インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~ 作:鳳慧罵亜
ここから全くのオリジナルに発展させるわけなので、時間がかかっています。
もしかしたら、一週間更新になるかもしれません。いや、現状そうなってるか……orz。
「僕等が……」
「貴様の、子供だと……?」
2人の言葉はそんな単純なもの。だが、その言葉が何よりも彼女等の驚愕を顕著に表していた。
「うん、そうだよー。あれ?2人ともさ、疑問には思わなかったかな?」
そして束は、その口から語りだした。2人が生まれたそのルーツを。
「7千兆にも及ぶ精子と卵子を使っての実験で、出来た2人。一人はちーちゃんの遺伝子が使われ、もう1人は名前も知らない誰かの遺伝子でできた。
ざっと確率は7千兆分の2、ってところだね。そこまでは2とも知っていると思うけど、ここでさひとつ疑問が出てくるよね?」
束ねは一度言葉を切って、2人を見比べた。まるで、子供に言い聞かせるようなそんな調子で口を開いたのだ。
「なんで、わけのわからないナチの残党風情が、ちーちゃんの遺伝子を持っているわけさ?」
「!!」
「なんで、ISの詳しい資料もなしに、ISを扱える男の子ができるのさ?」
「それは……」
それは少し考えれば気づく程度の疑問だった。
なぜ今まで疑問に思わなかったのが不思議に思えるくらいに。
言えることは、マドカもレイも自分のルーツを聞いた話だけで満足していたからなのだろうか。
レイは、自分のルーツに興味は無し。マドカは自分の存在を本物にしたかっただけで、ルーツ自体に目は向けていなかった。だからこそそんな簡単な疑問すら
頭から除外されていたのだろう。もしくはそれほどにあの研究者たちは狂気の集団だったと言えるのだろうか。
「それにそれにー」
「まて、私は……」
そこでマドカが何かに気づいたのか、束の言葉を遮った。
「私は、織斑一夏のクローンではないのか?」
そう、そこが彼女にとっての疑問。ちーちゃんの遺伝子……それはつまり織斑千冬の遺伝子ということ。
だが、それは彼女が言った言葉は「私はお前だ。織斑一夏」
つまり、彼女の言葉と束の言葉が食い違っている。それに対して束は面白そうに笑って言った。
「うん。まどっちは、ちーちゃんの遺伝子から作り上げたんだよ。流石に遺伝子いじって性別変えるのは少し難しいからねー」
あらゆる疑問が、謎が、一瞬にかつ簡単にまるで苦心して完成させたパズルがひっくり返されたかのように解かれていく。それは
言い難い感情を起こさせた。
「うーん。そうだ。れっくんには、ちょっとプレゼントがあるんだ♪」
「え?」
束はレイに近寄ると、人差し指で、つんと軽く彼の額をつついた。
瞬間
彼の脳裏には形容し難い音とともにイメージが流れ込んできた。
わけのわからない数式。文字列、図面、ビーカー、白衣の科学者たち。
2つのガラス瓶の培養液に浮かぶ、人がまだ人の形をする前、細胞分裂の始まったばかりのまだその存在があやふやな、退治とも呼べないそれは―――
そしてそれを眺めているのは、白衣の科学者たちの中で、1人だけ場違いな格好をした少女。
「ぁああああああああああ!!!」
凄まじい量と速度で流れる情報の渦。それは彼の脳のキャパシティで耐えるには、まだ彼は精神的に成長しきれていなかった。
ほぼ1秒とみたない時間で、自らのルーツの総て、ISのなんたるか、この世界の『真実』全てを知った彼は、叫び、倒れる。
「レイ!」
マドカはすかさず倒れたレイを抱きとめた。そして感じる。心臓の鼓動がまるで何メートルも全力疾走してきたかのような速さで脈打ち、額に冷や汗が流れ
そして、クロッシングにより感じるレイの感情。
混沌。
一言で言い表すとそれだった。感情で動くことが多い自分と違い、レイは理性で動く。何よりもまず考える。
それは考えるより先に動くではなく、その逆といった形だ。
とっさの時にすら、反射で動かずに思考する。その思考速度は凄まじく速く、正確なのだ。
そこは束の頭脳の一部分ということなのだろう。
「うんうん。やっぱり2人とも、お互いが互いの半身として、きちんと成立しているね!あはは、いっくんに見せてあげたいなー」
「貴様……レイに何をした」
レイを抱えたままISを展開する。その速度はもはや0.2秒とかかっていない。
そして、そのままライフル『スターブレイカー』の銃口を束に向けた。
「あはは。さすがまどっち!最高のISの操縦者ちーちゃんすらも及ばないIS適正。君は、ううん君たちはもっともっと強くなれるよ」
だが、それにすら束は動じず、おもむろに銃身に触れる。その瞬間、先ほどのレイのように
ライフルがバラバラに分解された。
「っく!?」
そればかりか、瞬く間にISのパーツすべてが分解されISスーツのみの姿になってしまう。その速さは、例えISを生み出した人間としても
異常な速度だった。
「だ、か、ら。2人に私からの誕生にプレゼント!」
そう言って、マドカの指にダークブルーの指輪を、レイの指にダークレッドの指輪をはめた。その速度もあまりに早くなめらかで、無駄のないものだったために
とっさの反応が遅れてしまっていた。
「まだ基本形が完成しただけだから、あとは2人次第でどうとでも変化するからねー!」
そう言うやいなや、束ねはパチンと指を鳴らす。その瞬間、あたりは真っ白な空間に包まれた。
「なに……これ?」
「じゃーねー!」
突然の光景にスコールがあげた声も無視して、束は姿を消した。
「……」
マドカは自分の指を見た。そこに嵌められている指輪は、ダークブルーに輝いている。
そして、レイを強く、抱きしめた。
「私は……どうすればいい?」
無意識に漏れた言葉。それが何を意味しているのかは、マドカとレイ。2人にしかわからなかった。
――――
俺は現在成田国際便542番ワシントン行きの便に乗っている。理由は無論ARKに帰るためだ。ワシントンから、直接裏使って帰るのだが、
1つ、問題が発生してしまっている。
「ねえ、普通の便でいいの本当に」
この
それもそのはず、昨日のできごと。
「ラーズグリーズ。小包だ」
織斑千冬に手渡された封筒。ワシントンのどっかの住所が書かれているエアメール便だった。
差出人は、ジャック・O。内容物は見なくてもわかる。
それで、自室に帰って、早速中身を変えたところ。
「……」
もちろん中身は航空チケット。それはそれでいいんだし、時間も普通だし、便も普通だ。何もおかしいところはない。チケットには。
ならば、何がおかしいのか。チケット自体におかしいところはないのなら、あとは消去法じゃなくてもわかるだろう。
「なぜ、2枚ある……!」
なんの手違いで1人の俺に2枚のチケットが送られてくるんだよ。
おれはウォルコット姉妹(セシリアとは違う)じゃねえんだよ!つかあの2人RAVENですらねえし!
そういうわけなので、早速ジャックに連絡を入れることにする。
『私だ。どうした』
「チケットが2枚入ってるぞ。嫌がらせか?」
俺の言葉を聞いたジャックは一瞬だまり、言った。
『私は1枚しか入れていないぞ』
その言葉を聞いた瞬間に、ある方程式が頭に浮かび上がった。そして、それを確かめるべく質問をする。
「これ送ったのは誰だ?」
『お前のオペレーターだ』
「……OK。切るぞ」
『ああ』
ブツッという音が聞こえた瞬間。再び携帯を操作する。そして、コール音からの通話音が響き、その人物の声が聞こえた。
『はい?ソーマさん。どうかしました?』
「何チケット2枚入れてんだお前は」
「え?更識さんとこられるのではないのですか?」
そして予想通りの答えが返ってきたよ本当に。馬鹿かよお前は。
コイツは全く……腕はいいし真面目で頼りになる妹分だが、たまにこういったくっだらねえドジカマしてくれる。天然かよおい。
「あのな……まあいいや。今回も1人で来るからな。変な期待するなよ」
「あ、はい……ですがいいんですか?」
「いいんだよ」
全く、第一無関係の人間が踏み入れていい場所でもないだろう。
「……わかりました。では、私はこれから手続きなどを行いますので」
「ああ。切るぞ」
ブツッ
「ふぅ……」
全く、この会話が聴かれていなければいいのだが、盗聴とかはさすがにないよな。
―――
そう思っていた自分が甘かったよ。まあたしかに、予想しなかったことではないよ。俺がARKに帰ることを言った時も、あいつは特に驚きはしなかったし、
やけにあっさり承諾したから、付いてくることは予想していた。でもさ、2枚のチケットの1枚をいつの間にかかっぱらうことまでは予想つかないし、できるわけねえだろ。
「♪~」
「まさか全て電波ジャックで聞いていたとはな」
「うふふ。お姉さんに隠し事はよくないぞ」
やれやれ。もうどうとでもなれ、こうなったからには仕方がない。この状況に異を唱えるやつは、全員切っとくか。
「全く……ARKに着いたら、俺から離れないでくれよ?面倒事は避けたいからな」
「あら、心配はいらないわよ?私だってそれくらいはわきまえてるわ♪」
「……それならいいが」
妙に軽い調子で答える楯無に不安を覚えつつ。俺はため息をひとつつくと、目を閉じた。
幸い、楯無もマナーは守る人間なので、変に騒いだりはしなかったために、そこは安心している。変にちょっかいされるかもしれないが、
そこはまあ、何とかする。
都合10時間近くのフライトだ。ゆっくり寝るとしよう。
「お休み」
楯無はそう言って、蘇摩の右手を優しく握る。
「本当は言うべきなのだろうけど、あなたにはちょっと驚いて欲しいから」
そう言って、楯無も蘇摩の肩に頭を載せて、目を閉じる。ARKへのフライトは始まったばかりだ。
―――
「あの……言わなくてもよろしかったんでしょうか?」
セラは目の前でコーヒーを飲んでいる人物。ジャック・O・ブライエンにやや遠慮するような口調で聞いた。その言葉の意味するところは、彼らにしかわからない。
だから、ジャックにはわかる。コーヒーのカップを机に置いて、彼は指を組んだ。
「本人の希望もあったからな。なんでも驚かせたのだそうだ」
「それにしてもすごいですよね。入社試験全てオールAクリア。こんなの普通ないですよ……」
「それだけ、本人も本気だったということだ。条約は無論すべて承諾している。私としても、ああいう人材ならば歓迎すべきことだ」
ジャックはその人物のプロフィールデータをPCから開いた。そこにはその人物の経歴、能力などが簡潔に記されている。
「……試験を合格した直後に一気にランクB-10にまで上り詰める実力と意気……寿がなければなるまい」
ジャックはそう言ったあと、再びコーヒーを手に取り、啜る。そして、セラに言った。
「君も迎えの用意をするといい。会話はあったろうが、久しぶりの再会だ。少々ハメを外すのも構わない」
「わかりました。では私はこれで」
セラはお辞儀をすると、部屋をあとにする。ジャックはそれを見送ったあとで、PCの別のフォルダを開く。それは、名簿のようだった。
『A-1:イツァム・ナー
A-2:ロスヴァイセ・ヴィンヤード
A-3:アンジェ・シャルティール
A-4:霞スミカ
A-5:ミヒャエル・フォーゲル
A-6:アマジーグ
A-7:テペス・V
A-8:サー・マロウスク
A-9:ソーマ・ラーズグリーズ』
「このメンツで勝てない戦場など……古今東西ありはしないな……」
ジャックはそう呟くと、不敵に笑った。
戦場。それはつまりそう言う意味だろう。
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