インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~ 作:鳳慧罵亜
イツァムの右手に持つガトリングがDの機体、アメリカが開発した第2世代IS『サンシャイン』の肩を削り、左手のビームマシンガンが
スプリングの機体『オーギル』を捉える。Dは肩部に装着していたミサイルポッドの片方を破壊され、スプリングはシールドエネルギーを削られる。
「くっ」
「ちぃ!」
2人は、ブーストを吹かして射線から外れると同時に、それぞれDはバズーカを、スプリングはアサルトライフルを斉射する。
だが、バズーカはあっさりと躱され、アサルトライフルも、彼女のIS『プロトエグゾス』の機動力で行う連続バレルロールによって一発もかすることなく空を切っていく。
そればかりか、イツァムのバレルロールしながらの射撃によって、スプリングのISはていたダメージを受けてしまっている。
「お生憎ね。RAVENS ARK、ランクA-1の実力を舐めないで欲しいわ」
イツァムはそのまま瞬時加速を行い、Dにガトリングでの牽制を行いながらスプリングに突進する。
スプリングは左腕部のレーザーブレードを展開、細いブレードは攻撃力が他のブレードに比べ見劣りする分間合いが長い。イツァムは現状格闘武装は展開していない。
しかも両手に銃を持っている状態では、タックルか蹴りくらいしか出来はしない。
「もらった!!」
確信し、ブレードを振り抜く。
彼女の判断は決して間違いではない。いや、この状況ではそれが一番の選択肢であり最も迎撃できる確率が高い判断である。
ゆえに、この選択には誰も否とは言うことはできないだろう。
ただ、惜しむらくはそう。
「私がね!!」
振り抜かれたブレードには、敵を切った引っかかりも、重みも、何もなく、ただ空を切った虚しさが残るのみ。
そして、それが意味することとはそういうことである。
彼女はRAVEN。そしてランクA-1。世界最強の傭兵集団。その中の頂点に君臨する人物だ。スプリングの斬撃も体を捻り、ブレードの上を転がるようにして回避し、その回転の勢いを
のせたケリを放つ。
ドズン
「ぐはぁ!!」
腹部に強烈なトゥーキックが入る。シールドにより生身への直撃は避けたものの吹き飛ばされ、壁面に叩きつけられる。そのまま壁を突き破り、スプリングは外へとはじき出された。
「さぁて、まずは1人潰しましょうか」
そして、イツァムはスプリングへ追撃は仕掛けずに、Dに攻撃を開始する。
右手でガトリングを撃ち、左手でガトリングの弾幕の隙間を縫うようにビームマシンガンを撃つ。
広範囲でばらまかれるガトリング弾の雨の中を襲ってくるビーム弾。これだけでも回避はほぼ不可能。
Dは物理シールドを展開し、射撃を防御しながらバズーカを発射するが、イツァムはそれを読み、すでに回避している。
否、イツァムはそもそも射撃中一度も停止などしていない。
高速で飛び回りながらの弾幕の嵐。四方八方から襲ってくる銃弾の雨に対して、Dは反撃を行う暇もなく、防御に徹する。
『サンシャイン』は装甲と燃費を重視された設計で、高火力の武装をいくつも装備している。その反面機動力がほかと見劣りするが、
Dはブースタをかなり高出力な物を搭載させてあるため、ラファール・リヴァイブ程度には機動力を確保しているのだ。
だが、それでもイツァム・ナーの駆るIS『プロトエグゾス』には追いつけない。
高機動を突き詰めたこのISは、ただ機動力に特化してあるだけではなく対G性能、武装搭載数、装甲など多方面でも良好なパフォーマンスを発揮できるようにしており、
加えてイツァム・ナーの持つIS操縦者として最高レベルの技量が、ISの性能を限界にまで発揮させて、一切の隙のない戦力を発揮する。
「だが……」
Dは瞬時加速を使用、イツァムに突撃する。
片手にガトリング砲を展開。イツァムの者よりも大型で、腕部脱着式の重火器である。
砲身が唸り声を上げて回転し、そのすぐあとに大量の弾丸が放出される。さらにもう片方の手に持つバズーカが火を噴いて、イツァムに襲いかかる。
イツァムはブーストをフルパワーで更かし、射線から脱する。だが、それを読んでいたDは背部の多連装ミサイルポッドを起動、ロックオンと同時に発射する。
両肩に合計32連装のミサイル軍が津波のように押し寄せてくる。イツァム一度ブーストを吹かして、距離を詰めるが、それはバズーカを交わすことによって防がれてしまい、
その一瞬を持って、ミサイルが襲いかかる。
「フフッ」
だが、イツァムは慌てることなく、ミサイルのあいだを縫うように機動し、ミサイル軍から抜け出る瞬間に、バレルロールを開始する。
ミサイル軍は、追尾性能が高いようで、いきなり推進方向の真逆に逃げられても、しつこく追尾する。
だが、ミサイルの弾頭が再びイツァムを捉えた瞬間、ミサイルの群れはまるでうずを描くように回転しだした。
「なに!?」
Dが驚愕の声を上げる。なぜなら、ミサイル郡が急にうずを描くように回りだしたかと思ったら、
ミサイルどうしが、激突して自爆していったからだ。
「ミサイルは何も撃ち落とすだけが防ぎ方じゃないわ」
イツァムはそう言って、腕部グレネードを展開し、瞬時加速により一気にDと密着する。
「しま―――」
「じゃあね」
何の躊躇も戸惑いもなく、まるで友人の家の扉をノックするかのような気軽さで、その引き金は引かれた。
――――
「がはぁ!」
外にたたき出されたスプリングは、地面に叩きつけられるギリギリで、体制を持ち直す。すぐに上を見上げて自分が叩き出された壁面を見る。
(油断していたつもりはなかったが……流石にやる)
ISを浮かせ、ブーストを吹かす。早くDと合流しなければ各個撃破されかねない。
今の攻防で分かったが、あの女には一対一では決して勝てない。最低でも二対一の状況に持ち込まなければ勝ち目はない。
それがイツァムにもわかっているから私たちを分断したのだろう。
「っち」
ブーストを点火し、急上昇。そのままフルスロットルで基地内部に入ろうとする。
が―――
「ぐはぁ!!」
突如、背後からの衝撃により、体制を崩しブーストを切り、PICをフル稼働させて停止する。
衝撃が走った方向を見ると、そこには誰ひとりいなかった。
「な、なにが―――っ」
そして、スプリングのい再び襲いかかる何か。今度はギリギリでかわしたが、腕部の装甲にかすり、傷を作る。
ISのハイパーセンサーが捉えたそれは、銃弾。
(馬鹿な、この天候で狙撃だと!?)
現在空は鈍雲に覆われ、吹雪が続いている。もちろん風も不安定で強烈だ。ISをまとっているからこそただの景色にしか見えないが、生身のまま出れば十数秒で
地獄か天国に行けるだろう。
この状況で長距離からの狙撃なんてすれば普通は無理だ。
普通に狙いをつけて撃てば、風に銃弾が煽られて狙いから大幅にずれることなど誰だってわかる。
ある程度の風ならば、風向きや強さを考慮に入れてある程度の調整は可能だが、この吹雪はその範疇から逸脱していることなどサルでもわかるほどだ。
それをこうまで正確に狙ってくるなど、考えられることなどひとつしかない。
「どんな計算処理能力持ってやがる……っくそが」
またしてもこちらに飛んでくる銃弾は機体の中心やや左を針の穴に糸を通すがごとくの精度でこちらに飛来する。
しかも質の悪いことに、飛来する銃弾は徐々に来るペースが早くなってきている。
流石に精度は上がらないが、その精度を保ったまま連射数が上がるのは驚異にほかならない。
「くそが……ふざけるなよっ」
連続して襲いかかる銃弾をギリギリで躱しながら、スプリングはなんとか遮蔽物を探す。だが、トラックや、コンテナなどどれもこれも
一発や二発程度で破壊されそうなものばかりである。
「くぅ……」
窮地に追いやられた格好だが、未だ手がないわけではない。
(無茶になるが、ゲートを破壊して中に入るか……)
自分がはじき出された基地の壁の穴は、IS一機がはいれる程度の大きさ。それはつまりデッドゾーンだと言えるだろう。
差し掛かった瞬間、ライフルの直撃をもらいかねない。
ならば、多少無茶をしようが、でかい入口を開けてしまったほうが被弾率は少なくて済む。
そして、そうしなければいずれなぶり殺しになるだけだということだ。
ならばと意を決してゲートに向かう。
当然のこと狙撃が来て、それを一度ダメージを覚悟で直撃を受けながらもブーストをフルスロットルしてゲートに到達。
同時に武器を展開、レーザーブレードを機動する。橙色のレーザーで構成された刀身を振るう。
ゲートは簡単に溶断され、そのままISでタックルをすると、容易にゲートは破壊され、スプリングは基地内部に戻ることができた。
そしてすぐに物陰へと避難する。
ひとまずの危機は乗り切った。ふぅと息をついて、Dの位置を確認する。
だが基地内のどこにも、少なくともスプリングの『オーギル』の索敵範囲内にDのIS反応が見当たらない。
その先に行き着く回答は唯一つ。
「まさか……」
そう、Dが撃破されたということ。
死んだかはまだわからないが、客観的な見方はしないほうがいいだろう。
つまり、そういうことだ。
「くそったれ」
特に彼女に対して仲間意識などを持った覚えはないが、それでも先程まで共闘していただけにやるせない気分にはなる。
そして、現状一対一ではイツァム・ナーに勝てないのは先の戦闘で嫌というほどに理解したために、早くほかの奴と合流しなければならない。
おそらく、他にも連中が来る可能性は高い。
幹部はミューゼルがうまくやってくれているだろう。私たちは、何とかして侵入者たちを撃破していかなければならない。
Dが脱落したとすると、残りは自分を含めて12人。内2人は例の新入りだったか。
とにかく、合流するとしたらJかウィンターあたりが望ましい。どちらも知っている仲だし、実力も申し分ない。
そうと決まれば2人の居場所を……!
「ちぃっ!!」
「おつかれさん」
突如現れたIS反応にギリギリで気がついたのは僥倖だった。おかげで敵の一太刀目をなんとかかわす事が出来たのだから。
「周りでドンパチやってるってのに、ずいぶん余裕があるみたいじゃないか。俺の相手をしてくれよ」
暗銀色で碧色のマント。そして細身な大剣。
スコールの報告にあった特記戦力の1人。ソーマ・ラーズグリーズ……!
「さてと……イギリスの量産型か」
蘇摩は遠くから響いてくる銃声を頼りに通路を駆けていた。しばらくして正面ゲートにたどり着いた瞬間、ゲートが吹っ飛んだので。慌ててISを収納し、通路の影に隠れる。
どうやら相手も誰かから逃げてきたようで、ゲートに入ってくるなり外からの死角に入った。
そうやって建物に入り車線を遮る場所に行くということは、そこが重火力によるキルゾーンになったか、狙撃されたかのどちらかが妥当だろう。
重火力だったら、普通に乗り込まれるだろうし、となるとここは狙撃。
つまりロスか……。
わざとそうしたのか相手が逃げ切ったのかは知らないが、不運なことだな。まだロスヴァイセのほうが生存率は高かったかもしれないが、俺は人でなしだからな。
ISを展開し、同時に瞬時加速を行う。一近距離を詰めて、まずは一太刀を入れようとしたが、直前で気づかれぎりぎりでの回避を許した。惜しい。
だが、次はない。
「なぜ、貴様がここに……!」
スプリングの問に蘇摩は笑すら浮かべてこう返した。
「お前らがここにいるからだろ」
そう言って、つの間にか展開していた左手に持っているものは、てるてる坊主のような一見何に使うかわからないもの。
「久しぶりの出番だからな。こいつは」
そう言いながら、刃にてるてる坊主をあてがい、一気につば元から鋒へとスライドさせる。
ヴ……ン
すると、大剣の刃がまるで月の光を連想させるような青白く、穏やかで優しい、しかし強い輝きをまとっていった。
「行くぜ?」
刃が完全に輝きで覆われた瞬間、自体は急変する。蘇摩が瞬時加速を行い、一気にスプリングへと肉迫する。ほぼ一瞬で距離はつまり、すでに大剣の射程内にスプリングはいる。
「くそったれぇえええ」
スプリングは叫びながら、レーザーブレードを振りかざした。狙いは大剣。
こんな武装はスコールの報告になかったが、一目見ればわかる。あの綺麗な輝きの刃に触れてはいけないと、かすればそれで終わると直感する。ゆえに
レーザーブレードで迎撃、もしくは剣を一瞬止められればそれでいい。
それで距離を稼ぐことができる。
そう思い振り抜いたブレードは、一瞬の抵抗もなく、ただ薄紙を針で付いたかのように簡単に両断される。
「な―――」
「さようなら」
彼女が最後に感じたのは、灼熱の業火と、凍えるような刃の感触だったに違いない。
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