している筈。それはエインズワースの物よりも更に有用になっている筈だ。

 

「さーて、後は機を見計らって使い魔を作って見に行くだけで――ん? なーんか忘れてるような、嫌な予感が……?」

 

 いや、別段やらかした事は無い筈だ。とは言っても、妙に心配になってしまったのも事実。急いで適当な鳥エネミー型の使い魔を作製し、大海魔戦の戦場となっている未遠川へ向けて飛ばす。使い魔の視界を水晶玉に接続し、擬似空の旅を満喫すること数分。

 

「え――」

 

 俺が目にしたものは、縦横無尽に()()()()、手に持った()()()()を存分に振るい、大海魔の足をばっさばっさと斬り落とすディルムッドの姿だった。

 あの()()()()には見覚えがある――というか、俺がディルムッドに与えたと言っても過言ではないもの。

 FGO五章のコマーシャルでディルムッドが構えていたそれは、クラスカードを付与することでディルムッドが得たもので……詳細な効果を俺が把握していない一振り。

 即ち、大なる激情(モラルタ)と呼称されるそれ。下手をすれば対軍宝具だったりするかも知れない、未知なる宝具。

 

「――なんでさぁぁあっ!?」

 

 ……間違いなく、やらかしていた。




モラルタは対人宝具です。簡単に言うと壊れる可能性のある剣ランスのアロンダイトです。

ソラウネキってショートカットなのと目を細めて満面のスマイルしないからキツそうに見えてるだけで、ちょっと印象変えれば超キュートになると思うんじゃがどうかね。

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