インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~ 作:鳳慧罵亜
数日後、一年合同IS実習。
グラウンドには一年生全生徒が整列しており、その前にはいつものようように織斑千冬が立っていた。
「織斑、篠ノ之箒、オルコット、凰、ボーデヴィッヒ、更識。前にでろ」
授業開始早々、以下6名は呼び出しを受けた。
「お前たちは先の襲撃でISに重大な損傷を受けている。自己修復でISが回復するまでの間、当面の使用を禁ずる」
「はい」
流石に代表候補生なだけあって、そのところは十分理解している模様だ。それの証明として、全員がよどみなく返事をした。
デュノアは襲撃の時、直接的な戦闘に出向いてはいなかったため損傷を免れ、蘇摩は
ISが一次移行をしたために損傷が回復したのだ。本人は未だに隠してはいるが右肩に包帯を巻いているのだが。少しは痛むが生活に支障が出るほどではないし、
そもそも左利きだから問題はない。
「さて、そこでだが……山田先生」
「はい!皆さん、こちらに注目してくださーい」
千冬の後ろで、真耶がまるで大仰に「ご覧あれ!」というかのように両手を広げている。その後ろには複数の大きいコンテナが並んで鎮座していた。
そのコンテナは修行開始以前より存在していたものであったために、ようやくお披露目となったそのコンテナについて、周りがざわつき出す。
「なんだろ?あれ」
「新しいISなのかなー?」
「えーISだったら普通コンテナじゃなくてISハンガーでしょ」
「なにかななにかな?おかし!?おかしかな~!?」
「バカいうな。あれに菓子が入ってたら何トンあると思ってんだ」
様々な疑問が周りから出てくる中で、お菓子かなといったのは言うまでもなく布仏本音であった。そしてそれにたいしてバカを言うなと言ったのは蘇摩だ。
「静かにしろ!!」
鶴の一声により、一瞬にして周りは静かになった。よく響く声だ。蘇摩はそんなことを考えながら、見つからないようにあくびをした。
最近、授業中というよりISでの実習では欠伸をする機会が増えてきた。
「……まったく、少しは口を閉じてられんのかお前たちは。山田先生、続けたください」
「はい!それではオープン・セサミ!!」
そうたからかに宣言したが。哀れ、世代差とは酷なもので学園の生徒の中でその意味を知っているものは蘇摩ただひとりだけであり、その蘇摩は2度目の欠伸の真っ最中でほかの生徒は
キョトンとしていた。蘇摩は欠伸が終わっても真耶の言葉に反応するつもりはないようだった。
その状況に真耶は涙ぐんでリモコンおスイッチを押した。
「うう……世代さって残酷ですね」
内部駆動機構により、リモコンのボタン一つで自動的にコンテナは重い駆動音を響かせてゆっくりと重厚な金属壁を開いていく。
「これは……」
コンテナから姿を現した『それ』に一夏は驚きの声を上げた。
「なんですか?」
…………
沈黙。
スパァアアアン!!!
強烈な打撃音と共に一夏はうめき声を上げながら頭を抑え蹲った。もはや言わずもがな、千冬が出席簿で叩いた?のだろう。
疑問符がつく理由については一夏の頭部から煙が出ていることだ。
頭部を叩いて煙が出る。出すということはまず叩く時に、頭部と出席簿がわずかながらに擦れ合い、摩擦熱を生み出しているのだ。
それが髪を僅かに焦がし、そこから煙が出る。
だが、頭部の髪の毛はそれ自体がクッションの役割もあり、摩擦で煙が起きるほどの熱をだすについても、かなりの速度と威力で頭を叩く必要がある。しかもこすりながらだ。
そんな芸当ができるほどの腕力、俺には無理だ。やろうとしたら相手の首をへし折ってしまう。
微妙な力加減と技術が要求される。無駄に力量が高いな。やはり世界最強の名は伊達ではないかな?
そんな一夏と千冬を尻目にもう一度コンテナを見やる。コンテナの中にあったのは金属製のパワードスーツのようなものだった。
だが、ISと違って、その外見は機械機械しており、見たところ全身に装着する類のようだ。
(これって……まさかな。国連でも似たようなものを作っていると聞くからそっちだろう)
蘇摩がそれを見て真っ先に思いついたのが、RAVENがISを元として開発をしているある兵器だった。
駆動に流体を主とした人工筋肉を使用し、それぞれを動かすのに必要な情報を脳から電気信号として送ることで、生身で動くのとかわりないような可動ができる。
それを動かすのにはある特殊な先天的適正が求められるのだが、適正を満たしていれば老若男女問わずに扱え、技術さえ確立してしまえば多少コストはかかるが量産も可能なシロモノとして、
次の実践トライアルで良好な結果を得られればいずれ全ランカーに配備が決定される予定のものだ。
性能も未だISには遠く及ばないが、技術は日進月歩している。いずれは性能面でも追いつくだろう。
と、いうよりはコスト性度外視で一機ほどサポートメンバーの開発部が技術試験で作ったものに一部ISの技術が盛り込まれ、性能面ではISの第1世代に迫るものができているらしいが。
そのRAVENが鋭意製作中の兵器のデッドコピー品を国連が製造しているという情報があった。
蘇摩はおそらくそれなのだろうとあたりを付ける。
「教官。もしやこれは―――」
「織斑先生と呼べ」
ラウラはそれにたいして覚えがあったのか、織斑先生に訪ねようとするが、ついついドイツ軍時代での呼び名を言ってしまい、鋭い眼光に射抜かれてしまって縮こまんでしまった。
「これは現在国連で開発が進んでいる外骨格攻性機動装甲『
「イオス……?」
「『|Extended Operation Seeker《エクステンデッド・オペレーション・シーカー》』略してEOSだ。災害救助や平和維持など、様々な目的での使用が想定されている」
「大仰なことですね」
思ったことが口に出てしまい、周囲の視線がこっちに集まる。何言ってるの?といった視線がくすぐったい。だが、よく考えて欲しい。
災害救助なら十二分に理解が可能だ。確かに人間生身では瓦礫に埋まった人を助けられずに死なせてしまうこともある。だが、これがあれば簡単にがれきの除去が安全に行え、人を救うことができるし
氾濫した川に流されている人も、これならばヘリで上からすくい上げるよりも安全かつ確実に人を助けれれるに違いない。
だが、平和利用って何に使うんだよ。これを着て戦争はいけないことです、やめましょうとか言いながら回るのか?それともこれを装着した少年合唱団に『HEIWAの鐘』でも歌ってもらうってのか?
……想像したけどスゲエシュールだわ。
そもそも、攻性の名前がある時点で平和利用する気ゼロだろ。実践利用が可能になったらISは危険だのなんだの言い出してこれを利用する気だろ。
いや、俺等RAVENも『アレ』をおもいっきし戦争利用する気満々だから偉そうなことは言えないけどさ。
「ラーズグリーズ。お前の言いたいことはわかるが、私語は慎め」
「失敬」
蘇摩は手を振りながらそう言った。それにたいしてほかの生徒たちはなにか気になる様子だったが、下手に騒いでは織斑先生が起こるかもしれないという一種の恐怖で
すぐに視線を戻した。
「……あの、これをどうしろと?」
箒が、恐る恐るといった様子で尋ねる。
帰ってきたのはシンプルイズベスト。至って単純な回答だった。
「乗れ」
「ええ!?」
一夏+女子複数の声が見事にハモる。蘇摩と簪は予想していたのか何も言わなかった。
だが、数は7機。蘇摩含む専用機持ち全員は8名な為、一人焙れることになる。
「私はいい……」
そして、その焙れる側に誰よりも真っ先に名乗りを上げたのは簪だった。引っ込み思案な彼女のことだからそうするだろうと予想はしていた。
「2度は言わんぞ。この機体のデータを採るように学園上層部から通達されている。どうせお前たちの大体は専用機が使えないのだ。黙ってレポートに協力しろ」
うはー。どうせ国連からのお達しなんだろうなあ。全く、こういうのは普通アメリカとか日本の自衛隊とかそういったところに回すのが普通だろうに。
頭沸いてんのかね?もしくは平和ボケで認知症にでも陥ったか。
そんなことを思っていたら、いつの間にか皆さんやる気のご様子で。どうやら織斑先生に発破でもかけられたか。みんな意気揚々としたご様子で乗り込んでいくが。
どうせまともに扱えるのはラウラくらいだろう。
俺も『アレ』の試験に参加したことはあったが、結構きついぞ。ちなみに俺は『アレ』の適性はかなり高かったからな。
さてと……俺もぼちぼち乗り込むとしますか。
結構遅れながらだが、俺もEOSに乗り込むことにした。
……すこし重いな。
それがEOSを来てみた感想だ。
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