めざめてソラウ   作:デミ作者

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聖杯戦争本編をガンガン巻いていく執筆スタイル。


ソラウちゃんと聖杯戦争

 潮風に乗って、鉄と鉄がぶつかり合う音が響く。それは人知を超えた速度で重なり合い、また離れ合い、夜の闇に無数の火花を散らす。やはりと言うべきか、その超高速の剣戟を肉眼で捉えることは不可能だった。辛うじて、周囲のコンテナの前で何かがブレて動いていると把握出来るのみ。どうでもいいが、個人的には此処は倉庫街ではなくコンテナ置き場と呼んだ方がしっくりくるのだが。

 ともかく、ここは冬木港の倉庫街。Fate/zeroにおいて初めてサーヴァント同士の戦闘が行われた記念すべき場所であり、また、現在超常の存在が鎬を削っている場所である。

 その超常の存在とは、勿論ランサー(ディルムッド)セイバー(アルトリア)に他ならない。セイバーは不可視の剣を、ディルムッドは()()をそれぞれ振るっている。

 そう、二槍。セイバー(剣ディル)を夢幻召喚させたにも関わらず、彼は剣でなく槍だけを振るっている。その理由は簡単、切り札を秘匿する為だ。

 俺の――ソラウの施した夢幻召喚により、ディルムッドは己の二剣を獲得した。しかし、それはディルムッドが二重召喚のスキルを獲得した訳でもなければクラスが変わったという訳でも無く、ステータスに正式に宝具が加えられた訳でもない。人間が――例えば俺がディルムッドのクラスカードを夢幻召喚しようとサーヴァントになり得ず、サーヴァントとしてのステータスを得る事もなく、俺のステータスに宝具が加えられる訳が無いのと同じように、側から見ればディルムッドは何の変哲も無いランサーであり、彼の宝具は二つ――破魔の赤薔薇と必滅の黄薔薇だけなのだ。

 つまり、ただ宝具を使えるようになっただけ。このメリットを活用しようと考えたのはケイネスだった。彼の発案により、ディルムッドは剣の宝具の使用をギリギリまで粘ることにしたらしい。その辺の話し合いは男二人で終わらせたらしいが、まあ俺の策が上手く嵌るならどうしてくれても構わない。あまりにも不味い方向へ転ぶのならば、俺が手助けをするし。

 

「――ほら、見たまえソラウ。ランサーの奴は、あれで十全に戦っているようではないか。敵は最優のセイバー、ステータスも尋常でなく高いと来たが……中々どうして期待を超えてくれる」

「……後は正直に己の願いさえ話せば、かしら?」

「ああ、その通りだよ。……と言っても、少し考えを改めつつあるがね」

「あら。どういうことかしら、説明して頂けるかしら?」

 

 俺の言葉に、ケイネスは笑みを浮かべて構わないよ、と言う。積み上げられたコンテナの上から使い魔を飛ばし、高みから地を見下ろすその瞳には、恐らく自らの僕であるディルムッドが映っているのだろう。あるいは、その有用さか利用方法が。

 

「あの男はね、私や君とは思考の在り方が違うのだよ。例えるならば、魔術師と一般人との違いに近いだろうか。私の物事を考える尺度とあの男の尺度とが異なるのだから、魔術師として理解しようとしても無理な話だと言う訳さ」

「成る程ね。確かに根本的な物の考え方があなたと彼で違うと言うのは納得したわ。で、どうするのかしら? 問題は貴方と彼の考え方が違うという点ではなくて、彼が聖杯にかける願いが分からないこと――もっと端的に言えば、彼の願いのために裏切られる心配が拭えないという点だわ」

「……その点についてだがね。あの男には確たる願いが無いのではないかと私は推測した。尤も、これは奴が私達にはよく分からない思考方法を採用しているという前提に立った話だが。奴は聖杯を欲したのではなく、聖杯戦争に参加することが目的だったのではないか、という推論だよ」

「……なるほど。ある点に於いてはケイネス、貴方と同じ思考をしていると言いたいのね?」

「その通りだ。私も聖杯を求めてはいるが、真に欲するのは武名を轟かせ自らに箔を付けることだ。万能の願望機を不要とは言わないが、これが単なる決闘だったとしても構わないという訳さ。同じように、ランサーもまた似た理由なのだろう。ただ戦いたいだけか、それとも自らの力がどれ程のものかを試したいのかは知らんが、ね」

「ええ、納得したわケイネス。けれど、それが本当なら厄介よね。実力試しがしたいと願っていたのなら、最悪負けても構わないってことじゃない」

「それに関しても、今は彼奴の言葉を信じるしか無いだろうね――おっと。そろそろ手の内を晒させる時のようだ」

 

 そう言うと、ケイネスは己の喉に手を当てて話し出す。魔術によって声を拡散し、自らの位置を敵に悟らせまいとする――原作通りの行動。宝具の開帳を許す、と言ったその言葉の後に起こったことは、概ね原作通りと言って良いだろう。

 ディルムッドが黄薔薇を地面へと落とし、アルトリアが鎧を取っ払い突撃し、その隙を突いて左腕の腱を斬る。そこへイスカンダルが乱入し、声を挙げ、ギルガメッシュが姿を現し――そこからランスロットが撤退するまでは、ほとんど原作通りに事が運んだ。違いは、ケイネスがウェイバーを詰らなかったことと、ディルムッドをアルトリアへ嗾けなかったことだ。

 いや、実際には嗾けようとした。しかし、ディルムッドからの抗議を受けたケイネスはその言葉を翻したのだ。「そこまで言うのならば見せてみろ、お前の騎士道とやらを」という言葉で以って。

 結局二対一の構図になったランスロットが撤退する形となったが、それに戸惑ったのは俺である。ケイネスの性格も穏やかになったとはいえ、ここまでの変貌を遂げるだろうか? せいぜい相手に理解を示そうとする位だと思っていた、というかケイネスがそれ以上にディルムッドに歩み寄る筈が――。

 そこまで考えて、はたと気づいた。

 そもそもケイネス、俺……つまりソラウが寝取られてない以上、ディルムッドに敵愾心を抱く理由が無いじゃんと。

 そう、ケイネスは基本的に理知的で理性的だ。それは原作に於いても変わりなく、自分の意に沿わない事が発生するかソラウ関連の何かかが発生するか以外では冷静なのだ。原作でそれなのだから、俺によって精神面の価値観を大幅に改善された挙句ソラウも寝取られていないとあっては、ディルムッドの持つ騎士の矜持に一定の理解を示したとしても不思議ではない。

 しかしまあ、これが大した誤差でなくて良かった。動揺する感情を無理やり冷静に『転換』し、落ち着いたところでケイネスに話しかける――横を見る。そこに彼は居なかった。

 

「……は?」

 

 嫌な汗がつうっと胸元に垂れる。慌てて使い魔と感覚を共有すれば、案の定と言うべきか嫌な予感が当たったと言うべきか、ちょうどケイネスが戦場の側のコンテナの上に姿を現わすところだった。

 

「お初にお目にかかる、征服王、騎士王、そしてアインツベルンのマスターよ。私はケイネス・エルメロイ・アーチボルト、そこなランサーのマスターだ」

「主!? どうして此処へ……!」

「なに、本来ならば私は後ろで引っ込んでいる予定だったがな。ほら、そこに居るだろう――そうだ、征服王の戦車に乗っている若者だよ。……いやはや、ウェイバー君。まさか私の用意した触媒を盗み出したのは君だったとはね。よくぞやってくれた、と()()しておこうか」

 

 胸を張り、鷹揚に両手を広げて語り出すケイネス。ディルムッドはそれに疑問の視線を向けている――俺も同じ気持ちだぞ、ディルムッド。

 

「ふむ。それで、そのランサーのマスターがこの場に何の用だ? どうやらこの坊主と因縁があるようだが」

「ああ、その通りだ征服王。そのウェイバー君は、私の時計塔での教え子でね。少し挨拶にでも、と伺った次第だ。――それで、ウェイバー君」

「ひ……ッ」

 

 ケイネスの言葉に、ウェイバーちゃんが怯える。ウェイバーちゃん最萌え。ではなく、彼も多少はマシになったとはいえまだまだケイネスへは畏れを抱いている。同じぐらいの尊敬も抱いていた筈だが、どうやら今はそれが罪悪感と威圧感に呑み込まれてしまっているようだった。

 視線を向けられ、更に縮こまるウェイバー。原作とは大分流れが違うが、多分この後イスカンダルからのデコピンが飛んでくるんだろう。そう予想していた俺は、更に予想を裏切られることとなった。

 

「そう怯える必要もない、ウェイバー君。今此処に限っては、私と君とは対等なのだからな」

「……へ?」

「何を不思議そうな顔をしているんだねウェイバー・ベルベット。私と君は互いに聖杯戦争に参加したマスター同士だろう。これ以前、そしてこれ以後にどのような立場の差があろうと、こと今、戦いの場においてはそんなものは関係の無い話だ」

「……な、先生」

「加えて、君は私からイスカンダル召喚の触媒をくすねてみせた。多少は運もあっただろうが、このロード・エルメロイに向かってそのような謀を成し遂げられる者がどれだけ居るものか。そして、その覚悟も。実を言うとだね、教鞭を執ってはいたものの、私を超えようと反抗する者など今まで居なかったのだよ――君を除いては、だが。故に賞賛し認めよう、ウェイバー・ベルベット。魔術の才こそ未熟だが、君は私に並びうる覚悟を持った男だと」

 

 ――なんでさ。

 いや、なんでさ。思わず、久しく使って居ない言葉が漏れた。多少は性格矯正をしたとはいえ、まさかケイネスが此処まで男前になるなんて思っては居なかった。アルトリアもディルムッドも、果てはイスカンダルまで満足そうにうんうん頷いてるし。あれか、これが騎士の矜持ってやつか。ディルムッドに毒されたのか。そうこうしている内に、話はどんどんと転がって行く。

 

「そして……征服王イスカンダル。これより競い合う相手にこんな事を頼むのも可笑しな話だと自覚はしているがね。どうか、ウェイバー君を頼んだ。彼は魔術の才こそ無く、それ以外も今でこそ未熟だが、成長すればいずれ化けるであろう逸材だ。だから――」

「ふん、抜かすではないか。だが……よい。女の身であるにも関わらず戦場に立つそこなセイバーのマスターに比べれば、表にも出てこない臆病者。そう思っていたが、中々どうして剛毅なタチではないか。細っこいが、度胸もある。どうだ、貴様は元々余を召喚する予定だったと言う。ならば我が軍門に下る気は無いか?」

「有難い誘いだがね、征服王。私は既にランサーの主だ。臣下が私に忠を尽くすと言っているにも関わらず、その主が先に白旗を掲げることなど有りはしないだろう? それよりも、君が我々に敗北した際のことを考えるといい。ウェイバー君と共に我が元へ降るのならば、喜んで迎えよう」

「ほう! 言うのう、ランサーのマスターよ。成る程、まこと貴様のような騎士に相応しい主ではないかランサー」

 

 ケイネスとイスカンダル、それにディルムッドとアルトリアが笑い合う。笑っていないのは何か決意を固めたような顔をしているウェイバーと、何が起こっているのかとおろおろしているアイリスフィールだけだ。うん、その気持ちは分かる。急に現れた天才がいきなり益荒男と意気投合し出したら誰だって動揺する。

 だが、動揺ばかりしても居られないというもの。忘れてはならないのが、この場には彼の衛宮切嗣が居るのだ。そして、その卑劣必勝ハズバンドがこの場面において狙撃銃を構えていることも、俺は知っている。

 故に、俺の仕事はその狙撃から姿を曝したケイネスを守ることだ。せっかく策を考えていると言うのに、こんな所で()()()()()()()のだ。その為に、先程から使い魔を飛ばし、立ち位置を変え、切嗣だけを注視し続けている。元々切嗣はケイネスを捕捉していた筈だ、俺の動きも読まれているだろうが構わない――むしろ良い。俺の気苦労なんて知らぬとばかりに談笑している彼らが解散するまで俺がプレッシャーを掛け続け、ヘイトを此方へ集められるのだから。

 

「――ここまでか。そろそろ帰還するよ、舞弥」

 

 何分か、何十分か。切嗣とその助手の動向に気を払いながらも発動していた空間置換により、切嗣のその言葉を拾う。示し合わせたように撤退してゆく主従と、再戦の約束をして解散するサーヴァントとマスター達。その顔は、どれも明るい。

 やっと終わったか、とコンテナの上に腰を下ろす。ふぅ、と大きく息を吐くと同時に、服の胸元を引っ張り中に涼しい風を送り込んだ。疲れる、なんてレベルではない。相手がサーヴァントでないとは言っても、相対した敵は衛宮切嗣……戦闘者。その相手に気を張り続けるのが、これほど疲労する物だとは思ってもみなかった。

 

「……まあ、今のうちに体験出来て良かったと思うべきかな。はー、それにしても暑っつい。気合い入れて編んだ礼装だけど、快適さに関してはもうちょっと改造するか」

 

 纏っている服は、ソラウ本来の服を元にFate/Grand Orderのマスター礼装である時計塔制服のデザインを加えたようなもの。本当は礼装『英雄風采 三英傑』でぐだ子の着ていたアレ――髪の装飾と尻尾は抜くが――を再現でもしてやろうかと思い、服自体としては完成させてはいたが、礼装へと改造するには時間が足りなかった。

 

「……まあ、いいさ。こっちに持ってきてるし、聖杯戦争さえ終わらせれば時間は取れるはずなんだから」

 

 言いながら、コンテナから飛び降りる。勿論、周囲に誰もいないことは確認済みだ。それでも警戒を切らさないように注意しながら、俺は先程まで戦闘の繰り広げられていた広場へ辿り着いた。

 目的のものは、直ぐそこにあった。ひび割れたコンクリートのそば、地面に撒き散らされた真っ赤なそれ。鉄臭いそれを胸元から引き摺り出した器具で採取し、特殊な加工を施した試験管へ封入する。

 消失する兆候は見られない。それを確認して、俺は安堵の溜息を吐いた。

 

――アルトリアの血液(触媒)、ゲットだぜ!




主人公以外が原作をぶっ壊していくスタイル。

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