東方読心録   作:Suiren3272

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どうも、こんばんは。
いやー、明日は月曜日ですが休みですよ。敬老の日万歳。
やっぱり嬉しいです。ずっと家に引きこもっていたい。って、超ニート発言ですね。
それでは、どうぞ。



第十二話 ~大中小、どれがお好み?~

 地霊殿の朝。外の世界に居た頃とは違って、学校も用事も無いからか、ついだらだらしてしまう。

 朝起きた時に気兼ねなくそのまま寝ていられるっていいなあ。夏休み中なんかもそうだけど、学校のこととか気にしなくて良いから、気が楽だ。いや、部活をやってたりすると、また別なんだろうか。

 

 まあ、だからってずっと寝ているのも良くない。このままだとダメ人間になりそうだし、適度に外に出た方がいいな。

……そういえば、休みの日にごろごろしてたら妹に怒られた事があったっけ。

『体に良くないし、お腹空いたから朝ご飯作って』って。 珍しく口を開いたと思ったらこれだった。優しいんだか自己中なんだかよく分からなかったな。

 布団に少し名残惜しさを感じながらも、ベッドから降りる。大きく伸びをしてから、廊下に出た。

 

 

 

「うにゅー」

「ごめん空、ちょっとおも……いや、やっぱ何でもない」

 

 なぜか廊下で空を背負っている俺。どうしてこうなった。

 いや、廊下を歩いていたら、この前は結局おんぶをしなかったから、という理由で空が乗っかって、半強制的にこの状態になったわけなんだけど……なんて言うか、その……OMOIDESU。

 まあ、前におんぶしたこいしは小さいから軽いだけだと思うし、本当はこれくらいが普通なんだよな。むしろこれ以上軽いとさとりがペットの世話をしていないことに。

 ただ、もともと運動する方じゃなくて、更に幻想郷で怠けてた俺からすると大分やばい。

 

……おまけに、空が動くたびに背中に色々当たってるんだけど。なんかのラブコメで見たぞこういうの。

 なるべく背中から意識を逸らそうと努力しつつ歩いていると、突然傍の扉が開く。部屋から出てきたさとりとご対面になりました。

 

「あ、おはよう」

「おはようございます。またお空と遊んでくれているようですね」

「俺は望んでないんだけどね……」

 

 苦笑いをしつつ廊下を進む。

 そろそろ膝と腕が疲れてきた。背中の件もあるし、俺としてはもうそろそろ降りて頂きたいのですが。

 その様子を見ていたさとりが、空に言う。

 

「お空、そろそろ降りなさい。碧翔が大変そうよ」

「んー、分かった」

 

 そう言うと俺の背中から降りる。ナイスですさとりさん。いたわってくれたのか健全な教育のためなのかは分からないが、何にしろ助かった。

 それにしても、まだ背中になんとも言えない感触が残っている。……なんか、外見が同い年くらいということもあって罪悪感があるな。こいしの方はそんなことないんだけど。

 ちらりと横目でさとりの方を見る。こいしとさとりは……なんというか、そういう女性的な部分を感じないからだろうか。

 

「……こほん」

 

 さとりがわざとらしく咳払いをする。

……能力のこと忘れてた。そういうつもりで思ったわけじゃないけど、失礼だったな。

 ごめん、と一言心の中で謝っておいた。

 

 

* * *

 

 

 メーデー、メーデー、こちら碧翔! 今鬼達に襲われています! あ、もちろん変な意味じゃないです! 至急救援をお願いします!

 心の中でそう叫びながらさとりの方を見るが、向こうは目を逸らす。さとりー!

 

「よし、いくぞ!」

「うわぁ、待って! 本気で殴られたら死ぬから俺!」

 

 二回目だけど、どうしてこうなった。

 ついさっき、この前裏道で殴られた話をパルスィから聞いた鬼が、宴会誘いついでに地霊殿へとやってきた。勇儀が『旧都を一人で歩くなら、もう少し強くないとな』なんて言いながら稽古をつけてやる、と言い出したんだけど……。

 前を見ると、爛々と輝いた目。この人絶対自分が戦いたいだけじゃん迷惑すぎる……!

 戦闘狂の餌食になるのは本当に勘弁だ。さっきも言ったけど、俺運動神経は良くない。いや、そもそもこの場合は運動神経以前の問題だし。

 

「なんだよ、やんないのか?」

「いや、俺が人間だってこと忘れてるよね?」

 

 勇儀はわざとらしく残念そうな顔を作りながら、考えるような動作をする。直接的な戦い以外でお願いします。

 

「しょうがないし、まともにやるか。じゃあ拘束された時の対処法なんてのはどうだ?」

 

 まともにとか言っちゃったよこの人。今までのはなんだったんだ。

 とりあえず一通りの説明を受けてから実践してみることにする。習うより慣れろってよく言うけど、個人的にその方式はあまり好きじゃない。

 

 まずは拘束されないといけないので、腕を横に開いて直立する。締め上げるような感じで勇儀は脇の下あたりから腕をまわして拘束した。

 

「お、おお……思ったより何倍もしっかりしてる……というかこれ、全く動かないんだけど」

「力で拘束を解こうと思っても上手くいかないぞ。妖怪だろうが人間だろうが、人型の骨格をしてる奴は関節の可動範囲に限界がある」

 

 おお、すごいまともなことを言ってる気がする。さすが、伊達に鬼やってるわけじゃないな。

……が、一つ気づいてしまった。

 

「ちょ、ちょっと勇儀……」

「どうかしたか?」

 

 今のこの拘束の体勢、空の時と同じくかなり背中に当たる。何がとは言えないけど、さっきといい今といい、どういう日なんだ今日は。

 さとりが何か言いたそうな表情でこちらを見る。今回は完全に不可抗力だし、苦笑いをするしかない。

 

 まあ……とりあえず今は、勇儀の稽古に集中するとしよう。うん。

 

 

* * *

 

 

「今日はこの位にしておくか」

 

 勇儀の言葉を聞いて、思わず近くの椅子に勢いをつけて座った。いや、疲れた。体が鈍ってたのもそうだし、やっぱり妖怪の指導はきついよ。

 

「私は飲みに行くとするか。旧都に行く時は気を付けてな」

「ああ、ありがとう」

 

 そう言って勇儀は地霊殿から出ていった。宴会ついでと言っていたけど、結局何がしたかったんだろう。

 とりあえず……疲れたし、部屋に戻って一休みするか。

 そう思って部屋に行こうとすると、さとりに呼び止められた。

「お疲れ様でした。部屋で休むのも良いですけど、その前に紅茶でもどうですか?」

「ああ、いいよ。喉も渇いたし」

 

 時刻は三時半を過ぎていた。地上の方はもう少しで日が傾き始める頃だろう。

 さとりはキッチンの方へ行くと、ティーカップとポットを持ってきて、椅子に座った。

 紅茶というのは、使う道具や淹れ方でかなり味が違ってくるとどこかで聞いたことがある。普段からティーバッグで適当に淹れている俺には全く分からないけど。

 

 という事で、二人で少し遅めのおやつタイムだ。

 透き通った水色(すいしょく)の紅茶が目の前のカップに注がれる。

 紅茶を注いでいるだけだが、優雅さを感じさせるその動作が妙にさとりに似合っていて、写真でも撮りたいなんて思ってしまった。

 小さめのバスケットに入った一口サイズのクッキーがお茶請けとして横に置かれる。昔からお菓子とかスイーツなんかが結構好きで、余計に女子っぽいと言われる原因になってるな。

 

「じゃあ、いただきます」

 

 ティーカップからはうっすらと湯気が立つ。一口飲むと、紅茶のほどよい苦さと香りが身に染みていくような感じがした。砂糖とかミルクを入れたのも良いけど、やっぱり本質を楽しむんだったらストレートだよな。甘いお菓子とも合うし丁度いい。

 クッキーの方も一つ、食べてみる。丸いシンプルなデザインに沿うように、味も素朴で紅茶によく合う。少し控えめな甘さがしつこくなくていい感じだ。

 

「どうでしたか? あの人の指導は」

「まあ、ちょっと強引なところもあるけど、分かりやすいし色々教えてもらったよ。おかげで明日は筋肉痛になりそうだけど」

 

 そう言って肩を軽く回してみせる。少しの指導で実戦で使えるのかはさておき、身を守る方法は知っておいた方がいいし、何よりいい運動になった。

 そうやって勇儀の言葉を思い出していると、つい背中の感触も一緒に思い出してしまう。

 

「……へ、変なこと考えないでください」

「ご、ごめん、そんなつもりはないんだけど、つい」

 

 いやいや、ついって何言ってるんだ俺。

 すると、さとりが少し俯き気味にぽつりと言った。

 

「……やっぱり、大きい方がいいんでしょうか」

 

……え、これ俺に言ってるの?

 

「あ、ご、ごめんなさい、なんでもないんです」

 

 いや、思いっきり聞いちゃったんだけど俺。

 さとりはますます下を向く。

 まあ、もちろん俺も男なわけだし、そういうことは考えないわけじゃないけど……ふざけて友人に聞かれたことはあったな。特大か極小かどっちがいいですか、みたいな。今考えると学生の馬鹿らしい会話だけど……結局俺は答えなかったんだっけ。

 

「なんというか、まあ気にすることないんじゃない? ほら、人間重要なのは見た目じゃないしさ」

「……」

 

 説得力が無さすぎるが仕方ない。というか何について語ってるんだよ俺は。

 まあ……真面目に考えるなら、実際のところ気にしない。というか、まず考えたことがない。けど……どちらか選ばないと死ぬって考えたら、多分、小さい方だと思う。霊夢と魔理沙の勘違いに追い討ちをかけそうだから絶対言わないけど。

 と、さとりが口を開く。

 

「……その。碧翔も、意外と男の子なんですね」

「……え? いや、その」

「か、カップはそのままで大丈夫ですよ。後で私が片付けますから、碧翔は部屋で休んでください」

 

 そう言うと、紅茶を飲み干して席を立つ。さとりは小走りで部屋から出ていった。

 それからしばらくの間、さとりとの会話がどこかぎこちなくなった。今回のことが原因だったのは明らかだけど……。

……えーと。どういうことだったんだ?

 




いかがでしたか?
ちなみに私は大きさより形だと思います。はい。
次回もよろしくお願いします。

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