東方読心録   作:Suiren3272

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どうも、こんばんは。
ふと思ったんですけど、前書きと後書きって無い方が良いんですかね?
毎回どうでもいいことを書き込んでいるので、読みにくいかなあ、と...
もし良ければ、教えて頂けると有難いです。
それでは、どうぞ。


第二十話 ~懸河瀉水~

電気。現代日本に住む人達には欠かせないであろう存在。これが無かったら夜は真っ暗。テレビはおろか、冷蔵庫が使えないから食品も保存できない。交通機関なんかもほとんど機能しなくなるだろう。幻想郷に来てからというもの、電気のありがたみが分かった気がする。

「あははっ、これ楽しー♪」

「そう?俺も助かるよ」

にとりから貰った発電機を楽しそうに漕ぐこいし。地上に行った日からというもの、毎回俺の部屋に発電機を漕ぎに来ていた。いかにもな見た目の発電機からは、自己発電型のライトを付けた自転車と似たような音が発せられている。発電機から伸びた一本のコードの先には、俺のスマホ。中々時間がかかるけど、自分達で充電できるのはありがたい。

 

「お兄ちゃんは、これが大事なの?」

「ああ、スマホ?そんなに多用はしないけど、確かに写真とか大事なものも入ってるからね」

そう言ってスマホの電源を入れる。電池残量七十パーセント。うん、かなり充電できたな。それを確認しながら写真を閲覧するアプリを開く。適当に検索して見つけたものなんだけど、なんだかんだでもう二年くらい使っているアプリだ。

なんとなくカメラのファイルを開くと、幻想郷で撮った写真が表示された。にとりの湖や、さとり達と撮った一枚。帰り際に遠くから撮影した紅魔館。色々なものを見ていくうちに、現代での写真が出てくる。

 

「あ、もしかしてお兄ちゃんの家族?」

隣で見ているこいしがそう言った。

――家族。俺には家族がいる。俺と妹のために働く母親、素っ気ないけどなんだかんだで俺を気にかける妹。...今頃どうしているんだろう。そういえば、俺が幻想郷に来ている間、向こうではどういう認識になってるんだ?いなくなった直後は、相当混乱が起こったんじゃ?

「...お兄ちゃん?」

「ああ、ごめんごめん。そう、これが妹でこっちが母親」

こいしは珍しいものを見るような目で、画面をスクロールしていく。流れていく画面の中に、俺の友人二人が映った。

「この二人は?」

「ああ、前に話さなかったっけ?俺の友達の蒼月と青澄」

俺も含めて、三人とも名前に『あお』と読める字が入っていたことから仲良くなった。蒼月とは中学からの付き合いだけど、青澄とは高校で出会ったんだっけ。蒼月はよく周りからDQNネーム、なんて言われてたな。本人は全く気にしてなかったけど。

 

ふと時計を見ると、丁度九時を回ろうとしていた。

「あ、もうすぐ晩御飯じゃない?」

「ほんとだー。じゃ、お兄ちゃん、行こ?」

そう言って俺の手を引く。いつものようにその手に引っ張られながら、俺達は部屋を出た。

 

* * *

 

食事を済ませた後、俺は自分の部屋で本を読んでいた。紅魔館から借りてきた、幻想郷についての本。そもそも俺は、幻想郷についてあまりよく知らない。今更ながら、最低限の知識は身に付けておくべきだと思って借りてきたんだけど... 正直よく分からない。この本自体、眼鏡をかけた超頭が良い人が黙々と読んでそうなイメージのある分厚さだし、内容もそんな感じだ。情報が多く、文字がかなり小さい。老眼の人なんかはまず読めないだろうな。

 

「うーん、幻想郷は博麗大結界、幻と実体の境界、この二つによって守られていると。なるほど分からん」

結界がどうのとか、妖怪がどうのとか、色々あり過ぎて理解が追いつかない。もっと簡単に説明してくれればいいんだけどなあ。

まあいいや、とりあえずこの本は紅魔館に返すまで封印しておこう。俺にはまだ早かったらしい。読める時が来るか分からないけど。

 

「でも、幻想入りの仕組みとかは知っておいた方が良いよな...」

俺自身、未だに幻想入りした理由やその仕組みが分かっていない。さっき言った結界とやらが関係してるんだろうけど――。

少し悩んでから、封印したばかりの本にもう一度手を伸ばそうとしたところで扉がノックされた。空とお燐はノックせずに入ってくるし、こいしだったらすぐに声をかけてくるだろう。という事は、さとりかな?

と、自分でもどんな考察だよ、と思いながら扉を開けると、案の定の覚妖怪だった。

 

「なんだかペット達が迷惑をかけているようで、申し訳ありません」

「あはは、ノックのことは別に気にしてないよ。まあ、ちょっとどうなんだろうとは思うけど、お燐達らしいしさ」

一ヶ月もいれば流石に慣れる。まあ、それはそれでどうかとも思うけど。

俺が扉を大きく開けて部屋に入るよう促すと、お邪魔します、と一言言ってから部屋に入った。俺の部屋は椅子が一つしかないので、二人でベッドに座る。

「それで、どうしたの?」

「いえ、特別な用事がある訳ではないのですが...」

俺の右隣に座るさとりの横顔は、なんだかとても綺麗だった。透き通った瞳には、部屋の明かりが反射し、白くハイライトが出来ている。きめ細やかな髪を揺らしてこちらを見ると、少し間を開けてから言った。

 

「碧翔は地上に行って、どう感じましたか?」

「地上かー、俺は幻想入りしてからまだ二度目の地上だったからなあ... 見るもの全部が新鮮だったよ」

香霖堂にあった商品の中には、見たことがないものや用途の分からないものも沢山あったし、幻想郷にはとても興味がある。そういえば、最初に俺が幻想郷に留まろうと思ったのも、幻想郷に興味が湧いたからだったな。現代も平坦な生活だったし、ちょっと不思議な体験をしてみるのも悪くないかな、と。

 

「...この地底には、地上から追いやられた覚妖怪が住んでいます。とっても長い間... それはもう、外の景色なんて忘れてしまうくらいです」

さとりは、どこか遠い目をしながら唐突にそう言った。

...それはそうだ。具体的に何があったのか俺は知らないけど、すごく長い間、地底にいたはずだよな。

「ですが、それはこの前までの話です。自分を信じられずにもたもたしていたその妖怪の背中を、一人の少年が押してくれました」

「......」

さとりは俺の方に体を向け直すと、まっすぐと俺の顔を捉えて言った。

「ありがとうございました。本当に感謝しています」

「いや... 俺は特に何かした記憶も無いし... 決断したのはさとりだからさ。こちらこそ、俺なんかと一緒に地上まで来てくれてありがとう」

「...はいっ!」

俺の言葉に、微笑んで答えたのだった。

 

 

 

「ところでさ、前も聞いた気がするけど、俺はなんで幻想入りしたのか分かる?」

「碧翔が幻想入りした理由ですか?私はあまり詳しくないのでよく...」

さとりに少し質問してみた。何のきっかけもなく突然異世界に飛ばされるなんてこと無いだろうし... というかそもそも幻想郷って、どこにどうやって存在してるんだ?アニメとか漫画みたく、空間の狭間とか?

「あ、それなら何かの本で読んだ気がします。えっと...確か外の世界の一部だったような...?」

「え、そうなの?」

なんだろう、さっき読んだ本に書いてあったなんとかの結界ってやつか?最初に霊夢に簡単な説明を受けた時も、『忘れ去られたもの達の最後の楽園』としか聞いてないんだよな... 確か全てから忘れ去られると来れるんだっけ?うーん、でも俺はそんなことなかったはずだし...

 

「あの...」

あれこれ考えていると、さとりが少し躊躇いがちな感じで声をかける。

「碧翔は何故、幻想郷に残ったんですか?」

何故。それはさっきも言った通り、幻想郷に興味が湧いたから。程度の差はあれど人間に必ず存在する、好奇心ってやつだ。

現代は少し名残惜しかったけど、それ以上に幻想郷が『おもしろそう』だったから。

 

――でも、今思えばそれってどうなんだ...?

 

改めて考えると、本当にそれだけの理由だったんだろうか?現代は、家族はどうなった?友達は?...なんで今まで深く考えなかったんだろう。

幻想郷に来て一ヶ月。幻想郷は素晴らしかった。日本に比べると娯楽が少なかったり、不便なところはあったりする。だけど、ここの住人は良い人ばかりだし、空気は綺麗で自然が多い。おまけに、空を飛ぶなんていう力や、光の弾で勝負する、不思議な遊び(弾幕ごっこ)があったりもする。まるで夢みたいだ。

...だけど、俺はここに居ていいんだろうか。

 

「あお、と...?」

「え、あ...」

さとりに呼ばれて我に返る。なんでもない、と言おうとしたけど、言葉が出なかった。

さとりの瞳に宿った不安の色。どうして彼女がそんな表情をしているのか分からなかったけど、俺の心に何かが刺さった。...さとりは心が読める。今の俺が良くないことをした、いや、考えてしまったのかもしれない。

 

「あ...ごめん」

「い、いえ、碧翔は何も悪くないです!...私こそすみませんでした」

少し間沈黙が続いたが、しばらくしてからさとりが口を開いた。

「あの、私... 他人の心は読めるのに、自分の心が分からない時があるんです」

「自分の心?」

「こう、自分がどういう感情を抱いているのか分からないことがあって、その... す、すみません、やっぱり忘れてください」

そう言うと、さとりは俯いてしまった。再び沈黙が訪れる。

が、それを破るかのように、急に扉が開いた。

 

「碧翔ー!またペットの世話手伝ってくれない?って、うわ、またさとり様と二人だ」

「うわ、ってなんだよ」

入ってきたのはお燐だった。赤い髪を揺らして勢いよく突入してきたが、俺達二人を見た途端、一歩後ずさった。なんでだ。

「あーやっぱりいいや。二人で部屋にいて」

「いや、手伝うよ。なんでか知らないけど、遠慮しなくていいからさ」

俺はそう言うと、座っていたベッドから立ち上がる。

「じゃ、さとり。また後で」

「あ、はい... 頑張ってくださいね」

さとりに一声かけてから、俺は部屋を出た。

 

* * *

 

「さとり様って、最近どう?」

「どうって...」

お燐の手伝いをしていたら、唐突にそう問いかけられた。

...さとりか。思い当たることはあんまり無いけど... 強いて言えばさっきの表情。何かを恐れているような感じだったけど、俺の勘違いか...?

「...特に何も無いと思うけど、何で?」

「無かったら別にいいんだよ。...さて、こいつでおしまいっと」

お燐はペットの体を拭いていたタオルを置くと、一つ息を吐いてから立ち上がった。

「ありがとう。碧翔のおかげで助かったよ」

「うん、大丈夫だよ。俺も楽しかったし」

いつものように、お燐の頭を撫でた。

 

幻想郷。不思議なこの場所の地底に、俺は住んでいる。

これからどうなっていくんだろう。と、そう考えると少し怖い。今のままでいられるのか。はたして、俺がいるべき場所なんだろうか。いつの間にかそんなことを考えていた。

幻想郷か...。少しの不安を抱きつつ、俺は部屋に戻った。




いかがでしたか?
そろそろストーリーに大きな展開が生まれると思います。
拙い文章ではありますが、これからもお付き合い頂ければ幸いです。
次回もよろしくお願いします。

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