インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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惜しいなら、もっかい出せばいいじゃない。

この言葉の意味がわかる人挙手。


黒い羽、白い翼・後編Ⅱ

閉鎖されたIS学園。その廊下を歩くひとりの少女がいた。

一見学園の生徒に見えなくもないが、それにしてははるかに落ち着き払っており、足取りに一切の隙がない。

 

照明がなく、真っ暗でところどころ戦闘の衝撃で破壊された防壁から漏れる光しかなくても、彼女はその顔に、息遣いに微塵の恐怖も焦りもない。

そして、何より格好が違う。IS学園の特徴的な制服ではなく、暗い赤色のコートに包まれている。基本デザインは何故か、蘇摩の来ている真っ白のオートと同じもので

袖や裾に金色の華が装飾されており、なんとも上品で綺麗なコートだ。

 

彼女の右手の薬指には、赤と金のツートンカラーの指輪が嵌められており、彼女の左の腰には篭柄の長剣がぶら下げられている。

 

今まで聞こえてきた轟音が鳴り止まる。それを彼女は戦闘が終わったのだと知った。

だから彼女はその顔に頬笑みを浮かべる。機は熟した―――これから自らのやることは、問題ない。障害と呼べるものなどこの学園には誰ひとり(・・・・)存在していないのだから。

 

それに、ようやく逢える。

どれほど待っただろうか。どれほど焦がれただろうか。

 

その人物にとってもはや自分は敵と成り果てている時分ではあるが、もはや自分など最大の障壁と成り果ててしまっているが、どうか解って欲しい。私は未だお前のことを―――

 

「フフッ」

 

漏れたのは自重の笑い。だが、それでも歩くのはやめない。そのためにここに来たのだから。

例え自らは淘汰されるべきでも、その人にとって唾棄すべき存在となり果てようとも、もはや彼の人には特別な存在がいるとしっていても

 

そのためにここまで生きてきたんだから。

 

だから歩くのをやめない。やめたくない。

それが私の想いだから。

 

――――

 

「さて……ん?」

 

蘇摩は学園の第3アリーナの観客席まで来ていた。特に理由はなく、強いて言えばここが一番静かだったからだ。

どうも、連中はやはりというかここのISに用事があったみたいで格納庫に行けば、案の定一部隊いた。まあ、連中がどうなったかは格納庫に広がっている血の海と首切り死体の山を見ればわかるだろう。

 

そして、そんなこんなで疲れた蘇摩は観客席で一服付いているところだった。

自販機が生きていたのは嬉しかった。それが現在の感想である。

 

『いいんですか?』

 

「いいんだよ。あの部隊の規模は2個中隊レベル保有ISは一機。一般兵力は殲滅したし、ISはどうせ織斑先生が潰しているはず。楯無はヴィルヘルムに任せてある。専用機持ち連中は死にはしないさ」

 

『全く……仕事の手際がいいのだか悪いのだか……飛行物体接近中速度は、マッハ1.2』

 

「ISの新手か……?」

 

『いえ、識別は……白式です』

 

「色男のご帰還か」

 

同時、アリーナのシールドが叩き割れ、純白の騎士とも呼べる機械がアリーナの中心に降り立った。直線的でシャープなシルエット。ホワイトブルーに輝く刃。

特徴的な4基のウイングスラスターからは白い粒子が、まるで凍結した朝日に浮かぶダイヤモンドダストのように輝きながら漏れ出し、今砂埃を切り裂いてその美麗なシルエットをあらわにした。

白式。つまり織斑一夏である。

 

「遅いぞ。色男」

 

蘇摩はその登場の仕方に口笛を鳴らし、声をかける。

 

『蘇摩!?って今どうなってんだよ!?防壁がとじてるは停電で学園は真っ暗でアリーナから入るしかないと思ったら今度はお前かよ』

 

「聞きたいことはいろいろあるだろうけどよ。とりあえず今から送る座標に急げ」

 

『?……わ、わかった』

 

一夏はISを解除し、アリーナのピットへと走っていった。それを見送った蘇摩は、座っていた椅子から立ち上がる。

 

「さて、こっちも行くとするかね。どうだセラ」

 

『ポイントは断定できました。ここから北西4kmの喫茶店です。ただ、波長がだいぶ不安定なものでしたので、20~40mの誤差の可能性があります』

 

「オーライ。それじゃ、この騒ぎの元凶を潰しに行くか」

 

蘇摩とセラの会話の流れ。それは現在起きている事件のきっかけとなった停電、及び防壁を降ろした者の居場所を特定するものだ。

学園のシステムは頑丈で、規模大きいためハッキングするには遠距離からパソコンを使う程度では不可能に等しい。そのため至近距離から行うかよほどの巨大な装置を使わなくてはならない。

 

どちらにせよ、補足することは可能だ。とは言っても可能というだけで簡単ではない。現在セラもようやく突き止めたのだから。

 

「それじゃ、行きますかね」

 

『!待ってください』

 

セラが何かに気づいたのか、蘇摩を呼び止める。

 

「どうした?」

 

『索敵範囲を拡大したのですが、こちらに接近中の物体有り。移動速度からして人間です……』

 

「専用機持ち、教師の可能性は?」

 

『それもありますが……距離は14m。一応警戒はしていてください』

 

「ああ」

 

手に持っていたコーヒーの缶を握り締める。缶は音を立ててヒシャゲた。いつでも戦闘ができるよう身構える。

コーヒーの缶は牽制として使う。投げれば目くらまし程度にはなるだろう。

 

それにセラの緊張した声。彼女からは相手の姿などはわからないが、おそらく感なのだろう。キャリアは短い彼女だが、サポートしてきた戦場の質が異様に高い。

そのため、年齢にして14歳だが、一流以上の能力は持ち合わせている。

 

『距離8m……アリーナ入口に差し掛かりました。』

 

蘇摩からもその姿は見えた。入口の暗がりで止まっており、シルエットしかわからないが、コートのようなものを羽織っている。

……強い。そう思った。別に相手の行動でわかったのではなく、言うならばまあ長年の勘ってやつだろう。それが蘇摩に伝えている。

 

気を抜くな。奴はできる―――と。

 

戦場において、感というものはバカにできないことだというのは嫌というほどわかっているので、蘇摩は自らの感に従うことにする。

白い閃光、敵として遭ったら死ぬ。そう言われ、この学園でも今回の事件でもその実力を見せている蘇摩。その彼が強いと判断し、身構える。それだけで十分だろう。

 

「隠れているつもりでもないんだろ?出てこいよ」

 

入口にいる影は、蘇摩の声に応じるかのように、ゆっくりと、まるでもったいぶるように前に歩き出した。

影となったシルエットは、外の明かりに照らされて、ゆっくりと姿を現す。

 

足元から、ゆっくりと顕になる姿。明かりが最後につしだしたのは言うまでもなくその人物の顔であった。

 

――――

 

「千冬姉!」

 

「一夏か。戻ったか」

 

俺は今、千冬姉から数m離れた場所、蘇摩にいけと言われた場所に行く過程で千冬姉達の姿を見かけて、声をかけたのだ。

居たのは千冬姉と山田先生、そしてボロボロになったISをまとった女性。の3人だった。周りには日本刀のような武器がいたるところに突き刺さっており、山田先生はISに巨大な4門のガトリング砲を装備したいかつい格好をしている。

 

「ど、どうなってんだよ一体」

 

「説明はあとだ。お前はさっさとあの馬鹿どもの手伝いをしに行け」

 

「それって、蘇摩が送ってくれた場所のことか?」

 

「ああ。早くしろ」

 

「だ、だけど千冬姉。そこにいる人って一体……ていうか今何が起きてんだよ」

 

「後で説明するから、今は早く行馬鹿者」

 

千冬姉の軽いげんこつを喰らう。っつ……わかったけど、後で蘇摩にでも話を聞くか……。

そう思いながら、蘇摩に送られたデータをもとに、そこへ向かうことにする。

 

何か事件が起きたのは明白だ。そして、またあいつらもそれの解決に出ているのだろう。俺も何か力になれるなら、それを全力でやるだけだ。

 

――――

 

「ふん……」

 

愚弟(一夏)が行ったのを確認したあと、どうするかを思案していたら、山田先生が声をかけてきた。

 

「織斑先生……よろしいですか?」

 

「なんだ」

 

「先ほど入った情報なんですが、学園にまた誰かが侵入している模様でして、その……」

 

山田先生は何やら言いづらそうにしているが……多方また面倒な奴が(はい)入ってきたのだろうな。

全く今年は事件が多すぎる。なんとかして、未然に防ぎたいが……政府の対応もどうも煮え切らないし外国からの支援も当てにできない。

全く、世界最強もやりづらいものだ。

 

「どうしたんだ先生?」

 

「その……対象は単騎で侵入しており、現在ラーズグリーズ君のいる地点に向けて移動しているとのことで……」

 

「そうか……」

 

……あの男の元へだと?よほどの自信があるのか、または別の目的、同じRAVENなのか……どちらにせよ、無視できるようなことではないな。

 

「気になるな……。山田君、行くぞ」

 

「え?は、はい」

 

千冬の言葉に一瞬言葉に詰まったが、すぐに頷く真耶。そして、千冬の目は先程まで自分と戦闘をしていた人物……隊長に向けられた。

 

「貴様は好きにしていいぞ。逃げるなりなんなりするといい」

 

「……なっ……」

 

「貴様を拘束する理由はないし、貴様を人質にする必要もない。好きにしろ」

 

千冬の言葉に呆けたようにきょとんとする隊長であったが、全くの嘘や虚勢を感じさせない言葉に一瞬顔を伏せる。

まるで、随分昔に捨てて久しくなった心を撃ち抜かれた。そういった気分になった

 

そして、切れ切れな言葉を言った。

 

「私も……行って、構わない……だろうか」

 

それは暗に協力させて欲しいという意味で、それを感じ取った千冬は一瞬の間の後、呆れたように首を振り言った。

 

「全く……好きにしろ。山田くんもいいな」

 

「え、あ……はい……」

 

真耶も戸惑いながら頷き、了承する。そして、千冬が先陣を切った。

 

「いくぞ。ここからなら隔壁をいくつか吹き飛ばしながらの方が早い」

 

(なんだ……この胸騒ぎは……まさかあの男が負けることはないだろう。だが……)

 

走り出す。その胸に一種の不安を抱えて。

 

――――

 

 

 

 

「……っな!?」

 

 

 

 

 

 

 

その人物を捉え、発することができたのはそれだけだった。

 

思わず、牽制に使うつもりだった缶を落としてしまう。

甲高い金属音をあげ、地面に落ち転がるスチール缶。だが、それに気をやる余裕すらなくなった。

 

ありえあない。ありえない。あってたまるかこんなこと。ふざけるな。なんの幻想だなんの漫画だなんの馬鹿話だ。

どうしてこんなありえない事象が起きている。ふざけるなよ夢ならタチが悪すぎる。

 

だが、一気に跳ね上がった心臓の鼓動。そして冷や汗の冷たさが俺にこの事象すべてが現実であると教えていた。

 

その顔は忘れない、今でも覚えている。

 

忘れるはずはない。忘れたくない。今だって覚えているぞお前と交わした言葉も、やりとりも。

だからありえないんだ。お前がここに居ることが、俺の前にたつことが。

 

かつて誰よりも大切だった存在。そして死んでしまった筈の俺の昔の、戦友であり、想い人。

 

そうだ。そうなんだ。

 

お前は死んだはずだ。

 

聞いただけではない。遠くから見ただけではない。

 

俺の間近で、俺の腕の中で、俺に思いを伝えてその目を閉じたんだ。忘れるわけがない。

そうだ、そのはずなのに……。

 

なぜ!?なぜだ!?

 

なぜお前がここにいる!?

 

「……セ、ラス……」

 

 

俺の前に立つ人物。それは紛れもなく、かつて俺と共に幾多の戦場を渡り、想いを語り合った俺の……過去(ホウセキ)

 

 

 

 

セラス・ヴィル・ランドグリーズ

 

 




感想、意見、評価、お待ちしています




ようやく、ようやく、ようやくの再会だー!!!
ひゃっはあああああああああ!!!

この瞬間を、書きたくて書きたくて……(涙

過去編の為に作り上げたポットでのキャラが……自分で思ったよりもいい女過ぎてとうとう本編にも出てきやがったぜー!
ほんと、この娘のおかげで当初のシナリオを大幅に改訂することにしたんだから!(ガチの実話です)

だが、簡単に笑顔の再会になどさせるわけがなかろう(ゲス顔)
さて、ここからの展開がまた楽しみになってきたぞ~

そういうわけで、遅れがちですが次回更新待っていてください。

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