今回から地上編です。と言っても三話だけですが。
ちなみに今回はいつもより少しだけ文字が多めです。
それでは、どうぞ。
「お兄ちゃん、はい、あーん」
うん、美味しい。幻想郷って普通の白米でも日本より美味しく感じるんだよな。水が綺麗だからか。なんだかもういつも通り、と感じられるようになった朝。
「そういえば、碧翔が幻想郷に来た日から大体一ヶ月くらい経ちましたね」
「もうそんなにか。何か早いな」
思い返せば最初はこいしのトンデモ発言からこの地底まで来ることになったんだっけ。
霊夢と魔理沙にもお世話になったな。魔理沙は茸が好きで、霊夢はお賽銭への反応が凄くて... ん?お賽銭?
...あ、そういえば...
『そうするか。霊夢、さっきは色々ありがとう。今度またお賽銭入れに来るよ』
『本当に!?』
こんな会話を交わしたような... お 賽 銭 入 れ に 行 っ て な い 。
や、やばい... 霊夢のあの感じだと絶対覚えてる。これは怒られそうだぞ。お賽銭を入れないから怒る巫女ってどうかとも思うけど。いやー、恐ろしいよ絶対。まぁ、ついでに地上に行くのもいいかもしれないけどさ。俺地上は全然知らないし。
地底に行く最中も魔理沙の箒が怖すぎて、周りをほとんど見てなかったからな。
「と、そんな感じなんだけど、どう?」
「どう、と言われても... まぁ確かに、碧翔は一度地上に出てもいいかもしれませんね」
このまま無視してると霊夢に殺されかねないし、一回地上に行ってみるか...?うーん、でもそうなると、色々問題が出てくるな。
まず俺、空飛べない。アイ キャント フライ。地底まで魔理沙の箒で来たけど、こっちから行くのはどうしよう。その後も移動手段が歩きになるし。うーん、参ったな...
「その...私が運んでいくのはどうですか?」
「あー、でもそれ危なくない?というかさとりも行くの?」
人間や妖怪に嫌われてこの地底にやって来たんだろうから、地上に行くのは良くないんじゃないか。彼女からしたら恐ろしいだろう。
「...博麗神社だけなら私も大丈夫です。一緒に...行きたいです」
何かを決心したように、そう答えた。
* * *
「...それで?何で私まで...」
「さとりだけだと俺の移動に問題があってさ。パルスィには頼ってばかりで本当に悪いんだけど、お願いできないかな」
今はパルスィに地上まで一緒に来てくれないか頼んでいるところだ。さとりだけだと色々問題があるから、ということでお願いしている。
「全く... もう、分かったわよ、今回だけね。ああ妬ましい」
「ありがとう!助かるよ。出発は明後日にしようと思ってるけど大丈夫?」
「別に、問題ないわ」
そんなこんなで、皆で地上に行くことが決定。いやー、幻想入りした時以来だし、久しぶりだな。パルスィも大丈夫らしいし、俺も準備しないと。とりあえず今日は地霊殿に戻るか。
「あ、お兄ちゃんおかえり!」
「ただいま、こいし」
玄関を開けるとこいしがお出迎え。相変わらず元気がいいな。さてと、それじゃあ少し休んでから準備するか。
そう思い、部屋に行こうとすると、服の裾を引っ張られた。
「ねぇ、私も一緒に行っていい?」
「ああ、もちろん良いけど」
「やった♪」
そう言うと、元気に部屋に戻って行った。えーと、俺とさとりとこいしとパルスィ... 全部で四人か。地上はかなり久しぶりだし、明後日が楽しみだ。
部屋に戻ると、ベッドに寝転がる。
準備って言ってもそんなに長居する訳じゃないだろうし、必要なものとかあるか?あ、そういえば...
机の方を見ると、そこには電池切れの俺のスマホ。こいしがゲームを遊んでいた時に切れたんだっけ。今は充電するすべが無いけど、河童だっけ?確か機械を扱っている人がいるって言ってたな。時間があったら寄ってみようか。
そんなこんなで二日後...
俺達四人は地底と地上を繋ぐ穴の真下まで来ていた。
「さてと... ここまでやってきた訳だけど、どう上ろうか」
おんぶってのは何かあれだし、後ろから持ち上げられるのも色々と危ない気がする。
「考えてなかったの?」
「いや、ほらさ、皆女の子だし、差し支えないように運ぶのはどうしたらいいのかと...」
やっぱりお姫様抱っこ的なのが一番良いのか?女の子にお姫様抱っこで運ばれる男ってどうなんだろう...
「あーもう、いちいち面倒だし、私が運ぶわよ」
パルスィはそう言うと、俺に近寄り持ち上げる。さすがは妖怪、力は相当あるみたいだ。結局お姫様抱っこになりました。ちなみに正式名称は横抱きって言うらしい。
「よーし、それじゃあ上に上がっていこう!」
こいしの一言で上に上がり始める...けど、うわ、これ半端じゃなく怖い。
魔理沙の箒と同等かそれ以上だ。下が見えないと逆に恐怖だな。何か不安定な感じするし。
「だ、大丈夫だよね?」
「別に故意に落としたりしないわよ」
まぁそこは信用してるけど、バランスとか大丈夫なんだろうか...
そんな事を考えていると、さとりが近寄ってくる。
「まぁ見たところ特に問題ないですし、私も見ているので心配いりませんよ」
「あ、あはは... ありがとう」
いやー、女の子に運ばれるわ、心配されるわでなんて情けないんだ俺。
しばらく上がっていると、だんだんと光が見えてくる。上がっていくうちに光の量は多くなっていき、やがて視界全体を包んだ。
ゆっくりと目を開けると、そこには青い空。顔を横に向けると、青々とした木々が立ち並んでいた。
久しぶりの太陽の光。深呼吸をすると、新鮮な空気が体に流れ込んでくる。うわ、すごい空気が爽やかだ。
「太陽の光を浴びたのはいつぶりでしょうか...」
さとりがそう呟く。確かに、俺とは比べ物にならないくらいの間地底にいたんだよな。そう考えると半端じゃなく久しぶりなのか。
「ねーお兄ちゃん、これからどうするの?」
「とりあえず博麗神社に行くかな。これ以上遅れると霊夢に殺されかねないし」
と、言うことで博麗神社へ。ところで、この状態で移動ってかなり恥ずかしいな。
* * *
さぁさぁ、見えてきました博麗神社。お賽銭を入れると言っておいて、一ヶ月も放置してたけど大丈夫か。
パルスィには少し前で降ろしてもらった。あのまま行くと変な勘違いされそうだし。
「霊夢は... いないみたいだね」
こいしがそう言った。確かに見たところ姿は見えないけど...。俺はポケットに入れていた財布を取り出す。
結構な間放置してたし、謝罪の思いも込めて五百円を二枚。ほら、お札だと音がしないし。
お賽銭箱に投げ入れると間もなく、奥の方から走る音が聞こえてきた。
「お賽銭!しかも多そう!」
...どれだけ飢えてるんだろう。何か可哀想になってきた。
ダッシュでやってきた霊夢は相変わらずの巫女服だ。この服、冬とかどうしてるんだろう。
腋が出てるし薄そうだし、絶対寒いでしょ。冬用のとかもあったりするのかな?
「あ、碧翔じゃない。それに皆も」
「久しぶり。おかげさまで今も元気に暮らしてるよ」
もしここに霊夢がいなかったらどうなってたか分からないし、本当に感謝している。
格好が怪しすぎて、最初はどんな人かと思ったけどな。
霊夢は俺達の方を見て、目を細める。明らかに何か言いたげな様子だ。
「碧翔は別に何もしてませんよ。仕事を手伝ってくれたりして、助かっていますし」
何もしてないってどういう意味だ? なんか前も似たような事を言われた気が...
「ふーん... それにしても、あんたが地上に出てくるなんて珍しいわね。しかもパルスィまで」
「別に、私はこいつに頼まれたからついて来てやっただけよ」
あはは... 何かごめん。それにしても、どうしようか。一応目的は達成した訳だし、もうここを離れても良いんだけど...
ちらっとさとりの方を見る。
「私達の用事は済みましたし、邪魔になるならもう出ていきますが」
「いえ、別に大丈夫よ。お賽銭してくれたし、丁度魔理沙も来てるから上がっていけば?」
また魔理沙?最初の時も来てたし、もうご用達の場所なのか。
俺達が部屋に向かっていると、後ろから「千円!これで潤うわ!」なんて声が聞こえてきた。
...今度地霊殿に招待でもしてあげようかな。
襖を開けると、俺が最初に案内された部屋。あの時と特に変化はないみたいだ。
部屋の中心では、魔理沙が寝転がって煎餅を齧っていた。
「あー、やっと戻ってきたか。って、碧翔。久しぶりだな」
向こうも俺に気が付く。ゆっくり起き上がると、体を伸ばして大きく欠伸をした。
「お前ら、碧翔に何かされてないか?」
「魔理沙もそれ言う?何で二人とも俺をそんなに信用してないの?」
「はは、冗談、冗談」
そんな冗談いらないんだけど。まぁ魔理沙も元気みたいで良かった。
そこで、こいしが俺に駆け寄ってくる。
「ねぇねぇ、なんかお腹すいたー」
ああ、もう昼か。確かに俺も少し空いてきたな。と、皆の視線が俺に向く。あ、これは
* * *
予想通り俺が作ることになりました。まぁ皆美味しいって言ってたし、良かったけど。
うーん、俺は構わないけど、これだけ女の人がいるのにわざわざ男が作るってどうなんだろう。
まぁ最近は男の人が家事をしてる家もあるらしいからね。
そんな感じでご飯を食べて、雑談して、気が付くともう外は真っ暗。
用事は済ませたし、もう帰ろうかと思ったけど...
「外は危ないし、泊まっていけば?」
霊夢の一言で今夜は博麗神社に泊まることに。夜は危険らしいし、ありがたい。これが千円の力か。
折角来たんだし、明日も少し地上を回ろうかな。
それで今は布団を敷いてる途中。ひとつずつ運んで準備していく。
そこでこいしが唐突にこんな提案をしてきた。
「ねぇ、私お兄ちゃんと一緒に寝たい!」
「え」
全員の声が重なる。いやいや、流石にそれはまずいって。
もともとは俺だけ男だから、違う部屋で寝ようと思ってたんだけど...
「いや... それはあんまり良くないと思うな、俺は」
「えー、なんで?あ、お姉ちゃんも来ない?」
いやいやいや、流石にそれはさとりも嫌がるんじゃないか?
そう思いながらさとりの方を見ると、顔を赤くして何かをぶつぶつと呟いていた。
「あー、さとり?」
「い、いや、私は別に、その...」
よく分からないけど、どうしよう。どうにか説得するか。
そんな事を考えていると、霊夢がため息を吐いて立ち上がる。
「じゃ、私達はあっちで寝ることにするわ」
「ふん、妬ましい。ほら、魔理沙も行くわよ」
そう言って皆は部屋から出て行った。
「あ、ちょっと!?」
...本当にどうしよう。部屋に取り残された俺達三人。
結局右にこいし、左にさとりといった感じで、挟まれて寝ることに。うーん、なんでこうなったんだろう。
左右に二人がいるからか、いつもより暖かい。というかこいしなんて思いっきりくっついてるし。
「お兄ちゃん、おやすみー」
「あ、おやすみ、なさい...」
えーと。まぁとりあえず...
「あぁ、おやすみ」
次の日。
「ふわぁ... あー... あれ?」
目が覚めると知らない天井でした。
いかがでしたか?
今回は挿絵も入れてみました。
昼から描き始めて、気が付いたら夕方になっていましたが。
次回もよろしくお願いします。