めざめてソラウ   作:デミ作者

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またまた時間が飛んで半年後ぐらいですかね。

以前に感想で頂いていた路地裏ナイトメアを購入して読みました。脳汁がやばい。
オルガマリーちゃんの扱い、どうしましょうかね。まあ、そもそもFGO編まで行くかどうかという問題があるのですが。


ソラウちゃんとケイネス先生

 ――魔術回路(application)起動(access)

 

 心中で呟いたマジックワード(俺だけの呪文)が、身体中の神経を反転させる。スイッチの入った魔術回路が回り出し、取り込む空気から魔力を身体の隅々まで充填させた。

 

「……調子が良いわ。これなら、あなたの眼鏡にも適いそうね?」

 

 魔術回路の具合は上々。それどころか、魔力を取り込んだ身体の調子まで上向きになっている。天体科の施術――デミ・サーヴァントを生み出すための実験の雛形――を受けてから半年ほど、ずっと好調が続いているのだ。というか、俺……ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリのあらゆるレベルが底上げされたと言うべきか。

 何にせよ、俺にとっては予想外の幸運だったと言わざるを得ない。クラスカードと併用してデミ・サーヴァント化する、あるいはそれが叶わなくとも降霊術を十全に扱えるようになるだけだと踏んでいたものが、まさかこんな結果を齎すことになるとは。

 

「――魔力、運用(add_mgi)

 

 唇を動かす。凛としたソラウの声が漏れる。その言葉に導かれるように、全身に満ちていた魔力が一気に弾け、一気にそのカタチを変えてゆく。無形にして無貌、世界を流れるだけだった魔力が、確かな方向性と理を与えられる。

 魔力の塊を外殻に。翼に、嘴にと指向させてゆく。

 魔力の流れを血流に、筋に、腱にと変化させてゆく。

 ただの魔力に、完成系の情報を詰め込んで行く。

 

「――転換、併用」

 

 それを、一気に眼前の宝石へ押し込んだ。

 瞬間、宝石がぎちぎちと音を立てて変貌してゆく。艶やかな表面は盛り上がり、生物のようなフォルムを形作ってゆく。カットされ、磨かれた輝きはそのままに、それは楕円の球形から掌サイズの鳥……首が長く、翼は無機質、尾は長い、見るものが見ればEXTRAの鳥型エネミーだと判断できるであろうカタチへと成った。

 使い魔の作成。これは数多存在する魔術の中でも『高位かつ基礎』の位置に値する。自らの分身として生み出す使い魔は高位、限定的な条件下で使用する道具として生み出す使い魔は基礎。広く魔術師と言われている連中ならば、それがどのようなレベルであろうと、基礎に分類される使い魔を作成できないということは殆どない。逆に言えば、基礎の使い魔すら満足に作成できないのならばさっさと廃業すべきだろう。

 だが、その基礎の使い魔と言えど数を用意するとなると話が違ってくる。構造は単純ながらそれを複数個用意できるだけの魔力と魔術回路の質、そして同じ作業を延々と繰り返してなお低下しない集中力と演算能力とが必要となる。無論、その製作する使い魔が高度なものになればなるほどに負担が大きくなるのは言わずもがなだ。

 基本でありながら、その者の実力が問われる魔術。それが『道具としての使い魔の作製』という魔術なのだ。

 ――故に、

 

「完成系、保持――魔術回路、起動維持。置換魔術、情報の盗抜を開始」

 

 故に、眼前数メートルの距離で腕を組み此方を俯瞰する人間に腕を見せつけるには、使い魔作製は打って付けと言えた。

 

「――物質情報(material)読込(read)

 

 完成させたエネミー型の使い魔に置換魔術が浸透してゆく。自ら作製したものだけあって、魔術の通りが余物よりも段違いに高い。その高さを利用して、数瞬前に押し込んだ情報の全てをコピーしてゆく。

 読み取るべきは創造理念、基本骨子、構成材質、製作技術、成長経験、そして蓄積年月。ある未来の英霊が語った『投影六拍』、それをなぞるように情報を読み込んでゆく。

 無論、俺にエミヤシロウ(かれら)のような規格外の投影など出来るはずもない。故に、本来ならばこの投影六拍を踏む必要は無い筈だ。だが――今の俺にとっては、少し違う。

 

「――読込完了(complete)

 

 置換魔術による置き換えを行う場合、まずはその置き換えるべき物の情報を読み込み、その後に上書きする形で置き換える。俺の置換魔術はそのプロセスを応用したものだが、ついこの間まではその『読み込み』の過程を深く掘り下げていなかった。当然だ、そこは元々『置換魔術』における構成要素の一つでしかない。その上で精度を高めようと思えば、後は魔力と集中力を無理やり注ぎ込むしかないと考えていたからだ。

 だが、それは覆された。目の前で俺を眺める人間によって。無論、直接的に投影六拍を踏まえろと言われた訳ではない。ただ、そのプロセスに『解析魔術』的なアプローチを加えてみればどうかとアドバイスされただけ。そして、俺はそのアドバイスを取り入れた。自身の内に眠るかつて一型月厨だった頃の知識を引っ張り出し、魔術に触れる上でその言葉が正しく意味するところを理解できるようになった頭で、投影六拍を以って置換に臨んだ。

 その結果が――

 

「――読込情報(readmaterial)並列上書(mulch-install)……!」

 

 左手に握った物質情報が、足元の魔法陣を通じて幾重にも分かれ、様々な物質に流れ込んで行く。それら支流の先にあるものは、あるものは拳大の粗悪な宝石であり、あるものは金や銀、鉄といった金属であり、またあるものは身の丈程もある巨大な石だった。

 それら全てが、画一に上書きされてゆく。大きさは元の物質に準拠しながらも形状は全く同一に。そしてその機能も、本来ならば純度の高い宝石を素材としなければ実現され得ない高性能……つまり、元となった宝石製のエネミー型使い魔と全く同一に。

 

「……上書き、完了。占めて使い魔十五と一体、素材は違えど全て基本と同じ性能を有した攻性使い魔よ」

 

 下位互換と同位互換しか成し得ないはずの置換を用いた、『下位物質で以って上位物質と同じ性能を発揮させる』魔術――擬似的な上位互換が、ここに完成された。

 

「――やはり君は素晴らしいよ、ミス・ソフィアリ。使い魔の完成度は勿論、これだけの数を瞬く間に用意するその手際と能力。それに何より、純度の高い宝石に劣る金属や石くれですら高性能の使い魔としてしまえる発想と才能。きみのお父上と兄上同様、素晴らしい血と才能の為せる技だろうな」

「あら、そんなに褒めてくれるなんて。嬉しいわ。けれど、並列上書が可能になるまでの理論と情報の圧縮については、あなたのアドバイスと魔術式が無ければ到底辿り着けなかったもの。感謝してるわ――アーチボルト先生?」

 

 そう言うと、眼前の彼――誰あろう『ケイネス・エルメロイ・アーチボルト』は、頬を染めてそっぽを向いた。そのまま手袋を嵌めた手で頬を掻いている。普段は常に上から目線の自信家がこんな表情をするなんて、珍しいことだと照れる彼の正面に回り込み、伝家の宝刀ソラウスマイルをぶつけてやる。更に顔を赤くする彼に、俺は暖かい感情を――

 

 ――抱くわけがないッ!

 ――もう一度言う、抱く、わけが、ないッ!

 

 当たり前だ。身体はソラウでも心は男。ソラウの身体でもう十年弱過ごし、第二次性徴すら迎えつつあると言っても心は硝子――ではなく、ずっと変わらずに男なのだ。ここを違える気は更々無いし、そもそも原作知識を魂に刻み込んだ時から俺の精神性は男として固定されている。『転換』の応用でソラウ……というか淑女として相応しい仮面を被り淑女として振る舞っても、仮面の下は男なのだから男に対してどうこうと言った感情を抱くことはないのだ。ウェイバーちゃんみたいな小動物系は多分除くけれど。

 

「けど、邪険には出来ないんだよなぁ……」

「ふむ、何か言ったかね? 質問や疑問にならば何時でも答えるが」

「ああ、違うのよ。こうまで上手く行ったなら、この前あなたが言っていた『多重夢幻召喚(multiple-install)』も実用段階に持っていけるかと思ったのよ」

多重上書(multiple-install)か。異なる幾つかの情報を複合させつつ一つの殻に押し込む魔術。君からその構想の雛形を聞いた際には耳を疑ったが、成る程確かに可能かも知れないね」

「……セーフかな」

 

 最近膨らんできた胸を撫で下ろしながら、聞こえないように小声でつぶやく。

 そう、俺はこのケイネスを邪険に扱うことは出来ない。それは彼が原作においてソラウの婚約者であったことも理由であるし、現在ソフィアリの家とアーチボルト家との橋渡しを俺が行っていることが理由でもあるし、ついでに言えば父が原作と同じように俺とケイネスを婚約者として成立させてしまおうと動いていることも理由である。

 だが、それらは全て二の次だ。俺が彼を邪険に出来ない理由、それは彼がぐうの音も出ないほどに『天才』であるからだ。

 ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。原作でも散々に天才だ神童だと持て囃されていた彼は、実際に天才だった。いや、そんな表現では足りない。こと魔術に関することであれば、確かに当代随一と言えるほどの才能と血統を、彼は有していた。彼の才能の前では俺――ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリですら、精々前座が良いところだろう。我が兄、我が父であろうとそれは変わり無い筈だ。それ程に、彼は卓越していた。

 その才能が、俺には惜しい。現に俺が永年行き詰っていた転換・置換に関する問題も、彼の視点とアドバイスによって瞬く間に解決したのだ。彼の頭脳の協力を得ることが出来れば、様々な礼装の解体で得た魔術式を身体に馴染ませることも、デミ・サーヴァントの雛形となったこの身を更に英霊に適合するように調整することも、なんだって出来るだろう。

 同時に、彼の才能を知るにつれて、原作での性格も成る程と納得できたものだ。何せ、競う相手がいない。競う相手がいないのだから、全てが自分の思う通りになる。結果として、原作のような性格になると言うわけだ。

 最も、俺自身はケイネスの性格について悪い印象を持っている訳ではない。むしろキャラとしてはzeroでも割と好きだったくらいだ。傲慢であるのも生まれからすれば仕方なく、むしろそれでも外道では無いだけ根はまとも。

 そう、ケイネス先生は実は、性格は捻じ曲がってるけど性根はまともだったんだよ――問題は、その性格が元で彼のみならず俺まで死ぬ運命であることだが。

 故に、俺はこれを課題とした。ケイネス・エルメロイ・アーチボルトの性格を大幅に変えないままに、俺が死なない方向へ持って行く性格とする。言い換えれば、気位が高くプライドに満ち、魔術師らしい魔術師という性格をそのままに血統の無い者にも一定の理解を示し、他者に優しく自らに厳しい性格へと矯正する。その為に用いるのは、無論俺、ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリの身体。

 俺のスマイルやおねだり、甘えや要望。ソラウ式美少女四十八奥義を駆使し、その上で魔術研鑽においても特性を活かして張り合うことで他者に対しての冷徹さのレベルを下げ、血統の浅い者(ウェイバーちゃん)に対しての寛容さを上昇させる。

 この一大プロジェクトは、俺が初めてケイネスと接触した時にスタートさせた。その時から会話の全てに気を使い、一緒に魔術の訓練をするようになってからは更に直接的に色々と働きかけた。その結果が、

 

「いやはや、我がエルメロイ教室にもソラウ、君ほどに才ある魔術師がいたらどれだけ良かったものか。物分かりの悪い者ばかりで、教鞭を摂る立場からしても困ってしまうよ」

「あら、そんなこと言って良いのかしら? あなたに師事している人達を、そう邪険に扱っては駄目よ。あなたに特別扱いして貰えるのは嬉しいけれど、それでもね」

「……う、む。君の言う通りだ、ミス・ソフィアリ。今のは私の失言だな。それに、よくよく考えれば見所のある生徒も居るにはいる。努力で血統の積み重ね全てを覆せるとは言わないが、せめて彼等が代を重ねる際に残せる物が多くなるように尽力してやろうと思うよ」

 

 これである。矯正の成果出すぎである。やっぱり美少女の力って偉大なんだね――という冗談は置いておいて、この矯正の成功によって俺が生き延びる可能性はぐんと広がった。

 要するに、このケイネス先生が俺を戦争に連れて行こうとするかどうかである。あるいは、連れて行ったとしても危なくなったら引き返すという選択肢を選べる性格でさえあれば良いのだ。その点で言えば、今の彼は合格に近い。

 

「……あら、意外。そんなにあっさり認めるのね」

「君と一緒にいると、考えさせられることが多いものでね。良い意味で刺激的なんだよ。そのお陰さ」

「ふぅん……。まあ、私は今のあなたの方が好きよ?」

 

 ソラウワードをぶつけてやれば、一気に赤面するケイネス。そこだけは変わらないなあ、と奇妙な安心感を抱きつつ、俺は更なる生存への道を模索する。他に手を打っておきたいことは、魔術の研鑽とコネ作り。聖杯戦争で敵対することになるであろう人物とのコネが作れれば御の字だが、そうは行かない手合いも多数存在する。

 未だ生存が確定されないとはいえ、一歩ずつ進んでいることも事実。いざとなれば父に泣きつくしか無いかなあ、などと思考しつつ、俺はこの天才と一緒に暫しの魔術訓練を行うのだった。




プリヤイベント始まることだし、何故かまたロリ化してプリヤ世界に吹っ飛ばされたソラウちゃんがプリヤ本編未登場のクラスカードを使って謎の中立魔法少女をやりつつイリヤちゃんやミユやクロとか後は凛とかルヴィアとかを籠絡する話を

書きません。

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