東方読心録   作:Suiren3272

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毎度閲覧、ありがとうございます。
さて、一応ですが、ここで次の章に入りました。全体的に文字数は少しだけ減ると思いますが、これからの形式上その方が読みやすいかなあ、と。あまり文字数が多いと、投稿も遅れてしまうので⋯
と、いうことで、第二十一話です。それでは、どうぞ。


第三章 -迷い-
第二十一話 ~藪から棒に~ Side:A


カチャカチャと部屋に響く、食器とナイフやフォークがぶつかり合う音。今日のお昼は洋食だからこうだけど、普段は普通に箸も使う。皆でテーブルに座る配置は、俺が幻想入りした初日から全く変わっていない。

顔を横に向けると、テーブルの端の方でお燐と空が雑談しているのが目に入る。こちらも隣のこいしはいつも通り俺に話しかけてくるが、向かいに座っているさとりが、さっきから一言も発しない。もともとこいしほど喋るわけじゃないけど、今のさとりは、こう、何かに迷いがあるというか、躊躇っているような⋯。

 

「⋯碧翔」

「う、うん、何?」

さとりが俺の目を見据えて、言う。

「後で話があるのですが、良いですか?」

「あ、うん、それはもちろん」

話って、一体何なんだろう。よく分からないけど⋯でも昨日部屋で話してからのことだと思うし、その辺りについてか?

さとりの言葉に、なんだか少し不安を覚えた。

 

 

「はい、お兄ちゃん、あーん」

と、こいしが俺にフォークを使って、近くの鶏肉を差し出してくる。

「⋯⋯うん、美味しい。ありがとう」

「えへへ」

俺がそう言うと、こいしははにかむように笑った。

人に食べさせるなんて行為も、最初は現実に存在するんだ、なんて思っていたけど、今では普通になっている。慣れって恐ろしい。

 

「そういえばお兄ちゃんって、きらいな食べ物とかないの?」

「嫌いな食べ物か⋯」

そこまで好き嫌いは無いけど、ウニとかキャビアみたいな高いイメージのあるものは割と駄目なんだよな。って、そもそもそんなに食べる機会は無いんだけど。ウニはたまにあるけど、キャビアなんて本当に一、二回しか食べたこと無いしなぁ。あ、でもそういえば両方とも幻想郷には無いんだっけ。

「そうだな⋯ 幻想郷にあるもので、嫌いなものはそんなに無いかな」

「へー、お兄ちゃんはすごいな」

「あはは、すごい⋯のかな?逆にこいしは嫌いなものってあるの?」

 

俺が問いかけると、こいしは少し悩んでから⋯

「私はそんなにない⋯よ?」

そう言った。が、そんな俺達の話を聞いていた空が、こいしに向けて言う。

「あ、こいし様、嘘はよくないよ!前サラダに入ってたニンジン、全然食べてなかったじゃん!」

「あ、お空!なんで本当のこと言うのー!」

どうも本当のことらしい。まあ、好き嫌いってのも可愛らしいし、いいんじゃないかな?食べたくないってことは、その人の体がその食べ物を必要としてないって事だとも思うし。まあ、好き嫌いが無かったらそれが一番なんだけど。

こいしと空の口論?のせいで、少し騒がしくなった昼食だった。

 

* * *

 

「はぁ」

部屋に入ってから一つ、息を吐く。気にかかっているのは、先程のさとり。あとで話がある、って言ってたけど⋯ 部屋に来るのかな。

ベッドに寝転がってしばらく待っていると、扉がノックされた。深呼吸をしてから扉を開けると、案の定の覚妖怪⋯じゃなかった。いや、覚妖怪ではあるんだけど、恋の目(サードアイ)を閉じた方だ。

「あそびに来たよ、おにーちゃん」

「こいしだったんだ。珍しいね、扉の前で大人しく待ってるなんて」

いつもならノックした直後に、『お兄ちゃん、一緒にあそぼー』なんて、俺を呼ぶんだけど⋯。

 

俺がそう言うと、こいしは俺の少し上を見て、思い出すように言った。

「えっと、お姉ちゃんが碧翔に迷惑だからやめるように、って」

「あー、さとりか」

多分昨日の事だろうな。わざわざ注意してくれるなんて、なんというかさとりらしい。

「お兄ちゃん、今まで迷惑だった?」

「いや、そういう訳じゃないけどさ。これから気を付ければいいんじゃない?」

俺としては、むしろ元気が良いというか、微笑ましい感じで別に気にしなかった。まあ人によっては迷惑に感じるだろうから、これからを考えると直すに越したことはないか。

 

「さて、じゃあ何して遊ぶ?」

「えーとね、今日は⋯」

と、二人で話していると、こいしの後ろの廊下に、薄ピンクの髪の毛が見えた。

「あ⋯」

さとりがこちらに気が付いたようだ。一緒にいるこいしを見て、少し驚いたような顔をしている。

「あ、さとり、もしかしてさっきの?」

「そうですけど⋯」

なんだか言いにくそうだ。こいしがいると話しにくい、とかかな。確かに、さっきの様子を見てると、大事な話みたいだし⋯

俺は目の前にいるこいしに向かって言う。

 

「ごめん、ちょっとさとりと大事な話があってさ。悪いんだけど、遊ぶのはまた後でもいい?」

「お姉ちゃんと?むー、分かった、じゃあおわったら教えてね」

「うん、ごめんね」

俺がこいしにそう言うと、こいしは廊下の奥に歩いていった。

さとりと二人だけになる。俺は部屋の扉を大きく開けると、二人で部屋に入った。後でこいしに謝っておかないとな。

 

 

前回と同じく、部屋のベッドに座る。柔らかな肌触りのシーツは、とても寝心地が良い。俺の家は床に布団を敷いてるだけだったから、ベッドってなんか憧れがあったんだよな。

さとりは俺から少し離れて座ると、こちらを見た。

「あの⋯ 昨日、碧翔のおかげで地上に出ることができた、という話、しましたよね」

「うん。でも、それはさとりの力だと思うけどね」

「いえ、私が外に出るきっかけを作ってくれたのは、碧翔です」

強調するように、体を前に出して言う。

「それで、その⋯ 思ったんです。私は、碧翔が――」

 

と、その時、俺の視界がぐにゃりと歪む。

「っ!?」

目眩というか、何かに引き寄せられるような、吸い込まれるような感覚。前にも一度、どこかで――。

「あ、碧翔?どうかしましたか?」

「あ、いや⋯ ちょっとトイレに行ってくる」

俺はさとりにそう言うと、駆け足で部屋を出た。

 

* * *

 

廊下を歩く。頭がボヤボヤする。眠い。猛烈な眠気。なんなんだ、これは⋯

と、その時、地面が揺れた。いや違う、俺が倒れたのか。視界が闇に包まれていく。何故か思い出したのは、さとりやこいし、幻想郷の皆の笑顔だった――。

 

 

 

 

 

───────

 

───────────

 

 

 

 

 

「あ⋯」

体が痛い。ベッドから落ちて床で寝ていたら、きっとこんな感覚だと思う。

目が覚めた。視界に映ったのは、灰色。とても硬い、地面。あれ、これってコンクリートだよな⋯。コンクリートなんて、幻想郷にあったっけか。

そんなことを考えていると、遠くからエンジン音のようなものが聞こえてくる。それが急に俺の前で止まると、ガチャリと何かが開く音がした。

 

「おい!危ねぇぞ!」

その叫び声で意識が覚醒する。

「あ⋯え⋯?」

急いで起き上がった俺の目の前にあったのは⋯ 車。そう、あの乗り物の車だ。

「何だってこんな所で寝てんだよ!轢き殺しちまうところだったぞ!?」

「あ、す、すいません⋯」

恐らく車から降りてきたであろう男が、俺に向かって怒鳴る。

何だこれは。どうなってるんだ。にとりの発明にしては、あまりにも現代の車に似すぎている。というか、地面は整備された道路だし、幻想郷には無いはずのガードレールや道路標識なんかも立っている。俺の頭に、一つの仮定が浮かび上がった。

⋯まさか、そんな訳。

 

「あの⋯ ここってどこの国ですか?」

「はあ?お前頭おかしいんじゃねえか?日本だよ日本!」

……やっぱり。この人が嘘を吐いてなければ、俺の仮定は成り立つ。

⋯俺は今、現代日本にいる。おそらく――

 

 

――幻想郷から帰ってきた――。

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか。
ちなみにタイトルの「Side:A」は碧翔の頭文字です。Side:碧翔、みたいにすると、なんか見た目的に微妙だったので。
次回もよろしくお願いします。

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