インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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EOS模擬戦。中編

「そこだ!」

 

「狙いはいいが、な!」

 

ラウラの回し蹴りは蘇摩が首を捻るだけで躱し、逆にラウラ以上の速度の回し蹴りを放つ。ラウラはそれを腕で受け止めるが、鈍く大きな金属音とともに火花が散りラウラは1m半ほど

けられた方とは逆に移動する。

 

脚部のローラーが地面を抉り、移動した軌跡を確かに残した。

 

「くうっ……!」

 

互角の格闘戦を繰り広げていると思っていたが、実は蘇摩のほうが未だ余裕を持って戦っていることは明らかだ。その証拠にラウラの表情は苦く、汗が頬を伝っている。

逆に蘇摩は表情に笑みを浮かべ、汗のひとつ流してはいない。

 

「早く動き、剣で斬るだけが無間の技じゃあない!」

 

蘇摩は右足で、回し蹴りを出す。それをラウラはギリギリで上体を反らして躱す。そして反撃に出ようとしたところで、右腕を上げて顔を防御する。

 

ギイィィン!

 

蘇摩の左足とラウラの右腕がぶつかり、火花を散らす。

 

境界の瞳(ウォーダン・ヴォーシェ)がなければ今ので終わっていた……っ)

 

「体術だって、一流さ」

 

右足の回し蹴りの直後に左足の回し蹴りを行う技。『双撃』

その速度はまるで右足と左足がほぼ同時に回し蹴りを行ってくるような錯覚を味わう。

 

さらに蘇摩の攻めは加速していく。

 

「凌いでみせろよ!!」

 

蘇摩の左足の蹴り。それを躱す。躱した瞬間ただの蹴りだったそれは急に回し蹴りに移行し躱した標的を捉える。

それを防御して、反撃に出ようとするが次の瞬間には今度は右足の後ろ回し蹴りが飛んでくる。

 

それは後ろに下がって躱すが間髪いれずに後ろ回し蹴りの右足が、自分を捉えず通過したまま地面につかず、膝からがくんと曲がった。

 

「っ!!」

 

そのまま中段蹴りに移行したそれを両腕をクロスさせて防ぐ。そろそろ両腕がしびれてきた。

 

「ふっ!!」

 

蘇摩は再び右足で上段回し蹴りを行う。顔面を狙ったそれをラウラは左腕で防御しようとする。

本来ならば躱して、すぐにマシンガンで反撃したいところだ。それは今までの攻防ですべてそうしたかったが、できない。

 

(疾い!)

 

だが、防御は間に合い蹴りが入る前に腕が蘇摩の脚と自分の顔の間に入った。このまま防いで、危険だがゼロ距離射撃で仕留める。

そう思い、右手にさっき拾っておいた中国娘の分のサブマシンガンに手を取る。

 

ゼロ距離での射撃は危険だ。相手が普通の軍人や、素人ならばためらう必要がないが、目の前の男は此方が撃つ前にこっちにていたい攻撃をしてくる可能性がある。

銃を撃つには、一瞬トリガーやグリップを握る手に気がいってしまい、瞬間の隙を狙ってこられると対処が難しい。

 

だから、あまりしたくはなかったがこの際は致し方ない。

まずはケリに対しての防御を固めるのだ。顔を狙った上段回し蹴り、に対して防御を固めたその時。

 

 

蘇摩の足が、急に「クンッ」と効果音がつきそうな程急に、下に落ちた。

 

 

脇腹に強烈な衝撃が走ったのはその時だった。

 

 

「ぐはっ!!」

 

何が起きたのか、一瞬見えたものが信じられなかった。まさか―――

 

(あの速度の蹴りの中で、軌道を変えるだと!?)

 

蹴りの途中でその軌道を変える。そんなこどが可能なのか。だが、実際に目の前で起こったことなのだから信じるしかない。

いや、やろうと思えば出来るとはおいもう。だが、それは途中までのケリが全くと言っていいくらいには威力と速度は出ないはずだ。

 

繰り出される方も、その蹴りがどう負うものか見切られてしまうだろう。

蘇摩のものは機動を変える瞬間まで、今までと全く同じ威力と速度でもって襲ってきた。

 

おそらく、あのまま上段で私の腕で防御したとしても、威力が強く、しかもしびれかかていた腕では満足な防御はできなかったかもしれない。

どちらにせよ、つくづく化物だ。『白い閃光(ホワイト・グリント)

 

体制が崩れ、致命的な隙ができる。そこを逃がすような間抜けではないことは、知っている。

 

「ここまで防いだだけでも敢闘賞もんだよ。流石だな」

 

顔を上げた先にはサブマシンガンの銃口が輝いていた。

 

――――

 

「……どうするか」

 

「どうするって言っても……?」

 

「わ、わたくし達では秒殺されるのが目に見えていますわ……」

 

「え、ええい!恐るな!恐れては何もできん!」

 

現在、4人仲良く固まっている皆様方。

 

「だーれーにーしようーかーなーてーんーの……」

 

現在、獲物を選定中のお人。

 

「……だ、誰から行く?」

 

「ほ、箒さんからどうぞ」

 

「い、いやシャルロットからどうだ?」

 

「ぼ、僕は遠慮しとくよ……」

 

「……」

 

「……」

 

「じゃ、じゃあ俺から行くか」

 

「な、ならば私も行こう」

 

「じゃ、じゃあ僕も行こうかな?」

 

「……で、では私も」

 

「煮え切らんな。俺から行くぞ」

 

「「「「どうぞどうぞ」」」」

 

これぞ日本の文化とでもいうものなのか。なんと美しきものか。4人全員が最後に声のした方向へどうぞと手を差し出す。

 

だが、最後に名乗り出たものは一夏でもシャルロットでも箒でもセシリアでもない。

 

「ん?」

 

4人がん?と思い、改めて手を出した方向を見ると、まあ一人、蘇摩しかいなかった。

 

しかもサブマシンガンが2丁に増えている。

 

その顔はまるで悪魔のような笑だった。

 

 

4人は顔を見合わせるが、時すでに遅し蘇摩は既に動き出していた。

 

ローラーダッシュで4人に蛇行するように突っ込む。4人は慌てて銃を蘇摩に向けて発泡するが、不規則にジグザグに走行する蘇摩には当たらない。そればかりか、

どんどん距離が詰まっていく。

 

「きゃ!」

 

箒が甲高い声を上げて尻餅を付いた。おそらく銃の半同棲魚に耐え切れなかったのだろう。セシリアの撃っている銃はかなりバラけてしまっている。

一番狙いが正確なのはシャルだった。だが、それでも蘇摩の走っていく直ぐ後ろの地面をえぐるばかりで蘇摩には当たる様子はない。

 

俺も撃っているが、反動が強くて狙いが定まらないのが実情だ。

 

「いくぞ!」

 

蘇摩が肩の物理シールドを展開して直線に突っ込んできた。箒もようやく立ち上がり、4人で撃つがシールドをペンキで汚すばかりで蘇摩はひるむ様子はない。

しかも多分ペンキを汚しているのは7割ほどシャルの撃っている弾だろう。

 

「そぅら!!」

 

距離がつまり、蘇摩はスライディングしながら両手のサブマシンガンを乱射する。

広範囲にばらまかれるように発射された銃弾。だが、それは当てずっぽうのものではなく、きちんと標的の動きを制限するためのもので、そのまま距離を詰めた蘇摩は、

両足を上にあげて、まるで逆立ちをするような体制になった。

 

そのまま両足を回して、箒とセシリアに蹴りを入れる。ケリの狙いは2人の腕にあり、そのまま2人は銃をあらぬ方向へ飛ばされてしまた。

さらに蘇摩はシャルが銃口を向けると同時に、腕を使って飛び上がり、シャルの車線からずれる。そのままローラーダッシュで4人のあいだを回るように走る。

その瞬間もシャルは蘇摩に射線を合わせ、発泡するがその瞬間に蘇摩と箒の射線が重なって箒がシャルロットの放った銃弾に滅多打ちにされることになった。

 

「痛!やめろ馬鹿者!いたたったたたた!!」

 

「ご、ごめん箒!痛い!」

 

箒に一瞬気を取られて誤ったのも束の間、そこに容赦なく蘇摩の狙いすました一発が、顔に直撃した。

 

「ちょっと!女の子の顔って普通狙う!?」

 

「悪いが、戦場じゃ当たり前だ」

 

「あたたたたたたたた!!!」

 

そればかりか、十発ほどシャルに追加でお見舞いした蘇摩。そして蘇摩はそれに目もくれずに目線を移動させて、次の標的を狙った。

 

「さて」

 

「くぅ、今度はわたくしですか!?」

 

セシリアは既に距離をとっているが、蘇摩はお構いなしにローラーを回して、突進する。

 

「くぅ……これがレーザーなら……!」

 

「反動負けすることはなかったのになあ!!」

 

蘇摩はそのままセシリアにタックルを浴びせて銃を回し蹴りで弾き飛ばした。

 

「チェックだ」

 

2発。セシリアの頭と胸に一発ずつ弾丸を浴びせて、蘇摩は最期の標的に視線を向けた。

 

「さあ、最後だな」

 

「お、おう……」

 

向き合う2人。一夏は蘇摩の射撃に備えてシールドを展開する。だが、蘇摩は銃一度向けるが、すぐにを2丁ともポイ捨てした。

 

「え?」

 

「弾が切れてた。全く予備弾倉くらい用意しとけっての」

 

蘇摩が愚痴る。だが、これで蘇摩は格闘のみ。一夏はまだ銃弾がのこている。

 

「さて」

 

蘇摩はローラーを回転させ、突撃する。一夏は銃を向けて発泡するが、うまく当てれない。しかも蘇摩はペンキで奇妙な色になっているシールドを展開していてあたっても負けはない。距離が一気に詰まる。一夏もローラーダッシュで後ろに下がりながら撃っていくがガチ、という音がしたかと思うと、弾丸が出てこない。

 

(ま、まさか弾詰まり!?)

 

なんだか今日はついていない。だが、愚痴ってもいられない。銃は持ったまま、シールドを展開して蘇摩に突っ込む。

 

「ん?」

 

「うおお!」

 

そして、蘇摩にタックルをかます。その衝撃でどっちも姿勢を保てずによろける。だが、そのつもりでタックルをしたのとそうでないのとではやはり衝撃による対応にずれが生じる。

蘇摩よりも一夏のほうがよろけから立ち直るのが早かった。そして、一夏は持っていたマシンガンを蘇摩に投げつける。

 

「!」

 

蘇摩はそれを左腕で弾く。だが、一瞬サブマシンガンにより、視界が遮られてしまった。

「くらえ!」

 

「ちっ」

 

一夏のパンチが蘇摩の顔をかする。蘇摩はギリギリでそれを躱して、反撃に右足の回し蹴りを入れるが、一夏は突っ込んだ速度を殺すことなくすれ違っていき距離を取り直す。

そのために放った回し蹴りは一夏に当たらず、空を切った。しかも、一夏もこっちに向いているため追撃は少々危険だ。

 

「考えたな」

 

「蘇摩は基本的に一撃重視だからな。それさえなんとかすればいけるって思ったのさ」

 

考えたことだな。無間流の技は基本的に一撃必倒を重視したものが多く、多数戦も小数戦も一撃で敵を倒し、そのままもうひとりと行くのが基本だ。

関ヶ原から幕末、大戦へと戦争のやり方が変わっても、それは絶えることはなく、戦争の時代を超えて精錬されていったその業はもはや驚異そのものといってもいい。

 

だが、それゆえに連撃がなく、一撃一撃には少なからず隙が生まれる。その隙を突いたヒット&アウェイ。

よく考えたものだ。だがな。

 

「久しぶりに、やってみるかな?」

 

一撃必倒だけが、無間の全てじゃない。

少なからず、連撃もあるのさ。

 

「いくぞ!」

 

ローラーダッシュで距離を詰める。一夏は、半身になり構えを取った。いつでもこちらの攻撃に対応ができるように腕を中腰あたりでとどめている。

だが、それだけじゃ足りない。

 

「ふっ!!」

 

まずは下段回し蹴り。一夏はそれを腕で防御する。回し蹴りの脚をすぐに降ろして今度は上段に蹴る。それを一夏は腕をあげてて防御するが、蘇摩はその足を回した。

 

「ついてこれるか!?」

 

今度は右足での後ろ回し蹴り。一夏はバックステップで距離を取りつつ両腕をクロスさせて防いだ。だが、まだ蘇摩の攻撃は終わらない。

後ろ回し蹴りをした右足が地面についた瞬間、今度は左足が跳ねた。

 

正面への蹴り上げ、一夏の顎を狙ったその一撃。一夏は両腕をクロスさせたたままそれを防ごうとするが、2秒としないうちに強力な蹴りを2度もくらった両腕は、EOSの走行に守られている故に骨折こそしないものの、大きく弾き飛ばされてしまう。

 

「しまっ」

 

「もらった」

 

蘇摩はその左足を今度はかかと落としとして、一夏の肩に叩きつける。

 

無間流体術攻の型『蹴嵐撃(しゅうらんげき)』本来最後の踵落としは、頭に入れるものだが、生身の頭部にただでさえ普通に人を殺せる蘇摩の一撃がEOSの走行と重量をプラスして放たれるのだ。頭部は簡単に拉げてしまうだろう。故に装甲に覆われている肩部を攻撃したのだ。

 

「ぐぅ……う」

 

一夏は、それに耐え切れずよろめく、だが既のところでなんとか踏ん張った。

 

「おいおい。今のを食らって耐えるかよ。頑丈だなおい」

 

「へ……伊達に地獄は見ちゃいねえよ」

 

一夏は脂汗をかきながら顔に笑みを作る。それにたいして蘇摩も顔に笑みを作った。

 

一夏が、多少ふらつきながらも、深呼吸をした。そしてゆっくりと構えなおす。

 

「今度は、こっちから行くぞ!」

 

拳を握り締め、攻めに転ずる。まずは正拳突き。だが、それは蘇摩にあっさりと躱されてしまう。

だが、躱されることなんてわかりきっている。

 

躱された拳を今度は蘇摩が躱した方向になぎ払う。蘇摩はそれを上体を反らして躱す。未だその顔には余裕ともとれる笑が残っていた。

一夏は腕をなぎ払った反動を利用して、今度は回し蹴りを入れる。蘇摩はそれを躱す。だが、一夏はその足を地面に付ける前に、軸足を跳ね上げさせた。

 

「!」

 

「うおおお!!」

 

体を大きくひねらせながらの空中後ろ回し蹴り。蘇摩は一夏の最初の一撃を躱した状態からの間髪いれない一撃を再び今度は体を半身にして躱した。

だが、一夏の狙いはここからだった。

 

(そうだ。お前なら2連撃くらい簡単に躱す。だけど、これならどうだ!!)

 

一夏の体がグルンと回転する。そして、足が地面につく。が、付いた足は空中ではなった2撃目の足だった。最初の一撃目は、ヒィィィンと、空を着る音を響かせて蘇摩に迫っている。

 

「!!」

 

「これでっ」

 

最初にはなった足は空中に浮いたまま。体を半ば無理矢理に腰のひねりと足の筋肉で回転させて、1撃目の足を空中に残して遠心力を付ける。まるまる高速で一周しきった最初の足は凄まじい威力と速度を伴ってもう一度蘇摩に襲い掛かる。

 

「どうだああ!!」

 

「なに!!」

 

ここにきて蘇摩の表情が変化した。今までの余裕が消えて、焦りが出てくる。そして攻撃を回避しようとするが、間に合わない。

そしてこの模擬戦で初めて蘇摩が攻撃を受け止めた。鈍く、大きい金属音と共に互の腕と足に衝撃が走り、大きく火花が飛び散った。

蘇摩は衝撃に耐え切れず、大きく後ずさりふらついてしまった。

 

ピキィ―――

 

EOSの装甲に亀裂が走った。今まで、蘇摩のけりですら罅のひとつ入らなかった装甲に亀裂が走る。

それはすなわち、その技の凄まじさを物語っているにほかならない。

 

「今のは……」

 

箒は今の攻撃を観て、思い当たるものがあった

 

篠ノ之流武術禁技『裁首大蛇(たちくびおろち)

 

聞いたことのある技ではあったが、見たのはこれが初めてだった。

空中で繰り出す高速3連撃。1撃から順に威力が上がって行き、最後の3撃目はまさに人を殺すことのできる技。

 

それを一夏は、出したのだ。

 

(相手が蘇摩だから、なのかもしれんな)

 

蘇摩ならそれを受けてなお、無事でいる。それがわかっていたからこそ。繰り出せた一撃なのかもしれない。おそらく、今のは蘇摩以外の人間には例え千冬であっても出すことはなかったかもしれない。

そんな技だった。

蘇摩はその一撃をしのぎ切ったその瞬間。目つきが変わった。

 

 

 

 

 

この空間の温度が落ちた。

 

 

 

 

 

 

この場にいる全員が感じた感覚だった。

まるで気温が2度くらいは落ちたような、そんな感覚。

それは周りでみている代表候補生たちの感覚。一夏にとってはそんな生易しいものではなかった。

 

(なんだ?……俺の、首が……飛ん!?)

 

一夏は、一瞬自分の国が、刀で首を飛ばされたような、そんな感覚と恐怖をリアルに感じ取った。否、本当に首が飛ばされたかと思った。

目の前の男は、顔を伏せているが、その足がこちらを狙っているのがわかった。

 

「……」

 

一夏には、蘇摩の動きがひどくゆっくりと、スローモーションに見えた。

 

そして、その足が自らの体を捉えるのもゆっくりと見て取れた。




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