インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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交戦 END

「はぁ……はぁ……さすが、ね」

 

「ぜぇ……ぜぇ……は、……ぜぇ……てめぇもな……」

 

ミヒャエルのIS、カノン・フォーゲルはすでに装甲の大半が溶解し、一部に糸のほつれが付着していて、見る限りダメージレベルはDをオーバーしている。

対するスコールのゴールデン・ドーンも左腕部が完全に破壊され、生身の腕が露出し、あまつさえ血みどろになっている。ISもダメージレベルCに達しており、

この状況では幾分スコールが有利な状況と言って差し支えないが、それでもスコールはミヒャエルの力に驚嘆し、ミヒャエルはスコールの能力に感嘆する。

 

(もはやこのまま単一仕様能力(ワン・オフ・アビリティ)を使い続けるのは不可能ね……可能なら撤退するべきだけれど)

 

ここまでの戦闘とダメージを受けているにもかかわらずに、彼女らの戦闘時間は、僅か10分も経っていない。

というより、現在にまでにおいて、亡国企業とRAVENS ARKのこれまでの戦闘で、5分を超えること自体が、少ないと言えるだろう。

もとより、命懸けの戦いで、そこまでの時間が流れるのは極めて珍しいと言える。

 

実際に戦場で、2人の人間が戦えば、おそらく数十秒と持たずに決着がつくはずである。それは兵器が違えどこの戦いにでも適用される法則で、場所を移動しながらでの戦闘は確かに長引くことが多いが、そのような戦いをしたのはスコールとミヒャエル。スミカとウィンターあたりのものである。

実際、スプリングは蘇摩に接敵してから殺されるまで2分と立っていないレベルだ。これが生身どうしなら、銃をいきなり向けられて撃たれるに等しく、その場合だと10秒と人の命は持つまい。

 

『スコール』

 

不意に、スコールに無線で幹部の声が聞こえた。スコールは、悲鳴を上げる期待を無視して、その場を飛び退きミヒャエルと距離を開ける。

ミヒャエルは追おうとはせずに、その場で右手に構えたライフルの銃口を一度下ろす。

 

「どうかしました?」

 

『航路が取れた。我々はこれより脱出する。君も、何とかして脱出するのだ』

 

『現状況で戦力の大半を失った。その大体は拾えば済む程度ではあるが、君のような人材は別だ。機を見て脱出したまえ』

 

(確かに、この状況で残っているのは、私に……オータム、MにR……ウィンターはまだ生きてるみたいだけど、持たないわね。あの子は)

 

幹部からの連絡で急速に冷めていく頭で思案する。故に、この場で行うべき最短の行動を、彼女は2通り考え出した。

 

(幹部が逃げ切れば、脱出……逃げきれないならば……)

 

そこまで可視光が回ったときに、ミヒャエルが口を開いた。

 

「で、どうすんだ?こっちはそろそろ持たないし、私は楽しみは先にとって奥はなんだけどよ。ショートケーキとかいちごを最後に食べるって感じ?」

 

「……あら?いい考えね。こちらもそう思っていたところだわ。ここは休戦として、お互いにここから離れる?」

 

そこまで言い切った瞬間に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

『あー、あー……聞こえてるか?いい年こいた脳筋バトルジャンキーども』

 

「失礼な言い草ね?ソーマ」

 

声の主は、ウィンターと対峙していたソーマ・ラーズグリーズだった。そして

 

『スコール。オータム。生きていますか?』

 

「R。どうしたの?」

 

レイ・ベルリオーズ。彼も同時に通信を試みていた。

 

――――

 

「―――死ね」

 

その言葉とともに放たれた銃弾は、通路の遥か奥。

階段のある曲がり角にぶつかり、壁に小さく穴を開けた。

 

そして、引き金を引いた彼女は

 

「―――」

 

既に、物言わぬ屍となり果てていた。

引き金を引き、銃弾が銃口から飛翔し、標的の胸に向けて奔る。だが、標的はその時既に、彼女の後ろにいた。

 

「悪いな。まだ死にたくねえんだよ」

 

刃についた血を振り払い、鞘に収める。そして、そのまま物言わぬ彼女に一瞥をくれることもなく、蘇摩は歩き去っていく。

たとえ彼女がどれほど求め、焦がれ、たどり着いても、彼女と彼の間には決して埋まらない溝が存在していた。

 

これはその証明である。

 

「さて、このあとはどうするべきかな……」

 

『後方より接近する物体有り、数は2』

 

「そろそろだと思ってたよ」

 

蘇摩はセラの報告を聞いて、口元に笑みを浮かべる。そして、近づいてくる気配に合わせて、体を反転させた。

丁度彼の前に現れたのは、あの2人であった。

 

「……さすがだね。ウィンターをこうも簡単に殺すなんて」

 

「まあ、それなりにできるのは認めてやろう」

 

「それどうも。で?取引はこれで成立になるのか?ご要望通り、戦場は混乱して幹部連中は尻尾巻いて逃げ出すだろ?」

 

その2人は、彼が潜入していたさいにであった、マドカにレイ・ベルリオーズ。彼らはあの時に交わした取引のために今まで動いていたのだ。

その取引の内容は、以下のとおり

 

「僕らが君を見逃す代わりに、君は可能な限り戦場を混乱させ、幹部が逃げ出すような状況を作り出す」

 

「そして私たちのこれからの行動を阻害しないように立ち回る……確かに、前者はなされたな」

 

「そういうこと。で?あんたらも、この島にいろいろ(・・・・)やってたみたいだけど?」

 

向かい合う1人と3人。薄暗い通路で彼らは笑い合っていた。まるで、往年の友人と話し合うかのような。軽い口調と声色で。

 

「んで?どうすんだ?あくまで感だが、どっちか2人。戦略級(・・・)の化けもん持ってるだろ」

 

蘇摩の指摘にマドカは無表情で、レイは意味ありげに笑を作る。それだけで蘇摩は何かを察したのか失笑のような苦笑のような笑みを作った。

 

「OK。わかったよ。んじゃ、派手にやってくれや。こっちはこっちで避難勧告出しとくから」

 

「いいよ。約定は果たされた。あとは好きにして」

 

蘇摩が踵を返し、去っていくのをレイとマドカは見送っていく。ふと、何か思い出したのか蘇摩は途中で立ち止まり、首だけ振り返った。

 

「そういや、名前。教えてくれよ?知らねえんだ」

 

「僕はレイ・ベルリオーズ。彼女は―――」

 

「……織斑マドカ」

 

レイは目を閉じて、自分の名前を言う。そして、まどかは

 

「……いや」

 

一度自分の言葉を否定して、もう一度口を開いた。

 

「マドカ・ベルリオーズ(・・・・・・)だ」

 

その名前。彼女が以前口にした言葉と、今までの自分との決別の証。彼女はその名前を口にしたとき。いや、その前から、自分に対してある種の決意、けじめをつけていた。

 

そうだ―――

 

(私は私だ。織斑千冬のクローンでも、織斑一夏のクローンでもなんでもない。私は私。ひとりの人間になるんだ。そのために……)

 

彼女の目的は変わらない。自分が自分になるために(・・・・・・・・・・・)織斑一夏と織斑千冬を殺す。そうして、彼女は自分という一人の人間としての存在を確立するのだと。

目的は変わらない。ただ、動機が違うのみ。

 

そして、それが彼女の出した答えなのだから。

 

「……OK」

 

蘇摩はそう言うと、今度こそ歩きを止めなかった。ただ、歩きながら、一言のみ。

 

「お前らとは、親友になれそうだ」

 

それの身を口にして、彼は2人の前から姿を消した。

 

――――

 

蘇摩は既に島の外、ARKの大型ヘリの内部にいた。そこからヘリにある機材を使ってARKのAランカーに通信を行っている。

 

「全員、島から脱出、240秒以内だ。じゃねえと島ごと吹っ飛ぶぞ?」

 

『なんだと?どういうことだ』

 

『落ち着けサー。どこまで距離を取ればいい?』

 

サーの言葉を両断したのはロスヴァイセ。そして、蘇摩の言葉に対しての疑問を投げる。

 

「とりあえず距離は問わん。可能な限り離れろ」

 

『わかった。あとで不当な表現に対して問うことにしよう』

 

『ちっ了解だ。だれかサポートを頼む。私の機体がぼろぼろだ』

 

「テペス。お前が一番ミヒャエルに近い。援護してやれ」

 

『了解』

 

蘇摩は無線のヘッドフォンを取り外し、外を見た。

既に暗雲は晴れ、太陽が差し込んでいる。島の基地はあちこちが倒壊し、煙が立っている。ほんの数時間まではあんなにも堂々とした、基地らしい基地だったのが

今では見る影もない。

 

その光景を一瞥したあと、ヘリの搭乗員に告げた。

 

「俺らも距離を取れ、じゃないと下手すりゃ粉々に吹っ飛ぶぞ!」

 

「了解しました」

 

そして、しまから距離をとっていく中。その瞬間は訪れた

 

――――

 

「R。どういうこと?いやそもそも今までどこにいたの?」

 

『疑問は最もですが、早く脱出してください。700秒後に、島が爆発します』

 

「まさか?自爆させるの?」

 

『スコール君。気持ちはわかるが、あの基地はもはや手遅れだ。かなりの打撃になるが、情報総てが白日の下にさらされるよりかははるかに有益だ』

 

幹部が割って入ったということは、しまを爆発させるのは幹部の指示だったようだ。

なら、とスコールはレイに呼びかけた。

 

「ほかのメンバーも直ちに脱出するように指示を出して!!」

 

『無理です。スコール。現在生き残っているのは僕らだけです。ほかは全滅しました』

 

「っく!?」

 

「おいスコール!?このままだとマジでやばい。早く脱出するぞ!」

 

基地の搬入口が爆発し、そこからオータムがでてきた。彼女のISも手痛いダメージを受けていることはように見見て取れる。

それでも、スコールのISよりははるかにダメージレベルは低いだろう。

 

「てぇ貸してやるから、早く逃げるぞ!」

 

『早くしてください。もう時間はありません』

 

『……死にたくなければ早くするんだな』

 

そうして、スコールらも、島から脱出を試みた。

幹部を乗せた輸送機は、離陸態勢に入っており、今から飛ぶとなると、ぎりぎりで間に合うだろう。

 

ISは無論のこと、たとえ損傷が大きくとも輸送機よりはるかに出だしが早く、既に輸送機をおいて島から何十mと離れている。

 

そして、輸送機がようやく離陸し、スコールとオータムが島から数百mは移動したというところで、それは起きたのだ。

 

――――

 

「……マドカ」

 

「なんだ?」

 

島から15kmの沖合に、2人はいた。ISの望遠機能をフルに使っている現在は島の状態が手に取るようにはっきりとわかっていた。

既にRAVENS ARKのランカーが全員脱出したのも見えており、今スコールたちが脱出しようとしているも見えている。

 

「僕が亡国企業(ファントム・タスク)にきた理由、覚えてる?」

 

「お前の親友の敵を取るためだったな……」

 

レイの問にマドカは1秒前後の間をとって答えた。本来ならば、もう彼らはいちいち言葉を交わさずとも相手の心情を読み取り、考えが理解できる。

だから本来ならばこのやりとりは必要のないものなのだが、それでも行うのは彼女らが『人間』であろうとしているからだ。

 

たとえ作られた兵器であろうとも、端末であろうとも、それは作った側の考えだ。

そんなものは彼女らにとってはどうでも良いもので、必要なのは彼女ら自身が自分をどう捉えているか。なのだから。

 

「ホント……茶番だよね。仇を取るために入った組織が、仇そのものだったなんて」

 

「確かにな。だが、もうそれも終わりだろう?」

 

ダークレッドのISとダークブルーのISは互いに寄り添っている。前者は流線、後者は直線とデザインの異なる2機だが、どこか兄弟機のようであり、対のようでもあった。

 

「そうだね……順番は逆になっちゃったけど」

 

「それでもいいさ。私にとってはお前がいてくれるなら、どこまででも飛んでいける」

 

マドカの言葉に、レイは優しく微笑んだ。

 

「ありがとう」

 

そして、レイは自分のISの一部を開放する。

頭上に現れたのは、波紋のようなもの。

それが徐々に形度っていき、顕になる。

 

それは、模様のようであった。

銃、何かはよくわからないが、とにかく銃のようなものをモチーフにしている模様は、明らかに通常ではありえない圧力と輝きを持って形成されている。

 

そして、聞こえてくるはずのない音が響き渡る。

ゆっくりと何かが回る音。巨大な何かが装填される音。

 

そして、標準。最後は無論―――

 

Auf Wiederseh´n(さようなら、ばいばい)

 

地獄の砲火が火を吐いた。

 

――――

 

「っな!?」

 

「こんな……」

 

「なん……だよ」

 

それを見たものは、例外なく全員が驚愕したといっていいだろう。

なぜなら、シャドー・モセス島のおよそ基地周辺が、巨大な火球に覆われたのだから。そして、その火球の余波である衝撃波(ショック・ウェーブ)が彼女たちに直撃する。

 

「っくう……」

 

「ちぃ!」

 

ISのアシストがありながら、体制を維持できないほどの衝撃波に見舞われる。その瞬間に、彼女たちはあの火球がなんなのかを理解した。

 

「ふざけるなよ……なんなんだよあれはぁ!?」

 

それにいち早く怒声を上げたのはサーだった。

 

「落ち着きなさい。サー」

 

「落ち着いていられるか!?」

 

イツァムが止めるも、サーの怒声は続いた。

 

「なんなんだ一体!アメリカでもあんなものは一基たりとも製造していないぞ!?」

 

サーの怒声も無理はない。ほかの全員も同じ気持ちだった。

 

「核弾頭……しかもありゃあ軽く1Mtクラスかよ……アホらし」

 

そう、レイが撃った先ほどの一発は純水の核弾頭。その威力は1メガトンクラス。爆心の火球だけで、その大きさは1.5Kmを超える。

爆風などはもはや論外だ。その威力の凄まじきは、シャドー・モセス島にポッカリと空いた穴がすべてを物語るに違いない。

 

アメリカの所持している核ミサイルはせいぜい4,5ktクラスが最大だろう。それでも破格の破壊力を持っている。

ちなみに、広島で使われた『リトルボーイ』は15ktクラスである。

 

その破壊力はすでに知っているだろう。今使われた1Mtはそれの約130倍である。その威力などもはや語るに及ばず。

 

「ハハッ」

 

だが、蘇摩は1人笑っていた。ほかならぬ、自らの選択の正しさ(・・・)に。

 

「やっぱ敵対しないで、正解だったわな」

 

その言葉が、今のこの事態の全てを物語っている。それゆえに、余計な装飾は不要だろう。




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