インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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第74話

日本某所。

 

「……それで、僕の今度の任務は彼女の捜索、というより追跡ということですか」

 

「そうよ。悪いけどエムは私たちの任務に必要なの。それに……」

 

「わかっていますよ。僕としてもこういう任務なら一人の方が都合がいいですから」

 

高級マンションの一室で、彼女らは話していた。その会話の内容は次の任務の打ち合わせ。そこにいるのは3人。

スコール・ミューゼル。織斑マドカ。レイ・ベルリオーズだった。

 

主に話しているのはスコールとレイ。マドカはその話の内容を聞いているようだが、離れた場所にあるソファに座ってつまらなさそうに本を読んでいた。

スコールはそれに大して気を悪くした様子はない。彼女があんな感じなのは今に始まったことではないし、自分の目の前の少年がきちんと聞いているのだから心配の必要はない。

 

「ええ。あと、居場所がわかったらこっちに連絡を入れてね?」

 

「わかっていますよ。下手に刺激したりはしません」

 

少年、レイはうんざりしたような口調でそう言った。彼はこれからの苦行のようなモニター調整や衛生ハックその他諸々に追われることでも想像したのだろうか。

マドカが本を閉じた。だが、こちらの話に参加する気配はなく、そばに置いてあったらしい携帯端末を取り出していじっている。

 

「分かりました。可能な限りは当たりますが、見つけられなくても文句はなしですよ?」

 

「ええ。わかっているわよ。というよりも見つけられたら褒めてあ、げ、る」

 

「は、はあ……」

 

ピタリ、とマドカの携帯端末をいじる手が止まった。そこで初めて、目線が2人に向く。

 

「あ、そうだ。もし探すことができたら、今度一緒にディナー食べに行かない?もちろん私の奢りで」

 

「いえ……」

 

からかわれている。直感的にそう感じたレイは生返事で返した。それにたいしてスコールは気分を害した様子もなく一歩こちらに詰めてくる。その姿を見て、

まどかの表情が一瞬変化した。いや変化というほどのものではなく、眉が一瞬動いただけのものだったが。それでも気分のいいものではないだろう。

 

「もちろん無粋な邪魔はなしに、プライベートで2人きりよ。どう?女性に誘われる展開じゃあものすごい破格だと思うけど?」

 

「いえ、せっかくのお誘いなのですが、あなたもオータムがいるでしょうし、僕にもマド……Mがいます」

 

「そんな固いこと言わずに、ほら、あの高級ホテル。料理も美味しいし、お風呂もかなり上等よ?しかも防音設備完備だから。わたし

一度行ってみたかったのよ」

 

「Mの性格を知ってて言っていますね?そんなことしたら後々僕がこってり絞られるんですから、よしてくださいよ」

 

そんな彼女らの会話を聞いているマドカ。詰め寄るスコールに強く断り切れないレイ。そんな2人を見ていると、無意識に手に力が入る。

 

ミシ……ミシ……ミシミシ……ミシッ……

 

哀れ、何の罪もない携帯端末は彼女の握力によって悲鳴を上げ始める。無論その音は聞こえているが、手を握る力が弱くなることはない。ISをまとっていなくてもわずかにクロッシングしている

マドカとレイ。もちろんレイはマドカの機嫌がどんどん悪くなっているのを気づいているし、マドカもレイが断りきれずにどうしようか困っているのは分かっているが、それでも気分のいいものではなかった。

 

「いいじゃないの。一日くらいなら。ねえ?」

 

「はあ……あのですね……っ!」

 

「あら」

 

殺気を感じ、振り向くとマドカがものすごく不機嫌そうな目でこちらを見ていた。

先程も言ったようにISをまとっている状態じゃなくてもわずかにクロッシングがなされている状態では、彼女がどんな気持ちなのかはなんとなくわかる。

今の彼女は、ものすごい不機嫌になっていった。

 

そして、その不機嫌さが今度はスコールに向けて殺気となってやってくる。無論ことくらいの殺気で怯む彼女ではないが、流石にからかいすぎたと反省し、レイに「よろしくね」と

だけ伝えると、足早に部屋を去った。

 

「レイ」

 

「な、なに……?」

 

低い声でつぶやくように名前を呼ぶマドカ。ソファからす、と立ち上がる。それに合わせるようにレイがゆっくりと後ずさる。

 

「ふっ!」

 

「わ!」

 

突然の蹴り。凄まじい速度で繰り出された蹴りはレイの肩に直撃した。だが、速度が出ていたが、威力自体は加減してくれていたのでそこまででもない。だが、その蹴りにレイは怯んでしまった。

その瞬間、マドカは前に脚を出した。

 

「え、ちょ」

 

肩を掴まれて、ベッドに押し倒される。蹴りで怯んだ一瞬を狙った上でのこの速度は、凄まじいという他ないだろう。

かつて、危険人物クラスSに入っていた蘇摩・ラーズグリーズの攻撃にさえ追いついてみせたマドカの速さにレイは対応することはできずにマドカのなすがままになってしまう。

 

「……」

 

「…………」

 

「………………」

 

「……………………」

 

押し倒されたままの状態で数分間何も起きないというのも、なかなかに怖いものがある。それになんだかマドカが何やらよからぬことを考えてくているような感覚がひしひしと伝わってくる。

なかなかにスリリングな賭けだとは思うが、恐る恐るレイは声をかけることにした。

 

「あ、あの……マドカ?」

 

「だまれ」

 

「うっ、つぅ」

 

レイの言葉を両断し、マドカはいきなりレイの首筋に噛み付いた。ただ噛み付いただけではない。かなり力がこもっているようで、自分の体内に異物が入っていくる感覚に襲われる。

おそらく、マドカが立てた歯が皮膚を突き抜けて、体内に侵入していったのだろう。わずかに血の脈打ちが感じ取れた。

 

「ん……」

 

マドカは自分の下に生暖かい、鉄の味を感じた瞬間、それをすすり上げた。尽きかけの紙パックの飲み物を飲んだような音がして、血が彼女の口の中に広がっていく。

結構歯が深いところまで刺さっているらしく、血はどんどん流れていく。

 

「ま、マドカ……ん!うぅ……っはあ」

 

「ん……ちゅう……ジュル……んんぅっ……」

 

まるで吸血鬼に血を吸われている少女の感覚だ。血を吸われる感覚というものは、性的快感に近いものだというが、なかなかどうしてあながち的はずれではないらしい。最も、

自分の血を吸っているのが、マドカだという事実に、痛みが麻痺しているのかもしれないが、それは些細なことだ。

 

まるで薬に冒されたみたいに体が熱くなっていく。それは必ずしも自分だけではないことは、その温度を感じることで知覚した。

血を吸われる方は性的快感に近いものを味わうというが、逆に血を吸っている方はどうなんだろうか。後で聞いてみてもいいかもしれない。

 

「ん……はぁ……」

 

何分かがたったあと、やがてマドカは口を離した。話すときにも流れる血は舌で舐めとっていく。ようやく見えた傷口は、くっきりと赤く歯形が残っていた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「……ふん」

 

マドカは未だ不機嫌そうに鼻を鳴らした。そして、やがて力なくレイの上に被さる。いつの間にか繋がれた右手と左手。マドカはその左手をつなぐ手を強くした。

 

「私は嫉妬深い女だぞ。目の前であんなことをされてはたまったものではないな」

 

「ご、ごめん……」

 

彼女の感情は自分でもわかっていた。僕と彼女はおそらく、このつながりが存在し続ける限り、互に心を通わせ続けるだろう。

それに戸惑いはないし、むしろ生き続けられる限り、彼女の近くにいたい。だから彼女の気持ちを傷付けるようなことはしたくはなかった。

 

自分でも、馬鹿だなとは思う。たかがあの女はは私のことをからかっていただけじゃないか。それにバカみたいに嫉妬してしまって。

私とコイツは死ぬまでこの繋がりがなくなることはない。それは嫌ではないし、むしろ歓喜に近い喜びでさえある。でも、やはり私は欲深く、嫉妬深い女だ。

 

そんな互の気持ちすらも、お互いにはわかってしまう。だからこそ僕は(私は)彼女を(こいつを)至高の相手として見ることができるのだろう。

 

「今回は許してやる。条件付きでな」

 

「ありがとう」

 

今度からは簡単には許さない。徹底的に搾り取ってやる。何もかも、私しか見られぬよう、私にしか興味を持てぬようになるまで、お前の全てを侵し尽くしてやる。

 

―――いや、いまそうした方がいいのかもしれないな……ああ、そうしよう。

 

「マドカ?」

 

「フフフ……条件付きだと言ったろう?」

 

マドカの言葉の意味を理解したレイはため息をついた。マドカはそれにむっとした様子もなく、ただ笑みを深めるだけだ。

 

「……いつもこんな展開だよね」

 

「お互い、こんなことしか知らないからな」

 

「バカだよね」

 

「ああ、馬鹿だな」

 

二人で笑いあった。

 

――――

 

「ふんふふーん♪さあ、ここをこうして、アレをこうすれば、っと」

 

薄暗い部屋の中で、彼女は光り輝く画面を見ながら楽しそうにキーボードを叩いていく。その速度はまるで口調とあっていない速さで叩かれて行っている。

 

画面に映っていたのは、ダークブルーと、ダークレッドのIS。

 

「さてさて、基本構造も出来上がったことだし、そろそろあの子に会いに行ってもいいかな♪」

 

彼女の頭のうさぎの耳が、彼女のテンションを示すようにピコピコと動いている。

 

「名づけて『R.I.P』に『ORCA』ふふん、この束さんの持っている技術の全てをつぎ込んだ。まさに完全無欠!最高の機体だよ♪」




感想、意見、評価、お待ちしています。

ええ、なんだか話が散乱しておりますが、申し訳ありません。
現在布石やらなんやらをばら撒いている最中でして……(言っていいのか?)

あと更新が遅れがちなのもお詫び申し上げます。

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