東方読心録   作:Suiren3272

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バレンタイン、いかがお過ごしでしたか?
もちろん私はサッパリですが、貰える人ってすごいというか、羨ましいというか……。とりあえず尊敬します。
とまあ、そんな訳でバレンタイン特別編です。久しぶりにダラダラした日常を書いた気がしますが、やっぱりこっちの方が書いてて楽しいですね。シリアスは難しいんじゃー。
というわけで、どうぞ。


バレンタイン特別編 ~ぷれぜんと・ふぉー・ゆー~

「チョコレート……ですか?」

「そ。私たちで作って、碧翔にプレゼントしようと思って」

 二月十四日。今日は、外の世界ではバレンタインデーと呼ばれる日なのだそうだ。特に外の世界から来た碧翔は馴染み深いだろうということで、ヤマメの提案で、私たちが作ったチョコレートを碧翔に渡すことになった。

 

「いいね、面白そう! お兄ちゃん喜んでくれるかな?」

「心を込めて作れば、きっと喜んでもらえるよ。……と、いうことで、パルスィも一緒に作ろうか」

「なんで私まで……」

 ヤマメに誘われて、パルスィも一緒に作ることになったらしい。……嫌がっているように見えるが、内心は意外と乗り気なようだ。

 

「材料は昨日買っておいたんだ。ほら」

 ヤマメが持っていた袋から中身を取り出す。基本となる溶かす用のチョコレートや、デコレーション用のチョコスプレー、できたチョコレートを入れるための小さな袋など、必要なものは大体用意されていた。

「無駄に種類多いわね……妬ましいわ」

「でしょ? こういうの作るのって楽しいよねー。私はチョコレート苦手なんだけど」

 どうやら作る方専門らしい。ヤマメが全部出費したのだろうか……と、そこの疑問は置いておくとして。

 と、こいしがふと思い出したように言った。

 

「そういえば、お兄ちゃんは今どこにいるの?」

「碧翔はお燐と一緒にペット達の世話をしてもらっています」

「作るなら今ってことだね。早速始めようか」

 各自早速準備に取り掛かる。それぞれ担当の道具を用意していく中、私は先ほどのヤマメの袋から基本となる板チョコを取り出した。湯煎で溶かすつもりなので、とりあえず鍋にお湯を沸かす。

 あまり作業が長引くと、碧翔がこの部屋に来るかもしれない。別にサプライズという訳ではないが、折角作るのだから喜んでもらいたいし、今碧翔に見つかるのはあまり……。

 

 ……と。

 

「……!」

「ん、お姉ちゃん、どうしたの?」

「あ、えっと……碧翔がこの部屋に向かって来てるみたいなんですけど……」

「ええっ!」

 

 と、皆も同じ考えだったらしく、急いで道具をしまい始めた。

 わ、私はどうしよう……鍋はお湯を沸かしているだけだから多分大丈夫だけど……あ、机の上に出ているチョコレートを隠さないと!

 

 

「さとり、いる?」

「は、はい! なんですか?」

 私は急いでチョコレートを机の下に隠すと、立ち上がった。

 

「小鳥用の餌が無くなったから、倉庫の鍵を借りたいんだけど……って、あれ、皆も来てたんだ」

「う、うん! それよりもさとり、倉庫の鍵、渡したら?」

「そうですね!」

 どこかぎこちないやり取りだが、碧翔に鍵を渡そうと下のチョコレートを気にしつつ、ポケットをまさぐる。……が、その中身は空だ。

 どこに置いたっけ……そういえば昨日、自室に置いたきり触っていないような。

 

「あ……私の部屋にあると思うので、見てきてもらえますか? 鍵はかかってませんから」

「そっか。でも、勝手に入っちゃっていいの?」

「はい。その辺りは信用してるので」

 部屋の場所も知っているはずだし、碧翔なら大丈夫だろう。

 

「……ヘタレとも言えるけどね」

 と、ヤマメがボソッと呟いた。

 

* * *

 

「はぁ〜、お兄ちゃん、やっと行ったね」

「そうだねー。さ、早く作っちゃお」

 というわけで、早めに作業を進めるとしよう。

 

 チョコレートは、細かく砕いて湯煎する。水が入らないように注意しつつ、ヘラを使って混ぜ、溶けたら型に移して固めるだけだ。……が、その前にテンパリングという作業を行う。固める前に一度チョコレートの温度を二十五度まで落とすのだ。そうすることによって、チョコレートにツヤが出て、風味も良くなる。

 さて、テンパリングが終わったら、もう一度お湯に入れて温める。今度こそ固めていくのだが、恐らくここの工程で皆のアイデアが炸裂するだろう。良い意味でも悪い意味でも。

 現に、ヤマメは既によからぬ事を考えているようだ。

 

「……ヤマメ」

「あ、さとりはどんなの作るの? 私はね――」

「激辛チョコでサプライズ……なんて考えは捨ててくださいね?」

「……はい」

 固まった笑顔でそう答えた。

 

「うぅ……激辛チョコ、面白いと思うんだけどな……パルスィはどんなの作るの?」

「……あんたには関係ないでしょ」

「わあ、みんな辛辣だあ……」

 辛辣というか、パルスィの場合は照れ隠しに近いと思うけれど。

 

 と、型やトッピングの方も用意し終えたようだ。さて、こっちのチョコレートも温め終わったし、これもあっちに持っていって、と。

 ――あれ……この心の声は……。

 

「ごめんさとり、この鍵さ――」

「ひゃっ!?」

 突如開いた扉とその声に、思わず持っているチョコレートを落としそうになった。……やっぱり碧翔!

 

「ど、どうかした? って、この部屋すごい甘い匂いがするね。チョコレート?」

「あ……えーと……皆で食べてたんですよ! ですよね、ヤマメ?」

「ああそうそう! 私チョコレート大好き!」

「そ、そうなんだ」

 私たちの謎の勢いに若干引いている気がするが、とりあえず誤魔化せただろうか? ……いや、むしろ逆に怪しまれてそうだ。

 

「で、お兄ちゃん、その鍵がどうかしたの?」

「ああうん、この鍵、どれも違うみたいなんだけど」

 碧翔が出した鍵の束には八つほどの鍵がついていたが、確かにどれも違うようだ。

 ……そうだ。そういえば、倉庫の鍵はあまり使わないから別で分けていたんだ。思い出した。

 

「すみません、倉庫の鍵だけ二階の事務室に置いていたのをすっかり忘れていました。手間取らせちゃってごめんなさい」

「いや、全然いいよ、ありがとう。後でチョコレートもらおうかな」

 そう言って少し笑うと、碧翔はガチャリと扉を閉めて去っていった。

 

「今度こそ本当に行ったみたいだね。一時はどうなるかと思ったよ」

「どうなるって……別に碧翔に見つかるだけじゃない」

「ん、でもパルスィだって、碧翔に今バレちゃうのは嫌でしょ?」

 ヤマメの言う通り、多分もう大丈夫だろう。大丈夫……ですよね?

 

「じゃ、チョコレートも溶かして準備も整ったし、いよいよ作っていこうか」

「おー!」

 こいしが元気よく答えた。

 さて、私はどんなのにしようか。型はあるし、そのままチョコレートを流し込んで作るのもいいけれど……。

 

「ねえ、お姉ちゃん」

「こいし、どうしたの?」

「お兄ちゃんってさ、嫌いなものってあったっけ? なんか前は、幻想郷にあるもので、食べられないほどのものはないーって言ったんだけど」

 嫌いな食べ物か……。確かに今まで、これが嫌いだ、とかって話は聞いたことがない。……いや、食べ物に限らず、彼の好きなものや嫌いなもの、趣味や嗜好を聞かれたら、ちゃんと答えられる自信がない。私、まだまだ碧翔のこと、知らないな……。

 

「うーん……まあ今はいっか。お兄ちゃん、ここのお菓子とかは前に食べてたし。お姉ちゃんはどんなの作るの?」

「……私は――」

 

* * *

 

「じゃあ、全員ラッピングまで終わった?」

 ヤマメが全員に確認する。

「うん、できたよ!」

「……まあ、こんな感じかしら」

 冷蔵庫に入れると品質が悪くなるため、固めるのに時間を要したが、全員作り終わったようだ。ヤマメはそれを確認すると、うんうんと頷いた。

 

「いいねーこういうの。面白くなってきたなー」

 感慨深そうにそう言った。何が面白いのかは心を読まなくても分かりそうなものだが、やはり渡す時の私達や碧翔の反応を楽しみにしているようだ。というか、私達に今回の話を持ちかけたのも、これが理由なんじゃないだろうか。

「早くお兄ちゃんに渡しに行こうよ!」

「そうしようか。そろそろペットの世話も終わってるんじゃない?」

「そうですね。碧翔の部屋に行ってみましょうか」

 

 

 と、いうわけで、各自作ったチョコレートを持って、碧翔の部屋までやって来た。全員で入って順番に渡していくという寸法だ。

 私は扉の前に立つと、きちんとノックをする。

「碧翔、いますか?」

「さとり? 大丈夫だよ、入ってきても」

 碧翔に了承を得てから、部屋に入る。

「あれ、四人も集まってどうしたの?」

「えっと、今日は外の世界では、バレンタインという日だと聞いたので」

「お兄ちゃんに、皆でチョコレートを作ったんだ!」

 

「……言っとくけど、もともと私は作る気無かったわ……ああ妬ましい」

「あはは、碧翔に向けてってことだし、ぜひ受け取ってほしいな」

「へえ、バレンタインか。そういえば今日だったね。作ってくれたの?」

 碧翔は思い出したようにそう言った。確かに、幻想郷に来ていると、外の世界の日付け感覚は無くなりそうだ。

 

「じゃあ私から渡すね! はい、お兄ちゃん、どうぞー」

「おお、箱になってる、すごいな。ありがとう、こいし」

 白い小さな箱をピンク色のリボンで留めている。『お兄ちゃんへ』と書かれた紙が、リボン横に貼ってあった。リボンを結ぶのに苦戦していたようだが、上手くできたみたいだ。

 

「じゃ、次は私ね。ありがたく受け取ってよ?」

「あはは、ありがとう、ヤマメ」

 激辛チョコを仕込もうとしておいて、よくそんなことが言えたものだ。ヤマメのものは、袋自体に粘着面が付いていて、簡易的に封がされている。中のチョコレートも、基本のチョコにチョコスプレーのみというシンプルなものになっていた。

 

「……はい」

「あ、パルスィ、ありがとう」

 素っ気なく渡した黄色の袋。だが、中身はかなり手が込んでいるようだ。パルスィはもともと器用なのもあって、クオリティがかなり高い。こういうのを、外の世界では……ツンデレ? クーデレ? なんて言うらしい。後で碧翔に聞いてみようか。

 

 と、残りは私だけになった。私は、手に持っていた袋を前に出す。

「碧翔の、嫌いなものは何ですか?」

「えっと、嫌いなものって?」

「いえ……私、まだまだ碧翔のことを全然知らないって気づいたんです。……もっとあなたのことを知りたいので、これからも色々教えてください。私も、自分のことを伝える努力はしていきますから」

 

 私は、持っていた袋を碧翔に差し出す。薄桃色の袋を水色のリボンで結んだものだ。自分らしさを出すために、この配色を選んだ。

「庭に咲いているスイセンの花を模して作ってみました。受け取って……もらえますか?」

「……うん、ありがとう。俺も努力してみるよ」

 そう言って微笑むと、差し出した小さな袋を受け取ったのだった。

 

【挿絵表示】

 




いかがでしたか? 主人公羨ましい。

本当はこんな会話も入れようとしてたんですけど、収拾がつかなくなったので止めました。折角なので載せておきます。


「んん、どれも美味しいね。こいしのはカップに入ってるんだ?」
「うん! ここの模様とか、かわいいかなって」
 と、碧翔は皆のチョコレートを食べて少し笑った。
「今までバレンタインなんて貰ったの、妹と青澄くらいだったからな……こう見てみると、やっぱり嬉しいね。本当ありがとう、皆」
「お兄ちゃんが喜んでくれたら、私もうれしいな」


少し書いただけなので短いですね。
というか、女友達にチョコレート貰えるって……碧翔、お前勝ち組やん。

まあ、そんなわけで、次回もよろしくお願いします。

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