インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~ 作:鳳慧罵亜
ガギィイン!!
「ぐああああ!」
左足の蹴りは、胸部の装甲に直撃し一夏を地面に叩きつける。その一撃は装甲に傷が付いた程度ですんだが、それでも地面に叩きつけられた衝撃は大きかった。
「っぐう……」
「…………」
なんとか立ち上がる。しかし、全身い鈍い痛みが走った。また倒れてしまうというほどではなかったが、結構痛い。
蘇摩を見やると、バツが悪そうに頭を掻いていた。
「そこまでだ」
千冬がパンパンと手をたたいて、終了を宣言する。それでこの場を覆っていた冷たい空気は一変して普段のものに変わった。
「流石というべきかな。ラーズグリーズ。織斑もこいつを相手によくやったな」
「それほどでも」
「い、いえ俺も……」
蘇摩はそっけなく答え、一夏は多少戸惑いながらも答える。
「だが、EOSを損傷させていいとまでは言ったつもりはない」
「は、はい……」
「弁償が必要なら払いますよ?ぼったくられるわけでもないでしょう?」
蘇摩が平然と言う。流石に稼いでいるのだろうか。パッと見でもこれが相当高いのは素人でもわかると思うけどそれを軽く言ってのけるということは、
やはりそれほど稼いでいるという証拠なのだろうか。
「その必要はない。一応この件に関しては政府がきちんと対応をしているからな」
蘇摩の動きを見ていたら、もしかしてと思えてしまうがやはり性能ではEOS1000機でもIS一機にはかなわないだろう。
これでも一応は『ISとの戦闘は考慮に入れていない』代物なのだから。
だが、やはりISよりも低コストで済むし、量産が可能で何より訓練さえ積めば誰でも操縦ができるという利点は大きいだろう。
……こんなものを押し付けてくる連中、そしてそれを受け入れた学園長の真意はどこにあるのだろうか。
「……全員、これを第2格納庫まで運べ。カートはもともと載っていたものを使うように。以上だ」
それを聞いた瞬間、全員が「うへぇ」と行ったような表情になった。
だがまあ流石にカートに積むのは真耶がISを使ったのだがそこから先は結局人力なのであまり変わることはなかった。
――――
実習の後、夏休みのあいだに増設された簡易的な男子用のシャワー室。シャワーは5基設置されており、中は意外と広い。
だが、使用しているのは2人なために、全然ガラガラである。
「さっきは済まなかったな」
「いや、俺も結構無茶な真似してたからお相子さまだよ」
一夏と蘇摩。2人はこのガラガラのシャワー室を存分に堪能していた。女子は今頃かなり混み合ってゆっくり汗を流す時間はないだろう。だが、
男子は2人しかいないために全然女子たちよりも長い時間シャワーを使っていられる。
「それにしても今回の事件で結構専用機持ちに痛手だよなぁ」
「ああ。搭乗者は俺以外は軽傷で済んでいたがISがだいたい中破くらいはいっているだろう。特に楯無と簪は無茶させたらしいから古メンテをかける必要が出たらしいからな」
蘇摩はそこまで言ってから、思い出したように「そういえば」と言葉を続けた。
「あいつのISはロシアのものだけど、確か技術提携で他国の技術も使用されているんだったな」
「ああ、なんか聞いたな。日本にイギリス、イタリアの技術も関わっているって……」
「ああ。テンペストタイプの技術が組み込まれている。あの運動性能の高さがそれだな」
テンペスト……第2回モンド・グロッソで織斑千冬の決勝での大戦相手。当時織斑千冬は決勝を辞退して不戦勝となったがその実力は彼女と同レベルに近かったものがあり、
それ故か彼女は『織斑千冬とはまだ決着はついていない』と言って
その後帰国中に、乗機が謎の爆破事故で死亡が確認されたが……。
……言っておくが俺がやったのではない。やったのは当時イタリア国家代表候補生だ。
「ああ。そういやイタリアのテンペスタかぁ。あの時は凄かったな」
一夏がそんなことを言った。そういえば一夏は第2回モンド・グロッソでは決勝戦前に亡国企業に攫われていたのだったな。理由は不明だが、知る必要はないかな。
まあ、さらわれる前にもテンペストの搭乗者の戦いを観る機会はあっただろう。
「まあ、あのあと亡くなったけどな」
「そういえば、なんでだろうな。確か原因不明の爆発事故で急にエンジンが暴走しだしたらしいけど……」
ここで本当のことを言う気はない。こっちにいうメリットが存在しないならばよけいな情報は与えるべきではないのだ。
「それを考えるのもいいが、早く上がろう。昼食でいい席がなくなっちまう」
「おう」
――――
「で?倉持技研だっけ?来るように言われてんの」
「ああ。なんでも俺の『白式』もちょっとメンテする必要がるのどうので」
…………倉持には確か
ただそんな場所に脚を運ぶのは面倒だからということは決して言わない。
「専用機持ちは大変だねー」
「お前も専用機持ちだろ」
「フリーだからノープロブレム」
織斑一夏に篠ノ之箒はどこの国の所属になるのかを、IS委員会はもめている最中だ。まあ世界でただ1人のIS操縦者にこれまた世界でただ1つの第4世代ISの所持者。揉めるだろうなあ。
IS委員会の連中、俺にまで関与してきたから見せしめに委員会の1人バラバラにして送りつけてやったら黙ってくれたようで安心したよ。
「蘇摩」
「ん?どうした」
「どうしたじゃねえよ。んな怖い笑顔してちゃ誰だって聞きたきなるぜ」
っと表情に出してしまっていたか。気をつけなければ。
「それじゃあ、俺はそろそろ行くぜ」
「おう」
一夏が部屋を出た後、蘇摩は携帯を取り出して、RAVENS ARKに電話を入れた。専用の衛星回線だからまあ盗聴の心配はない。
3、4回コールがなった後、男性の声が聞こえた。
『私だ』
「ジャック。久しぶりだな」
『ソーマか。何か用か?』
電話の相手はジャック。RAVENS ARK最年少幹部である。
「日本の倉持に確か一人入っていただろ?そいつに連絡を回して欲しいんだがいいか?」
『倉持技研……織斑一夏か』
流石、察しがよくて助かる。IQ168は違うね。
「ああ。そいつに織斑一夏を見てるように言ってくれ」
『わかった、連絡は回しておく。それと蘇摩』
「んあ?」
『詳しいことは後日になるが……近いうちに戻ってもらうことになる』
「……了解。切るぞ」
『ああ』
ブツっ。という音と共に通話は切れた。近いうちに戻ってもらう……何かはじめるつもりなのか?
まあそれは次のお楽しみということになるのかな?
……戻る……か。
楯無には言うべきなのか、どうなのか。迷うな。
だが、引きずってばかりでもダメだろう。近いうちに話すことにしようか。
コンコン
「どなた?」
ノックの音が聞こえてきた。それにたいして誰が来たのかを聞く。聞こえてきたのは聞き覚えのある声だった。
『私よ蘇摩いるよね?』
「返事がない。誰もいないようだ」
ガチャ
「ジャジャーン。天下の楯無、参☆上♪」
「何か用でもあるのか?楯無」
「んもう、一夏くんならいいつっこみしてくれるのに」
「で、何か用か?」
「いえ。暇だからお一緒にお茶しましょ?」
……まあ別に用事があるわけでもないし、一夏の心配はまあいらないだろう。付き合ってやってもいいかな。
「OK。溜まった生徒会の書類整理と一緒に付き合おう」
「いやん蘇摩!いきなり現実に引き戻さなで」
……早々にARKに帰ってもいいかな?
そんなことを思う蘇摩であった。
感想、意見、評価、お待ちしています。
題名の通り小休止。というわけで結構短めです。
次からまた自体が動く予定です。
最近忙しくてあまり書く時間が取れないので少々遅れ気味になるのはご了承ください。