夕方ってどう挨拶したらいいんだろうと思う今日この頃。
今回は第三話です。
それでは、お楽しみ下さい。
上を見れば青い空。下を見れば立ち並ぶ木々。前を見ると黒い帽子。全体的にとんでもなく不安定。さて、この状況は何でしょう?
……一人で何考えてるんだろ俺。あ、正解は、魔理沙の後ろで箒にまたがって空を飛んでいるところ、でした。
地底への穴がある妖怪の山は徒歩だととても時間がかかるという事で、魔理沙の箒に乗せてもらって、こいしと一緒に移動している訳なんだけど……。さっきも言ったように、本当に不安定。
「ね、ねぇ、これ危なくない?」
「私は今まで落ちたことないし、大丈夫だぜ」
「……それ、魔理沙がおかしいってことは?」
やばい。遊園地のアトラクションの百倍怖い。というか遊園地は安全だけど、これは落ちたら人生終わるし、もしかたら今までで一番の窮地に陥ってるかも。
魔理沙にしがみつくのもあれなので、箒の柄を必死に掴んでいると、遠くから何かが猛スピードで飛んでくるのが見えた。よくよく見ると、人の形をしてて、羽が生えてて……待って何あれ。
近くなるにつれ、だんだんと姿が見えてくる。白い服に黒いスカート、首から下げたカメラに、手には扇のような
「あやや、誰かと思えば魔理沙さんとこいしさんじゃないですか」
「ああ、射命丸か。何してるんだ?」
「今は取材に行く途中なのですが……そちらの方は?」
「ああ、お、俺は真剣碧翔。さっき幻想入りしたばかりの人間……っと、危なっ」
箒が不安定過ぎて会話するのも一苦労。それにしても中々丁寧な感じの人……もとい、妖怪だな。
「ほうほう、外来人ですか。私は清く正しい射命丸。『文々。新聞』の取材記者をしています。ううむ……折角の外来人、是非取材したいところですが、今日はこれから仕事があるんですよね……と、いうことで!」
彼女は一度勢いをつけて言葉を切ると、
「後日、お伺い致します!」
取材自体は諦めないのか。喋った勢いのまま、前傾姿勢になる。
「今日は急いでいるので、また! 文々。新聞をごひいきにー!」
そう言うと、またさっきの物凄いスピードで去って行った。……言葉を返す暇も無かったんだけど。何かすごい人だな、色んな意味で。
「お兄ちゃん、魔理沙、早く行こうよー」
「そうだな。よし碧翔、行くか」
こいしに呼ばれ、魔理沙が前進しようとする。
「えちょっと待って心の準備がぎゃああぁぁぁ!」
……この箒は絶対慣れない。
* * *
「ついたよー!」
ようやく目的地に辿り着いたようだ。下を見ると、物凄い大きさの穴が山の一部に空いていた。底が見えない位に深くて暗い。これは箒とは別の意味で怖いな。
「じゃあ降りてくぜー」
魔理沙が下降を始めるとともに、徐々に辺りが闇に包まれていく。下を見つめると、あまりの暗さに体吸い込まれるような錯覚に陥る。というかさっきから結構降りてるはずなのに全く終わりが見えない。
五分だけだったか、三十分経ったかも分からないけど、下を覗くとやっと明かりが見えてきた。ようやく地面に着地する。
ああ、やっと立てた。やっぱり地面はいいね。I love ground。
「こっちだよ!」
地面に降り立つなり元気よく進んでいくこいしをしばらく追いかけていると、川に架かった橋が見えてきた。そこには、手すりの部分に寄り掛かって退屈そうにしている女の子がいる。
こちらに気付くと、特に何の素振りも見せることなく、視線だけを向けた。
金髪に特徴のある尖った耳。一般的にエルフ耳って呼ばれるやつだ。どちらかと言うと古い感じの服を着ているが、紐で装飾が施されている辺り、女の子らしさを引き立てている感じがする。
透き通った翠の瞳が、なんだか全てを見据えている気がした。
「そんなにジロジロ見ないでくれる? 全く妬ましい」
「ああ、ごめん。俺は真剣碧翔っていうんだ。外来人って呼ばれてるかな」
「……水橋パルスィよ。……それで、こんなところに何の用なの?」
一つ溜息を吐くと、名前だけを簡潔に言った。なんだか無愛想な感じだけど、特に嫌な印象は受けない。不思議な人……じゃないじゃない、妖怪だな。
「お兄ちゃんはね、今日から地霊殿に住むんだよ!」
「……はぁ?」
パルスィがよく分からないような視線で俺を見る。あー……間違ってはいないけど、少し語弊があるな。来る前にも言った通り、今回は様子見を兼ねて挨拶に来たっていう
と、なんだかすごい疑惑の視線を送ってくるパルスィさん。一体どんな意味が込められているんだろうか。
「いや、とりあえずは様子を見に来ただけだから、住むとは決まってないぜ」
「ああ、うん。まだ決まった訳じゃないからさ」
パルスィの視線にデジャヴを感じながらも、魔理沙に合わせて返す。
「はあ、妬ましいわ……というか、そもそも何でそんな話になったのよ」
「よく分からないが、こいしが提案してたぜ?」
さっきから『妬ましい』を何回も言っているが、口癖なんだろうか……と、魔理沙に聞いたら、彼女は嫉妬心を操る能力を持っていて、橋姫という妖怪らしい。……なんでもありだな幻想郷。
「早くいこうよー」
こいしが急かしている。何をそんなに急いでいるのか分からないが、時間的にもそろそろ行かないといけないな。
「ああ、行くよ。それじゃあ、また今度……」
「……私も行くわ」
「え?」
「私もついて行くわよ。案内してあげる。……暇だし」
……最後に本音が見えた気がするけど、来てくれるならありがたい。よく分からないけど、なんとなく頼もしい感じがするし。
彼女は奥の方に向くと、地霊殿への道を歩き始めた。
* * *
パルスィの案内のもと、地霊殿に向かう。最初は民家がちらほらあるだけで全体的に寂しかったが、しばらく歩くと段々と活気のある店が並び始めた。まあ、明らかに人じゃないようなのばっかりいるけど。
「ところで、地霊殿ってどんな所なの?」
「地底の一番奥にある、でっかい屋敷だぜ」
へぇ、そこに古明地姉妹が住んでるのか。屋敷って言っても、日本じゃ実際に見ることはほとんどないからな。なんと言うか、異世界感が漂うな。
しばらく歩いていると、近くの店から怒鳴り声のようなものが聞こえてきた。
「また勇儀ね。全く、何でいつもああなのかしら」
「勇儀?」
見ると、体格のいい女の人と、反対に体の小さい人が喧嘩していた。二人とも頭から角が生えていて……ああ完全に鬼ですね分かります。
と、二人がこちらに気付いたようだ。
「あ、パルスィじゃねえか! なぁ聞いてくれよ、またこいつがさ……」
「先に喧嘩吹っ掛けてきたのはあんたの方じゃないか!」
うわ、なんと言うか色々凄いなあ。言ったらいけないんだろうけど、少し苦手なタイプの人かもしれない。というか、ここにいたらまずいような気がしてきた。
今のうちに逃げようかと思ったが、案の定声を掛けられる。
「お、誰だいそいつ。というか魔理沙もいるじゃないか」
「えーと……俺は真剣碧翔、外来人だよ」
「今から地霊殿に向かう所だぜ」
「地霊殿に?」
何か皆驚くんだけど。そんなに凄いのか地霊殿って。
「私は伊吹萃香。物好きだねぇ、あんた」
「ああ……なんかそれよく言われるよ」
「私は星熊勇儀だ、よろしくな。そうだ、今から一緒に酒を飲まないか? 折角だし、親睦を深めようじゃないか」
ああ、中々に豪快な人だな。というか酒って、俺まだ未成年なんだけど。幻想郷にそういう法律とかってないのか。色々と危ない。
「あー、いや、俺は遠慮しておくよ」
「えぇ? いいじゃないか」
なんだか色々言っているが、パルスィが止めてくれた。ありがたい、着いてきてもらって良かったな。
「じゃあもう行くから。あんた達も程々にしときなさいよ」
パルスィの先導のもと、また俺達は進んでいった。
なんか色々な意味で凄いな地底。いや、凄いな幻想郷。
魔理沙やこいし、パルスィ達と雑談をしながらしばらく歩いていると、とても大きな建物が見えてきた。
「あそこだよー!」
こいしが前に向かって指を指す。大きいな……あの建物が地霊殿か。大きさといい外装といい、海外にしかないような建物だ。いや、屋敷って時点でそうか。
正面の門を開けて進むこいしに続き、俺達は地霊殿の中に入っていった。
いかがでしたか?
次回はやっとさとりが登場します!
ヒロインが四話で初登場ってどうなんだろう。
話の構成を変えた方が良かったかもしれません。
次回もよろしくお願いします。