インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~ 作:鳳慧罵亜
「くそっ、くそおっ!!!」
Nは自らの現状が信じられなかった。
自分の目の前の敵は1機。機体はイクバールの標準型のカスタムタイプ。
機動力と安定性を重視した軽量型の機体。
それはいい。自分の機体『アリーヤ』も機動力に特化した機体であるのだから。
機体の機動力は互角、いや自分の機体の方が加速力で上なのだ。つまり、瞬発力でいえばこっちのほうが高いはずなのに、なんでなんで―――
「なんでなのよ……」
私は、目の前の敵に銃弾の一発すら当てられないなんて……!!
「くそぉおおおおお!!」
レイレナード製アサルトライフル『04-MARVE』を発射する。大口径でレートが高い瞬間火力ならばアサルトライフル最高の武器。その銃弾が一発たりとも、敵に化することなく空を切っていく。
そればかりか……
「くらえ……」
敵のアサルトライフルは此方を嫌になるほど正確に捉え続け、『アリーヤ』の特殊兵装である『クイックブースト』を使用し、
短距離における連続の瞬時加速を行い、複雑な機動で距離を取る。
『クイック・ブースト』はおそらく第3世代型唯一の攻撃目的ではない特殊兵装だ。
極短距離において、ブーストを一瞬高出力で吹かすことにより、瞬時加速ほどの距離はいかないものの、エネルギー消費の激しい瞬時加速よりもはるかに少ないエネルギーで
連続して吹かすことにより、今までとは一線を画す回避行動や機動モジュールをこなすことができる。
つまり、下からの機動力に加えて今までの期待を置き去りにする回避能力を持っているこのアリーヤ。
その機体がこうもたやすく、しかも相手は第2世代初期型の機体なんかに。
さらに言うならば、あの相手は国家代表でもなんでもない、ただの無名の搭乗者に、ここまでいいように誅戮されるのは彼女のプライドをズタズタにしていく。
「……」
ブーストをフルスロットルに吹かし、緩急をつけた不規則な速さの機動で標的を追い詰めるアマジーグ。
中距離を保つかと思えば、一気に距離を詰めてアサルトライフルにショットガンを織り交ぜ、初の直後には距離を開けて散布ミサイルを降り注がせる。
荒削りな部分はあるが、非常に慣れた動きでカナダが奪取された第3世代型4号機『アリーヤ』を追い詰めていく。
『アリーヤ』を駆る敵は未だにクイックブーストを駆使して逃げ回ろうとしているが、問題はない。
『今』は落ち着いている。敵の実力はAランカークラスから見れば低い。それにあの武装ならば此方のAランク3。彼女のほうが使いこなせていると思う。
ゆえに、この程度の相手ならば油断しない限り私の勝ちは揺るがない。
「あがくな。運命を受け入れろ……!」
散布ミサイルを発射すると同時に瞬時加速。敵はミサイルをアサルトライフルで打ち落とすが、散布ミサイルは密集したミサイル群。
一発爆破すれば連鎖的にすべてのミサイルが爆発していき、それはちょうどいい目くらましになる。
ISのハイパーセンサーであろうと、目の前に多量の熱源が存在している状況で、その影にいる機体を捉えることはできない。
爆風の中を突っ込むのは、かなりのダメージになるがそれくらいで私も、この『バルバロイ』も崩れはしない。
「!!」
「……消えろ」
爆風うと爆煙を突き破ったその先には、驚愕に表情を染める敵がいる。
そして、接射の距離でショットガンの銃口を突きつけ、引き金を引く。
「ふざけ―――」
敵が言葉を発した瞬間には、すでに銃口からはマズルフラッシュの閃光が走っていた。
――――
サマーと呼ばれた女性はISをまとったまま、首から上が吹き飛び、泉のようにとめどなく血を溢れさせている。
それを横目で見ながら、ウィンターは思考する。
(流石はイタリアの最高戦力……射撃、機体制御、精密機動、全てにおいて私と互角以上に立ち回っている、か)
事実2人係で仕留められずに、逆にこちらは味方をひとり仕留められたという、状況だけ見ればかなり不利である。だが、ウィンターは焦らない。
どこまでも、氷のように冷徹で沈着。それがウィンターと呼ばれる人物である。
「どうするんだ?可哀想なオトモはあのザマだ。貴様一人で私に勝てるなどと、思い上がっているわけでもあるまい?」
「そうだね……」
とりあえずISの状況を確認する。フランスから拝借しているこのラファール・リヴァイブの状態は……大したダメージこそないが、細かい損傷が結構目立つ。
今すぐ戦闘に影響が出ることはないだろうが、長期戦になればなるほど不利になるのは確実。
こちらの武装は、重機関銃に連装ショットガン、ブレードにシールド、アサルトカノンといったごくごく基本的なものばかり。
対してあちらの武装は、現在まで確認したのはハンドレールガンにレーザーライフル、ミサイルポッドの3種類。
(ここは距離を保ちつつ相手の武装を消費させながら責め続けるのが―――)
「っと!!」
思考の途中でロックオン警告がなるの聞いた瞬間に反射的に体をひねる。
その瞬間に、一発の飛翔体が右肩を破壊する。
「……よく避けたな。少しだけ本気で撃ってみたんだが」
「本当に君は14歳なのかい?」
そうだ、目の前の敵「霞スミカ」はプロフィールデータを見ると年齢が14歳しかないのだ。
それでいて、RAVENS ARKのランクA-4に食い込みイタリアでは現国家代表のサー・マロウスクを置いて実質最高戦力とまで言われている。
天才……というべきなのだろうか。あまり認めたくはないが、そういう人種も確かに存在しているのだろう。
「ふん……それにしても、ろくな搭乗者がいないな。亡国企業は」
嘲るような笑みを浮かべて、スミカは言った。
「舐めてくれますね……っと!!」
両手にアサルトカノンを展開し、同時に発泡。意表をついたと思うその攻撃も、簡単に回避され、逆にレーザーライフルを撃ち込まれる。
「っぐ」
「ほう?まだ避けるか」
装甲の一部が溶けてしまったが、気にせずに、今度は片手にショットガンを展開、アサルトカノンと同時に発射。敵はすぐに反応し、距離を取ってショットガンを躱し、
機体を滑らせてアサルトカノンを回避する。そして、回避行動と同時に、レールガンとレーザーライフルこちらに向けて発射してくる。
敵の期待で一番強力な武装はレールガンだろうとあたりをつけていたので、レールガンはなんとしても回避する。だが、その直後にレーザーライフルに身を焼かれる。
今までの攻防でわかったことだが、霞スミカのIS『シリエジオ』は対IS戦闘に特化した武装構成をしている。
インテリオル・ユニオングループの一角であるレオーネメカニカが主導で開発した機体は標準モデルを改良したもので、レーザーなどの電子兵装に対してはなめらかな鏡面状の
装甲でダメージが大幅に拡散される代わりに、実弾武装に大しての防御力が低いことが特長だ。
だが、それを補う強力なレーザー兵器と各武装や機体のエネルギーの燃費の良さ。
それらの防御力を補う火力が特徴なインテリオル・ユニオンの特徴をさらに尖らせた構成と言える。
武装が新開発のレールガンにレオーネの開発した武装の中でも、攻撃力の高いレーザーライフルといった少数の武装がいい証拠だ。
レールガンの威力は言わずもがな。あの小口径では破格とも言える破壊力と貫通力、そして音速を安安と突き破る弾速。
今までなんとか回避ができたのも、運が良かったとも言える。
欠点は、一発一発打つごとにチャージの時間を要することだが、それを補うための高威力レーザーライフル。
レールガンよりは威力も弾速も劣ってしまうが、レールガンよりもはるかに手回しがよく連射も利く武装に、敵を自動追尾するASミサイルは長距離からの牽制や攪乱にも使える。
そして、明らかに多数戦に向かない単発武器の構成はしかしISなどに対してはこの上なく効力を発揮できるとも言える。
はっきりいてしまえば、まだ高校生ですらない年齢の少女に私は追い詰められつつあるのだ。
屈辱的な話だが、今はこれを受け入れるしかない。私はNのようなプライドが高いだけの愚鈍とは違うのだ。
「私は、こんなところでは死ねないのよ」
戦力差はISの特性さの分開きがある。単純な実力は互角と見ていいだろう。そして長期戦になればなるほど互いにとって不利になる。
ならば、することなど決まっている。それに、私はここで死ぬつもりなどないのだ。
私は生きる。生きる理由がある。
(私は死ねない。私の親友を殺したあの男を倒すまでは―――)
そうだ、あの真っ白なコート。忘れるはずがない。レジスタンスだった私たちをまるでアリを潰すかのように虐殺していったあの男を……。
今でも脳裏に焼き付き離れない。忘れるものか、あの仲間の返り血を浴びた顔と、その血をまるで汚らわしいと言わんばかりに弾くあのコートだけは、忘れることなどない。
決して私は許さない。
だから―――
「私は、こんなところで死ぬわけには行かない!!」
たとえ不利であろうとも、それがどうした!
もとより承知の上。相手はRAVEN。世界最強の傭兵なのだ。
生中な気持ちで勝てるほど甘くはない。
(それでも私はやる。やって仲間の、アイリーンの仇を討つ!)
覚悟を新たに、目の前の敵に向かって私はISのブーストを吹かす。
――――
「ウィンター、オータムは戦闘中スコールは幹部の護衛に周り、スプリング、サマー、Dは死亡か……そして」
Jは現在の状況と自分の置かれた状況を冷静に分析する。
目の前には、もはや芸術の域に達しているであろう、美麗なフォルムを持った藍色のISが鎮座している。
「……」
Jはその人物を知っている。カナダの国家代表候補にしてRAVENS ARKのトップ3に君臨するランカー。アンジェ・シャルティール。
彼女は左手にマシンガン『01-HITMAN』右背にアクアビット製のプラズマキャノン『SULTAN』
そして、右手には彼女を象徴する武器と言って差し支えない大出力レーザーブレード『07-MOONLIGHT』を持っている。
「いくぞ」
敵の機体『オルレア』は瞬時加速を行い、一瞬で距離を詰めると同時に、右手のブレードを展開する。
「ちぃ!!」
Jは自身のIS『ブラック・ゲイル』のブースタをフルスロットルにし、一気にバックする。
そしてギリギリで敵のレーザーブレードを躱し、シールドを削られながらもライフルを発射する。
オルレアはそれを『クイックブースト』を駆使し、交わすと同時に距離を詰めると、今度はプラズマキャノンを起動、マシンガンを発射しながら、砲撃する。
「……」
Jはプラズマキャノンを躱し、マシンガンは受けながら突撃する。そして、左手の物理ブレードを展開し斬りかかった。
格闘戦特化のオルレアを相手にその攻撃は愚策と言える。無論オルレアはレーザーブレードで迎え撃とうとする。
瞬間、Jは瞬時加速を、使い後ろに急加速する。そして、ライフルと背部のレーザーキャノンを発射した。
「……!」
オルレアはマシンガンを左手で防御し、レーザーキャノンはブレードで切り捨てた。
出力と密度が違いすぎるために、レーザーキャノンは何もなかったかのように、レーザーブレードに消滅させられる。
「……フフ」
ふと、オルレアの搭乗者であるアンジェは笑った。その笑は新しいおもちゃを与えられた子供のような純粋な響きを持っている。
「この感覚……面白い!!」
「……」
アンジェは距離を撮り、ブレードを構えなおす。その様はまさに戦乙女が如くの風格をまとっている。
「いくぞ!!!」
先と同じセリフ。だが、その言葉の重みは先ほどよりもさらに重厚に。それを証明するかの如く、オルレアの速度は今までとは比にならない速度でJに迫っていった。
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