インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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ブリーフィング

翌日の昼。蘇摩は医療室にいた。目的はもちろんのこと左腕の義手である。今回使用する義手はAMSを利用した最新型で、蘇摩の神経の電気信号により各駆動部の人工筋肉を刺激し、

稼働させるものである。

そのため、反応速度は人間のそれと変わらず、動きも柔軟さと頑強さを両立することができている。

 

「……これで装着は完了です。どうですか?動きに不具合等は」

 

言われ、蘇摩は軽く義手の動作を確認する。手を開いたり、閉じたりなどをしてみるが、特に反応が遅かったりといったものはない。

ただ、問題がないわけではなく

 

「感触がないのは気持ち悪いな」

 

言ってはみるが、触覚はどうしようもないので仕方がない。装着を担当した技師も、そこは苦笑いをするしかなかった。

 

「戦闘行動に支障は若干あると思いますが、少なくとも日常生活では問題ないくらいには動くはずです。なにか故障などがありましたら、ご連絡ください」

 

「OK。なるべく丁寧に扱うことにしよう」

 

機械特有の鈍色の金属骨格の左手を右手でさすり、蘇摩はそう言った。そして、コートの内ポケットから銀色のグローブを取り出すと、左手にはめる。

指のところに穴があいているタイプなので、指は隠せないが、少なくとも手のひら、甲は隠せる。手首からは長袖を着るようにすればいいだろう。

夏は、包帯でも巻くか。

 

「ところで、この腕だと握力は最大いくつくらいだ?」

 

「最大ですと、そうですね……124Kg程度でしょうか」

 

「おいおい、下手すると何でもかんでも握りつぶしちまうぞ」

 

蘇摩がやや失笑気味に言った。それに大して技師は机から、タブレットを手に取り、操作していく。

 

「一応、最大値ですので、普段はあなたが通常に使う程度の握力くらいしか出ませんよ。だそうと思えば、それくらい出せるということです。

少なくとも、戦闘行動以外でそこまでの握力を必要するとは思えませんが、開発している場所が場所ですからね」

 

まあ、それくらいあれば人の頭蓋骨握りつぶすくらいは簡単だろうな。腕を折るとかならば、なおさらだ。

 

暗い話になるがこの技術、2次大戦がなければこの技術もはるか遠くの未来でしかできなかっただろう。2次大戦は世界の科学技術を、20年分は一気に進めたと言っても過言ではない。

もしかすると、次に第3次世界大戦でもおきたら、世界の技術はどこかのSFじみたことも可能になるほどに進歩するかもしれない。

 

いや、もうISとかACとかでそういったものの基盤はすでに完成している。

 

ふとそんなことを考えていたとき、後ろのドアが開いた。

 

「おはよう、ソーマ」

 

振り開けると、茶髪に長身の女性がこちらを見下ろしている。現在ランクA-1。イツァム・ナーだ。

 

「久しぶりだな。学園祭以来か」

 

「ええ、あの時はろくに話もできなかったわね。まあ、今回もそうかもしれないけれど」

 

イツァムは笑いながらそう言った。確かに今回はジャックが何かやるかもしれないから、あまり話せないかもしれない。それが普通なので、特に思うこともないが。

まず、国の代表がこんなところにいるのも、国のトップがRAVENを必要としている証拠にほかならない。

RAVENのAランカー程の人間が自分の国にいるというだけで、かなりのアドバンテージになり得る。と、言うあたりの話は今度にしよう。

 

「それにしても、驚いたわよ。貴方程の人が利き腕を切られるなんて、よっぽど油断してたか、相手が化物だったのどちらかでしょうけど、まさか前者ってことは」

 

「ねえよ。相手が正真正銘のバケモンだったってこった」

 

イツァムの言葉を否定して、後者であると伝える。彼女の言葉を見る限り、どうやらまだあいつが生きていることは知らないか。

 

「どんな相手だったの?知っておきたいわ。あ、別に他意はないわよ?」

 

イツァムの言葉に、蘇摩は少々めんどくさそうに言った。

 

「つってもなあ、バケモンはバケモンとしか、特徴を言えば、モデル体型、めちゃくちゃ綺麗。ISを扱える。くらいかな」

 

「ありがとう。つまり、セラスみたいな子ってわけね」

 

「有り体に言えばそんな感じだ」

 

イツァムの言葉に一瞬ひやりとしたが、それくらいで平静を崩すほどにはバカじゃない。普通に答える。まさかイツァムもたとえとして出しただけだ。

本当に相手がセラスとは思っていないだろう。まあ、あいつが死んで4年も経っているんだからな。

 

『Aランカーに伝達。至急第4ブリーフィングルームに集合せよ。繰り返す。Aランカー全員、至急第4ブリーフィングルームに集合せよ』

 

唐突に流れたアナウンス。第4ブリーフィングルームとは、ARK内でも、一番規模の小さいブリーフィングルームで、人が20人程度入れるくらいの小規模なBFルームだ。

とは言っても、機能は充実しているので、少数精鋭で行う任務などでは重宝されている。それは当然、俺等Aランカー全員にも言えることだ。

 

「……時間ね」

 

「ああ。腕くっつけるのが間に合ってよかったよ」

 

蘇摩は椅子から立ち上がり、技師に軽く手を振った。そして、感謝の言葉を述べる。

 

「ありがとう。感謝するよ」

 

「いえ、それが私の仕事ですので」

 

「行くわよ。ソーマ」

 

「OK」

 

そして、歩き出す。この先にあるのがなんなのか、漠然とした予感を抱えながら。

 

――――

 

「……全員、集まったようだな」

 

部屋の椅子に座っている9名の人員。それぞれ全員が、このRAVENS ARK最強の9人であることは言うまでもない。

 

「だが、1人2人ならともかく、全員を招集とは、一体何を行うつもりなのでしょうかな?ジャック殿」

 

発言したのは、ランクA-7テペス・V。フィンランド国家代表であり、同国のIS開発企業『アクアビット』の第3世代型機『シルバーバレット』を駆る。

彼女は軍人気質な人間で、硬い言葉遣いが特長だ。

 

「それを含め、これから説明を行おう」

 

ジャックはテペスにそう答えると、全員を見渡した。

 

「これから行うのは他でもない。予てより我々にとっても、無視できなかった厄介者。「亡国企業(ファントム・タスク)」の制圧だ」

 

その言葉に、一同が騒然となることはなかったが、それでも流石に感情が動かないものはおらず、ある人間は表情が硬くなり、ある人間はピクリ、と眉が動き、

ある人間は楽しそうに口笛を吹く。

 

「亡国企業ね……本拠地でも掴んだのかい?」

 

ガムを噛みながらそういったのはランクA-5ミヒャエル・フォーゲル。トルコ国家代表で、第2世代型『カノン・フォーゲル』を駆る。

彼のISはEUに加盟しており、キプロスに本社を置く『オーメル・サイエンス』の開発したISである。

 

オーメル・サイエンスはかのローゼンタール社と技術提携をしており、それもキプロスがEUに加盟しているからとも言えるだろう。

 

「そのとおりといえばその通りになる。だが、本拠地。は正確な表現ではないな」

 

ジャックはミヒャエルの言葉を遠まわしに否定する。だが、「しかし」と言葉を続けた。

 

「それを潰してしまえば、おそらく亡国企業はその規模の7割は機能しなくなると言えるだろう」

 

「……つまり、それほどの重要な基地、あるいは施設ということになるな」

 

ジャックの言葉に反応したのはランクA-4霞スミカ。イタリア国家代表候補で同国の企業『レオーネメカニカ』の開発した第1世代IS『シリエジオ』を駆る。

彼女は同じくイタリア代表のサーを上回っており、実質イタリアの最高戦力と見られている。

性格は粗暴で、暴言が目立つち嗜虐家と思われており、実際そういうところもあるが、それ位以上にドライな性格でことによれば虐殺まがいの任務だろうと嬉々としてこなすほどの非情性を持つ。

そして、レオーネメカニカはメリエス、アルブレヒド・ドライス、通称アルドラと提携し、『インテリオル・ユニオングループ』という企業のチームを作っている。

 

「成程、それゆえに亡国も、相応の戦力を持っている。なし崩し的には落とせない。だから我々全員を召集というわけか」

 

スミカの言葉に続けたのはランクA-6アマジーグ。Aランカーの中では蘇摩と同じ国家代表ではない。ではないが、その実力の高さからAランカーに食い込んでいるのはその実力の高さからと言えるだろう。

搭乗ISは『バルバロイ』南アジア経済圏を拠点としている工業系総合企業『イクバール』の第2世代型ISである。

 

彼女はIS適性が最低クラスの『D-』であるが、その弊害として生じる致命的過負荷をあえて受け入れることで、その戦闘力を上昇させている。

おそらく、ISでの戦闘能力だけで言えば、彼女が最強といってもいいだろう。

 

「まあ、どれだけの戦力外たところで、私たちならば突破はできるだろう。といった判断かな?ジャック」

 

彼女は以前、蘇摩とAランカーの地位を争った人物。ランクA-8サー・マロウスクだ。

セラスの死亡により、Aランカーに返り咲いたため、その地位は低いとみられるかもしれないが、そんなことを露とも感じさせないほどの実力は兼ね備えている。

現イタリア国家代表であり、同国の企業『レオーネ・メカニカ』の第2世代『ラムダ』を駆る。

その実力は4年前よりも上昇しており、他のランカーと戦っても互角の戦いを繰り広げている。

 

「その通りだ。本来ならば3~4人でも攻略できる程度だと判断したが、敵の戦力が予想を超えることは多いために万全を期して全員を召集するという形をとった」

 

ジャックの言葉に全員は何ら依存はないようだ。それは彼の手腕に信頼があり、何より自分の能力に自信があるということにほかならない。

 

「一つ訊きたい。現状確認されている亡国の戦力は?」

 

ジャックに問いを投げたのは、ランクA-2ロスヴァイセ・ヴィンヤード。現イギリス国家代表で、同国の企業『BFF』正式名称はBernard and Felix Foundationの

第2世代型IS『ヴァルキュリアC』を駆る。

 

その実力は言うまでもないだろう。

 

「ふむ。現在確認されているのは、イギリスが開発した第3世代型『サイレント・ゼフィルス』にアイルランドの『ランブリング・メガセリオン』フランスの『ラファール・リヴァイブ』

に、アメリカの『サンシャイン』あとは、カナダの『アリーヤ』に、ロシアの『ゴールデン・ドーン』か」

 

モニターに映し出されるISの画像。その総数は見た限りでは10機ほどであった。

 

「てことは、総数は、俺らとあまり変わらないか。ひとり1機、わかりやすいな」

 

蘇摩がここで発言した。彼については、あえて説明する必要もあるまい。蘇摩の言葉にある人物が反応する。

 

「雑魚はお前たちに任せる。私は強いのと戦いたい」

 

彼女はランクA-3アンジェ・シャルティール。カナダ国家代表候補で、同国の企業『レイレナード』の開発した第3世代型IS『オルレア』を駆る。

最大の特徴はなんといっても、大型レーザーブレードだろう。

世界最高のエネルギー出力を誇り、絶対防御ですら紙同然に切り裂く威力を持ったブレード『ムーン・ライト』。それはもはや彼女とそのISの象徴とも言われている。

彼女は、半ば戦闘狂の節があり、強者との戦いを何よりとしている。

 

「とは言っても、ドイツが強いのかよくわk欄がな。そこは日頃の行いに賭けとけ」

 

蘇摩はそう言って、アンジェに手を振る。アンジェは口を閉じて蘇摩を見やる。その表情は、時があればお前とやりあいたいと雄弁に語っていた。

 

「作戦区域はアラスカ沖にあるシャドー・モセスだ。ここで幹部全員の会合があると、潜入していたランカーからの報告があった。作戦内容は単純だ。

先行員が潜入、会合を調査、その後後方員がISを用い、強襲。先行員で可能な限り幹部、及び人員を排除。後方員でISを叩け。以上だ」

 

「先行員も、ゴミ掃除が終わればIS排除に参加してもいいな?」

 

質問は蘇摩だった。彼はおそらく先行員に名乗りを上げる気満々だったのだろう。それに対してジャックは「無論だ」と頷いた。

 

「では当作戦の人員を告げる」

 

ジャックは、モニターに2つのグループに分かれた表を映し出した。左側の表には蘇摩、ミヒャエル、イツァムの3人。残りが右側の後方員という配置だった。

対人戦闘、潜入になれている3人を先行員にし残りを後方員として待機させる。これ以上ないほどに理にかなった配置だった。

 

「この人選に不満のあるものは」

 

「いねえだろ。流石の采配じゃねえか?」

 

この場にいる全ランカーの感想をサーが見事に代弁した。残りのランカーは沈黙で意義の無しを示す。それを見たジャックは頷き、言った。

 

「これより18時間後に作戦を開始する。出発は12時間後だ。各自、準備を整えておけ。解散する」

 

そう言って、この場を締めくくったのだった。




感想、意見、評価、お待ちしています。
今回はまあ、Aランカーの簡単な紹介といった形ですね。
ACをやったことのある方は一度は目にした名前ばかりだと思いますw。
つうかかき分けが大変だw。


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