今回は第五話です。
それでは、お楽しみ下さい。
「んー、ふわぁ……」
目が覚めると、眠る前と同じ天井が視界に入った。知らない天井だ、とは言えなかったけど、まあいいか。
ところで、さっきからお腹にやたら重みがあるんだけど……。と、まだ重い頭を上げて、自分の腹部を確認する。
「にゃあ」
……猫がいるんですがどういう事なんでしょうか。赤いリボンをつけた黒猫が俺の上でゴロゴロと喉を鳴らしていた。いつの間に乗ったんだろう……というか、どこから入ってきたんだ?
「えーっと……地味に重いんだけど……」
って何で猫に話しかけてるんだ俺。仕方なく下に降ろそうかと思ったら、その猫は、素早く自分で降りていった。何か話が通じてるみたいで面白いな。
そう思った瞬間、目の前の猫が女の子になった。……いや、本当に言葉通りに。
「女の子に対して『重い』とは、喧嘩売ってんのかい?」
「あー……えっと、化け猫……?」
「何か色々と失礼だね。あたいは火焔猫燐。さとり様のペットの一人だよ」
「ペットって、ああ、空と同じか、びっくりした……」
どうやら本当に話が通じていたらしい。猫の状態になったりも出来るなんて、すごいな。
「人間が来たってさとり様が言っていたから来てみれば……」
「いやあ、ごめん。まだ幻想郷には来たばかりだからさ。こういう事に慣れてなくて」
と、そう言いながら頭を撫でてみると、すぐに機嫌が良くなった。……やっぱり猫なのか。
「そういえば、汗をかいたからシャワーを浴びたいんだけど、お風呂の場所教えてくれる?」
「ああ、それならこっちだよ」
お燐こと、火焔猫燐に案内してもらう。幻想郷の夏は暑いな。地底だから余計なのかも。これは八月になったらさらに大変な事になりそうだ。
「うちのとは別に近くに温泉があるから、時間があったら入りに行ってもいいかもね」
「へぇ、温泉か。いいね、今度入りに行ってくるよ」
雑談を交わしながら歩いていると、目的の場所に着いた。
「お風呂はここね。じゃああたいは仕事に戻るから」
「ああ、ありがとう」
お燐にお礼を言ってからお風呂場に入る。
……うわ、お風呂場って言ってたけど、かなりの広さだな。そこらの銭湯に匹敵しそうだ。改めてすごいな、地霊殿って。なんと言うか、これに慣れたら普通のお風呂が狭く感じそうだ。
* * *
「はー、すっきりした」
一通りシャワーを浴びてからお風呂を出る。お風呂上がり特有の体がすーっとする感じが心地よくて好きだ。
……さて、どうするかな。自分の部屋に戻ってもいいけど……折角だしちょっと探索してみるか。
なんとなく地霊殿をブラブラする。……最初も思ったけど、動物が多いな。見ると、あちこちに様々な動物がいる。犬や猫などの一般的なものから、ワニや名前の分からないようなものまで、種類は動物園以上だ。
同時に庭には様々な植物が植えてあり、なんだか心が癒される。ああ、良い所だなあ。地底とは思えないよこれは。
ズラリと並んでいる扉を見ていくと、他とは違う大きな扉があった。扉を開けて部屋を見てみると、大きなテーブルに椅子が並べられている。その上には皿や蝋燭などが置いてあった。映画に出てきそうだ。おまけにどこからか料理のいい匂いもしてくる。……何かお腹空いてきたな。
そんな事を考えていると、後ろからさとりに声を掛けられた。
「もう少ししたら晩御飯ができると思うので、待っていて下さいね」
「ああ、もうそんな時間か」
思ったよりも長く寝てたみたいだ。まあ、お陰で疲れはとれたから良かった。
「そういえば、さとりって料理とかするの?」
「出来なくはないですけど、基本は人型のペット達が行っていますね」
「そうなんだ。是非食べてみたいな、さとりの手料理」
「そう思いますか? ……そうですね、機会があれば作ってみます」
なんとなく、さとりは外見というか雰囲気的に料理ができそうに見えるな。あくまでもイメージだけど。作ってくれる日を楽しみにするとしよう。
と、そんな会話をしていると、俺達の所にこいしがやって来た。
「お姉ちゃん、ご飯まだー?」
「もう少しでできるって」
そう答えると、俺の所にトテトテとやって来て、服の裾を引っ張りながら言った。
「じゃあご飯ができるまで部屋で待ってない?」
「ああ、良いけど……」
こいしが俺の手をとって、前に進む。おお、なんか柔らかい。女の子の手って感じだな。それに引っ張られながら部屋に戻った。その時のさとりは、どこか深妙な表情をしていた気がする。
* * *
「じゃーんけーん、ぽん! あ、やった!」
こいしが出したのはグーで、俺が出したのはチョキ。あはは、ジャンケンに勝っただけで、そんなにはしゃげるってすごいな。
「こいしは、いつも何をして遊んでるの?」
「ん……お姉ちゃんは忙しいから、一人で外に行ったり、私のペット達と遊んだり……かな?」
「へえ、こいしにもペットがいるんだ。今度見に行ってもいい?」
そんな事を話しながら二人で遊んでいると、突然部屋の扉が開いた。どうやら空みたいだ。ノックしてくれるとありがたいんだけどな。
「碧翔、さとり様がご飯出来たって言ってたよ。食べに行こう?」
「ああ、それじゃ、行くか」
「うん、お腹空いたー」
三人でさっきの部屋に向かう。こいしと手を繋いでいたら、何故か空も反対の手を握ってきた。こういうのを両手に花って言うんだろうか。二人とも容姿端麗だしな……。俺じゃ釣り合わなさそうだ。
三十分程前にも見た大きな扉を開けると、そこには美味しそうな料理の数々が並んでいた。結構な品数だぞこれ。俺の心を読んだのか、先に部屋に居たさとりが言った。
「今日は碧翔が来た初日なので、少しだけですが、品数を増やしてみました」
「へぇ、ありがとう。どれも美味しそうだよ」
さとりの向かい側の席に俺も座る。その隣にこいしがちょこんと座った。周りを見ると、俺達以外にも空やお燐、その他諸々のペット達が居る。人数はそれほど多くないけど、中々賑やかだな。
皆が集まったのを確認してから、こいしが言った。
「それじゃあ、いただきます!」
皆もそれぞれの料理を食べ始める。なんか良いな、こういうの。料理も美味しいし、本当に楽しい。今更だけど、妖怪も人間も食べるものは基本同じなんだな。
皆でしばらくご飯を食べていると、こいしが近くにあった唐揚げを箸を使って俺に差し出して来た。
「はい、あーん」
おお、何気にこういうの初めてかも。……いや、一回だけ風邪をひいたときに妹がこうしてくれたことあったっけ。かなり前だし、もうあんまり覚えてないけど。
こいしが差し出した唐揚げを、一口で食べる。
「どう?」
「うん、美味しいよ、ありがとう」
中々ジューシーで美味しいな。お店とかのとは違って、味付けも濃すぎず丁度いい。今度作り方を教えて貰おうかな。
もう一度、辺りを見回す。周りには、今日知り合ったばかりのさとりにこいし、ペット達が居た。本当にここに居るんだよな、俺は。なんだかまだ実感が湧かないけど、俺はこれから本当にこの世界で、この地底で暮らすんだ。そのうち地上を見て回ったりしてもいいかもしれないな。
これからの幻想郷ライフを楽しみにしながら、俺は唐揚げをもう一つ頬張った。
いかがでしたか?
キャラ的にこいしの登場回数が多くなってますね。
次回も日曜日に投稿予定です。よろしくお願いします。