東方読心録   作:Suiren3272

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どうも、こんばんは。
今日はかなり寒かったです。もう四月に入るのに、雪の予報が出ていたりもするそうですね。桜も大変そうです。今も手が冷たくて、文字入力がしにくい⋯。
と、そういえば、タグに少し追加しました。あまり変えるのは良くないかとも思いますが、これから出てくる要素もあるので、一度ご確認ください。
それでは、どうぞ。


第二十二話 ~豁然、俄然忽然~ Side:S

 

皆での昼食の時間。朝がシンプルな和食だったため、昼は洋食にして貰った。品数は多くないけれど、とても美味しく仕上がっている。長いこと料理をしているからか、ペット達の腕も上がってきたらしい。

そういえば、前に碧翔が作った炒飯、あれは美味しかった。また今度作って貰おうか。

と、その碧翔と言えば、さっきから私の方を気にしている模様。それもそう、発言数こそ多くないものの、普段なら雑談を交わしているであろう昼食時に、私は全く喋っていない。あまり余裕が無いというか、緊張しているというか⋯。

彼はそんな私の様子に気付いているようだった。碧翔は人をよく見ている⋯いや、私が分かりやす過ぎるからだろうか。

それはともかく、この後の時間の為にも、ここで一言伝えておかなければ。

 

「⋯碧翔」

「う、うん、何?」

彼は少し慌てたような様子で返事をした。

「後で話があるのですが、良いですか?」

「あ、うん、それはもちろん」

碧翔がそう言ったと同時に、彼の思考に言葉が追加される。

 

――話って、一体何なんだろう。よく分からないけど⋯でも昨日部屋で話してからのことだと思うし、その辺りについてか?――

 

人の気持ちに関して鈍感な碧翔にしては、私の話について感づいているようだった。⋯どう話したらいいんだろうか。

しばらくしてからもう一度碧翔の方を見ると、こいしと話をしていた。こいしは最近、碧翔と一緒にいる事が多い。毎日彼の部屋に行って大きな声で呼ぶみたいだから、少し注意しておいた。碧翔は迷惑じゃないと言っていたし、実際そうなんだろうと思うけれど、直しておいた方が今後のためにもなるから。

 

こいしは碧翔と楽しそうに話している。⋯少し羨ましい。あの妬み妖怪じゃあるまいし、別に嫉妬している訳じゃないけれど、碧翔と話すのは楽しくて何だか充実している気がするから。こいしも多分同じ気持ちだと思う。お燐だって、よく彼に仕事を頼んでいるし。ちょっと抜けているところもあるけれど、頼りになる、そんな人だ。

気が付くと、私は彼の横顔をじっと眺めていた。

 

* * *

 

昼食後、私は碧翔の部屋に向かっていた。それほど大きな事じゃないのは分かっているけれど、やっぱり少し緊張する。⋯一旦落ち着こう。以前読んだ本に、『冷静さは焦りを抑え、成功に繋げる』という言葉もあった。

誰かの名言を思い出しながら、深呼吸をする。そんな事をしていると、廊下の角からお燐が出てきた。

 

「あ、さとり様」

お燐はこちらに近付くと、私の方をまじまじと見る。

「⋯お燐、何か用があるのなら言ってください」

「いや、さとり様だったら聞かなくても分かりますよね」

確かに。お燐が、私が碧翔に話をしに行くんだろうなー、という好奇心に満ちた思いを私に向けているのは、読心能力が無かったとしても分かりそうだ。

「ふふん、頑張ってくださいね」

と、どこか腑に落ちない笑顔を浮かべると、私とは反対方向に歩き出す。けれど、どこか引っかかるような⋯。って!

 

「お燐。私が碧翔に告白でもしに行く、なんて思ってますか?じゃなくて、思ってますね?」

「あれ、違ったんですか?」

全く、なんて事を考えているんだろう。それはまあ、碧翔は優しくて良い人だし、私を受け入れてくれたし、趣味も合っていて話していると楽し⋯って、だけれども!まだ合って一ヶ月で、分からないことも多いのに、私が碧翔に、こ、こく⋯

「⋯はく、なんて、する訳ないじゃないですか!」

「うわ、びっくりした。そんなに大声出さなくても」

「とにかく、お燐は早く戻ってください!」

私の言葉にどこか呆れ気味で、お燐は今度こそ歩いていった。

 

なんだか今ので既に疲れた⋯。と、とにかく、碧翔の部屋はもう目前だから心の準備を⋯って。

「さて、じゃあ何して遊ぶ?」

「えーとね、今日は⋯」

碧翔と一緒にいるのは、黒い帽子を被った私の妹。まさか、またこいしが来ていたとは。とりあえず、えーと⋯ どうしよう⋯。

悩んでいると、碧翔がこちらに気が付いた。

 

「あ⋯」

「あ、さとり、もしかしてさっきの?」

「そうですけど⋯」

流石にこいしがいる前では少し話しにくい。遊びを邪魔する訳にもいかないし⋯仕方ないから、また後で出直そうか。

と、そこで碧翔がこいしに声をかける。

「ごめん、ちょっとさとりと大事な話があってさ。悪いんだけど、遊ぶのはまた後でもいい?」

「お姉ちゃんと?むー、分かった、じゃあおわったら教えてね」

こいしはそう言うと、私が来たのと同じ方向に歩いていった。

なんと言うか、碧翔らしい。ありがとうございます⋯と、こんな事でお礼を言うのもどうかと思うので、心の中で言っておいた。

 

前と同じく、碧翔のベッドに座る。昨日もこうだったけれど、他人の、それも男の人のベッドに座るなんて今まで無かったから、実は昨日、結構緊張していた。碧翔は全く意識してなかったみたいだけれど⋯ 私だって女の子なんですよ?

そんな私に気付くことなく、碧翔はこちらを見る。⋯さて、どう話そう。

「あの⋯ 昨日、碧翔のおかげで地上に出ることができた、という話、しましたよね」

「うん。でも、それはさとりの力だと思うけどね」

「いえ、私が外に出るきっかけを作ってくれたのは、碧翔です」

 

ずっと外へ出るのを躊躇っていた。太陽の光が、地上が、人間が、再び追いやられることが怖くて、逃げていた。けれど碧翔、彼のあの言葉。私にかけてくれたあの言葉があったから、私に真剣に目を向けてくれたから、地上に出てみようと、人間をもう一度信じてみようと思えた。

外は怖い。けれど、怖いからって逃げ続けるのも、苦しい。それなら、思い切って足を踏み出した方がいいに決まっている。そう気付いた。

外に出た時はやはり怖かったけれど、それ以上にどこかすっきりした。心の奥深くに溜まっていた(わだかま)りがすーっと消えていったような、そんな感覚。地上に出て、本当に良かった。

だからこそ、思う。碧翔は望んでいないかもしれないけれど、叶えたい、叶ってほしいという、私の我がまま。

 

「それで、その⋯ 思ったんです。私は、碧翔が――」

「っ!?」

と、その時、碧翔の目が見開かれる。碧翔からは、混乱の思考。

「あ、碧翔?どうかしましたか?」

「あ、いや⋯ ちょっとトイレに行ってくる」

そう言うと、碧翔は部屋を出て行ってしまった。あっという間だったため、彼の思考ははっきりと伝わってきていない。それに、彼自身も何が起こったのか分かっていないようだった。

 

碧翔⋯どうしたんだろう。

どうにも胸騒ぎがしてならなくて、少し部屋を出てみる。が、廊下は人の気配など微塵も感じさせない程に静まり返っていた。読心をしても、せいぜい外の動物達の声が聞こえてくるだけ。

⋯どうにもおかしい。いくら急いでトイレに行ったからって、私が読心できなくなる程に離れることは恐らくないと思うし、トイレだったらこの部屋を出てすぐ、右に曲がったところだから。

 

しばらく部屋で待ってみても、碧翔が戻ってくることはなかった。

「碧翔⋯ 一体どこへ⋯?」

胸騒ぎが収まらない。とにかく、碧翔を探さないと⋯。

心にできた少しの迷い、そして大きな不安と共に、私は部屋を出た。

 




いかがでしたか?
調子のいい時に書き溜めておいたのですが、もう無くなりそうです。時が経つのは早いですね⋯なんて、そんな事を言えるような歳じゃないんですけど。
次回もよろしくお願いします。

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