やはり俺がチート部隊の隊長をするのは間違っている   作:サラリーマン

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休み明け1週間後にテストとレポート、それからほぼ1週間ごとに部活の大会や検定など6月半ばまで鬼畜スケジュールのサラリーマンです


災禍の鎧3

暗転。

スポットライト。

白い光の輪の中に、艶のない朱色に塗られた鳥居と石畳が出現する。そしてその石畳の上を走る小さな人影。

続けて弱い照明が周囲を照らす。夜。無数のかがり火が音もなく揺れる。鳥居は最初の一つだけではなく、同じものが幾本も連なっているようだ。石畳のわきには純白の玉砂利。少年の向かう先には小さな、しかし立派な屋敷があった。

少年―ファルはその屋敷の門番の人に挨拶すると玄関の扉を開け、中に入ると音を立てないように一直線にある部屋を目指した。その部屋の前でファルは一呼吸置くとその部屋に向かって声をかけた

 

「フラン。入っていい?」

「いいけど…」

「おじゃましまーす」

 

ファルはフランの部屋に入るとあることに気付いた。

 

「もしかして邪魔しちゃった?」

 

フランは家で集中したいときには部屋の明かりをすべて消し、一つのろうそくの光だけにするのだ。そして今フランの部屋はそれと同じ状況だったのだ。

 

「ううん、大丈夫だよ。そろそろ明日に備えて寝ようと思ってたところだし。」

「…とうとう明日だね」

 

明日はブラックトリガー≪ザ・ディスティニー≫の所有者決定戦があるのだ。先代の≪ザ・ディスティニー≫の所有者が死に、次の所有者候補のフランともう一人の候補が戦うのだ。

 

「うん。ファル君見ててね。明日絶対に勝ってみんなをもっと楽にさせてあげるから」

 

フランの家は現当主の意向で身寄りのいない子供を引き取っているのだ。

 

「うん。明日は絶対見に行くから。応援してるよ。それじゃあね」

「…もしかしてそれを言うためだけにこんな時間にわざわざ来たの?」

 

現時刻、子の刻(今でいう午後11時ごろから午前1時ごろ)

 

「うん。そうだけど…」

 

ファルの言葉にフランはぷくっと頬を膨らます

 

「あーあ私の幼馴染君は寝る前の女の子の家を訪ねてきて一言言っただけで帰る薄情な人だとは思わなかったな~これは明日、試合が終わってからえんじ屋の甘味おごってもらわなきゃかな~」

 

そう言ってフランはちらちらとファルを見る。

 

「はいはいわかりましたよお嬢様。明日勝ったらいくらでもおごりますよ」

「よろしい!明日は何食べよっかな~ファル君のおごりだし、お店のもの全部食べるのもいいかもね!」

「僕の財布がカラにならないように遠慮してくれよ?じゃあほんとに帰るよ。おやすみ」

「うんおやすみ!」

 

そうしてファルはフランの屋敷を出た

 

***

 

「改めてフランの勝利を祝って乾杯!」

「乾杯!」

 

フランとファルはえんじ屋で向かい合って座り乾杯をしていた。昼間に行われた所有者決定戦はフランの勝利で幕を閉じ二人は打ち上げと称し、えんじ屋に来ていた。

もうすでにフランは何品も頼んでおりファルの財布は軽くなっていた。

 

「なあフランそろそろ…」

「えー!ちょっと持ち合わせ少ないんじゃない?」

「あのね、フランと一緒にしないでよ。冴えない一般家庭のうちじゃあこれが限度だって。」

「しょーがないなー!またおごってもらおっと!ごちそうさまでした」

「さっき行って待ってて。会計したらすぐに行くから」

「うん。じゃあ待ってるね」

 

二人は席を立つと分かれてフランは出入り口に、ファルは会計をしに向かった。

 

***

 

暗転。

スポットライト。

 

 

 

(思ったよりも遅くなっちゃたな。フランが風邪ひかないといいけど…あれ?いない)

 

会計が混んでいて終わるまでに時間がかかってしまっていたファルがお店を出てるとそこには待っているはずのフランの姿がなかった

 

「フラン?どこ行っちゃたんだろ」

 

なんとなくファルはお店の裏にある林の中にフランがいるような気がして林の中に入っていく。そしてしばらく林を進んでみたものは…

開けたところに横たわる、探していたフランの姿とその周りに立っている5人の人だった

 

「フ、フラン!」

「ん~思ってたより早かったな。ま、もう少し待っててくださいよファルさん」

 

フランに声をかけようとすると後ろから急に押さえつけられる。

 

「僕たちとしては用があるのはフランさんだけなのでファルさんはここで待っててください」

 

そこでファルはこの声が聞いてことがあることを思い出す。

 

(この声は…確か!)

 

「お前は…バイスの部下の…テイカー!」

 

バイスとは今日フランが戦った所有者決定戦で戦った相手だ

 

「お、もう僕の正体がわかりましたか。意外と頭が切れるんですね。」

「何でフランを!」

「許せないですよね。たかがあの人ごときがあのブラックトリガーを持つなんて。七星外装(セブンアークス)は我らが主が持つのがふさわしいのに…だから殺して奪うんですよ。」

 

その言葉が合言葉となったのかフランを囲んでいた連中が自身のトリガーを展開し、フランに攻撃をし始めた。

 

「やめろ…、やめろ、やめろ―!」

 

トリガーを起動させ、上に乗っかっていたテイカーを弾き飛ばし、正面で剣をふるっていたやつを突き飛ばし、素早くフランを抱えるとファルのトリガーの能力である瞬間移動を使い森の中に逃げ込む。

 

「フラン、フラン」

 

瞬間移動と言っても長い距離は移動できないため、まだ近くにはテイカー達がいる。なのでファルはテイカー達に気付かれないように小声でフランに声をかけた。

何度か声をかけているとフランは薄くだが目を開けた

 

「フラン…よかった。今すぐに医療所に連れて行くからもうちょっと我慢して。」

「ごめんね…ファル君。私の最後のお願い…あなたの手で私を殺して…」

「は?最後?…それに俺がフランを殺すなんて…なんで!」

「相手の中に毒使いがいたの…その毒に触れてしまったの…だからお願いファル君!大好きなあなたの手で終わることができればきっとこの旅は幸せだったと思えるから!」

「………フラン」

 

胸にあふれた思いをすべて言葉にすることはできなかった。

だからファルは傷ついたフランの体を抱きしめ、一度体から離し、フランの顔を見てありったけの感情を込めて囁いた

 

「ありがとう。俺も大好きだよ」

 

ファルはもう一度フランを強く抱きしめるとフランを離し、自分のトリガーからフランの剣型のトリガーに切り替える。

そして振りかぶり、ファルはフランの首を切―

 

「イッツショウタイム」

 

れなかった。横から現れたさっきフランの取り囲んでいたやつの一人に切られてしまった

 

「う……あ……ああああ………」

「さて、兄弟(ブロ)を呼ぶ前に見つけちまうか」

 

そしてその下手人―ヴァサゴはフランの体から何かを探し始める

 

「お、発見。」

 

下手人が見つけたのは≪ザ・ディスティニー≫と呼ばれるブラックトリガー。

 

「う……ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

ドクンと。

≪ザ・ディスティニー≫はその雄たけびに反応するように淡く輝く。そしてひとりでに動き出し、ヴァサゴの手からするりと抜け出すとファルの前で止まる。

ファルは選ばれなかった。だが今なら≪ザ・ディスティニー≫を使える気がしていた

 

「…着装 ≪ザ・ディスティニー≫」

 

小型の恒星の如き強烈な光が生まれ、世界を銀色に染める。

ファルの手足と胴体を分厚い追加装甲が覆っていく。そのデザインは先代の所有者が使っていた時とは大きく異なっていた。

さらに鎧の変化はデザインだけではなかった。

 

「お前たちのせいでフランが………あ…あ……ああああああああああ!」

 

ファルの絶叫に呼応するように鎧から闇色のオーラがあふれ出していく。そしてそのオーラは通常では絶対にありえないことを引き起こした

 

「スターキャスター」

 

ファルが握っていたフランのトリガーを起動させた。通常なら二つ同時にトリガーを起動させることはあり得ない。しかしファルは≪ザ・ディスティニー≫と≪スターキャスター≫二つのトリガーを起動させていた。

 

「オオオオオアアアアアア―!!」

 

無限に湧き上がる怒りそれ自体が媒質となり、トリガーに干渉していく。

もともと別々のトリガーだった≪ザ・ディスティニー≫と≪スターキャスター≫。

二つのトリガーが歪み、崩れ、溶け合う。そしてここに新たなトリガーが生まれる

 

最凶のブラックトリガー ≪ザ・ディザスター≫がここに誕生した

 


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