インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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黒い羽、白い翼・中編Ⅱ

「♪~」

 

ご機嫌な様子で楯無はホールを歩いていた。特殊錬成ワイヤーに無粋な侵入者を縛り付けて引きずっている。まあ無論ISのパワーアシストがあってこそのことだが、それを知らない

軍人たちはなぜ自分たちがたった一人の女子学生に引きずられているのかと、こんな女の子にそれだけの力があるのかと思っていることだろう。

 

♪~♪~

 

「ん?」

 

聞き覚えのある音楽が流れ、懐から携帯を取り出す。画面に映っているのは『蘇摩?』の3文字。

ちなみにこの表記は蘇摩に見せたことはない。

 

通話ボタンを押して通話口を耳に当てる。そこからは当然画面に映し出されたのと同じ人間の声が聞こえてくるわけで

 

「はいはい!蘇摩。なにかしら?」

 

『……エリア12から23までの掃討を確認。そっちはどうだ?』

 

「ええ!?」

 

こっちはその発言に正直驚きを隠せなかった。おかげで素っ頓狂な声をあげてしまい、それに驚いた兵士諸君が此方を訝しがる様な目を向けてくるがそれは些細なことだ。

 

「早すぎない!?えっとちょっと待って……そっち何人いた?」

 

『さあな……ざっと16人。小隊規模程度だろう』

 

ぶっきらぼうな返事のあと、ひい、ふう、と数を数えるのが数秒、そして多分適当な数を言い放つ蘇摩。まあ、こういうことに関して蘇摩ほど恐ろしく長けている人物はそういない。

それは結構正確なものだということは了承しているので、その数が正しいという家庭のもとで話を進める。

 

と、すると……。

 

「ちょっといくらなんでも早くない!?小隊規模って私まだ5、6人ほどしかやってないし、エリアも26から30までしか行ってないわよ!?」

 

『捕縛する方は大変だな……ISも入ってきた。そっちは織斑先生が何とかするだろうし、俺はこのまま掃討するぞ』

 

「え、ええわかったわ……」

 

ブツッ。

 

通話が切れて電話を懐にしまいなおす。

 

(……怖いわね)

 

あまりに優れすぎた能力。自分もこの通りに優れているという自覚はある。才能にも恵まれたという思いもある。そして、それ以上に努力をしてきた自負もある。

だが……

 

あるとき、誰かはこういたらしい。

 

『本当に強い奴は、何もしなくたって強いんだよ。最初から強い奴には、訓練もリハも必要ない。

武道やら模擬戦やらは弱い奴が強くなろうとする手段で、だから精神論が幅を利かすのさ。

礼に始まり礼に終われって――そんな具合に。もとが弱いから、力に耐性ないんだろうな。自分を律するのが最優先で、

それが出来なきゃ破綻する…哀れすぎる。まあ、仕方ないとは思うがね』

 

誰だっただろうか、ある詩人だったかな。その人はそういうふうに言ったらしい。厳選とした、理不尽で不条理で勝手極まりない話。

そんな話を展開すれば誰だって反論するに違いない。努力で天才と呼ばれた人を超えたなんて、よくある話。

 

だが、天才だって『努力』はするだろう。今までだって、天才と謳われた人間は全く努力をしなかったのか?答えは否であろう。

 

だから、結局事の本質を捉えていないのだ。そもそも、本当に強い人間は努力などしない。それが論点であったのにも関わらず、

愚者は努力で天才を超えたとか、天才だって努力をしているとか、まったく話の論点のずれた阿呆みたいなことを言い出す。

 

なぜか?怖いからだ。

 

自分だって、そのきっかけさえあったらああなれる。

努力すれば、ああなれる。

 

それは怖いからだろう?そういった妄言に縋らなければ、保てないからだろう?

 

「Genius is one percent inspiration and 99 percent perspiration.」

 

かの発明家。トーマス・エジソンが言った言葉。

 

これを大衆はどうとるのだろうか?ぜひあなたの意見を聞かせて欲しい。

 

きっと、愚かな大衆はこう言うだろう。

 

努力賛美だと。

 

愚かだ。実に愚か。無知蒙昧ここに極まれり。

 

「天才とは、1%のひらめきと99%の努力」?

 

愚かだな。物事の表現とは、それが究極になるにつれ陳腐なものになる。

 

まさに愚か、としか言えないだろう。

 

あの言葉の真なる訳はこうとなる。

 

「1%のひらめきがなければ99%の努力は無駄である」

 

ここまで来ると、なんだか努力は全くの無駄―――そういうふうに言いたいと思う人もいるだろう。

 

だが、そこはあえて否だと言おう。

 

現に、更識楯無。彼女は努力であそこまで強くなった。4年の歳月で、彼が認めるほどに強くなっていった。

織斑千冬。彼女も同類だろう。あの強さの礎にはそれはそれはちの血の滲むどころではない努力があるはずだ。

 

人は努力で強くなれる。それは認めるべきものだ。

 

なら、何が言いたいのか?

 

努力……その素晴らしき人が生み出した宝石とも言える美しき物を、まるで汚物のように唾棄することができるものが、この世には存在するということだ。

それが誰を指すのかは、もうわかってくれるだろう。

 

「I'm thinker……Tru~Tru~Tru~TruTru~……I'm thinker……」

 

鼻歌を口ずさみ、自らの眼前に立つ、自らが的と定めたもの全てを一片の躊躇も、微塵の後悔も、呵責も、罪悪感もなくその一閃でもって殺していく少年。

彼は一体何者だ?『白い閃光』?RAVEN?そんなことを聞いているのではない。気がついたときには死体が転がっており、あたりは轟音に包まれて、人がたやすく死んでいく世界。

そんな場所に彼はいたのだ。

 

普通なら、どんなに運が良くても長く生きることは不可能だろう。今だ赤子ではないにしろ、まだ3、4歳、いやひょっとしたらそれ以下かもしれない年齢の子供が

戦場で生きられるはずはない。

 

だが、『彼』は生き残った。

 

ただ生きるだけじゃない。彼は目の前にいた兵士を、ゲリラを、一般人を殺して生きてきた。

こんなことをしていたら、まあまず人の精神は狂ってしまい、人格破綻を犯していいる。よくてシリアルキラーまっしぐらだろう。

 

いや、彼は既に手遅れなのかもしれない。

 

でも、一つ言えることは、彼は正気だということだ。社会的にも問題ない程度の常識は持ち、他社を慈しむことができ、恋愛ごとにやや初心なところもあったり、

想いビトの死に涙を流せる。至って正気なのだ。殺しに快楽を感じることもなく、殺しが自らにとって呼吸と同じだとも捉えることはなく。

殺しに誇りを持っているが、よりおおくの敵を殺そうと躍起になっているが。それは戦争における兵士と同じ感覚だろう。

 

地獄で生きてなお人としての人格を形成でき、社会に放り込んでも不自由なく暮らせるであろう彼は、一体何者だ?

 

……少し、主観が混ざってきている感はあるが、概ね正確な表現をしているつもりだ。

 

そんな彼は、もはや天才などといった、凡夫などといった、秀才などといったもはやその『例』という枠の外にあるモノ。それはまさに例の、例外。

 

すなわち……

 

「……イレギュラー」

 

つい口走ってしまった。独り言の癖などつけたつもりはないのだがな。

ともあれ、変わっていない。

 

その強さも、その心も、その目も、その在り方も。

 

だからお前が……。

 

学園のはるか上空で、静かにことを見下ろすのは深紅の天使。

 

その表情は、うかがい知れない。

 

――――

 

「……うーん。こんなものかしらね」

 

特殊錬成ワイヤーで縛った男たちをさらに一纏めに縛り上げてふう、と一息つく。男たちの過半数は気絶しているようで、首がガクンとうなだれている。

 

(国籍はアメリカ……無人機の情報に飛びついてきたようだけど……それより)

 

学園の機能が未だ停止状態という状況なのはどういうことだろうか。

あまり長時間続くようなら各教室に下ろされているシャッターを破壊して空気と取り込まないといろいろとまずいことになる。

 

(……う~ん生徒会長自ら器物破損というのはちょっと気が引けるわね)

 

しかし、迷ってもいられないし、迷う必要もない。

 

「行きましょうか」

 

エネルギーの節約のため、ISを待機携帯に戻しておく。

そして、一歩歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

プシッ

 

 

 

 

 

 

間の抜けたような音が聞こえ、背中に違和感が生じる。

なにか、刺さったような……。

 

「!?しまっ」

 

痛みは薄い。おそらく麻酔銃のたぐいだろう。

一気に全身から力が抜け、前のめりに倒れこむ。

 

「ふぅ……やあっと隙見せてくれたねぇ。まったくウチのAランカー殿の女だけはあるわな」

 

(私と、した、ことが……)

 

舐めてたわけじゃない。舐めていたわけでもない。ただ、気づかなかった。

無論隠し持っていた武器とかは全て回収したし、ワイヤーを切ることに使えそうなプラズマカッターなんかは全部没収した気でいた。

 

認識が甘かった。十分予想できていたはずだ。

敵の中にRAVEN(・・・・・)がいることくらい。世界の裏で暗躍する傭兵。その一員くらい混ざっていても、そしてそいつなら私が気づかないところに武器をかくしもてることくらい

予想するべきだった。

 

(蘇摩の……女、扱いし……くれたのは嬉しいけ……ど)

 

意識が遠のくのをなんとかこらえようとする。おそらく運動能力を奪うのことを重視されたものなのだろう。意識は消えかけながらも捕まえられている。だが、時間の問題だろう。

そして、次々と蘇摩も使っている特殊錬成チタンナイフでワイヤーを切っていく。おそらくナイフ自体にも何か仕掛けがあるのだろう。おなじ特殊錬成のワイヤーが簡単に切られる。

かりにも蘇摩からもらったRAVEN7つじゃない7つ道具だというのに。それが簡単に着られることなどあって堪らない。

 

「んで、どうするんすかねえ、班長さんよ?」

 

「……こいつはロシア代表登録の操縦者だな。ISを手に入れるために自由国籍権で国籍を変えた尻軽だ」

 

「では……」

 

「搭乗者をISごと持ち帰る」

 

「はっ」

 

それからの隊員たちの行動は早かった。既に四肢が脳からの電気信号を受け付けなくなってしまい、つまりまったくもって動けない私に自殺防止用の猿轡を噛ませる。

そんなことしなくても自殺なんかもうとうする気はないが、かけられてしまたら言葉も出せない。

まあ最も、意識を失いかけている状態じゃまともな言葉を発せられるとも思えないが。

 

「いいのかねえ?あいつの女に手ぇ出しちゃって……」

 

RAVENと思わしき男は葉巻を咥えてライターで火を灯す。なかなかカッコイイがそんなこを考えられるほど意識に余裕はなかった。

 

(そ……ま……)

 

最後の思考は、未だ虐殺を続けているであろう想い人の名前。

それを最後に、楯無の意識は暗転した。




感想、意見、評価、お待ちしています。



うん。ごめんなさい。
何がって、実は私自身俺TUEEEE的な表現はしたくないのです。
それなのですが、今後の物語の展開上どうしても蘇摩にはめっさくさ強くないと困るんですはい。
それなので、出来れば見捨てないでください。そして私は原作キャラを貶めるようなこともしたくはありません。

……ちょっと出番すくない奴いるけど……。

とりあえず楯無が不意を突かれて意識を失うシーン。原作でもありますがちょと間抜けなのではないかと思い、急遽RAVENを導入。
いや、だって国家代表だよ?学園最強だよ?
そんでもって蘇摩の嫁?だよ?(嫁『?』強調)

そんな彼女がそんなヘマをするとは思いたくなかったので、兵士として優れまくってるRAVENのランカーを登場させました。
いやはや、敵に回すと恐ろしいものですねー。たとえBクラスとは言えども。
あ、彼は蘇摩のことはよく知っています。知り合いではないですがw

次回更新、なるべく早くやれたらいいなと思っています。今年はもうないかなとは思いますけど正月にできればやれたらいいかと。

それではみなさん。今年はありがとうございました。そして、良いお年を!!

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