インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

94 / 116
侵入 Ⅲ

上空800m。後続組の乗ったヘリはその高度を保ったまま、シャドーモセス島沖合2kmの地点を集会していた。

RAVENSARKが任務で使用するヘリには、基本的パシッブ(受動)的なステルス性も高く、アクティブステルスシステムの導入により、電子的手段を用いた欺瞞が可能で、艦や施設クラスの大型レーダーの欺瞞すらも十分に可能である。

 

そのために、戦闘能力は皆無と言って差し支えないくらいに低く、ロケットランチャーの類は一切装備されていない。

戦闘用ではないので必要がないと言えばそれまでのことであるが。

 

内部では後続員6名が待機している。それぞれに緊張した様子は見られず、かなりリラックスしているといってもいいだろう。

 

「……作戦開始から、そろそろ30分経過だな。6だ」

 

「さて、どうしたものかね?私の予想ではあと20分以内に動きがあるとみるが……7だ」

 

「貴様の予想など知るか。そしてダウトだ」

 

「ふむ……ばれたか」

 

「……9だ」

 

「11……何かしら動きがあれば通信が来るだろう」

 

「あのメンツに限ってヘマなどはしないさ」

 

上からアマジーグ、テペス・V、霞スミカ、テペス、ロスヴァイセ、アンジェ、サーの順番である。

6人の会話から分かるとおり、彼女らは現在トランプのゲームの一つ『ダウト』をしているところである。

 

傍から見れば緊張感の欠片もない、見方によっては敵地で随分と余裕のある行動にみえる。

それはすなわち自分たちがどれだけ自身の能力に自信があり、同僚の能力を信頼しているのかがわかるようでもある。

 

ただ、やはり少しは緊張感を持ったほうがいいのではないかとも思うが、おそらくここに蘇摩がいればそう言うだろう。

そして、全員から「お前が言うな」と言われるのだろう。

 

「それで?今のところはまだ音沙汰なしか。私たちの高動が敵にバレている可能性を含めると、あと15分以内に連絡が無い場合、無線でもかけてみるか?」

 

「ふむ。盗聴不能の暗号プロトコル通信を行うのならば、現在地よりも500mは距離を詰めなければならない。敵に発見される恐れも出てくるが、皆はどう思う?」

 

サーの意見に、テペスが皆に回答を促す。帰ってきたのは皆それぞれである。

 

「問題ない。発見されれば予定をはやめるだけだ」

 

「だが、それで幹部に逃げられる可能性も出てくる。だが、それはあのメンバーが全滅するというリスクとかけてどっちが重いかだ」

 

「なら決まりだな。あと15分待って、何も来なければジャックに通信して、殴り込みと行こうじゃないか」

 

「私はスミカに賛成する」

 

上からロスヴァイセ、アマジーグ、霞スミカ、アンジェの順の回答は、概ね賛成といった意見であろう。

そして、その機はすぐに訪れた。

 

『Aランカーのみなさん!緊急出撃お願いします!!』

 

その声は、Aランカーの誰でもない少女の声だった。

 

――――

 

「さて、と。もうすぐだけどな?」

 

ミヒャエルは、口の中で丸めたガムを飴のように転がしながらダクトの中を匍匐前進で進んでいく。真っ暗な中で、赤外線暗視ゴーグルを利用しながら進んでいき、頭の中に図面を描きながら目的地に進んでいく。薄緑色の代わり映えしない視界をゆっくりと音を立てずに進んでいく。

 

そうして3分ほど経過したであろうか。ようやく司会に薄緑色以外のものが見えてきた。

真っ白に塗りつぶされた一角が視界の中に入る。

 

それはすなわち光源。口元に笑みを浮かべたミヒャエルは、暗視ゴーグルの機能をオフにする。するとそれはただのメガネのようなものになる。

そして、先ほどよりもゆっくりと慎重に近づく。どうやら細かいあみで出来た通風孔のようだ。そこから中が覗くことができる。

 

「それよりも、ここ最近で見かける正体不明のISはどうなのだ?IS学園では例の無人機をいとも簡単に捻り、ミューゼルにも接触している。そして、あの篠ノ之博士の駒にも接触をしたそうではないか」

 

「それについては私が独自に調べているが、詳しいことは分かっていない」

 

「まさか篠ノ之博士の作品というわけではないだろうな?」

 

会議の内容には特に興味はないが、どうも最近出てきたキナ臭いISの付いて話をしているようだ。

幹部のメンバーを照合。

 

……よし、全員いるな。あのクソ忌々しいスコール・ミューゼルもいやがる。あの女には以前一杯食わされた。借りはきっちり返してやるぜ。

なにより、私のところがビンゴで少しほっとした。

 

「RAVEN5だ。いたぞR-6にビンゴした」

 

『RAVEN9。了解、すぐに向かう』

 

『RAVEN1了解。こっちはいつでも動けるわ』

 

さて、と。こっちも行きますかね。

この網は……よし、殴りゃあ外せる。なら外したあとは、手榴弾でもお見舞いして起きますか。

 

そして、手榴弾をベルトのホルダーから取り出して、音を立てないようにピンを抜く。

 

「みなさん。私たちが現在議論すべきは、いつ来るかもわからないアンノウンよりも、今ませに迫っている勢力に対してではありませんか?」

 

「?」

 

金網越しに聞こえてきた女性の言葉に、ミヒャエルの金網を殴ろうとした手が止まる。彼女のセリフに違和感を覚えた。

今まさに迫っている勢力、だと?

 

「いきなりどうしたのかねミューゼル君。まるで、何者かがここに侵入しているような言い草じゃあないのかね?」

 

「ええそうです。彼らは私たちよりも高いレベルでの能力を持っているのです。そう、今この瞬間も……」

 

そして、スコールが抜いた拳銃は、迷わずその一点に標準を付ける。

 

「……すぐそこに」

 

(不味い!!)

 

乾いた銃声が鳴り響き、マズルフラッシュが銃口から閃光として漏れる。

撃ち放たれた銃弾は狂い無く通風孔の金網を突き破り、彼女へ届く。

 

バズッ

 

およそそれは通風孔の壁に当たった音ではない。通風孔の通路、つまりダクトを構成している物質はすべて金属。ならばおなじ金属の縦断が当たれば鈍くも、甲高くも、ある一首の金属音を放つ。

それが聞こえず、聞こえてきたのは分厚い布を突き破ったような音。つまりそれの意味するところは―――。

 

「ま、まさか侵入者か!?」

 

「いつの間に!?」

 

(っちぃ!!)

 

咄嗟に窮屈ながらも体をひねったことにより直撃は避けられた。左肩をかすめた程度で済んだのは僥倖といえよう。普通ならば肩に直撃しているか、悪ければ顔や頭に当たり、即死しているであろうほどだ。

かする程度で済んだのは彼女の実力と、運でしかないだろう。

ミヒャエルはすぐに金網を殴り飛ばし、右手に持っていたグレネードを室内に投げ飛ばす。

 

数秒と待たずに、爆発音と衝撃がくる。

そして、数秒と待たずに、通信をオンにしながら、今度はスモークグレネードを投げ入れる。

 

「私だ!!侵入はバレてる!!後続に信号を……」

 

スモークグレネードが爆発し、間も無く煙が部屋を満たす。暗視ゴーグルを起動して滑る込むようにして部屋に侵入する。向き的に顔からのダイブになるが、そこはRAVEN。

クルッと体操選手のように体を回転させ、体制を立て直しながら床に着地した。

 

「ちぃ!逃げられた!!」

 

通風孔から煙が逃げていき、少しづつ視界が開けてくる。そこには死体が1人、重賞が1人ほど転がっている。どうやらグレネードの爆発に巻き込まれたようだ。

他は怪我を負いながらも逃げたか、運良く巻き込まれなかったかのどちらかだろう。

 

「くそ!!イツァム!ソーマ!!っだあくそ。ジャミングかよ!!」

 

大型機材を通しての通信ならばジャミングカウンターでどうとでもできるが、こうした小型機材での通信は簡単にジャミングさせられる。

通信が効かないはかなり痛い。

 

「ミヒャエル!?どうしたの!!」

 

スモークが晴れた部屋にイツァムが入ってくる。おそらく爆発音を聞いて駆けつけたのだろう。そして、部屋を見てすぐに状況を把握する。

 

「気づかれてたのね」

 

「ああ。っくそあの女……相変わらず舐めた真似しやがる」

 

重賞をおった幹部に止めをさしながら悪態をつく。だが、こうしているあいだにも逃げられたら堪ったものじゃない。すぐに気持ちを切り替えて、今の最善策を打ち立てる。

 

「ISを展開するぞ。私は幹部を追う。イツァムは派手に暴れてくれ。そうすりゃあ気づくだろ」

 

「ええ。わかったわ」

 

そして、お互いにISを展開する。

 

イツァムはその直線的で無駄のないフォルムの深紅のIS『プロトエグゾス』

 

ミヒャエルは灰色と水色のIS『カノン・フォーゲル』

形状は、セラスの『ノブリス・オブリージュ』に似ており、どこか騎士を思わせるフォルムで、腕部装着式の機動レーザーライフル。実弾ライフル。

散布ミサイルにレーザーキャノンと言った近距離~中距離にかけてバランスのいい仕上がりになっている。

 

「蘇摩は騒ぎを聞きつけたら、勝手に暴れるでしょうし、うまく連携しとくわ」

 

「サンキュな!」

 

そして、ミヒャエルはレーザーキャノンで壁に穴を開け、外への道を作る。どうやらいつの間にか吹雪になっていたようで、強風と雪が横殴りに吹き付けてくる。

生身なら震えて、何やら厳格を見ること請負だが、今はISを展開しているため気温の変化は感じない。

 

「それじゃ、派手に暴れるわよ!!」

 

そして、しょっぱなに脱着式グレネードランチャー「CR-YWR98GP」を展開。ミヒャエルとは真逆の位置。つまり基地内部へと砲撃した。

 

――――

 

ドォン!!

 

「……どうやら、バレてたか」

 

爆発の音と衝撃は彼の方にまで届いていた。一瞬部屋を爆破したのかと思ったが、だとするとすぎに通信が来ないのが不自然だ。

 

「どうした、ミヒャエル?。先方にバレてたか?」

 

インカムに手を当てて通信を試みるが、ノイズしか聞こえてこない。つまり、誰かがジャミングをしているということ。そしてそれはつまり、そういうこと。

蘇摩は軽くため息をつく。

 

そして、地下通路の出口である、非常口の扉を開けると、目の前に要通路があり、そこのいわば十字路のようなところから、兵士が続々と集まってきていた。

面倒なので、グレネードの素早く取り出すとピンを抜き、投げ込む。

 

「ん?ぐ、グレネ―――」

 

瞬間、先行と爆音が響き、さっきまで兵士が集まっていたところは、所謂『ミンチよりひでぇや』な状態である。

かなりグロテスクである。見たら即刻食事を嘔吐しかねない。だがまあ唯一の救いは、人の原型を保ったものが一切ないということであろう。

なかなか綺麗に木っ端微塵になってくれた。このグレネードには一体何が入っているのか想像したくねえ。

 

『ソーマさん!!大丈夫ですか!?』

 

「セラか。どうやら衛星通信は生きてるっぽいな」

 

ジャミングは大型装置を使ったものじゃなくて、簡単な機材でやっているのだろう。それゆえに、衛生と言う特大な装置を用いた通信手段は生きているということになる。

 

「ちょうどいい。後続の連中を引っ張りだせ」

 

『わかりました。もしかして潜入は……』

 

「どうもバレてたっぽいな。さっき爆発があった。1人2人はもしかしたら殺れてるかもしれねえけど、多分それだけだろう」

 

『了解しました。ソーマさんはどうするつもりですか?』

 

こうなってしまっては、蘇摩のとる行動など、わかりきっているセラであるが、一応聞くことにした。なんというか、お約束みたいなものである。

蘇摩は通信越しに、セラの苦笑を感じ取りながらも、いつもどおり、気楽な調子で口を開いた。

 

「適当に暴れるわ。とりあえず。亡国の連中は2人は潰す。あとセラ」

 

『はい?なんでしょうか』

 

蘇摩は先ほどのことを思い出して、その旨をセラに伝えた。そして、それを聞いたセラは失笑したのを、息遣いで感じ取る。

 

『はぁ……さすがというか、呆れたというか……』

 

「俺らしいだろ?ま、頼んだ」

 

『……わかりました。ではそのように取り計らいます』

 

そして、通信が切れるのを確認して、蘇摩は背伸びをする。まるで、今まさに眠りから目が覚めたかのような挙動であった。

つま先立ちになり、思いっきり背伸びをしている。

 

「ん~。さてと……」

 

蘇摩は、左手のグローブを右手でさすり、口を開く。

 

「パパッと行きますか」

 

そして、ISを展開し、銃声のする方向へと、ブーストを吹かした。




感想、意見、評価、お待ちしています

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。