インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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黒い羽、白い翼 中編

「さて、と」

 

崩落した防壁の瓦礫からひょこ、と顔を出した楯無。軽い身のこなしで、瓦礫を飛び越えると軽やかに着地した。パンパンとスカートの裾を叩きながら立ち上がる。

 

「全校生徒の避難は8割5部は完了したみたいだし……区画吹き飛ばすようなことしない限りは、まあ大丈夫でしょう」

 

どこからとなく取り出した扇子をパッ、と広げる。そこにはいつものような達筆な字で『迎賓』と書かれている。

お迎えするのは、笑顔などではなくむしろ鉄拳なのだが……。まあ

 

「蘇摩にあっちゃったら、おしまいよねー」

 

現在2ルートから敵を掃討するために別行動をとっていたのだが、楯無と蘇摩はまるで違うのは理解しているだろう。

楯無はとりあえず捕縛するといったところだが、蘇摩は当然だが、とりあえず殺す、だ。まあ確実に生き残りはいないだろう。

 

出遭ったら一巻の終わりだろう。侵入者たちにとっての話になるが。

 

『侵入者アリ。侵入者アリ』

 

ピー、ピーと、携帯から音を立てて携帯が鳴る。

携帯を取り出して画面を開くと、そこには学園とは独立した監視カメラ(イコール無断設置)の映像が映し出されていた。

外見では男か女化の区別はつかない。枯葉のように見える毛むくじゃらに身を包んだ6人が列をなして学園の廊下を行進している。

 

一見すると擬態服(ギリースーツ)のようにも見えるが、全く別のものなのは明らかだ。

 

「……確か、最新型の光学迷彩装置ね」

 

枯葉のようなものはそれ全てが稼働する特殊なフィルムで通常時は葉っぱのようなものだが、稼動時にはそれぞれが稼働し装着着を包む。

そして周囲の風景を投影して明細効果を発揮する代物だ。

 

その装備からして、おそらくアメリカかロシア。……RAVENの線も考えられなくもないけどだとするとメチャクチャ厄介なので希望的観測で却下することにする。

 

(それにしてもこの騒ぎから間をおかずに最新装備の部隊が侵入してくるなんて、いろいろおかしな話よね)

 

まあ、この学園は常に何者かによて監視されているということなのだろう。

だが、間を置かずとは言っても停電と同時ということではないので同じ勢力によるものだとはないだろう。

 

理由はしれたこと。同時に行なった方が圧倒的に成功確率も能率も高いからだ。

 

ここはISを扱う学園でもあり、10代の女子生徒が通う学校でもあるのだから、それを24時間365日監視されるというのは……

まったく大人は無粋でロマンがないのだからね。

 

「……あら?」

 

真っ直ぐ奥の角まで続く廊下。シャッターがしまっているかと思いきや、この廊下はほとんどしまっていなかった。

おかげで奥まで見通しがきく。

 

何も見えない。何も聞こえない。だが、確かにそこに何かがいる。

 

漠然とした、説明のできない、論理的根拠もない感覚だが、確かにいるのだ。

 

「こんなに早くに接触だなんて、私ってば因果運命に愛されているのかしら?」

 

その因果が蘇摩にも向いてるといいなー。

 

ポシュッ。ポシュシュッ

 

なんとも間抜けな音と共に、超音速の鉄のコーンが楯無に雨となって飛来する。

 

だが、それは全て奇妙な水音と共に楯無の眼前で波紋を描きながら止まった。

鋼鉄の弾丸は完全に、その回転の残滓も残さずに停止したのだ。

 

「!?」

 

見えない者たちは、今頃目の前に起きたことに驚き困惑していることだろう。それを想像するとなんとも可笑しくてたまらない。

 

「ウフフ。なんちゃってAICってところね。これもアクア・クリスタルのちょっとした応用よ★」

 

実際は自分の目の前にこの廊下と同じ面積で薄い水の壁を張っているのだが、無論それくらいでは音速の鉄は防ぐことなどで気はしない。

だが、以前楯無が言った言葉を覚えているだろうか。

 

―――水ってねどれだけ圧力をかけても、その体積は変わらないの。

 

そう、今この薄い水の壁には何百Kgに近い圧力が加えられている。つまり、水の壁に触れた瞬間弾丸は潰れこそしないものの、その動きは簡単に停止するということだ。

そして、楯無はそれ以外にも、あらかじめ行っていることがある。

 

アクア・クリスタル……というより彼女の搭乗機『ミステリアス・レディ』の武装の一つ。この状況で使うと言ったらほぼひとつだけだろう。

彼女は握りこぶしを2つつくり、自分の眼前で、拳同士をぶつける一歩手前で停止させ、軽い口調で言い放った。

 

「めい☆おー」

 

瞬間。大爆発が楯無の周囲2m付近から起こりこの廊下やその奥、楯無の後方10数mが爆風と爆炎に飲み込まれた。本来やらなくていいはずの全周囲爆破なのだが、ここまで言ってしまったらやってしまえ

と楯無はそれに及んだのだった。

 

「メイオ……じゃなかった。『クリア・パッション』の味は、いかがかしら?」

 

言わなくてもわかるだろうが、爆弾というものは開放空間で使うようなものではない。

室内や、閉鎖空間で使ってこそその真価を発揮する。

 

かなり昔の話になるが、4年前、蘇摩がテロリストの鎮圧で大通りの幾箇所にクレイモア地雷を仕掛けたことがあったが、大通りの広い場所を除けばあとは路地裏くらいにしか仕掛けていないのだ。

その広かった場所は威力の低減を軽くするために数を多く配置していたのもある。

 

そして、『ミステリアス・レディ』の『クリア・パッション』も水蒸気を利用した爆発だ。水蒸気は室内の方が濃度と範囲を調節することが容易であるからだ。もはや

その操作域は自由自在といってもいい。

そして、爆発は無論室内が一番威力を発揮する。

 

その他にもいろんな武器などはあるが、楯無と『ミステリアス・レディ』にとって、室内戦こそが最もその力を発揮しきれる局面なのだ。

 

「ん~……なんか弱いものイジメっぽくなってきちゃったわね」

 

ふぅ、と息をつく楯無。だが、その顔は……

 

「そういうのって、だ~い好き★」

 

まるで多様のような満面の笑顔だった。そのさまはまさに魔女と言っていいものだろう。

まあ、「あくまでも」民間人だらけの女子高に無断で侵入してきたのだ。刺叉持って追い回すのが礼儀というものだろう。

 

「さあ、行くわよ。必殺!楯無ファイブ!!」

 

言うなり、楯無の姿が5人に分かれる。

ずらりと並んだ制服姿の女子(ランス装備型)×5

 

「まあ、これもアクア・クリスタルのちょっとした応用なんだけどね」

 

言ってしまえば、水で作った人形だ。それによく見れば似てはいるが、ん?となるくらいには色的に差が出ている。

まあ、混乱している縦銃弾止められて訳も分からず爆発に巻き込まれて混乱している彼らにとってよく見るという行動は起こせないのも無理はないのではあるが。

 

そして、内約も意味がわからない。

 

しかもこの水人形。質の悪いことに

 

「バッシャーン」

 

水圧開放式爆弾……つまり、水圧カッター方式の爆弾というわけだ。

しかも、水というわけで銃弾は効かない。本体もどれかはわからない。

 

「は、班長!このままでは……」

 

「うわあああああ!?」

 

訓練された兵士。しかも装備から見るとそれなりの部隊の男たちが、見るも無残にやられていく。

この兵士たちが、RAVENだったなら、もう少し善戦しただろうが、あいにく彼らはRAVENではなかった。

 

さっきカメラに映った6人とは別の班が合流したものの、一切楯無に抗う術がない。

しかもカメラに映っていた班の人たちは、今頃おっかない鴉にずたずたにされている事だろう。ああ、恐ろしい。

私の方がずっと優しいのではないか。そう思う。

 

「ひ、退け!退くんだ!!」

 

若干16歳。蘇摩の嫁(を自称したいがために奮闘中)はその実力も

もはやこの学園の全校生徒とは1線も2線画しているのだ。

 

「ウフフ……もういっそのことメイオウでも名乗っちゃおうかしら♪」

 

爆発のおかげでできた火災の中、ゆらりと歩くその姿は、誰が見ても悪役そのものである。

 

――――

 

「I'm thinker……Tru~Tru~Tru~TruTru~……I'm thinker―――」

 

重くもなく、かと言って軽くもない足取りで蘇摩は歩いている。

白いコートの裾を揺らし、鼻歌を口遊みながら歩いていた。

 

ピチャ……ピチャ……と彼が歩を進めると聞こえてくる水たまりを踏んだような音。

 

場所が場所なら、別段不思議でもなさそうなものだ。

 

 

 

 

 

踏んでいる水溜りが赤黒く、その周りに肉の塊が転がっていることを除けばの話だが。

 

 

 

 

 

「な、何なんだコイツは……」

 

「ヒッ……くるな……くるなくるなくるなくるなあぁ!!」

 

その左手に握る刃物の銀は、真っ赤に染まり

 

その黒い靴は、血の水たまりを踏むたびに波紋をつくり、踏み出すたびに雫を落とす。

だが、そのコートは一切血に濡れてなどおらず、その身の潔白を証明するように、光のない廊下の中で揺れている。

 

眼前には、恐慌し後ずさる兵士の姿。後ろには『人だったもの』があちこちに転がっている。

 

「―――Tru~Tru~Tru~Tru~……」

 

今だ鼻歌を口ずさむ彼は前を見ているようで、兵士を見ているようで、まるで何も目に入っていないのかのような表情でただ鼻歌を口ずさむ。

 

「う、うわあああああああああ!!!」

 

恐怖に駆られた1人が銃を乱射する。サプレッサーによって発砲音が抑えられ、なんとも間の抜けた音を出しながら鋼鉄の雨が降り注ぐ。

壁に当たり床に当たり、壁を床を抉り、シャッターにあたりはじかれて水溜りに当たり血をハネさせる。

 

それでも彼には当たらない。蛇行するように廊下の床を駆け抜けて、凄まじい勢いで接近してくる。

放たれる銃弾は彼の後ろを虚しく飛んでいき、壁を。床をえぐるだけ。

そして、その左手に持つ刃がひとたび煌めけば、あとに残るはただの死体。

 

「ば、化物……」

 

「本当に……人間なのか?」

 

「―――……ああそうさ?」

 

鼻歌が止まり、彼は兵士の問いに答える。そして、距離があるにもかかわらずに彼はその刃を振るった。

 

―――サク

 

「あ゛……グ、ゥ」

 

兵士の首に突き刺さる黒くなめらかに輝く柄の直刀。それは明らかに兵士の首を貫通し、即刻な死を与えただえろう。

 

「ヒッ……」

 

「ばかな、あ!?」

 

兵士が驚き、死した仲間を見る。だが、気づいて前を向くがもう遅い。すでに彼の掌が眼前に迫っていた。

 

―――ごしゃ

 

兵士は彼の手のひらに捕らえられ、床に叩きつけられる。だが、その音は叩きつけられただけで出るような音じゃない。

 

その頭部は、頭蓋が割れたように拉げ、掌の指の隙間から目が浮き出てきて、とめどなく血があふれる。

なにより、その体が起きた出来事についていけなかったかのように、ピクピクと痙攣を起こしているのだった。

 

彼はそのまま逆立ちの要領で足を高々と天井に掲げる。

 

「―――あ」

 

最後に残った兵士は、仲間が殺された瞬間を見ることができぬままに、回し蹴りによって首の骨をへし折られるのだった。

 

「……ふん」

 

首に刀が突き刺さり、仰向けに倒れている兵士から無造作に刀を引き抜く。

 

こうして彼の後ろには、幾数もの死体が出来上がり、血の水溜りができていく。

 

 

「I'm thinker……Tru~Tru~Tru~TruTru~……」

 

まだ足りない、もっと……もっとと――

 

鴉は次の獲物を探し求め歩きゆく。その通ったあとに残るのは、殺戮の轍のみ。

その唄は、死した者たちへのせめてもの鎮魂歌(レクイエム)なのだろうか。




感想、意見、評価、お待ちしています。

前半のギャグ、後半の厨二。

すっっっっごく久しぶりの虐殺&蘇摩の鼻歌。
キャラの設定でもあるのに最近全然歌ってなかった……。

ホント 戦争は地獄だぜ! フゥハハハーハァー!!

というわけでしばらく殺戮タイムにお付き合いください。

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