インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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ぎゃー!いつの間にか1ヶ月が過ぎていたー!!

申し訳ありません。更新がだいぶ遅れてしまいました。
なぜ遅れたかは、最近ゲームにどっぷりはまってしまったからです。

ダークソウル2すげぇおもしれえ。
もう死んだ回数500突破しちまったぜ……

これからはきちんと更新いたします。申し訳ありませんでした。


交戦 Ⅲ

「いくぞ!!」

 

アンジェのIS。オルレアはカナダの第3世代。特殊兵装は「クイックブースト」

現行カナダ代表のフランシスカ・ベルリオーズのIS『シュープリス』の兄弟機であり、フランシスカのそれよりも前方に対してのブースト出力が

特化させている。そして後方へのブースト出力は低くされており、より彼女の思想にあった突撃仕様となっている。

 

左手に展開したマシンガン『01-HITMAN』を発射する。だが、彼女はこの手にありがちな人物とは違い、マシンガンはただ牽制でばらまくだけじゃない。

そんな程度のことではRAVENのAランカーにはなりはしない。格闘戦に特化した思想と機体であっても、発射される弾丸は正確に標的を捉えている。

 

Jはそれを躱しつつ右手のライフルを撃つ。当然アンジェはそれを避けながらマシンガンの引き金を引き続けている。

Jはそのことに感嘆しつつ、しかし彼女の注意はそのマシンガンではなく、右手に握られているグリップにある。

角ばったグリップに、菱形を凹ませたような形状の発振器。それがレーザーブレードだと言うことは見た目だけでわかる。

 

問題なのは、そのブレードの威力が文字通り桁外れだということである。

 

『07-MOONLIGHT』

 

レイレナード社がアンジェ・シャルティールただ一人のために開発した専用ブレード。

通常のレーザーブレードと違い、常時展開できるような構造をしておらず斬撃時の、ほんの一時にのみ刃を展開する機構は、

ただ単に余計な消費を抑えるためだとか、消費が大きすぎて展開し続けられないだとか、そういった理由では決してない。

 

レイレナード社は現状のIS関係の企業で唯一、一定以上での高出力レーザーブレードを開発できている企業だ。

その技術力は未だ新興企業の域を出ないが生中な技術力ではない。

 

もとより、高機動力を旨とした機体を作るにあたって、機体強度は高くなければならない。

機体が脆ければ、高機動戦闘の際にかかるGで機体に不具合が生じる。よもや破損まで行けばただの使えぬ欠陥品であろう。

武器や機体はそのGに耐えるためにかなりの強度で構成されている。

レイレナード製の銃器が格闘戦もこなせる仕様なのはそのためだ。頑丈でなければそんな真似はできはしない。

 

Jが左手にレーザーライフルを展開。

右手の連射されるライフルに合わせ、射撃する。

 

それを躱したアンジェはマシンガンの引き金から指を離した。

瞬間――

 

「!!」

 

ついにクイックブーストを使用し、距離を詰めるアンジェ。その速度は蘇摩のアビス・ウォーカーをすら瞬間的に上回る加速域を叩き出し、僅か数mの距離など瞬くする間に

ゼロへと詰める。

振りかぶる右手のグリップからは僅かに粒子が漏れ出る。

 

さて、彼女のブレードの最大の特徴、ごく短期間しか展開できないということは、とどのつまり

単純なことである。

 

「はああああ!!」

 

「ぬううううう!!」

 

振り下ろされたブレードはJのレーザーライフルを切り捨て、同時にシールドをまるで薄紙でも切るかのように切り裂いていく。

なんとか間に合った回避は回避したという結果しかもたらさなかった。

 

武装は一つ破壊され、シールドはまるで薄紙のように用途をなさない。

なんだこれは。

これは断じて競技用(・・・)として許された威力ではない。明らかに搭乗者を殺しかねない。否、確実に殺せる威力を持っている。

 

これではまるで―――

 

「まだだぞ!」

 

「っ!」

 

続く2太刀目を上に跳んで回避する。だが、またしてもシールドを裂かれ、エネルギーが削られていく。

なんとか距離を取るために、ライフルを発射する。

 

アンジェはそれを後ろに飛び、避ける。

そして、その瞬間Jは自らの失策を知る。

 

(不味い!距離が開ければ―――)

 

そう、距離があくということは、レイレナード社の機体の本領、「高機動戦闘」が発揮されやすくなり、その上で彼女の機体は突撃性能が頭一つ分抜けている。

つまり、一見距離を置けば有利に見えるが、その実多少の距離なら一瞬で詰められるアンジェのほうに利があるということは誰でも気づく。

 

「はあああ!」

 

「ちぃ!」

 

再び突撃するアンジェJは迎え撃つために、ライフルの他にレーザーマシンガンを展開する。ひいては負ける。ならばすることは一つ。

 

(死地でこそ、さらなる死地へ……切り開くためには、それこそが道か)

 

目の前へ迫る碧色のIS。展開されるブレードへ、彼女は臆することなく、飛び込んでいった。

 

――――

 

「最初から戦争をするために作られたもの」

 

航空機の前で、スコールはふとそんなことをつぶやいた。

現在生き残った幹部が乗り込んだ機は吹雪が止みしだい離陸する。

そして、吹雪くが止むのはおよそ今から20分後であろうと予測されている。

 

それまで彼女はここで敵の足止めをしなければならない。

ならない。とは言ってもここへ来る人間はせいぜい2人かそこら。それならば勝てはせずとも足止めをして、逃げることは十分に可能だ。

 

「あと18分……誰も来ないというのも寂しいものね」

 

「だったら私が相手をしてやるよ」

 

後ろからの声と同時に放たれるレーザー。スコールはそれを躱すと、同時に振り返る。彼女の前には背部のレーザーキャノンを展開したIS。カノン・フォーゲルが浮遊していた。

搭乗者であるミヒャエルはその口元に笑みを浮かべ、キャノンを折りたたむ。そして実弾ライフルを展開した。

 

「紅海での落とし前……ここで付けさせてもらうぜ」

 

「あら。やっぱり生きていたのね?まったくしぶとい人だこと。まるでゴキブリね」

 

「はっ!だったらそのゴキブリに殺されるてめえは唯の芋虫だなぁ!!」

 

威嚇も何もなしにいきなりの発砲。ライフルと機動レーザーを同時に発射する。

連射能力の高いライフルの合間を縫うように飛来するレーザー。

 

単純ではあるが、それゆえに技量が高ければ高いほど有効な攻撃法であり、そしてミヒャエルの技術は断じて低いなどということはない。

スコールは回避行動をとる。弾幕のほとんどを躱していき、レーザーは彼女に届く寸前で何かに弾かれてしまうかのように掻き消える。これは決してミヒャエルの能力の低さではない。

スコールも彼女の能力の高さは承知している。故に実弾は躱すものの、レーザーは回避しきれていないのだ。だからスコールはレーザーだけは防御(・・)している。

 

この攻防はどちらの勝ちと言われれば「勝者なし」が当てはまる。故にスコールは笑う。攻撃を防げているいまは、勝者なしとはいえど彼女に分があるのだ。

それに、いくら避けづらいとは言えども、当たったところで彼女のISには対したダメージはないのだ。レーザーはもちろん痛いが、それはスコールのIS『ゴールデン・ドーン』の武装で

防ぐことができる。

 

「甘いわね」

 

「どっちがだあ!?」

 

だが、ミヒャエルはそれが解らない愚図では決してない。スコールに気づかれない程度で、距離を詰めておりそしてその距離は彼女の背部の武装が最大威力を発揮する間合いであった。

 

散布型ミサイル

それは文字通りミサイルを散布するようにばらまく武装。

単発の威力はミサイルといてはかなり低いが、文字通り雨の様に発射される。

 

いくら低いとは言えど、ミサイル。そして、その多量に放たれるミサイル軍の直撃を受ければいくらISと言えどただでは済まない。

 

無論このミサイルには散布型ならではの欠点も存在する。

まずは、間合いが近いと自爆の危険がある。

そして間合いが遠いと避けづらくはなるが、その分み密度も薄まるために、十分な威力を発揮しづらいというものだ。ゆえに、この武装をの威力を発揮させるには

かなり微妙な間合い調整が必要となる。高密度をゼロ距離で打てば自爆する。遠距離で打てば威力が低く、かと言って中途半端ではミサイルが広がらずあっさり躱される。

 

つまり、彼女の狙いはミサイルを避けきれない距離で、かつ十分な威力を発揮できる微妙な距離。つまりそれがこのタイミングで、この距離だったのだ。

 

「腹いっぱい食いなあああ!」

 

吐き出されるミサイル軍はゆうに30を超える。ポッドから発射されたミサイルはショットガンのように、徐々に広がり爆弾の雨とかす。

丁度それはレーザーを防いだ瞬間で、意識がそこに向いたばかりであるために、ミサイルに対して一瞬反応が遅れる。

 

「―――っ」

 

「吹っ飛びなぁ!」

 

ミサイルはすべて彼女へと降り注いでいった。

爆炎が上がり、煙にスコールは包まれる。だが、ミヒャエルは攻撃を続行した。

 

「まだまだァ!」

 

機動レーザーとライフルを発射し続けながら、背部のレーザーキャノンを展開する。

標準を合わせるまでもなく、それを発射する。

 

特有の発射音と共に橙色の閃光が空を切り、爆煙の内部へと侵入していく。それを見送り、一度攻撃を停止する。

手応えはあった。だが、所詮それだけ。こんな程度で倒せるような相手ではない。そんなことはわかりきっていた。

 

今の弾幕も、対したダメージはないに違いない。

 

だから、口にする。

 

「さっさとこ出てこいよ。そんなことで死ぬたまでもないだろう?」

 

爆煙は吹雪によってかき消されていく。それまで10秒となくスコールの姿をさらけ出す。

そのISはいまだ健在。黄金の甲冑のような姿には一切の陰りはなく、彼女の表情に未だ曇りはない。

 

「さすがね……」

 

だが、スコールは目の前の女性を、ミヒャエル・フォーゲルに賛辞を送る。なぜなら、スコールに実戦で「これ」を使わせたのは、事実上彼女が初めてだったのだから。

 

「私のIS。ゴールデン・ドーンの『単一仕様能力(ワン・オフ・アビリティ)』を使わせたのはあなたが初めてよ?」

 

ゴールデン・ドーン。それは日本語に訳すと『黄金の夜明け』を意味する。

黄金とはすなわち太陽。夜明けとはすなわち大地を照らす灼熱にほかならない。つまるところ、彼女のISの能力とはそれである。

 

「ゴールデン・ドーンの唯一の武装。『クリサリス』今まではこれだけで良かったのだけれど、貴方は初めてこれを使わせた」

 

そうして全貌が明かされるスコールの機体。黄金の指先から伸びるのは、糸。

それはハイパーセンサーを集約して初めて視界に捉えられるほどの細い鋼線。それが彼女の機体の色に照らされ、金色に映える。

そして……

 

「へぇ……」

 

ミヒャエルは表情には出さず、口調は余裕を保つものの、瞠目した。指先からほとばしる糸を伝うのは、すなわち炎。

機体から伸びる糸を伝って、広がるそれはスコールの機体をどこか幻想的なものへと変えている。

 

「人形遣いかと思ってたが……正体は鳳凰かよ」

 

「あら、博識ね?ひょっとして日本好きだったりする?」

 

お互い軽い口調だが、その目は先ほどよりも雰囲気は鋭くなっている。

 

「行くわよ?」

 

「こいよ」

 

言葉と同時に、2騎は宙へ飛んだ。初めてスコールが攻勢へ出る。炎を纏った鋼線を巧みに操り、ミヒャエルへと走らせる。ミヒャエルはそれを器用に躱しながらライフルを打ち込んでいく。

だが、ライフル弾はすべてスコールを捉えながらも、彼女に届く前に溶けて消えていく。

 

「プロミネンス・コート……その程度では私に傷一つつかなくてよ?」

 

「だったら出けぇのを食らわせてやる―――っとぉ!」

 

ミヒャエルは、レーザーキャノンを展開し、その瞬間に彼女を束縛しようと彼女を取り囲んだ鋼線を既のところで上昇し躱した。そして、レーザーキャノンを展開し直し発射する。

橙色の光線はまっすぐスコールへと向かうが、スコールはそこに指をパチン、と鳴らした。

 

瞬間。

 

スコールの眼前で爆発が起きる。

爆発に飲まれたレーザーは電子分解を起こしたのか、空中で霧散し、その場でプラズマを放つ。

 

「なるほどなぁ」

 

「こんなのもあるわよ」

 

スコールは手を頭上へ掲げる。すると、彼女の機体から火の粉が漏れ出しスコールの手の上へ集まっていく。数秒と経たないうちにそれは巨大な火球を作り出した。

 

「ソリッド・フレア。直撃したらただじゃすまなくてよ?」

 

そして、それを投げるように手を振り下ろす。振り下ろされた手のひらに合わせ、火球はミヒャエルへと飛来する。ミヒャエルはすかさずハイパーセンサーでその火球の温度を計測する。

 

『表面温度:4795℃』

 

「まじかよ!?」

 

言いながらミヒャエルはそれを瞬時加速で、頭上に飛び逃れる。火球は地面に着弾し、大爆発を起こした。幹部の搭乗している航空機をぎりぎり巻き込まないように爆発した火球は

航空機を直接巻き込まなくても、発着場を焼き焦がし、破壊的な熱で溶解させてしまっている。

 

「ちぃっ惜しかった」

 

「貴方はあざといわねミヒャエル?」

 

「てめぇもなんてモン隠してやがったんだよ。これじゃ当初の計画が完全におじゃんじゃねえか」

 

だが、ミヒャエルの表情は、相変わらず笑っており、その目には未だ輝きが点っている。

スコールも、今この瞬間は、似合わないと思いながらも高ぶる気持ちを抑えられなかった。いままで実戦で使ったことがなく、この『ゴールデン・ドーン』の単一仕様能力(ワン・オフアビリティ)

も今までに見せたのはオータムただひとりであったために。

 

それを初めて実践で使わされてのだ。興奮しないわけがない。

 

(すげええなおい。どうやって潰す?面白くなってきたじゃんかよ……)

 

(私が実戦で初めてこの能力を使って、それでもなおまだダメージを与えきれない人間。ミヒャエル……ぞくぞくしてくるわね)

 

お互いに高ぶる気持ちに身を任せ、この戦いに集中する。

既に吹雪はやみ、幹部が搭乗した航空機も発射準備に入っている。運良く破壊された発着場の部分は自機よりも後ろだったために、発進自体に問題はない。

 

今まさに標的を逃がそうとしているこの時も、ミヒャエルは彼らなど眼中になかった。いな、彼らの存在に割く思考など存在していなかった。

一瞬でもほかに気をやれば瞬間、焼き尽くされる。それが分かっているから、ミヒャエルは標的に逃げられかねないこの状況を動かない。

 

そして、スコールも幹部の機に注意を向ける余裕がなかった。

初めて自分の機体の力を使わせた人物に対して、他所に気を向けることができるほど彼女は大人ではなかったということなのだろう。

だからこそ、初めて自分の機体の能力を使わせた彼女に対して、怒りではなく敬意を持ったのだ。

 

「……ッハハハ」

 

「フフフ……」

 

自然と笑いが漏れる。ああ、たまらない。こうだ。戦いとはこうでなくちゃならない。

自然と笑いが漏れた。ああ、そうだ。これでこそ。私は私でいられるのだから。

 

「「―――行くぞぉ!!!」」

 

そうして、2人は再び空へ飛翔した。

空は吹雪は掻き消え、雲が過ぎ行き、太陽が姿を出そうとしていた。




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