インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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RAVEN そして……

RAVEN。

 

『それは鴉。黒い鳥。そして、世界の裏の裏で暗躍する最強の傭兵集団。その力は国でさえたやすく破壊できうる力である。

だが、それを知る者常にその力恐れ、恐るからこそその力を欲する。

 

その力、ゆうに1人で隊に勝り、10人で幾つの隊を屠り、100人で軍を討つ。そして、それは金に動けば力のみ。忠は己がのみにあり。

恐れ、切ろうとすればその力で自らを滅ぼす諸刃の剣。

 

故に、この力欲するものは、その力に恐れてはならぬとする』

 

・アメリカ33代大統、Harry S. Truman《ハリー・トールマン》

 

――――

 

『この世界に数多の力がある。その中で最も強いのは暴力だ。あの大戦がそれを証明している。だが、その暴力で最も強いものは我がソビエトでも、あの対戦の勝利者アメリカでも、

第3帝国の蛆虫どもでもない。

 

鴉だ。

 

奴らは恐ろしい。この私が暗殺に怯え、引きこもるのはあの存在があってこそ。あの黒き鳥がいないのであれば、私はこのような惨めに篭ったりなどするものか』

 

ソビエト連邦、イオセブ・ベサリオニス・ジェ・ジュガシヴィリ(ヨシフ・スターリン)

 

――――

 

RAVEN

 

奴が言ったその言葉。英語で鴉を意味する言葉である。

それが奴の所属する傭兵組織なのだろう。だが、まさかコイツは最低ランクの人間だということはさすがにないだろう。間違いなく最強クラスではあるはずだ。

私が知らずとも、あのバカ兎は知っているだろう。あいつがRAVENとかいう組織に行動を起こしたのなら、自慢げに私に言いに来るだろう。

 

それがないということは、やはりコイツが最強クラスで、それほど数はいないということか。

 

「それで、お前たちの構成は?」

 

「話してもいいですけれど……無論このことを含めてこれからのことは全て他言無用になるが?」

 

「そのつもりだ」

 

無論このことはほかに話すつもりはない。今のラーズグリーズの発言は、暗にその情報を知った可能性のある人間、つまり少なくとも学園の全生徒含む関係者を殺すと言いたいのだろう。

ほかの人間ならばやってみろと笑って飛ばすところだが、あの男ならば別だ。

この学園の人間など、鼻歌でも歌いながら殺していくに違いない。

 

「……A,B,C,Dの順番でのランク付けがされ、全ランカー合わせて500オペレート、各補助員のサポートが300名の合計800人。内最高のAランカーが俺を含め9人ですよ。

ちなみに俺はAランカー最低位のランクA-9です。まあ俺以外のAランクは全員女なんでカッコ悪いこと無しっていう感じなんだよなぁ」

 

「……!」

 

女性、つまりはISを使えるということか?傭兵の世界にも女尊男卑の風習が通っているということなのだろうか。

だが、少なくとも彼と互角に戦える人間があと8人はいると考えたほうがいい。

 

……まったく、末恐ろしい集団だ。恐く残りのB,C,Dの内Bランクもかなりできる人間と思って間違いはないはずだ。

Aランクがたったそれだけならば、間違いなく一騎当千に近い人間だろう。だとすると戦力として安定しているのはBランクといったところ。つまりAは論外と考え

以下B,C,Dで考えるべきになる。

 

としてもかなり恐ろしい集団だ。彼がああも豪語するのも頷ける。

 

「まあ、女性なのも全員ISを使えるからだし、流石に全員どチートレベルだから文句はないんだけどな」

 

「本当よね。まさかあんなに強い人間だとは思わないわ」

 

楯無がラーズグリーズの言葉に同意する。……と、すると……。

 

「ふん。イツァムもRAVENのランカーということか」

 

「ご明察」

 

「あら?言っちゃていいの蘇摩」

 

「かまわんさ。遅かれ早かれバレることだ。伊達に世界最強の名を持っているわけではないからなこの人も」

 

目を閉じて、あっけらかんと答える蘇摩。その余裕を保てる理由も薄々気付いている。

恐く他にもIS国家代表クラスの人間がRAVENのAランカーを張っているのだろう。辺りをつけるとすれば……。

 

イギリスのロスヴァイセ。ドイツのシェリング。イタリアのサーあたりが妥当か。

 

「ちなみに元イギリス国家代表、セラス・ヴィル・ランドグリーズもかつてランクA-1、つまりRAVENの頂点に立っていました」

 

「!」

 

予想外だった。まさかあの年で世界でも最強クラスの傭兵の頂点に立っていたというのか。

確かに彼女の実力は私と互角に近いレベルだった。私に能力で及ばないところを戦術で補い、私と互角に渡り合ったことのある人物だ。

最後はエネルギー差で判定負けを喫したが、おそらく第3回モンド・クロッソに彼女が出ていれば、世界最強の座が覆ったかもしれない。惜しいことに

イスラエルで死んだことか。おそらくは任務の途中で死んだのだろう。

 

戦争を嫌っていたお前が戦争の中で死ぬとはな……悔しかったのか、悲しかったのか、聞くこともできないが……。

 

その彼女がRAVENの頂点に、か。

信じられないが、それとは逆に納得出来てしまう。

 

何だか今日はこの男に驚かされてばかりだな。あの3回は驚かされるかもしれない。

 

「ほかに聞きたいことは?」

 

蘇摩が口を開く。何か質疑応答みたいな形になってきたが、このまま得られる情報はもうないだろう。こちらとしてもラーズグリーズの正体とそのバックにいる組織について知ることができただけでも

かなり儲けものだ。それにこれ以上コイツについて知ったところでこの学園の状態が良くなるわけでもない。

 

「いや、もういいさ。それにお前にこれ以上時間を割くと互いに利益はないだろうからな」

 

「それがいいでしょう。早いとこもっとまともな体制を作って頂ければこちらも何も文句はありません。先ほどの謝罪も必要ない。そんなことをする暇があればあまたを働かせろと言いたいところです」

 

「そうさせてもらおう」

 

「では、今回の聴取はこれで終わりにさせていただきましょう」

 

轡木が口を開いた。その一言で、この部屋を覆っていた空気は一瞬で霧散する。いや、蘇摩が解いたというべきなのだろう。

蘇摩は立ち上がり、一礼をすると部屋のドアを開け、部屋を立つ。

その際に、一度だけこちらをみやり、言った。

 

「次は国が動きますよ。お気を付けて」

 

それだけ言うと、蘇摩は今度こそ立ち去った。楯無はそのあとを追うように、

こちらに丁寧な礼をして去った。

 

「ふぅ」

 

「いやはや……本当に恐ろしい。あれがまだ20にも満たない少年の雰囲気なのですかねぇ」

 

穏やかな笑を蓄えながら轡木はそう言った。確かに私ですら若干の恐怖感を覚えるほどの殺気を放てる人間がいることにも驚きだが、

それがまさか自分よりもかなり年下の少年だとは思いもしなかった。

 

「それにしても。何故楯無はあいつの存在を知っていたんだ?」

 

千冬の疑問に、答えたのは沈黙ではなく轡木の言葉だった。

 

「なにも、昔。政府の人間から命を狙われてところを助けてもらったとか。それが縁で彼に楯無嬢の護衛を依頼したそうですよ?その時の報酬は1日3食と寝どころだったそうですが」

 

「……そうですか」

 

それで楯無はあんなにベッタリとしているのか。

 

……ラーズグリーズのあの時の憤りに言ったことは以外にも的を得ていたのかもしれないな。個人に思い入れを持つことは兵士としてはあるまじきだが、

彼も年相応の少年ということなのかな。まあ、それもほんの一部といったようだが。

 

「では、私はこれより報告に参りますので。織斑先生も仕事に戻ってください」

 

「分かりました。学園長もお気を付けて」

 

――――

 

「もう、本当さっきはどうしちゃったのよ。蘇摩らしくないわ」

 

「あの時は自分でもよくわからないのさ。なんであんなにイラついたのかはな」

 

蘇摩は生徒会室で楯無の尋問にあっていた。理由は先の蘇摩の彼らしくない苛立ちについてだ。

今まではあのマシンガン愚痴とかはあったが、あそこまで明確に怒りをあらわすのは本当になかった。

 

それだけにわからなかったし。第一、理由が見えてこない。

それに、千冬のあの言葉に蘇摩は過剰に反応した。その理由も知りたい。

 

『「もう一度聞くが、なぜそんなに声を荒げる?代表候補の中に気になる奴がいたとでも言うのか?」

 

「何……?」

 

「ふん。閃光と言っても所詮男か?あの中に惚れた奴がいるとでも言うのかな?金で動く人間が聞いて呆れる―――」』

 

あの言葉に蘇摩はついに完全に切れた。蘇摩にとって、自分のことをいたずらに保持返されることは嫌いなことだけど、

それでもあの言葉なんていつもなら綺麗に流して鼻で笑うところじゃないの?

 

「……蘇摩。いつもなら鼻で笑って飛ばすでしょ」

 

「……」

 

楯無の言葉に蘇摩は押し黙ってしまう。そして、楯無から顔をそらす。楯無は不思議そうに椅子から立ちあがり、蘇摩の顔を見ようと移動するが、蘇摩はよほど顔を見られたくないらしく

また顔を別の方向にそらしてしまう。

 

「答えない気?」

 

「………………よ」

 

「ん?」

 

あまりに小声でいったためによく聞き取れずに聞き返してしまった。それに蘇摩はまるで照れを隠すように少し声を大きくしていった。

 

「いらだちの原因にお前が出てきたんだよ!」

 

「……え?」

 

「だから自分でも訳が判らなくなってきてるんだよ!少しは察してくれ……よ」

 

蘇摩が顔を楯無に向けると、そこにはドアップの楯無の顔があった。

 

「お、おい……」

 

「それって……もしかして蘇摩……」

 

普通なら美人の顔がかなり近いというのは、ものすごく美味しい展開だろう。いや、確かに美味しいが恥ずい!

蘇摩は急激に初めての状況に加えて、自分の不可解な苛立ちも合わさって、かなりテンパった状態に陥った。

 

普段なら決して出さないような狼狽ぶりで「か、顔が近っ!」と若干噛んだ調子でほうけた顔をする楯無に言った。




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