インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~ 作:鳳慧罵亜
日本時間午前9時。此処、RAVENS ARKでは午前0時を回ったところだ。
軍用ヘリが5、6機は離着陸できるであろう大型ヘリポート。そこに9人の人影がある。
それぞれが耐寒用の装備をしており、準備は各々万全といった体制であることは言うまでもないだろう。
そこに、2機の大型ヘリがポートに接近してきた。
真っ黒に塗装されており、戦闘用の武装などは、機銃しかない。だが、その文ステルス性に優れたヘリである。
それぞれやや離れた位置のポートに着陸する。その際、ヘリのプロペラの回転により発生する突風に、誰もがどこ吹く風といった様子で
微動だにしない。せいぜい誰かが髪を抑えているくらいで、この程度でよろけたりはしなかった。
『各員、通告通り搭乗しろ』
全員がつけている通信機器からジャックの声が走る。その声を聞いた全員は、向かって左側の5番機に蘇摩、ミヒャエル、イツァムが搭乗し、
右側の12番機に残りの全員が搭乗した。
『各員、準備はいいな?』
ジャックからの確認が入る。無論、その問に答える言葉は、全員1つしか持ち得ていなかった。
「RAVEN1。OK」
「RAVEN4。OK」
「RAVEN5。OK」
「RAVEN2。OK」
「RAVEN8。OK」
「RAVEN9。OK」
「RAVEN6。OK」
「RAVEN7。OK」
「RAVEN3。OK」
全員満場一致のOK。彼らはこの答えしか持っていないし、問うたジャックも、その答え以外が帰ってくることなど予想していない。
ヘリのプロペラが回転し出す。徐々に早くなる回転数に比例するように、ヘリの周りに突風が吹き付け出す。
ヘリがゆっくりと上昇し、まず5番機が、その少し遅れで12番機が飛空する。そして、自らを外界から遮断するように2機のドアが閉じられた。
「確認するわよ」
5番機の中で、イツァムがタッチパネルを操作して、液晶に映像を映し出す。
撮された映像は、これから向かう場所、シャドー・モセス島のCG映像だった。
「上空800mから降下。着地と同時にミッションスタート。私たちの目的は、ここで行われる幹部会議の襲撃」
イツァムが操作した映像には、モセス島内の基地と思わしき場所のさらに奥にある場所。そこの部分が黄色に点滅している。
「島に降りた時点で散開。私がAルート、ミヒャエルがB、ソーマがCを使って侵入。発泡や殺害はなるべく避けること。
あくまで目的地までは潜入任務だと思っててね」
「見つかったらどうすんだ?」
イツァムに問を投げたのはミヒャエル。相変わらずガムをかみながらで、どこか緊張感にかける表情だ。だが、その質問は事の重要なところに関わっている。
潜入任務で見つかるということなど、前提としてありえないことだが、それを想定しておくのもまた重要なことである。
「そんときは、予定を切り上げて後続を引っ張り出そうぜ。それが一番安全で確実だ。単独潜入じゃないんだしさ」
蘇摩の発言に、ミヒャエルはそれもそうかと、頷いて手を振った。普通そんな簡単な話ではないはずなのだが、簡単に話してしまうのは
彼らの傲慢とも言えるほどの自信からだろう。だが、それがたとえ盲信でも、傲慢でも、それで見誤り、作戦を見するようなことはまずない。
元来、そんな無茶な理論が罷り通るのが、Aクラスランカーなのだから。
「まあ、とりあえずは見つからないようにね。それと敵戦力の予想図だけど」
再び画面を操作するイツァム。今度はマップ上にいくつもの赤、青、緑といった点とラインが表示された。
「これが敵の警戒図。防衛経路等は敵からハッキングして手に入れているわ。カメラの場所は含めて何かある?」
「俺の通るCルートはおもいっきし、カメラと見回りがぶつかってっから少なくとも2、3人は入口で処理するがいいな?」
蘇摩は画面を指差しながら言った。それに対してはイツァムも頷いて了承の意を示す。
蘇摩の通るルートは一番警備が厳重になっており、カメラの数と見回りの数が多いのだ。だが、他にルートは見当たらなかったので、
先発隊の中でも生身の戦闘能力が飛び抜けている蘇摩が担当することになったのだ。
「あとは各自、通信機器で連絡を取り合いつつ、フォローしながらってことになるな。んじゃまあ私はもう少し寝てるね」
ミヒャエルはヘリのベンチに横になってしまった。他にも、確認することはあるが、ミヒャエルはマイペースな人間で、よくこんなところが多いが、
その実一番臨機応変に対応できるのが彼女といってもいい。なので、あまり突っ込むことはしない。
「OK。俺らはもう少し詰めておきますか」
蘇摩はそう言って画面を操作し始める。今度は島のいたるところについていた点が消えて、基地内部の詳細に画面が切り替わる。
「まずはここのブロックだが……」
未だ少し慣れていないのか、右手を若干ぎこちなく動かしながら、話を進めていく蘇摩。イツァムはそれを見ながら、先ほどのロスヴァイセとの会話
を思い出していた。
――――
「話って何?」
「蘇摩のことだ」
ロスヴァイセはそう言ったあと、「いや……」と一度自分の言葉を否定した。
「蘇摩の近況。といったほうが正しいな。ともかく。蘇摩関連の話だ」
ロスヴァイセは、ボトルの紅茶を一口飲んで、再び口を開く。
「お前はおかしいと思わないか?蘇摩の左腕を」
ロスヴァイセは無駄を嫌う正確だ。だから、話はいつも単刀直入に入る。だから今も単刀直入に本題に入った。イツァムは
ロスヴァイセの言葉を頭の中で繰り返した。
(蘇摩の左腕……ね。確かにおかしいところは多いわ)
イツァムはすぐに思い至った。蘇摩は戦闘に関して、特に生身での人対人の戦いでは無類の能力を発揮する。それが生き死にのかかった戦場ではなおさらだ。
蘇摩はその非凡という言葉すらぬるいほどの才覚と、10年以上の殺しと戦場を渡り歩いた経験値が存在している。
すなわち彼は歴戦の経験値と、天才の名にふさわしい非凡さを両立している。
経験豊富な熟達した兵士はいても、経験薄いが並外れた才能を持つ兵士もいるが、その2つを両立している兵士はそういない。
そして、その多大な経験値に裏打ちされた驚異的な才能は、他社を隔絶しきっている。
ISでの能力は、未だ自分たち国家代表に並んではいないが、それでもISの技術でなく、自分自身の技術で国家代表候補と互角近い程度には
戦えているのは凄まじいと言わざるを得ないだろう。
「あんな奴が、どこの誰ともしれない奴に利き腕を切らせるという私たちでもできそうにないことをされただと?あまりにふざけすぎてりうだろう」
ロスヴァイセの言葉には若干の憤りが混じっていた。事実、ISだけの最強がこの場にいないA-6アマジーグなら、生身だけの最強ならば、
間違いなく蘇摩だ。その能力はロスヴァイセとイツァムが2人係でようやく、2人のペースで互角に戦えているというほどだ。
1対1でも、互角近い戦いならばできるだろうが、終始蘇摩に流れを握られている状態になってしまう。
「確かに……そんなマネができるなんて、私にはそれこそ1人しか思いつかないわ」
イツァムの言葉にロスも頷いた。彼女も同意見なのだろう。
セラス・ヴィル・ランドグリーズ。当時ランクA-1。唯一、蘇摩・ラーズグリーズに勝ち越すことができていた少女。
イギリス国家代表であり、その能力はRAVEN創設以来最強とも謳われた。ISの能力も織斑千冬と互角以上で、生身の能力ならば、
千冬を超えていたであろう少女。
そして、当時全く反対の思想を持ち、一見絶対に犬猿であろうはずの蘇摩と誰よりも深く親交を持っていた少女。
「でも、彼女は死んでいるはずよ?葬列にはあなたも、蘇摩も加わっていたじゃない」
そうだ。彼女は既に故人。蘇摩の目の前で息を引き取り、イギリスで大々的に葬式が挙げられた。
それは世界中でも報じられていたし、実際にロスヴァイセも、彼女の遺体と立会い、葬式に参列もしたのだ。
彼女が正真正銘すでに死んでいるはずなのは、理解しているはず。
「1年前の話だ」
ロスヴァイセは乾いた唇を開いた。
「当時、セラスの搭乗機であったノブリス・オブリージュは解体され、ISコアは初期化され保存となった」
「ええ。知っているわ」
イツァムはそう返事しながらも、既に大体の事情は想像していた。彼女、ロスヴァイセが言おうとしていることはつまりそういうこと。
「そのコアが、ある日突然紛失した。イギリス政府は機密裏に探したが、結局見つけられじまい。探そうにも探す宛すらもが見つからなかった」
「そう……」
やはり。と、イツァムの感想はそれだった。そして、そこまで来れば阿呆でも行き着く一つの推論。
「恐らく、セラスは生きている。いや……」
「何らかの形で生き返った。そして、今は何らかの目的が有り、蘇摩と接触したその結果が今、か……」
胸に、何かよくわからない違和感のようなものを感じた。今にもボトルを握りつぶしたい衝動に駆られた
イツァムはペットボトルの紅茶を一気飲みした。
だが、その感覚と衝動はボトルが空になっても消えはしなかった。むしろ、より強くなっている気すらする。
だが、ここでボトルを握りつぶすのはお門違いだ。むしろ握りつぶしていいのは蘇摩だろう。
たとえここで蘇摩の話をしていたところで自分がそんなことをする権利はないと思う。
「蘇摩。ショックだったでしょうね」
「だろうな。いまはあのロシアの、確か」
「タテナシ・サラシキよ。現在の蘇摩の彼女さん」
「そうだ。彼女と関係を築く前後のことだったのだろう?」
ロスは、イツァムのように衝動に駆られたような気配はないが、表情に影をさしているのは見なくてもわかる。
「そう言った意味では、あいつは我々の中では一番子供だ。それに、あいつは『普通』に憧れていたところもあったからな」
「そういえば言ってたわね。生まれがもうちょいまともだったら、普通の高校行って、普通に彼女作ってただろうな。って」
ロスヴァイセの言葉にイツァムは同調するように口を開く。だが、どちらも蘇摩をかわいそうとまでは思わかなった。
ただ、子供だな、と。
2人は彼に比べれば、実年齢も精神的にも長い時間を生きている。その分戦場の経験は劣っていても人生の経験は劣っていない。
人の命にはかなりドライな2人だ。無論蘇摩もかなりドライだが、仲間や友人の死にもドライでいられるかいられないか。そこが蘇摩と
彼女たちを分けるものだった。
「まあ、蘇摩にはこっちに来て欲しくないわね」
「あいつに残っている年相応の部分だ。あれがあるからこそ。あいつは強く在れている」
平然と敵を殺すが、仲間が死ぬのは嫌だ。戦場にスリルを求めながらも、絶対に生き残りたい。誰よりも非常だが、誰よりも甘い。
そんな矛盾と自己中心的思考。それが蘇摩が蘇摩である事の絶対部分だった。
感想、意見、評価、お待ちしています
蘇摩は自分でも思うのですが、めちゃくちゃな人間ですね。
矛盾と、歪な自己中心的思考。まあそこが自分なりに良いと思っているんですが。
というより、いろんな小説やらノベルやらが出てきて、もはやキャラが出尽くしちゃってる感がありますからね。どんなキャラ書いても「テンプレ乙」とか言われるとか……。かと言って頑張ってキャラを複雑にすれば「わけわからない」「キャラとして成り立ってない」とか言われるという。なんか世知辛いと思わざるを得ない現状ですよね……。
蘇摩だって、見る人から見れば「はいはいテンプレテンプレ」的に映るでしょうし、やりづらいですね。
何を持ってテンプレとするのか。とか、そういったものがあればいいんですけどそれは個人の感覚なので仕方ないとは思いますけどね。