インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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見解

放課後、学校の廊下を歩いていた蘇摩。彼は織斑一夏と話をして、事前に得た情報と自分の印象を付き合わせていた。

 

(性格は甘ちゃん。男女問わず誰に対しても優しく振舞っている。演技である可能性は無し。他人からの好意には鈍感。現在5人の女性にアプローチを受けているが気付く気配は今のところ無し。

身体能力は中の上。服の上からでは推定だが、無駄に鍛えているわけではなく実際に動かすことを想定したいい鍛え方だった。ISでの戦闘能力は代表候補にボコボコにされるレベル。

だが、実戦に強いタイプなのか、無人機襲来。及び銀の福音の時も専用機持ちと連携し、高いポテンシャルを発揮している・・・・・・あとは、実際に戦り合ってみなけりゃわからんか・・・・・・)

 

そこまで思考した所で、一夏の姉。織斑千冬と出くわした。

 

「ラーズグリーズか。ちょうどい。お前に部屋の鍵を渡していなかった」

 

「ん?ああ。確か一夏と同じ部屋でいいですよね?」

 

千冬は頷き、彼に部屋の鍵を投げ渡した。結構な速度で投げられた鍵を彼は普通に掴むと、部屋番号を確認する。

 

「1025。分かりました。ありがとうございます」

 

そう言って、蘇摩は歩き出す。ちょうど一夏がやってきた。

 

「おお、蘇摩。それに千冬ね・・・・・・じゃなかった織斑先生」

 

「ああ」

 

「おう」

 

一夏は蘇摩に足早に近づいてくる。彼の後ろから例の5人もやってきた。千冬は、蘇摩に「またな」と言ってその場をたち去る。教師という役柄、仕事とかも多いのだろう。

一夏はそれを見送ったあとで、蘇何かを思いついたのか摩にこう提案した。

 

「一緒にアリーナに行かないか?これから鈴と模擬戦するんだけどさ。よかったら蘇摩もどうだ?」

 

蘇摩は一瞬ふむ、と考える仕草をする。確かに一夏の実力をこの目で確認するいい機会になる。そのあとで、一度自分のISを動かして早いとこなれるのもいいだろう。

実際あの時一度偶然で動かして以来、一度もISに乗っていない。べつにISが嫌いなわけじゃないが、使う必要が今までなかったからだ。

 

「解った。俺も同行させてもらおうかな」

 

「おう。じゃ早速行こうぜ。あまり長い時間アリーナも使ってられないからよ」

 

そう言って、蘇摩を含めた6人は足早にアリーナへと歩いて行った。

 

――――

 

「はあ、仕方なけどさ。更衣室が一箇所だと何かと不便なんだよなぁ」

 

更衣室で、IS用のスーツに着替えていた2人。そんな中、一夏は溜息をついた。確かに、こんな広い学園内で使用できる更衣室が一箇所だといろいろ面倒くさい。それにISの無断展開は禁止されていて、

移動の時間短縮もできないという。おまけにトイレも一つらしいな。確かにこんな環境で生活していれば、そう言った愚痴の一つも出てくるだろう。

 

「そういえば」

 

一夏が思い出したように声を出した。そして、こちらへ向き直る。

 

「蘇摩のスーツって何処製なんだ?俺のはイングリッド社のストレートアームモデルの特注品だって聞いたけど」

 

蘇摩は「ああ」と言ってたしか、と続けた

 

「レイレナードのハイスピードモデルを改造したものだ。対G性能と耐久力が売りだと聞いている」

 

「対G性能って蘇摩のISってス機動力が高いタイプなのか?」

 

一夏の言葉に蘇摩は「いや」と軽く被りを振った。

 

「機動力というよりは突進力と運動性重視のパワータイプだ。白兵戦に特化している」

 

「へえ、俺の白式と似てるようでなんか違うな」

 

「お前のISは機動力と零落白夜によるケタ違いの攻撃力による短期決戦型だな。俺のは突進力での突破型だ。装備も白式はエネルギー軽装備が中心で、俺のISは実体系がメインだからな」

 

蘇摩の言葉に、一夏は「へぇ」感心したような、少し驚いているような素振りを見せた。そして、雑談を交えながら更衣室をあとにした。

 

――――

 

奴は何者だ?

 

織斑千冬の感想はそれだった。

 

奴とは言うまでもなく蘇摩・ラーズグリーズだ。

 

始業式のつい2週間前、秘密裏にIS学園の門を叩いた少年。今回のことを事前にご存知であった学園長からは曰く、凄腕の傭兵らしいが何故傭兵を雇ったのか、または傭兵という人物が

ここへ来たのか、理由は至極単純だった。ISを扱えることが表に出そうになったから秘密裏にここへ逃げ込み、ついでに与えられた任務を遂行する為、だというのだ。ISを動かした経緯は

詳しくはわからないが、戦闘中身につけていたものがISで、偶然起動し動かせたらしい。どこまでが本当なのかわからないが任務の内容は織斑一夏、つまり私の愚弟の護衛だそうだ。

 

それに、聞けば奴はその筋では名の知れた人物じゃないか。『白い閃光』の異名は私でも44回は聞いたことのある二つ名だ。何よりやつの人間性というのか、思考、主義、信義とでも言うのか奴が転入する2日前に一度聴く機会があった。が、それは想像を絶するものだった。

 

一番古い記憶では、自身は直刀をもっており、周りには無数の斬殺死体が転がり、おびただしい血の海の真ん中に立っていたという。4歳の時だったという。

 

一番新しいのは4週間前、イラクでのテロ組織鎮圧で、ただ一人で、敵が構えている本陣へ切り込んで行き、無傷でおよそ71名を斬殺したという。

 

一番悲惨だというのは、自身を恨み、殺された親の敵と言って来た少女を、その場で斬り殺したという。

 

その時に彼はこういったそうだ。「お前が俺を恨むのは構わない。だが、俺にはお前の親が誰だったのか全くわからない。今まで何人という人間を殺してきて、今更お前の親が誰かだなんて、覚えちゃいない」

 

そう言って、自身に銃を突きつけるまだ10歳超えたくらいの少女を惨殺したのだ。それもなんと鼻歌を歌いながら。やつの精神はもはや理解の外を超えている。

 

同時に私は奴に戦慄に近い感情を覚える。

何があっても敵に回したくはない。奴は目の前に立つ人物は誰であろうと切り捨てる。それだけの能力と思考を持っているのだ。おそらく、私が戦うとするとISでの『試合』なら十中八九私が勝つ。

 

だが、生身やISでの『殺し合い』なら、その勝率は逆転するだろう。

 

いまは奴が信用できるできないはあとにして、とりあえずは様子見といったところにしよう。うまくやれば護衛以上の成果も出るはずだ。

 

――――

 

アリーナ

 

 

一夏の実力は、概ねデータ通りだった。ただ、データで見たよりもこの場で見たほうがやはり判ってくることも違ってくる。

 

まず、一夏の反応速度が、データの表示より幾分か早かった。次に戦闘中のとっさの機転が利く時と利かない時の違いがはっきりと分かれている。利くときは決まって、自分が不利な時だ。

利かないときは自分が有利な時だ。そして、実践と模擬戦で、やはり、動きに違いがある。今見た動きと、映像で見た無人機襲来の時の動きでは、無人機襲来の時の方が、キレが良い。

そして、彼は才能と努力の割合が5:5で同じなのだ。今まで、いろんなやつを見てきたがここまで才能と努力の割合が同じやつは初めて見た。しかも、まだまだ伸びしろがある。

これは、伸び率は悪いが、ふとしたきっかけで化けるようなタイプだろう。これからが楽しみになってきた。

 

「これで、あたしの2連勝ね。後でなんか奢んなさいよ」

 

「ぐう・・・・・・」

 

前半、後半ともに鈴の勝利で終わった模擬戦。いつもならこの後片付けをして、食事に行くのだが、今回は新しく入った蘇摩も模擬戦に参加することになり、蘇摩の相手は、ラウラがすることになった。

蘇摩は一夏との模擬戦を希望したのだが、珍しくラウラが戦いたいというので、そう言う形になった。

 

ラウラのISは言わずもがなドイツ製第3世代『シュヴァルツェァ・レーゲン』流石は代表候補生、しかもIS部隊の隊長を務めるだけあって、1秒かからずにISを展開し切る。対する蘇摩は

 

「じゃ、行こうか」

 

蘇摩の左手につけているグローブ。ちょうど指のとこに穴があいており、指は露出する作りの革のグローブが輝き、蘇摩も光に包まれる。約1.5秒後光が消え蘇摩のISが現になった。

 

「アビス・ウォーカー(深淵歩き)」

 

その姿は、騎士を思わせる出で立ちだった。

 

暗い銀色の装甲は、一見少ないような印象を受ける。細身だが、必要な部分には必要十分な装甲がしっかりと張ってあり、腰周りに装備している非固定ブースタは

3対計6個の噴射口がある。

 

「あたしの甲龍と同じ格闘型なのかね」

 

鈴が蘇摩のISを見た感想は自身のISと同じタイプなのか。見た目は誰が見ても格闘戦を重視した作りだ。

 

「蘇摩は突進力重視の白兵戦がたって言ってけど」

 

一夏は蘇摩が言っていた事を復唱した。それを聞いたシャルロットが言った。

 

「じゃあ、ラウラが有利みたいだね。最も、彼のISでの実力派未知数だから、一概には言えないけど」

 

「ISのと言う事はあの人は生身では相当お強いのですの?」

 

シャルロットの言葉にセシリアが反応する。シャルは頷いてからこう続けた。

 

「ほら、この前話したでしょ?喫茶店での立てこもり事件。その時に強盗団を一蹴した人が彼だよ」

 

セシリアと鈴、一夏は驚きを隠せないようだった。前に聞いたあの男の人が目の前の人物だということが結びつかない。今も軽く笑っている少年が、シャルロットやラウラを驚愕させるほどの実力を持っているということが。だが、そんな彼らの思いもこの戦闘で払拭される。




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