東方読心録   作:Suiren3272

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第三十話 ~嫉妬姫と外来人~ Side:P

 

「――碧翔? 知らねーな、聞いたこともねえ」

「やっぱそうか……助かったよ、ありがとな」

 

 数時間前……地底の旧都にて、私と勇儀、ヤマメの三人は、道行く人に聞き込みを行っていた。

「なあパルスィ、やっぱ地底にはいないんじゃないか?」

「もう、うるさいわよ。私達の担当はここなんだから、黙って続けなさい。この質問三回目よ?」

「二人とも怖いなあ。喧嘩するほど仲がいいってやつ?」

 

 とは言っても、かれこれ二時間近く経つものの、未だ情報はゼロだった。手がかりが無いというのもあるが、そもそも碧翔のことを知らない人がほとんどだ。過去に新聞が出ていたから、少しくらいは情報があるかと思ったけど……地底に天狗の新聞は普及していないらしい。

「顔写真の一つでもあれば、見かけたかどうかくらいは分かんのになあ。持ってないのかよ?」

「あればとっくに出してるわ。写真自体は何枚か撮ってるらしいけど、碧翔本人が持ってるって」

「おーい、碧翔ー! いないのかー? 出てきて写真渡してくれー!」

「いや、出てきたら顔写真必要ないよね」

 

 結局手がかりは得られず、時間だけが過ぎていく。

 それにしても、本当に世話の焼ける……。あいつはなんというか、妖怪と馴れ合いすぎている気がする。私のような妖怪に好きで話しかけてくる人間はあいつくらいだろうし……地底に迷い込んだ奴は別として、会って声をかけてくるのは勇儀やヤマメ、萃香くらいだ。友好的というか無知というか。……本当、妬ましい。

 

「手がかりも見つからないし、なんだかねー。ね、パルっち?」

「……それ、私のこと言ってるの?」

「あ、ぱるちーの方が良かった?」

 ……屋台経営してる夜雀じゃあるまいし。

 

 しばらく歩くと、通りの一角にある小さな建物が見えてくる。申し訳程度に吊るされた提灯が入り口を照らしているが、全体的にかなり薄暗い。扉から漏れ出る光を見ると、中はそれなりに活気がありそうだ。

「着いたぞ。ここで聞いて情報無かったら一旦戻るか」

「何ここ? 酒場?」

「私行きつけの穴場だ。ほとんど常連しかいないから、一見さんは入りにくいかもしれないが」

 

 そう言いながら入り口の扉を開ける。ガラガラと音を立てながら開いた先には、賑やかに酒を楽しむ妖怪達がいた。

「お、勇儀さん!」

「おう、元気してるか?」

 何人かが集まり、勇儀と会話をしている間、私は店内を一通り見回す。ヤマメはまた別の席で話をしているようだ。私もさっさと聞き込み始めるか。

 私は店の端の方、一人で酒を飲んでいる人の所に行った。

 

「ちょっと話いい? 人間を探してるんだけど」

 その男は持っていたグラスの酒を飲み干すと、私の方を見る。

「……あ? あいにく人間の知り合いはいねーんだ。分かったらさっさと……。っ!」

 その男は私を見たかと思うと、驚いたように立ち上がる。……と、こいつは……。

 

「てめえ! 俺を吹っ飛ばしたあの女じゃねえか!」

「あんた……碧翔に襲いかかった奴ね」

 その男の顔には見覚えがあった。少し前に、碧翔に恨みを持って路地裏で襲いかかった奴だ。こんなところにいたのか。

「今回の話……まさかあんたが主犯じゃないでしょうね?」

「ああ? 知らねえよ、なんの話だ……!」

 

 と、私達の間に勇儀が立つ。

「二人とも落ち着けよ。冷静に話さないと意味のある会話はできないぞ?」

「……は、妬ましい。あんたに言われたくないわ」

 とりあえず近くの席へと座り、話を聞く。いつの間にかヤマメもこちらに来ていた。

 

「……で、なんの話だよ。俺ァ何もした覚えねーぞ」

「あんたが襲いかかった人間、いたでしょ。アイツが行方不明になったのよ。あんた何か知らない?」

「……さっきも言ったが、ここ最近人間とは関わっちゃいねえよ。……第一、俺だって反省してんだ」

 それを聞いた勇儀が笑って言う。

「はは、私が締め上げたしな。骨の無い奴だったよ」

「うるせえよ。……ともかく、無駄なことに固執するのはやめにした。人間がどう暮らそうが、俺には関係ねえ……って、今なら思えるしな」

「ああ……そういやお前、家族もいるんだったか?」

 勇儀を無視すると、その男はグラスを持って立ち上がる。

 言っていることが本当かは分からないが、確かにこいつが犯人の可能性は低そうだ。第一、今回のことを起こせるくらいの力を、こいつは持っていない。関係していないとみなして構わないだろう。

 

「……協力ありがと。助かったわ」

「はっ……まあ今更だが……迷惑かけたのは悪かったよ」

 そう言うと、その男は店を出ていった。

 はぁ……結局情報はゼロか。まあ得られなかったものはしょうがない。もうしばらくで霊夢たちも帰ってくるだろうし、そろそろ地霊殿に戻るか。

 

「じゃあ地霊殿に戻ろー」

 ヤマメが先行して店を出ていく。私たちもその後に続いた。

 

* * *

 

「――ま、妬ましくもそんな感じだったわ」

「なるほどなー。私達も似たようなもんだったぜ」

 紫が外の世界へ行っている間、皆で詳しい聞き込みの結果を報告し合っていた。……まあ、報告と言っても、聞き込みの過程を伝えあっているだけなんだけれど。

 

「私と霊夢は、霊夢の取り決め通り太陽の畑に向かったぜ。知っての通り、成果は無かったけどな」

「というかあの妖怪凶暴すぎるのよ。危うく魔理沙を盾にしなくちゃいけないところだったわ」

「おいおい、そりゃないぜ」

 地上のことを考えると、私はまだ地底で良かったってことか。まあ、結局碧翔は外の世界にいると分かったんだし……とりあえず落ち着けるといいんだけど。

 

『おーい、パルスィ!』

『パルスィには頼ってばかりで悪いんだけど、お願いできないかな』

『パルスィは凄いね』

 

 ……碧翔は、帰ってくるだろうか。碧翔がどうなろうが、私には関係ない……はずなんだけど。

 

『それじゃ、行くわよ』

『……あんたの怪我を治療しに、よ』

『はあ、全く。今回だけよ』

 

 ……はあ。

 

「……ほんと、妬ましいわ……」

 

 あのスキマ妖怪に任せるのはどことなく不安だけど……今は待つしかないか。

 私は一つ息を吐いて、見えない空を見上げようと、大きく上を向いた。




最近PCを買ったんですけど、座りっぱなしのせいで首が痛い。猫背で姿勢が悪いので、多分それが原因ですね。


──羽間蒼月(はざまあつき)─────
碧翔の中学からの友人。名字は作中には出てきてませんが、一応設定は前からありました。現実にいたら「おお」ってなる名前ですね。いや、そんなこと言ったら碧翔もそうか。その他オリジナルキャラと同じく外見設定はありませんが、私的に目付きが悪そうなイメージ。あと、碧翔とは反対にスポーツ寄りな感じです。

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