東方読心録   作:Suiren3272

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皆さん、こんにちは。
最近は暑くてエアコンをつけっぱなしにしているので、電気代が恐ろしいことになってそうですね。
それでは、どうぞ。


第九話 ~撫でて、撫でて~

 本って良いよね。最近は電子書籍なんかもあるけど、やっぱりあの紙の質感というか、読んだって感じが好き。表紙のスベスベ感とかもなんとも言えないな。PP加工って言うんだっけ。マット調いいね。

 こんな事を言うとなんか凄い愛好家って感じだけど、俺はたまに読む程度。さとりも本が好きらしくて、時間がある時はよく読んでるんだそう。

 今はさとりから借りた本を返しに行くところなんだけど……っと、ここだ。

 

 部屋の扉を開ける。何かを書いていたさとりがこちらを見た。

「この本ありがとう。中々面白かったよ」

「もう読んだんですか? それなりの長さだったと思いますが」

「あはは、つい夢中になってさ。さとりは今何してるの?」

 何かを書いていた紙を覗き込もうとすると、さとりはそれをばっと隠す。驚きの速さだ。

「し、趣味で執筆している小説です」

「へえ、小説を書いてもいるんだ。是非読ませてよ」

「これはダメです! その、恥ずかしいので……」

 

 紙を胸に抱えてそう言う。うーん、読んでみたいんだけどな。まあ無理強いは良くないし、そのうち読ませて貰える事を願うか。

「ちなみにジャンルは何? 案外恋愛系とか?」

「……ち、違いますよ!」

 ……さとりさんや、他人の心は読めるけど自分の心も漏れてますよ。キッと軽く睨んでくる。表情がむしろ逆効果だと思うけど。

 

 そんなやり取りをしていると、部屋に一匹の子犬が入ってきた。後からお燐もやって来る。何やら子犬を追いかけているようだった。

 と、丁度犬が俺の方にやって来たので、ひょいと持ち上げる。

「はい、お燐」

「ああ、ありがとう。体を洗おうとしたら逃げ出してさ。無駄にすばしっこいんだよね、まったく」

「ペットの世話ってお燐がしてるの?」

「いや、普段は他のペット(ひと)がやってるよ。あたいはあんまりかな」

 

 どうやら今日は人手が足りなくて、お燐が手伝ってるらしい。だから少し慣れてない感じだったのか。

「大変そうだし、俺も手伝おうか? 良いよね、さとり」

「もちろん、碧翔が良ければ構いませんけど」

「いいの? ありがとう! 作業が多くて困ってたんだ」

 明るい表情で嬉しそうに笑う。なんとなくお燐の頭を撫でた。妖怪と言えどやっぱり猫だからか、撫でられるのが好きらしい。まあ、見た目は普通の女の子だし、傍から見ると勘違いされそうだけど。

 

「そろそろ戻った方が良いんじゃないですか? 他のペット達が心配です」

「ああ、そうだね。それじゃあ行こうか」

「うん、こっちだよ」

 そうして俺は、お燐と一緒に中庭の方へ向かった。

 

 

* * *

 

 

 中庭に入ると様々なペット達で溢れていた。すごい数だな、これ。

「とんでもない数だね、動物園なんかよりも全然種類いるし」

「動物園? 何それ?」

 っと、そうか、幻想郷には無いよな、この感じだと。

「動物を見るための施設なんだけど……それぞれの場所に動物がいて、それを観察する所かな」

「閉じ込めておくのかい? 動物が可哀想だよ」

「いや、まあ確かにそうなるのかもしれないけど……ちゃんと遊ぶものがあったりするし、餌ももちろん与えられるから、特に不自由じゃないと思うけど?」

最近はかなり広い所で飼われてたり、自然が多かったりもするしね。俺はよく知らないけど、多分ストレスを感じさせない工夫があるんだろう。

 

「地霊殿のペット達はどこで飼ってるの?」

「まあ種類にもよるけど、基本は決まってないね」

「へぇ、すごいな。だからたまに廊下にいたりするのか」

 今日の朝も一匹俺の部屋に入ってきたんだよな。本を読んでたら目の前にいて超驚いた。その時に本を落としちゃって変な折り目ができたページがあるんだけど……あ、これさとりには内緒ね。

 

「それで、俺は何をするの?」

「体を洗うのはこいつで最後だから、碧翔は餌をあげてくれる? そこの箱に入ってるから」

「分かった、あれね」

 返事をすると、隅の方に置いてあった大きな木箱みたいなものから餌の袋を取り出す。えーと、これは猫用でそれは犬用、これは小鳥系……って、種類が半端ないな。まあ、これだけ動物が居れば当然か。ざっと十二種類。隣にも数箱あるからもっとあるだろうな。

 地味な作業だけど結構大変だぞ、これ。こんな事を普段からやってる人型のペットすごい。とりあえずそれぞれの餌を器に入れていく。

 この器も大量にあり過ぎて銭湯の桶みたいになってるよ。端の方に積まれてるやつ。……よし、一通り入れ終わったし、四つずつ持ってくとしよう。

 中庭の中央の方へ持っていくと、そこにいたペット達が目の色を変えて餌を食べる。勢いが半端ない。撫でようかとも思ったけど、食事中に撫でると機嫌が悪くなるって何かの本で読んだ気がするから止めておいた。

 

「終わった?」

「ああ、とりあえずそこの箱に入ってたやつはね」

 箱の方を指差す。中々時間が掛かるし大変だな。まあ楽しくもあるけど。なんて、普段からやってたらこんなこと言えないかもね。

「ありがとうね。あたいも一段落したし、一旦休憩しようか」

 二人でベンチに腰を掛ける。改めて見ると、不思議な光景だな。真ん中に噴水があって、その周りには青々と茂る植物達。その中で、様々な種類の動物が餌を食べている。気持ちいいけど、上を見るとやっぱり太陽は無くて。ここは地底なんだなあ、と改めて思わされる。

 

「ペット達は皆元気だね。餌に飛びついてきたよ」

「はは、そのせいでよく困らされるんだよね」

 お燐は笑いながら言う。確かに仕事中だったりすると大変だろうな。そう思いながら再びお燐の頭を撫でると、一旦立ち上がってから猫の姿になった。

 確かにこっちの方が撫でやすいし、いいかもな。頭やら首の辺りやらを撫でると、ゴロゴロと喉を鳴らして寝転がる。……なんかこっちまで癒されるなあ。

 

 しばらくお燐を撫でていると、急に視界が真っ暗になった。

「だーれだ?」

 後ろから声がする。どうやら目を手で隠されたみたいだ。これはあれか、よく恋人同士がやるイメージのあるあれ。

「こいし?」

「せいかーい。むー、何でわかったの?」

「いや、声で思いっきり分かるし、こんな事するのはこいしくらいだから」

 お燐のついでって言うとあれだけど、こいしの頭も撫でた。こいしはにっこりと笑って目を閉じる。

 

 そんな事をしていると、中庭に繋がっている廊下の方から、ぐー、という音が聞こえてきた。

「あー、お腹空いたー。ご飯まだかなぁ?」

 ……どうやら空みたいだ。お腹にぽんぽん、と手を当てながらこっちに向かってくる。

「あ、お燐にこいし様ー。と……誰だっけ?」

「いや、碧翔だよ、真剣碧翔。まだ覚えてなかった?」

「ああ、そっか」

 ここに来てもうすぐ一週間経つのに忘れられてるって、なんか悲しいな。というか記憶力やばくないか? 逆に悩みとかは無さそうだけど。……って、こんな事言ったら失礼か。

 

「何やってるの?」

「ああ、仕事の休憩中なんだけど、今は――」

「あ、私も頭撫でてー」

 人の話は最後まで聞こうか。空は俺の隣に座り、俺の方をじっと見てくる。よく分からないけど、仕方がないので空の頭も撫でる。……おお、髪の毛さらさら。というか、傍から見るとなんか変な状況だよな。

 

 そんな事をしていると、こいしが廊下の方を見て言った。

「あ、お姉ちゃん」

「え?」

 どうやらさとりが様子を見に来たようだ。

「碧翔、仕事はどうですか?」

「ああ、順調だよ。今は休憩中だけど」

「それは良かったです」

 

 そう言って微笑んだ。

 ……と、さっきの流れなのかよく分からないけど、ついさとりの頭にも手を置く。

「……!」

「あ、ごめん、つい……」

「い、いえ、大丈夫です。ちょっとびっくりしましたけど」

 そう言って、自分の頭の上を確認するように手を乗せたかと思うと、横を向いた。心なしか若干顔が赤いような気もするけど……。

「……誰かと一緒にいるのも、悪くないですね」

「あー……どういうこと?」

「あ、いえ……もう行きますね。手伝い、頑張ってください」

 そう言うと、さとりは背を向けて戻っていった。

 

「さて、じゃあ仕事再開しようか」

「あ、うん」

 いつの間にか人型に戻っていたお燐に声をかけられて、再び作業を始める。

 今の、どういうことだったんだろうな。いや、別になんでもないんだけど……なんとも言えない表情をしてたような気がする。

 

 と、こちらを見ていたお燐が口を開いた。

「碧翔が来たことが、きっかけになったりするかもね……」

「え、何が?」

「さあ……頑張ってよ、外来人さん」

 いや、どういうこと。

 ――まあいいか。とりあえず続きをするとしよう。一つ深呼吸すると、俺は作業を再開した。




いかがでしたか?
熱中症などにならないよう、皆さんも気を付けて下さいね。
次回もよろしくお願いします。

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