ちょっとオリジナルキャラで話を書いていたら、いつの間にか東方要素が消えてました。
東方の小説としてどうなんだろうと思うところもありますが、主人公の話には全く興味がないという人は、読み飛ばしてしまってもそんなに問題ないかもしれません。
東方キャラの登場を楽しみにしていた人には、本当に申し訳ないです⋯。一応幻想郷での話と交互になるようにしているので、次回の投稿をお待ち頂ければと思います。
ということで、どうぞ。
俺の後ろには、走り去っていく車。さっきの人には迷惑を掛けたな。人が道路に倒れてたら相当驚くだろうし。
でも、俺は本当に現代に⋯?どうなってるんだ一体。さとりに何も伝えていないし(トイレとは言ったけど)、ここが現代ってことは、俺の家族とかもいるはずだし⋯。いや、考えるのは後にしよう。まずは今は状況を整理しないと。
まず、今現在俺がいるのは現代日本で、周りを見る限りそれはもうほぼ間違いない、よな。
とりあえず、辺りを見回して場所を確認してみる。今俺がいる場所は二車線道路。片方はかなり傾斜のきつい、崖に近いような坂になっている。もう片方は高い壁。この上にも手すりのようなものが見えることから、多分どこかから登れるはずだ。
と、ここで気付いたことが一つ。
「⋯どこだよここ!」
困った、今どこにいるのか分からないっていうのは致命的だ。家の近くにこんな所あったっけ?
というより、場所が分かったとしても色々問題があるし。まず第一に、俺の服。今俺が着ているのは、部屋のクローゼットにあった幻想郷の、現代の感性で言えば奇抜な服だ。俺が幻想入りした時に着ていたのは学制服だけど、流石に毎日同じ服を着るわけにもいかないし、着慣れてきていたこともあって、最近はほとんど毎日奇抜な方の服を着ていた。
ただ、幻想郷では普通でも現代じゃ非常識すぎる格好だ。さっきの人が俺を気味悪がった原因の一つだとも思う。
というか、そういう意味では知り合いに会ったらまずいんじゃ⋯?でも行くあてが無いからなぁ。うわぁどうしよう。
ここに留まっててもしょうがないし、とりあえず道路に沿って進もう。ずっと同じような道が続いてたら心折れそうだけど。
* * *
人間、探していたものが見つかると嬉しいよな。学校で、忘れたと思っていた教科書が鞄から出てくると安心するし、無くしたゲームのメモリーカードが出てきた時の喜びは半端じゃなかった。幻想郷で前にこいしが帽子を無くしたこともあったけど、見つかった時は本当に安心したな。こいしは無意識に任せてたまに地上にも行ったりするから、無くしたのが地底なのは不幸中の幸いだった。
閑話休題ということで、俺も探していたものが見つかった。真っ直ぐと続く階段で、どうやら高台のような所に繋がっているらしい。見晴らしの良い場所で状況を確認したかったから良かった。そういえば前に、ここに来たことがある気がするようなしないような⋯。まぁいいや、とりあえず上ってみることにしよう。
無機質な鉄製の手すりを掴み、段を上がる。その段の隙間からは、薄緑の雑草が生えてきていた。どうやらあまり使われていないらしい。少し高めの段に足を掛けて上がっていく度に、少しずつ先程の道路が遠くなっていく。
一番上まで上りきると、見えてきたのは、広い街。住宅地や商店街、公園やマンションなど、まさに現代日本の姿だ。
ふと、遠くに一際大きいビルが見えた。あれは知ってるぞ、俺の家の近くにある駅のものだ。どうやら、どこか違う県や市に飛ばされたりはしていないらしい。⋯俺は本当に戻って来た、帰って来たんだよな⋯。
近くにあったベンチに腰掛け、考える。さとり達、心配してないかなあ。前にパルスィの家でお世話になった時も、すごく気にかけてくれてたみたいだし⋯。あ、こいしと遊ぶ約束もしたんだった。
そう考えると、思い残すことが色々ある。このまま二度とさとり達に会うことはできないなんて、そんなのは嫌だ。そもそも、意図的に幻想郷に入る手段ってあるのか?
気が付いたら、幻想郷の皆の事ばかり考えていた。たったの一ヶ月だったけど、それほど俺にとっては大きかったのかもしれない。
「なんだ、あいつ?」
「うわ、なんか凄い格好してるけど」
と、後ろから声がする。誰か来たみたいだ。格好については余計なお世話だけど反論できないな⋯。さて、じゃあもうここから降りて――。
と、俺がベンチから立ち上がると、後ろの二人が、わっと声を大きくした。
「⋯も、もしかしてお前⋯ 碧翔、か?」
「⋯え?」
思わず返事をした。聞いたことのある声。呼ばれた俺の名前。まさか⋯ いや、そうだ。俺はこの人達を知っている。幻想入りする前までは、いつも一緒に登校していたはず。
俺はゆっくりと、確かめるように後ろに振り返った。
「碧翔、碧翔だよな!?」
「うそ⋯ 碧翔、なの?」
やっぱり、俺の友人達だ。二人――蒼月と青澄は信じられないものを見たような顔をしている。そりゃあそうだよな⋯。
あー、どうしよう。いや、どうしようじゃない、知人に会えたのは良かった。ここはほとんど覚えていないような場所だし、この先どうしようかと途方に暮れていたところだったから、助かった。助かったんだけど、どう説明したらいいんだろう⋯。
「は、はは⋯ まさかもう一度、碧翔の顔が見れるとはな」
「ほんとだよ!もう会えないと思ってた⋯」
そう言って二人とも少しの間固まっていたけど、しばらく間を空けてから蒼月は俺に近づいた。俺の顔をよく見てから、少し目を逸らして言う。
「いきなり過ぎて、何から質問したらいいか⋯ お前、今までどこにいたんだ?何やってたんだよ?」
蒼月から出る当然の質問。人ひとりいなくなったんだから、当たり前だよな。
「あ、えっと、記憶⋯ そう、記憶が無いんだ」
俺がそう言うと、二人は顔を見合わせる。咄嗟に出た言い訳だけど、流石に無理があるよな⋯。というか、こんな格好をしてベンチに座ってて、話しかけたら記憶が無いって、よくよく考えたらかなりヤバい奴じゃん、俺。
でもまあ、正直に幻想郷に行ってたなんて言ったらもっと危ないか。普通の人間だったら信じる訳ないだろうし。
「あー、なんかよく分かんないけど、とりあえず碧翔の家に行った方がいいよね?母親と妹さんに伝えないと」
青澄が蒼月に提案する。そうだ、家族になんて言おう⋯ いや、そもそも嘘を吐いていていいんだろうか。皆に変な目で見られたとしても、本当のことを言った方がいいんじゃ?ああもう、考えることが多すぎてまとまらない。とりあえず青澄達の言う通り、家に行こう。ずっとここにいても、何も変わらないしな。
「そうだな、青澄の言う通り、家に行こう。碧翔、それでいいか?」
「あ、うん、大丈夫」
「じゃ、行こう?」
青澄はそう言うと、俺に手を差し出す。
こんな無茶苦茶なことを言っていても、変わらずに俺に協力してくれるなんて。本当に感謝しないとな⋯ 後でお礼を言おう。
俺は青澄の手を取って、立ち上がった。
* * *
「あのさ、俺ってどのくらいの間、いなくなってたの?」
家に向かう途中、少し気になったことを聞いてみた。幻想郷と日本の違いというか、仕組みみたいなものが分からないからなんだけど⋯。
「お前と最後に登校したのがあの日だったから⋯ 大体一ヶ月くらいじゃねぇか?」
「⋯そうなんだ」
やっぱり、時系列がおかしかったりはしないんだな。物語とかだと、いない間の記憶が無くなってたりってのもあるけど、そんなにうまくはいかないか。
「この辺りじゃあ大きいニュースだったな。人ひとり消えたんだ、かなり騒ぎになってたよ」
「色々噂になったりもしたね。神隠しにあったとか、別世界に行ったとか」
うわぁ、まんざら嘘でもないぞそれ。噂か⋯ 俺が戻ったらどんな反応するんだろうな、皆。心配、してくれていたんだろうか。それとも、そんな他人のことなんて気にしないだろうか。
「記憶が無いんだっけか?そんなことが有り得るのか俺には分からねぇけど、お前が嘘をつくとは思えねぇしな⋯ 今はとりあえず信じることにしとく」
「あ⋯ああ⋯」
「大丈夫だよ、落ち着いたら思い出すかもしれないしさ。だから、今は行こ?」
二人の思いやりが辛い。咄嗟とはいえ、俺は二人に嘘を言ってしまった。二人の信頼を裏切る行為だ。⋯こんな気持ちじゃ、こんなんじゃ現代で暮らしても、幻想郷にいても駄目だと思う。⋯俺はどうすればいいんだ?
「⋯⋯」
蒼月は少し鋭い目で俺を見た。
俺の隣を歩いていた青澄が、空を見上げて言う。
「今日は良い天気だねー。清々しいよ。碧翔もこんな空の下にいるんだからさ、もっと笑顔で、ね?」
「⋯うん、ありがとう⋯」
その言葉に、俺は頷いた。
いかがでしたか?
書き進めていたら、いつの間にか少し暗い展開になっていました。シリアスって書くの苦手なんですけどね⋯。
なるべく頑張りたいと思いますので、次回もよろしくお願いします。