インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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侵入

蘇摩はあらかじめ設定された地点へ到達した。このシャドー・モセス島はアラスカ沖、フォックス諸島の最北端にある島で、一年中雪に覆われており、吹雪が吹くことも多い島である。

現在は幸か不幸か吹雪は止んでいて、雪は降っているがある程度見渡しが利く。

 

蘇摩のいるところから見えるだけでも、4人の警備兵と、監視カメラが3台見える。

イツァムやミヒャエルのところはいても2人程度だろう。ここは広場になっており中心に広いヘリポートが存在する。ヘリポートは出入り用に階段がある段差状で、階段以外は

コンクリートの壁に覆われている。故にヘリポートは警備兵の一から死角になりやすいのだが、4人の目をかいくぐるのは難しい。

 

だが、グダグダ言っていられるはずもなく、このくらいならなんとかなるだろうと、少々客観的に見ていることもある。

 

(……そろそろか)

 

ヘリから降下し、2人と別れてから大体20分。そろそろ連絡が来る頃だ。

 

『こちらRAVEN1。位置についたわ』

 

『RAVEN5。準備OKだ』

 

「RAVEN9。いつでもいい」

 

耳に装着しているインカムから2人の声が届く。この作戦において、このメンツを部隊とするなら隊長はイツァムになる。イツァムがGOサインを出した瞬間に、

この作戦はスタートすることになる。

 

『OK.それじゃ、行きましょう』

 

「『了解』」

 

イツァムの声に応え、それぞれ自分の行動を開始する。

 

『あとでポイントR-6で会いましょう』

 

それが、この場での最後の会話となった。

 

蘇摩は腰につけたホルスターから拳銃「M1911.CUSTOM」を抜く。45口径の銃口には発射時の音を抑える消音器(サプレッサー)が付けられている。

麻酔銃でもいいじゃないかと思う人もいるだろうが、亜熱帯とは違って寒冷地では重装備の兵士が多い。

 

現在この周囲を警備中の兵士も体感用の装備にヘルメットをしている。こんな装備で麻酔銃程度の針では防寒具を突き抜けない。

そして、突き抜けたとしてもすぐバレるのがオチだ。

 

かと言って9mmパラペラントじゃあ、防弾用のメットを抜くにはいささかパワー不足と言えるだろう。かと言ってリボルバーやデザートイーグルでは

一発撃てば最後、銃声でばれることは必至。ならばこそのこいつだ。

 

シングルアクションのガバメント。よく誤解されがちだが、シングルアクションに必要な撃鉄を起こす作業は実は自動拳銃だと初弾のの一発だけで良いのだ。

自動式拳銃ではは、初弾発射時の反動による遊底・遊筒(スライド・ボルト)の作動で撃鉄等が通常位置から撃発準備位置まで自動的に戻されるため、

トリガー操作のみで速やかに次弾を発射できる。

だが、リボルバーにあっては、発射毎に撃鉄等が通常位置に戻されるため、そのつど手動で撃発準備位置まで移動させる動作が必要となるのだが。

 

意外と使いやすかったりするのだ。何より、ダブルトリガーと違って引き金が軽い。

 

とは言えど、やはり撃つのはなるべく避けたい。

たとえサプレッサーが付いているとは言え、そこまでの消音効果は期待できないし、あんな重装備の人間、しかもワンショットキル狙いならメットをブチ抜かなければならない。

無論メットに直撃すれば、それはそれはでかい音が鳴る。

なので、なるべくならば撃つのは避けたいので、手早く行こうかな。

 

今、警備兵の一人が、こちらの近くを通る。そいつの歩行に合わせて、後ろにつく。足を踏み出すタイミングを合わせているから、音ではバレない。気配を消すすべだって身につけている。

4、3、2、1……今だ!

 

チャキ

 

「ん?」

 

「動くな」

 

後ろから近づき、後頭部に銃口を突きつける。そして警告。その時点でその警備兵はおとなしくなった。物事の理解が早くて助かる。

 

「ヘルメットを脱いで、膝を付け」

 

「わ、わかった……」

 

「っと、通信機器もついでに床に置こうか」

 

警備兵はこちらの言われるままに従い、ヘルメットを脱いで、両膝を地面についた。手は後頭部に回して、抵抗の意思がないことを示している。

 

「そのまま地面に伏せろ。両手も地面につけろ」

 

「……わかった」

 

警備兵は、そのまま蘇摩の言うとおりに両手を後頭部から離し、地面い伏せた。顔は横を向いていたが、そこは気にすることはない。

警備兵はじめんに伏せると、横目にこちらを伺うように視線を向けた。

 

「こ、子供……なのか」

 

「ガキでもそこらの連中よりかはできるつもりだぜ?」

 

蘇摩はそう言って、横を向いている兵士の顳かみに銃口を押し付けた。

 

「バイ」

 

―――パシュン―――

 

引き金を引くのと同時に、マズルフラッシュが走り、それとほとんど同時に兵士の側頭部に風穴が空き、血が雪の積もった地面を白から緋色に染め上げる。

即死だろう。真っ白な地面はちの緋色をより鮮明に際立たせる。もし、ここに警備が通れば一瞬でバレる。そのためにも少しだけでも隠蔽する必要がある。

蘇摩はそれを見ると、ささっと、雪をかき集めて警備兵を雪で埋めていく。10秒もすれば、そこには小さい小山のような雪の盛り上がりがあるだけで、ちは綺麗に隠れているのがわかる。

 

そして、それを確認したあとやや小走りで奥へと進んでいく。

 

ヘリポートの近くに立っているコンテナのような物体の陰に隠れる。そして、その影から施設入口を覗くと、警備兵が2人になっており、残りの1人はこの周りを回っているのだろう。

蘇摩はコンテナから数m先にあるトラックを目指し、そこから施設内に入るつもりだったが、どうも見張りの目が結構光っている。

 

こんな寒い中で仕事熱心なことで。だったらこうするか。

 

蘇摩は腰のホルスターの隣につけているホルダーからスモークグレネードを一本取り出すと、ピンを抜かずにある部分に投げた。さっきより雪が強くなり始めているため見えづらいが、

彼の投げた先は、見張りがいるその奥、つまり施設の入口の大型ゲートだった。

 

カン!

 

こ気味良い音が響く。少し雪が積もっていたからどうなるかと思ったが、グレネードは見張りの頭上を通り抜けてゲートにぶつかったようだ。

その音で見張りの兵士がゲートの方を向く。

 

その隙に、まずはトラックの影を通って、見張りに一番近いトラックの運転席付近で様子を見ることにした。

 

「何の音だ?」

 

「わからん。とりあえず確認しに行く」

 

そして、靴が雪を踏み分ける音が聞こえ、だんだん遠くなっていく。つまり、今見張りは1人になった。

見張りの視線がこちらの反対になった瞬間に走る。今履いている靴は特別で、雪を踏んでも大きな音はしない作りになっているため、音でバレる心配は少ない。

 

「ん?っな!?」

 

残り3m程まで近づいたところで、兵士はこちらに気づいたようで、驚きの声をあげようとするが、その時点で既に3mと距離は埋まり、蘇摩の足が、兵士の首を捉えていた。

 

「がぁ……」

 

グギッ。不気味な音が聞こえてきた。当然蘇摩のケリで兵士の首を叩きおったのだろう。そのまま蘇摩はゲートに向かって走る。

兵士は、音が聞こえた原因を見つけたようで、地面にかがんで何かを拾おうとしていた。

 

「これは……スモークグレネードか?なんだってこんなものが……っ!?」

 

兵士が異変に気づいたのは、蘇摩の左手が、兵士の首を掴む寸前のことであった。ときはすでに遅い。

 

グギン

 

またしても不気味な音が兵士の首から聞こえてくる。

蘇摩の左手は現在義手で、その握力は最大124Kg。それは人の首を握りつぶすには十分すぎるほどの力である。うつ伏せに血反吐を巻きながら倒れた兵士の首は、見事にひしゃげている。まるでアルミの空き缶を握りつぶしたかのようだった。

 

「これであとは1人か。バレないためにも、ここは全滅してもらいますかね」

 

運のいいことに、カメラはゲート入口のところは地面に落ちて破損しており、もう1つはゲートの隣にある階段の上で、ゲート付近からは全くの死角になっていた。

蘇摩は、例の赤外線暗視ゴーグルを装着し、辺りを見回す。

 

すぐに残りの兵を見つけた。こちらに向けてあたりをキョロキョロしながら歩いてきている。彼も仕事熱心な人のようだが、ここは運が悪かったと納得してもらうしかあるまい。そもそも、亡国企業に入っている時点で、こうなっても文句は言えんだろうな。

拳銃を構える。そして、トリガーを引いた。

 

―――パシュン

 

―――バギッ

 

ゴーグル越しに兵士が倒れるのを確認する。45口径の銃弾は、兵士のヘルメットを砕き、頭部の頭蓋を叩き割って、脳に致命的な損傷を負わせる。言うまでもなく、即死だっただろう。

これで、ここの周囲を警備する兵士は0人。心おきなく施設の中に入れる。

 

「つうか、さっむいなおい」

 

蘇摩はそう言いながらも、体を震えさせることなく、監視カメラがある階段の方へ歩いて行った。正面の大型ゲートは、開いていないし、開創でもなかったため、諦めることにしたわけだ。

監視カメラは、一定のリズムで首を左右に振っているため、その隙間を縫うことは難しくない。

階段を上りきったとは、記憶をたどって通路にぽつんと存在しているダクトから施設内部に侵入する。

ダクトは人一人がほふく前進してようやく通れるくらいの狭さなので、かなり息苦しいし、これは精神的に来るものがある。

考えてみて欲しい。左右に身動きが取れず、暗いしいつまで続くか解らないほふく前進。しかも息苦しいし、後ろも見えない。これはかなり精神的に辛い。だが、やりしかないので我慢しよう。

 

さて、ほか2人はどうなったかな?とりあえずは此方の状況を報告するか。

 

「RAVEN9だ。施設内部に侵入成功」

 

『RAVEN5。施設内部に侵入成功。作戦を続行するぜ』

 

『RAVEN1。ダメね。S-2は外れよ。ミヒャエルの援護に回るわ』

 

どうやらミヒャエルは俺と同じく今侵入して、イツァムはいつの間にか施設に入っていたようだが、ハズレを引かされたようだ。

さて、となるとあたりは、R-6か、T-7のどちらかになったな。ちなみにイツァムが行ってたのは、S-2。イツァムが一番近く、会議室のある部屋だった。

会議はどうもランダムで行われるらしく、場所は幹部以外に知らされることはないとのことだから、こうやってしらみつぶしするしかないんだよね。

 

しかも、いつ亡国企業側のISが出てくるかわからないし、面倒なことになってきたな。




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