東方読心録   作:Suiren3272

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どうも、こんにちは。
少し、と言うよりかなり早い気がしますが番外編です。
今回は文字数が少なくなってしまった...。いつもと違う視点で書くのは難しいです。
それでは、どうぞ。


番外編 ~彼への思い~

『来ないでよ……気持ち悪い』

 

 皆が私を避けていく。

 

『近付くな、覚妖怪』

 

 皆が私を否定する。

 

『ここから出ていけ!』

 

 居場所なんて、どこにも無くて。

 

 

 それが当たり前になって、いつしか人間に希望を抱くことは無くなっていた。

 私に近寄るのは、ただの迫害支配したがりと、一時的な同情で理解したと勘違いしている愚人だけ。

 

 どうせまた避けられ、嫌われ……理解する人間はいない。

 

 それが道理だと、ずっと思っていた。

 

 

 けれど――。

 

「さとり、大丈夫? ぼーっとしてるけど」

「あ……何でもないですよ、すみません」

「そう? 頼りないかもしれないけど、何かあったら、言ってくれれば聞くよ」

 

 ――彼だけは、違った。

 

 

* * *

 

 

 ある日突然、こいしが碧翔を連れてきた時は驚いた。こいしが人間を気に入る、というのもあるけれど、自分から望んで地底に来る人間なんて、今までいなかったから。

 地霊殿に住むなんて話が出て、最初は疑ったりもしたけれど……でも、彼は何故だか嫌な感じがしなかった。不器用な言葉で一生懸命に伝えようとしてくれて。慌てて色々言ってから、結局全部取り消そうとして。

 何故だか、思わず笑みが溢れた。何故だか、彼を信用してみようと思えた。

 

 最近の碧翔は幻想郷の暮らしにも慣れてきたらしく、大分落ち着いているみたいだ。地霊殿の仕事を手伝ったり、こいしと一緒に遊んでいたり……。私も、彼と話す時間ができて、今までの生活より充実している気がする。彼が来てから、パルスィやヤマメ、他の地底の人達との関わりも増えた。

 ――今は……碧翔を迎え入れて、良かったと思う。

 

 

 

「ご馳走様でした。今日も美味しかったよ」

「ええ、何よりです」

 いつも通りの昼。今日はご飯に味噌汁、その他諸々の和食。似合わないなんて言われるけれど、私は結構好きなんですよ? 碧翔は茶碗のご飯を食べ終えると、水を一口飲んでから伸びをする。

「あー……少し食べ過ぎたし、気分転換に中庭にでも行こうかな。さとりも来る?」

 

 私も丁度食べ終わったところだ。部屋で本でも読もうと思っていたけど、少し外の空気を吸うのもいいかもしれない。とは言ってもここは地底だし、本当は外とは少し違うけれど。

「そうですね……折角ですし、ご一緒します」

「ん、じゃあ行こうか」

 そう言って部屋の扉を開ける。そうして、二人で中庭へと向かった。

 

 

* * *

 

 

 外に出ると、元気よく走り回っていたり、噴水に入っていたりするペット達の姿が目に入った。遊ぶのはいいのだけれど、そのまま中に入られると困る。廊下が水浸しになっていたり、部屋のものを汚したり……片付けに困る。

 二人で他愛のない話をしながら、ベンチに座った。

「やっぱり、幻想郷っていい所だよね。前に地上も少し見たけど、自然が多くて気持ちよかったし」

「そうですか? もうずっと居るのでよく分からないですね」

 何百年もここに居るからか、すっかりこの環境に慣れてしまった。逆に、私たちからしたらとても珍しい外の世界も、碧翔からすれば見飽きているんだろう。

 と、ここで外の世界について少し興味が湧いたので、聞いてみることにした。

 

「碧翔が今まで暮らしていた、外の世界はどうだったんですか?」

 私の言葉を聞くと、少し考えるような動作をする。それと同時に、様々な思考が流れ込んできた。

「うーん、外の世界か……こことは違って、建物がいっぱいあるかな。後は車とかの乗り物が走ってたり」

「なるほど……確かに、幻想郷とは随分違いますね」

 彼の思考には、とても高い建物が沢山あったり、よく分からない乗り物が動いていたり、様々な文明が発達しているみたいだ。気にはなるけれど、行きたくはない。なんとなく、そう思った。

 

「あ、あと蒼月と青澄っていう友達がいるんだ。三人とも名前に『あお』って読める字が偶然入っててさ、そこから仲良くなったんだよね」

 彼は楽しそうに話をする。その二人との思い出や昔の記憶が、能力で全て分かってしまう。なんとも言えない居心地の悪さが胸に溜まっていくようだった。

「あの……碧翔は、ずっとここにいるんですか?」

「え? あー……急にどうして?」

「あ、いえ……何でもないです、すみません」

 何を聞いているんだろう、私は。一度深呼吸をして気持ちを落ち着ける。ところが、彼はこちらの表情を少し伺ってから、口を開いた。

 

「うーん、そうだなあ……今までの生活はもちろん悪くなかったけどさ、ここでの暮らしも、楽しいな……って思えるんだ」

 私の方を見ながら言う。目が合ってしまい、思わず視線を逸らした。

「それでさ、もう少しここにいたい、って思うんだよね。どうなるかは分からないけど、まだ帰るつもりは無いかな」

 嘘のない言葉。彼の表情を見ると、なんだか安心できた。……やっぱり、碧翔といるとどこかゆっくりできて良いな……。

 

「なんか、はっきりした答えじゃなくてごめん」

「いえ、大丈夫です。変な事聞いてしまってすみません」

 噴水がさらさらと流れる音が心地よい。辺りは静かで、自然たちのささやきだけが聞こえる。

 しばらくそんな時が続いて……ゆっくりと、私は碧翔に寄り添う。いつの間にか彼の肩に頭を預けていて……彼の少し驚く思考が伝わってくると共に、私は目を閉じた。

 

 

* * *

 

 

「ふわぁ……」

 一つ大きな欠伸をする。碧翔と別れてから、私は部屋に戻っていた。今日の分の仕事は午前中に終わらせたため、今は本を読んでいるところだ。

 一通り読み終わったところで、部屋の扉がノックされる。どうやらお燐みたいだ。

「さとり様ー、少し良いですか?」

「ええ、大丈夫です。入って下さい」

 私が返事をすると、扉が開く。書類を持ったお燐が部屋に入ってきた。

 

「これ、終わりましたよ。って、やったのは碧翔だけど」

「碧翔が?」

「簡単な計算だけだったから、やらせてくれ、って。まあ一応私がチェックしたけど、大丈夫そうでした」

 そう言って私に紙の束を渡す。

 なんというか、碧翔らしい。私が怪我をした時もさり気なく絆創膏をくれたし、昨日もペットの世話で困っていたお燐を手伝ったし……そういう気遣いが出来る人って、そう多くないと思う。

 

「でも、最初に碧翔が来た時は驚いたなー。まあ、今となっては良かったと思うけど」

 最初、お燐に碧翔の事を話したときはやっぱり驚いていた。彼女からは、さとり様が人間を引き入れるなんて、という驚愕の思考。

 最初は「重いって言われた!」なんて怒っていたけど、今は頼りにしているみたいだ。

「あ、もうそろそろ行かないと。それじゃあさとり様、失礼しますね」

「ええ、仕事はしっかりお願いします」

 

 はーい、と言うと、お燐は部屋から出て行った。私は一つ息を吐くと、渡された書類の確認作業に入る。

 これから碧翔はどうするのか。どうしていきたいのか。まだ分からないけれど、さっきの彼の言葉を思い出すと、なんだか安心できた。




いかがでしたか?
主人公の話に出てきた蒼月と青澄、覚えている人はいるでしょうか。
序章の部分に少しだけ登場したのですが、何しろ出番が少ないので存在感が...
次回もよろしくお願いします。

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