インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~ 作:鳳慧罵亜
正月に投稿予定でしたが、用事が多発してしまいろく筆く時間が取れずにここまで遅れてしまいました。
「―――Tru~Tru~Tru~TruTru~……」
銃弾の雨を掻い潜り、彼らに迫るモノは人ならざるほどの速度をもって駆け抜ける。ソレの得物はマシンガンでも、ロケットランチャーでもないただのひと振りの直刀。
そんなもはや時代遅れも甚だしい武器で何人ものライフルという現代武器で武装した軍人を惨殺していく。
現時点で彼が殺した人数は23人。現在眼前に4人ほどいるのだが、それももはや風前の灯のごとくに自らの運命を悟っているのかもしれない。
撃つ銃弾は恐慌状態にあっても、まだ標的に向いている。
だが、そのことごとくを、まるでアニメや漫画の世界のように躱されいってしまう。
ソレが駆け抜けたすぐ後ろを銃弾は通り過ぎて言っている。
当たらない。
標的に向けて、引き金を引くだけで人を殺せる武器で、死なない人間がいる。その事実に恐怖するが、同時にソレが一体何者なのかを悟る。
戦場に現れ、敵として見定めたものを殺し尽くす白い光。
「『
兵士が最後に見た光景は、その名のごとくに真っ白な閃光と、自らの視界の中心を通る銀色の筋であった。
―――ドシャ
現在相対していた最後の一人が顔面の眼球を境に両断した状態で倒れふしたのを一瞥すると、刃を振り払い、血を払い落とした。
腰のベルトにさした鞘を抜くと、刃に収める。
『―――ぃ』
そして先程からポッケから何かが聞こえてきているので、手を突っ込むとインカムが出てきてそこからだれかの声が聞こえてくるのであった。
「……」
不思議に思い、耳に当ててマイクを起動ししゃべる。
「あーあー。誰ですか?」
『ソーマさん!!!!』
それはそれは凄まじい大音量で聞こえてきた音声。どれくらいかというと大型スピーカーに一昔前のデスメタルを最大音量にしてイヤホンで聴くくらいにうるさかった。
たぶん周りにも音が筒抜けになるくらいにはうるさいもの。それくらいの音量で知っている女性の声が聞こえてきた。
あまりのうるささにもしかしたら鼓膜が破れたかもしれない。
「ッ―――……なんだよっるさいなセラ。んな大声出さなくても聞こえるっての」
『あなたが一大事なのにも関わらず出ないからでしょ!』
ああーとりあえず紹介しとく。彼女はセラ・クライシス。妹分?なのかな。
いやー4、5年前くらいに?テロリストの殲滅とか、セラスと一緒に行った任務の時にテロ連中の……なんというか、慰み者?ぶっちゃけて言っちゃえば欲望の捌け口か。
そんな扱いを受けていたどこにでもいる女の子だったんだけど。ほっておくのもなんだったから拾った。
彼女は名前がなかった捨て子で、ずっと「そういった」ことに使われるだけだったらしい。
そのため拾ってきた当初はまあ手を焼いたが、今となってはこの通りきちんと仕事ができるようになっている。
まあドジることもちょいちょいあるのだが。
ちなみに、以前メールで出てきた『オペ子』とは彼女のことだ。
今まででの事件で全く出番がなかったのはというと
『どうせあなたこととだから、コートに袖を通すことすら今までなかったんでしょうね』
そう、この仕事着すら久しぶりに着たのだ。そりゃコートの中に入れっぱのインカムから発せられるコイツの声なんて聞こえるわけがない。
というより一大事とわかってんならそのぐちぐちしている説教をどうにかしろ。
「とりあえず仕事だ。学園の状態はモニターできてるな?」
『当然です。ちなみにあなたの周囲、というより後方にはごく小さい障害が確認できますけど、どうせ死体なのでしょう?』
「そういうこと。で?」
『前方に移動物体なし。前進し、マッピングをしてください』
「オーライ」
蘇摩は軽い足取りで歩き出す。自分が現在いる地点から15mにかけてはインカムから発せられる超音波で現在位置やエリア情報が3DでARKの本部に送信されている。
基本的にはこういった情報系統を使い、オペレーターから戦況などを洗ってもらうのが普通なのだが、まあ彼が基本的にオペレーションを聞くのがだるいと断ってきたのだが、
最近は自分が拾ってきた彼女がオペレートするようになっている。
学園に来る前も彼女のオペレートがあったからなんとか爆撃から脱出ができたのだ。
――――――ま―――
「ん?」
ふと、蘇摩は立ち止った。ややとぼけた声を上げたのが彼女にも聞こえたのか、インカム越しにセラが声をかける。
『どうかしたのですか?』
「いや……なにか声が」
『?こっちの記録には残っておりませんが』
「そうか……」
首をひねったが考えても埒が明かないのでまた歩き出す。あの
ここに来ている確率はまあそれなりだが、今まで潰してきたメンツの中には少なくともBランククラスのRAVENはいなかったと思う。
……待てよ?
ここで一つの推論にたどり着く。何事もまず疑ってみるというのは基本だろう。
もし俺じゃないほう……すなわち楯無のところにいたとすればどうなる?
単純な能力じゃIS抜きでもあいつの方が上かもしれない。だけど踏んでいる場数が違うはずだ。いや、まあここに俺が居ることくらいは知ってるはずなんだけどBクラスになれば
命知らずの一人やふたりいるだろうし……。
念の為に楯無に連絡を入れることにしよう。
携帯に連絡を入れてみるが、コール音が聞こえたのち、ブツッという音と共に何も聞こえなくなった。おそらく携帯の電源が切られたか、壊された。
それの意味することはつまり
「あの、っ馬鹿……」
愚痴っていても仕方がないか。確かエリア30までは聞いていたから、こっちから近いのは……エリア34。とりあえず行ってみよう。
多分ドンピシャな気がする。
「セラ。マッピング範囲目を凝らして見てろ。何かあったら即刻伝えてくれ」
『了解しました。気をつけて』
蘇摩は少し速めに走り出す。少し嫌な予感がする。だが、かつてないほどの絶望感があるわけでもなし。急ぐは急ぐが結局自分に出来ることなど限られているのだ。
ならばそれを全うするべきなだけ。
「さて、どうなってるやら」
――――
エリア26から34は階段を使って少し走ればすぐのところにあるエリアだ。
故にその場所までたどり着くのは数分とかからない。
34にたどり着き、周囲を見回す。それはすぐに見つかった。
それは楯無に貸した特殊錬成のワイヤーだった。切断された跡がある、
「錬成ワイヤーか……切断されているな。セラ」
『エリア35方面に移動物体多数。残存している敵勢力と思われます。距離は17m。奥の廊下を曲がってすぐです』
「OK。すぐ行く」
全く、予想はドンピシャだな。あのワイヤーを切るには少なくともRAVENに支給されているあのチタンナイフで削り切るか何百Kg以上のチカラで引きちぎるくらいだろう。
つまり、少なくともRAVEN、楯無を出し抜くということはBランクの上位ランカーがいるということになる。
いいだろう。人の女に手を出すとどうなるか、教えておく必要があるみたいだな。
敵がいるであろう方向へ向けて蘇摩は走り出す。その標的を捉えるまで、1分とかからなかった。
「ぬ?」
「だれだ!?」
だが、無効もすぐに反応し銃をこちらに向ける。
だが、無駄だ。
すぐに発射される弾丸の雨、それを蛇行するようにしてことごとく避けていく。
途端に連中に焦りと恐怖が出てくるのがわかる。
マスクで顔は隠れているが、その表情など容易に予想がつく。
連中の中心に、抱えられている人影。IS学園の制服をきた人物がいた。
無論その人物の正体等、確かめるまでもない。
俺のすぐ後ろを虚しく切っていく銃弾を尻目にどんどん接近する。
あと4m。あと数秒で連中の首を叩き落とせる。腰にさした直刀の鞘と柄に手を取る。
あと2m。距離は十分。
敵に向かって跳ぶ。2mの距離は一跳びで零に詰り、抜きざまに放った刃は兵士の首を飛ばす。
「な!?」
「遅い!」
さらに返しの刃でもうひとりの首を飛ばす。普通は無理して首を狙わなくてもいいが、防弾ジャケットやパッドに身を包んだ兵士の胴などは切っても大したダメージにならない。
一撃で倒せる保証はないため、少し無理をするが首を狙う。
そして、こちらに銃口を向けた兵士の銃を蹴り上げて弾き飛ばす。まさか両手で持った銃を蹴りではじかれると思わなかっただろう。
兵士は驚愕の声を上げる。だが、その瞬間に自らの銃を蹴り上げた足が自らの首を捉えていることに気がつかず、聞こえてきたのは骨が折れる音だった。
そして、振り返りもう1人と、その刃が振りかざされる寸前。
こちらを完全に補足し、偏差距離を考慮した銃弾を体をひねって躱した。
そのおかげで一瞬止まってしまい、一度距離を取る羽目になってあしまう。
あの距離だとすぐに機銃掃射の餌食になっていた。食えない真似をしてくれたのは、兵士たちに紛れて見えにくい位置にいた。無精髭をはやした男だった。
拳銃をくるくると回しながら葉巻を加えた口で器用に口笛を吹いている。
「やるねぇ。さっすが内のトップランカーなだけはあるわ」
「馬鹿。俺はまだAじゃあ最下位だよ」
もはや確かめるまでもないだろう。顔だけは見たことがある。
ヴィルヘルム・エーベルヴァイン。Bランク17。
「な~る。アイツがいっぱい食わされるわけだ」
「安心してくれよ。麻酔で眠ってもらっただけだから。あんたの女に下手なことすりゃ一体いくつ命が必要になるかわからんからな」
「よくわかってるじゃないか」
困惑する兵士たちをそっちのけで会話をする2人。当惑している兵士たちの中で、彼らのリーダー核である人物はこれを好機と見ていた。
「動くな!!」
「「あ?」」
振り返る彼らの視線の先には、兵士に抱えられた楯無と、彼女のこめかみに銃口を押し当てるリーダーらしき人物がいた。
「下手な抵抗は謹んでもらう。動けば、言わずともわかろう」
「おいおい班長さんよ。悪いこと言わねえからさっさと彼女開放してあげろって」
班長に真っ先に反応したのはヴィルヘルムだった。RAVENにとって、人質とは下策であり、駄作。たとえそれがその人物にとって大切な人間であろうと
意味を持たないのは骨の髄まで理解している。
「……そいつをどうする気だ?」
ヴィルヘルムと話していた時とは違う、全くの無表情。鉄の仮面をかぶったような無感動の表情の蘇摩。
それを見たヴィルヘルムは「おー怖っ」といいながら距離を取る。
「……コイツは我々の捕虜だ。国に持ち帰り、有意義に利用させてもらう。コイツの身を案じるならばどうすればよいかはわかるな?」
(言っちゃった……。俺しーらねっと)
ヴィルヘルムは失笑しながら、もう2歩後ろに下がる。これで蘇摩との距離は5m程になった。
「はっ!有意義にだと?お前らのような
慰み者か?」
「武器をこちらに投げてもらう」
蘇摩は笑いながら、そうですかと直刀を持ち上げ、班長らのいる場所へ投げた。基本的にホールドアップを促すときは武装を取り上げる。基本中の基本だ。
本来は武器を直接奪うのがいいのだが、今の数瞬で数が減ってしまい、下手に彼に近づけば各個撃破されかねない。人質も通じるかは不明なのだ。
蘇摩もそんなことは知っているため、仕方がないとそれに従い、直刀をゆっくりと振り上げて、投擲する。
そう、投げた。
「がっ……」
投げた直刀は真っ直ぐに飛来し、楯無を担いでいた男の喉に突き刺さる。喉の中央に刺さった場合、動脈を切断することはないため出血は大したことはない。
そのまま彼は崩れ落ちる。
「な!?」
「遅い」
突然の出来事。それはたとえ軍人でも一瞬の好きを作る。まさか誰だって、ホールドアップを促し、そのセオリーを逆手にとった攻め手を使ってくるなど予想するわけがない。
だが、その隙は致命的なものであるとは言える。
班長の顔面を鷲掴みにし、地面に叩き落とす。本来ならこの時点で頭蓋骨を割るのだが、あえてそうせずに足で踏みつける。
「は、班長!?」
「おのれ!」
「はい退場」
残った兵士は、全員頭部に穴が空き、崩れ落ちる。蘇摩が視線を向けた先は、煙を吹いている拳銃と葉巻をくわえながらふぃ~と息を吐くヴィルヘルムがいる。
「食えない男だ」
「いやいや、あの状況であんた敵に回すよりもさっさと裏切る方が生存率は高いのでね」
肩をすくめて見せるヴィルヘルム。蘇摩はやれやれと首を振ってから彼に告げた。
「あの馬鹿を担いで医療室まで運んでやれ」
「いいのか?」
「どうせここに来る前に構造とかは調べてんだろ?それに下手にこいつに手を出したらどうなるかは……」
「はいはいわかってるよ。俺だって馬鹿じゃあない」
と言いつつヴィルヘルムは楯無を肩に担ぎ上げると、「じゃあな」と言いながら医療室の方向へ歩き出した。
それを見送ると蘇摩はインカムに手を当てる。
「セラ、状況は」
『周囲に移動物体は無し。部隊の全滅を確認しました。残っているのはあなたの足元でうめいている人だけです』
セラの呆れた声と溜息が聞こえる。まあ俺に付き合ってくれて結構経つ。慣れたものだろうな。
「ぐ……が……」
と、忘れちゃいけない。まだ掃除が残っているのだった。
蘇摩は自分の足元に目を向けると、ミシミシという音が伝わってくる状態でうめいているリーダーらしき男がいる。
「……さて、どうする?」
「ぐぅ……我々は、指令以外のことは、話せんぞ……がっ」
「んなことは知ってるよ。でも、一体どこからの差金くらいは言えるだろう?つか予想できんだろが」
さらに踏みつける圧力を強める。
頭蓋骨が軋む音が耳に音として聞こえるくらいになり、これ以上強くすれば簡単に砕けることは予想ができる。
「わ、わかっ……た……。言えるところは、言おう……」
「……そうか。んじゃあ、国際法に則りますか……どうせあの教師連中がうるさいだろうし」
蘇摩はそう言って、リーダーの頭部を踏みつける力を弱め、足を持ち上げる。
リーダーはあずがいが軋むほどの圧力と圧迫感から解放されて、息を吐いた。
(我々が持っている情報をすべて話したところで、国に影響はない。ならば優先すべきは―――)
どちゃ
その音は口で表すには不明瞭すぎていた。硬いものと柔らかいものと、コップの水を地面に撒くのような音が重なった不協和音。
先のそれはその音をうまく表現着ているのか、それもわからない。ともかく、言葉にできない音だった。
蘇摩の足元にあったのは、砕けた頭蓋、飛び散った脳、はみ出した血管、神経、あたりにぶちまけられた血、バラバラに四散している歯やゴロンと転がっている目玉。
そして、黒い靴は血で真っ赤に染まっていた。その胴体は、手足はいまだ痙攣するかのようにぴくぴくと動く。まるで、いま起きた現象についてこれていないように。
「……ふん」
蘇摩はつまらなさそうに『それ』を一瞥すると踵を返した。
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