少しの更新停止の筈が、かなり遅れてしまいました。申し訳ありません。
これからはまたいつも通りの更新となりますので、よろしくお願いします。
それでは、どうぞ。
「うーん、どれにするかな...」
一通りぐるっと見て回ったけど、数が多すぎて迷う。
俺の身長の三倍はあるであろう本棚には、物語系から魔術書みたいなものまで、多種多様な本達が並んでいた。
それにしてもこれだけ棚が高いと地震が来たりしたら危なそう。本がぶつかって死ぬってなんか嫌だ。
ゆっくりと歩きながら本を見ていく中で、一つ目に留まったのが『
俺はその本を棚から抜き出すと、パラパラとページをめくる。
───────
覚。人の心を読むことができると言われている妖怪。山小屋などに居る人の心を読み、隙があれば襲うという。
しかし、偶然や気まぐれ、無意識などの思いがけないことには弱い。
ふーん... さとりと言うよりは元の覚妖怪の事っぽいけど、なんか面白そうだし、この本を借りていくか。
これともう一冊、幻想郷に関しての本を手に取ったところで、背中を何かにつつかれる。
「ねぇお兄さま、この本読んでくれない?」
「ああ、フランか。いいよ、あっちで読もうか」
二人で中央のテーブル横にある椅子に座る。フランが持ってきたのは、薄めの絵本のようだった。
読み聞かせなんて小学校の頃、委員会かなんかの関係で少しやったのが最後だから久しぶりだな。
「じゃあいくよ...」
「めでたしめでたし...っと」
「あー、面白かった。ありがとう、お兄さま」
こういう絵本にも、結構学ぶところがあったりするよな。哲学的な話も割と多いし。
丁度本を読み終えたところで、入口の扉が開いた。入ってきたのは銀髪のメイド。
咲夜さんいつの間に外に出てたのかと思ったけど、能力を使ったのか。
「真剣様、霊夢達が到着したようです」
「お、皆来たか。じゃあそろそろ行こうかな」
俺はパチュリーにお礼を言うと、二冊の本を持って図書館から出る。後ろからフランもついて来た。
「お兄さまはどこに住んでいるの?」
「地底の地霊殿に。さとり達と一緒に暮らしてるんだ」
女の子と同居とかベタなアニメみたいだけど、アニメみたいな展開は無い... と言うかあったら困る。
なるべく平穏な日々を送れますように。
* * *
「失礼します」
再びレミリアの部屋に戻ってきた。咲夜さんがノックをしてから扉を開ける。
中には霊夢に魔理沙、パルスィに古明地姉妹。部屋に入ると、さとりがホッとしたように息を吐いた。
「碧翔、良かったです...」
こいしも安心したような表情をしていた。俺のせいじゃないとはいえ、心配をかけたみたいだ。
俺は心の中で小さくごめん、と呟いた。
「ところで... お二人はどのような関係でいらっしゃるのですか?」
と、唐突に咲夜さんが聞いてくる。どんなって言われると... 同居人?なんか違う気もするけど。
「あー... イマイチいい表現が浮かばないな...。と言うか何でそんな事聞くの?」
「失礼致しました。昨晩はお二人で一緒に寝られていたようなので、少々気にかかりまして」
咲夜さんがそう言った瞬間、さとりの顔が赤くなる。なんかしょっちゅうなってる気がするけど、中でも今日は真っ赤だ。
確かに、昨日のことは思い出すと恥ずかしい...
「べ、別に意味はないので!何もない...です」
さとりがそう言うと、魔理沙が溜め息を吐いた。
「全く、さとりも奥手だよなぁ」
「魔理沙、余計なこと言わない」
「はぁ、相変わらず妬ましい...」
昨日は結局何だったのかよく分からないけど、まぁそこは置いておこう。ともかく、皆とまた合流できて良かった。
そんな事を話していると、俺達を見ていたレミリアが思いついたように言った。
「そうだ、折角だからここで食事をしていかない?碧翔もまだ起きてから何も食べていないでしょう?」
「そういえばそうだね。それじゃあお言葉に甘えるか。さとり達も良いよね?」
俺が問いかけると、皆頷く。こいしは元気に「はーい!」なんて返事をしていた。
なんか幻想郷生活も充実してきたな。皆を見て、改めてそう思った。
レミリアが、料理ができるまで少し時間が掛かるから、ということでゆっくりしていて良いと言った。
確かに、能力を使っても時間を止めてたら焼いたりできないしな。
皆と待っていても良かったんだけど、折角だし迷わない程度に館内をぶらぶらしていたら、赤色の髪の女の人に会った。チャイナドレスと華人服を合わせたようなものを着ている。
なんか幻想郷の人達の格好にももう慣れたな。俺がこんにちは、と言うと向こうも元気に返してくれた。
「紅魔館で門番をしている紅美鈴です。あなたは?」
「外来人の真剣碧翔。よろしく」
この館、門番とかもいたんだな。俺は入り方がイレギュラーだったし、知らなかった。
「あなたがお嬢様の言っていた外来人ですか」
「別に特別秀でた所もないし、そんなに取り上げられるような人じゃないと自分では思うけどね」
俺と比べて友人の蒼月は運動が得意だったからな。あいつ足超速かったし。
運動能力が重要そうな幻想郷では俺は結構危ないのかも。少し運動しようかなぁ。
「丁度庭の花に水やりをするところなんですけど、来ますか?」
「ああ、まだ時間もあるし、見てみたいかな」
こっちです、と美鈴の案内で来た所は、壁が他と違いステンドグラスになっていた。
横の扉を開くと、奥に見えたのは色鮮やかな花たち。
植物はそんなに詳しくないから分からないものが多いけど、チューリップとかパンジーみたいな定番の花もあった。
上を見上げれば青空。周りは花に囲まれていて気持ちがいい。
「庭の花たちには私が毎日水やりをしているんです」
「へぇ、どれも綺麗だね。あ、この花はなんて言うの?」
「それはガザニアですね。春から夏の終わりにかけて、結構長い間咲いています。きらびやか、純白なんて言う花言葉があるんですよ」
楽しそうに話している。本当に花が好きなんだな、と感じた。
その後も庭の花について聞いたり、植物の話をしていたりすると、入り口の扉が開いた。出てきたのはパルスィだ。
「ご飯が出来たから二人とも来いって言ってたわよ」
「分かった、行くよ」
パルスィの知らせで、三人で会話しながら部屋に向かう。美鈴って話しやすくていい人だな。
さとりも話してて楽しいけど、それとはまた違った感じがする。
「皆とご飯ってなんか久しぶりですねー。仕事の関係上、私は皆と食べないことが多いので」
「そうなんだ。門番って大変だね」
少し歩いて、かなりの長さのテーブルがある部屋にやってきた。なんか海外映画とかに出てきそう。
高級感溢れる蝋燭に、装飾の施されたお皿。細長いグラスがランプの光を反射している。
皆はすでに席に座っていた。
「もうすぐ咲夜が料理を持ってくると思うから、待っていてね」
「咲夜さん仕事早いなー。まだそんなに時間経ってないと思うけど」
少しすると、咲夜さんが料理を運んできた。お待たせしました、って言ってたけどそんなに待ってないよ。
料理も美味しそうなものばかりだ。俺が作らないようなジャンルのものが多いからか、なんか新鮮。
一口食べるとそれはもう絶品でした。流石メイドだからか、料理の腕は半端じゃなかった。庶民の俺とは違うなぁ。
前を見ると、紅魔館の豪華な椅子にきっちりと座るさとりの姿。
「この料理すごく美味しいね」
「そうですね。私も少し料理をしないと...」
「あはは、さとりの手料理だったら喜んで食べるよ」
皆で雑談をしながら食事をする。
パチュリーがどんな本を読んでるのかや、レミリアの一日の過ごし方。
美鈴の日常にフランが大事にしている人形の話。俺の幻想入りの経緯や外の世界での事。
本当にちょっとした話なんだけど、それが楽しい。なんて言うか、充実してる、生きている楽しみがある、みたいな?
皆良い人達だし、自然は多いし、幻想郷って本当に良いところだな。
* * *
「もう行くのかしら?」
「ああ、まだ周りたい所もあるからさ。今度は自分の足で訪問させて貰うね」
紅魔館の門の前。皆で俺達を送ってくれた。こう正面から見てみると、紅魔館って相当大きいな。地霊殿と同じかそれ以上?
それにしても、紅魔館の人達には本当にお世話になった。人を寝てる間に攫っていくのはどうかと思うけど。
「ありがとう、また来るよ」
レミリアにそう伝えると、俺達は紅魔館を後にした。
薄く霧がかった湖。皆で歩いていると、魔理沙が一つ息を吐いた。
「いやー、料理うまかったなー」
「魔理沙、結構食べてたよね。霊夢も凄かったけど」
魔理沙は常識の範囲って感じだったけど、霊夢の食いつきようは凄かったな。
まぁあれだけ美味しければ分かる気もするけど。
「当たり前じゃない、タダで食べられるんだから」
あ、美味しさは関係なかったみたいです。
そんな事を話しながら霧の湖を歩く。こういう場所って結構好き。
霧が醸し出す独特の雰囲気がなんとも言えない気持ちにさせる。
ふと、こいしが俺の方を見て問いかける。
「お兄ちゃん、次はどこに行くの?」
「うーん、俺は人里に行きたいかな。さとりが良ければだけど」
「人里、ですか...」
この辺はさとりの過去に触れることになっちゃうんだよな。やっぱりさとりは待ってる方が良いか。
だけど、さとりの様子を見る限り、なんだか迷っているようだった。
俺達を見て察したのか、霊夢が言う。
「...そういえば家にマントみたいなものがあったと思うけど、使う?」
「そう、ですね。 一回見てみたいです」
さとりがそう言うと、魔理沙がハキハキとした声で言う。
「よし、じゃあ博麗神社に戻るか!」
てなわけで、それを取りに博麗神社に戻ることになりました。
イマイチ効果があるかは分からないけど、無いよりはマシだよな。
「あ、俺はここで待ってるよ。ほら、一緒に行くと移動が大変だし」
「確かにそうね。それじゃあ私とさとりで行きましょうか」
「私も付いてくぜ。ずっとここにいても暇だしな」
霊夢と魔理沙、さとりは三人で博麗神社に向かって飛んでいった。残ったのはこいしとパルスィと俺の三人。
それにしても飛べるって便利だよな。移動とか超速いし。現代の人達が飛べたら車とかいらないんじゃないか。
「ねぇパルスィ、飛ぶってどんな感じ?」
「どんなって... 私達にとっては当たり前だから」
あー、人間で言う手足を動かすのと同じ感じなのか。
手をどうやって動かしてる?って聞かれても、イマイチ説明しにくいしな。
「なんか羨ましいな。いや、こういう時は『妬ましい』か」
「全く...」
パルスィはふん、といった感じで遠くを見た。
俺も同じように湖の方を見ると、遠くに水色と緑の何かが飛んでいた。二つともだんだんこちらに近付いてくる。
見えてきたのは... 何あれ、妖怪?なんだか喧嘩をしているようだけど...
「あたいはサイキョーだから大丈夫なの!」
「だ、駄目だよ、危ないって」
水色の髪に水色の服、水色の目をした女の子と、緑色の髪を片方で結んでいる子が話していた。
二人とも背中に羽根のようなものがある。妖怪と言うより、妖精?
「どうしたの、二人とも」
俺が話し掛けると、緑の髪の子があたふたした様子で言う。
「え、えっと...チルノちゃn」
「あたいがサイキョーだから、あの穴を確かめに行くんだ!」
なかなかに強引な子だな。良く言えば元気がいい、か。昔の妹を思い出すなぁ。疲れるんだけど、一緒にいて楽しい、みたいな。
「それで、その... あなたは?」
「あ、ごめん。俺は真剣碧翔。よろしくね」
このセリフは何回目なんだろう... テンプレになっている自己紹介をすると、向こうも答えてくれた。
「わ、私は大妖精って言います。それで、こっちはチルノちゃん。よろしくお願いしますね」
大妖精にチルノか。チルノは活発で、大妖精は常識人って感じ?なかなか良いコンビだな。
それで、穴がどうのって言ってたけど...俺が問いかけると、二人で交互に答えた。
どうやら、向こうの方に大きい穴があるらしい。
「ねぇお兄ちゃん、それって地底の穴じゃないの?」
「あ... そうじゃないんです。人里の近くにあって、地底の入り口ほど大きくないので」
「大ちゃん、早く行こうよ!」
そこにチルノが行きたがってるのか。うーん、俺は幻想郷に詳しくないからよく分からないな。
パルスィに聞いてみても知らないらしいし。
まぁとにかく、万が一何かあったら二人が危ないし、今は止めておこう。
人里だったら後で俺達も行くし、その時に霊夢と魔理沙あたりが確認すればいいからな。
「と、そんな訳だから、二人はここで待っててね」
「えー、行きたかったー」
チルノはやっとな感じで大妖精に止められた。ほんと騒がs... 元気が良いな。それにしても、穴か...
まぁ霊夢と魔理沙がいるし、大丈夫だよな。あ、フラグじゃないよ。
いかがでしたか?
ちなみにこの話の季節は、まだ夏の後半頃です。
話の進みがどうしても季節に追いつかず...
次回もよろしくお願いします。