東方読心録   作:Suiren3272

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皆さん、こんばんは。
今日はとても涼しくて、過ごしやすかったですね。
ずっとこんな日が続いてくれると嬉しいです。
それでは、どうぞ。


第十一話 ~ああ、妬ましきかな~

 

 橋姫。橋を守る女神のことだけど、伝承によっては鬼女や妖怪に類することもあるらしい。日本では……宇治の橋姫ってのを聞いたことがあるような。妬む対象を殺すために鬼なりたいと願ったり、割と怖い所もあると。あ、地霊殿にあった妖怪辞典情報です。こう聞くと、現実で会ったりは絶対したくないな。まあ、今まさに目の前にいるんだけど。

 

「ヤマメ……あんた、分かってる?」

「いだだだだ!! ごめん、ごめんって!」

 ヤマメに何かの技をかけている。なんだあれ、柔道か? でもまあ、幻想郷の橋姫は世話焼きだし、なんだかんだで優しいからな。別に怖くない……。

「ぎゃあぁぁ!! 碧翔ー! 助けてー!」

 ヤマメの悲鳴が凄い。……前言撤回とまでは言わないけど、やっぱりちょっと怖いかも。

 

 

 事の始まりは……今日の朝だったか。

 

「この人はそれを伝えたかったのではないですか?」

「あー、そういう捉え方もあるのか」

 今はさとりと二人で推理小説の内容について語っているところだ。やっぱり普段から沢山本を読んでる人は考え方とか発想力がすごいと思う。自分じゃ思い付かない事も色々あるからなんか面白いな。

 

 話が一段落したところで、大きく伸びをする。

「あー……しばらく体を動かしてないと、逆にだるくなるんだよな」

 もともと俺はあんまり運動する方じゃないけど、休日なんかはよく買い物に行ったりしていた。幻想郷に来てからは外に出ること自体、前と比べて少なくなったし、たまには旧都に行くのも良いかもしれない。気分が暗い時は、体を動かすとすっきりしたりもするし。現代の見慣れた風景と違って、幻想郷(地底だけど)は新鮮味があるからな。

 

「よし、気分転換に散歩でもしてこよう」

「一人で大丈夫ですか?」

「うん、道は大体覚えたし、そこまで遠くには行かないよ」

 俺はさとりに「行ってきます」と一言言うと、地霊殿を出た。……これで迷子になったりしたら相当恥ずかしいな俺。

 

 

* * *

 

 

 相変わらず旧都は活気に満ち溢れていた。店での話し声、酔っ払いの叫びなど、なかなかに騒がしい。まあそこが良い所でもあるんだけど。ただ、周りを見ると妖怪、妖怪、妖怪……たまに妖精。人間が一人もいないんだよな、ここ。周りからの視線もなんとなく感じるし、人間が一人で歩いてるのは異例なのかもしれない。

 

 大通りが騒がしかったため、少し入った所の路地に行くと、人の声は大分遠くになった。この辺りの道はそんなにはっきり覚えてないけど、少しくらいなら大丈夫……だと思う。多分。

 しばらく歩いていると、遠くの方に人影が見えた。こんな所も歩いたりするんだな。向こうも近付いてきているようで、影は段々と大きくなっていく。やがて姿が見え、すれ違おう、という所でお腹の辺りに衝撃が走った。

 

「てめえだよなあ、地底で暮らしてる人間ってのは」

 どうやら殴られたみたいだ。お腹を殴られた時特有の不快感が広がる。痛った……急に人を殴るってなんなんだ?

「今までこの地底に人間が留まることは無かった……。こんな所に好き好んで住み込むやつはいねえし、いたとしても俺が消してたからな」

 倒れ込んだ俺を見下すように言う。

「だがお前はまんまと地霊殿に住み込みやがったんだよ」

「……それとあなたに何の関係が?」

 

 そいつは俺に蹴りを入れると、表情を変えた。

「気にいらねえんだよ、人間がここでのうのうと暮らしてるのが」

 そんな理由で殴ったのかよ。随分と自己中な……。

 すると今度は俺の胸ぐらを掴んで持ち上げる。そのまま顔に思いっきりパンチを食らった。人……正確には妖怪だけど、思いっきり殴られたのは初めてかもしれない。

 

 これはまずいな……。ここは大通りからは離れた裏路地だし、その大通りもかなり賑わってるから、叫んでもおそらく聞こえない。霊夢やさとりの話によると、人間と妖怪にはかなり力の差があるらしいし、立ち向かってもまず勝ち目は無いだろう。

 目の前の妖怪は、再び倒れ込む俺に再度近付こうとする。どうする……? どうすればいいんだ?

 

 と、その時。

 

「ガッ!?」

 

 妖怪に光の弾のようなものが当たり、吹き飛んでいった。

 

 弾が飛んできた方を見ると、そこには金髪緑眼、エルフ耳の橋姫が。

「あ……パルスィ?」

 妖怪が倒れたことを確認してから、俺の方に駆け寄ってくる。

「――大丈夫?」

「あ……うん、多分」

 助かった……のか? パルスィはいつも通りではあるけど、その表情はどこか心配そうだ。

「はあ……まったく……やっぱり妬ましいわね」

 彼女は安堵したように息を吐くと、俺に近づいて手を出してきた。やっぱり、少しぶっきらぼうだけど優しい一面もあるんだよな。

 

「こんな所で何をしていたの?」

「ああ……散歩、かな。なんかこういう脇道みたいなところって、入ってみたくなるんだよね」

「……ほんと馬鹿ね。人間が一人でいることの危険性を理解してないの?」

「……ごめん」

 俺は差し伸べられたパルスィの手を借りて、ゆっくりと立ち上がる。痛むところも多いけど、そこまで大怪我はしていないようだ。

「それじゃ、行くわよ」

 そう言うと、俺の手を掴んだまま歩き始める。

 

「行くって、どこに?」

「……そのまま帰るつもりなの?」

 ん、どういうことだ? ……と、さっきから少し痛んでいた鼻の辺りを触ると、ぬるっとしたものが手に付く。うわ、鼻血だ。なんか久しぶりだな、こんな怪我したの。さっきは状況的に気付かなかったが、それ以外にも少し擦りむいたりしているみたいだ。

 ……確かに、絆創膏だけだと菌が入ったりもするし、今回は厚意を受け取ることにしよう。

 

 パルスィに手を引かれ、通りの方へ出る。

「そういえば、さっきの人はあのままでいいの?」

「そのうち目を覚ますだろうし、勇儀に報告でもしておけば大丈夫だと思うわ」

「そ、そっか」

 裏通りで放置プレイにしておくらしい。酷い奴だとは言え、少し気の毒だな。

 

 

* * *

 

 

 しばらく歩き、人通りの少ない、通りから離れた所までやってきた。

「ここよ」

 和風の一軒家の前でパルスィが止まる。どうやらここがパルスィの家みたいだ。木造だと思われるこの家は、全体的に和の雰囲気が漂っている。庭もあるが、特に目立つ物は無い。簡素な感じがパルスィらしくて、なんだか少し笑みが溢れた。

 お邪魔します、と一言言うと、せっせと進むパルスィに続いて中に入る。外見と同じく、家の中も和風だった。

 おそらく客間だと思われる所に案内され、一通りの治療を受ける。まずは消毒からなんだけど、超痛かった。あれだよ、綿みたいのに染み込ませた薬をつけるやつ。下手すると殴られた時よりも痛いのでは……? まあ痛みの種類が違う気もするけど。その上から絆創膏を貼ってとりあえずOK。他も同じように。

 

 パルスィは最後の怪我に絆創膏を貼ると、救急箱をパタンと閉じた。

「はい、終わり」

「ありがとう。なんか悪いな、こんな時間に」

 時計を見るともう夕方。日本に居た時はもう夕食の準備をしてたっけ。ぐぅ、と俺のお腹が鳴る。時間的にお腹が空いてきたな。パルスィはお腹の音聞くと、溜め息を吐いて立ち上がる。

「……少し待ってて」

 そう言うと、台所の方へ向かった。もしかして夕食を作ってくれるんだろうか。ちょっと悪い気もするけど……でも、パルスィの手料理は是非食べてみたい。もちろんどうかは知らないけど、パルスィの事だし絶対上手だ。そういえばさとりも一応できるって言ってたな。今度頼んでみようか。

 

 しばらく待っていると、いくつか料理が運ばれてくる。和風な料理が多く、どれも美味しそうだだ。料理の内容も、パルスィのイメージと合っていてなんかいいな。

 一通りの品が並ぶと、俺の向かい側にパルスィも座り、二人で手を合わせる。

「じゃあ、いただきます」

 そう言ってから、一口食べる。……おお、美味しい。この肉じゃがは濃すぎず薄すぎず丁度いい味付けだし、焼き魚も身がふわふわだ。食レポみたいなのは得意じゃないから表現が分からないけど、すごく美味しい。語彙力が欲しいね。

 

「美味しいな、これ。治療してくれた上にご飯まで、本当ありがとう」

「あんたが妬ましいからよ。……どういたしまして」

 そう言うと、彼女は視線を逸らした。しばらく他愛のない話をしながらご飯を食べていると、玄関の方から引き戸が開く音がした。

 

「おーい、パルスィいるー?」

 そう言いながら中に入ってくる。ヤマメみたいだ。幻想郷の人って皆ノックとかしないよね。

「あ、パルスィが男連れ込んでる」

「何言ってるのよ。こんな奴わざわざ連れ込むと思う?」

 いやなんかひどい言われようなんだけど。成り行きでこうなったんだし、連れ込むっていうのは表現が違う気がするな。

「またまたー。ご飯まで提供しちゃってるし、ちゃっかり女子力アピールして……っだ!?」

「ヤマメ……あんた、分かってる?」

「いだだだだ! ごめん、ごめんって!」

 

 ……と、まあこんな感じだ。

 

 

 

「それじゃあ、今日は色々とありがとう」

「今度は気を付けなさいよ」

 パルスィ家の玄関。俺は自分の靴を履くと、パルスィにお礼を言って家を出た。ヤマメがパルスィの後ろで蹲ってたけど、あえて無視。ヤマメ、頑張れ。時には荒波に揉まれるのも大事だよ、うん。

 

 

* * *

 

 

「ただいまー」

 もう割と見慣れた地霊殿の玄関。やっと帰ってこれた。

 でもほんと、パルスィのおかげで助かった。あそこでパルスィが来てなかったら、どうなってたか分からないもんな。とにかく、これからは気を付けよう、本当に。

 今日の事を反省しながら玄関の扉を開けると、なぜか玄関の前にこいしがいた。

「あ、お兄ちゃん! 良かった……どこ行ってたの?」

 ああ、散歩に行ったきり数時間も帰ってこなかったら、そりゃあ心配もするよな。

 

 と、奥からさとりも出てくる。

「碧翔! 随分遅かったので心配してましたけど、良かったです」

「ごめん、ちょっと色々あってさ、パルスィの所でお世話になってた」

「色々って……あ、怪我してるじゃないですか!」

「まあ、その、本当に色々……」

 

 その後、さとりに事情を話したら普通に怒られた。まあ、今回のことは完全に俺が悪いもんな。

 でも……こうやって心配してくれる人がいるのは、本当にありがたいことだな、って思ったりもする。そんな人達のためにも、これからは心配をかけるようなことがないようにしていこう。そう、改めて実感した。




いかがでしたか?
最近料理系の話が多いですが多分気のせいです。ええ。
次回もよろしくお願いします。

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